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1型糖尿病の免疫治療について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は事情があって、
いつもより早い更新になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
GAD抗原治療論文.jpg
New England Journal of Medicine誌の今月号に掲載された、
自己免疫の関わる糖尿病の新しい治療についての論文です。

糖尿病には1型と2型があります。

このうち、
1型というのは、
インスリン依存性糖尿病とも呼ばれ、
典型的な事例では、お子さんの時期に発症し、
比較的急激にインスリンの欠乏状態が起こって、
インスリンの注射が必要となります。

1型糖尿病の多くには、
膵臓に関連する自己抗体が検出されます。
この自己抗体と糖尿病の発症との間には、
関連性があるのです。
この自己抗体の検出される糖尿病を、
自己免疫性糖尿病と呼ぶことがあります。

こちらをご覧下さい。
1型糖尿病の経過の図.jpg
現在考えられている、
自己免疫性糖尿病の発症の経過を図示したものです。

EisenbarthのStage分類と呼ばれています。

左から右に見て頂くと、
まず何らかの遺伝的な素因があります。

そこにウイルス感染などの誘因が働きます。

すると、それをきっかけに、
膵臓に自己免疫性の炎症が起こるのです。
身体が自分の組織に対する抗体を作り、
自分の身体を攻撃してしまうのですね。
この時点では別に症状はなく、
血糖も上がらないのですが、
血液の自己抗体は上昇するのです。

この自己抗体にはインスリンに対する抗体や、
GADと呼ばれる、
膵臓の酵素に対する抗体があります。

GAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)は、
アミノ酸からGABAと呼ばれる、
鎮静系の神経伝達物質を生成する時に働く酵素ですが、
膵臓や甲状腺などの、
ホルモン分泌組織にも発現しています。
その膵臓における役割は、
ホルモン分泌の調節にあると言われていますが、
必ずしも明確ではありません。

膵臓に炎症が起こると、
血液中にGADが漏れ出し、
それが刺激となって、
GADに対する抗体が、
検出されると考えられています。

ただ、GAD抗体が1型糖尿病の原因であるのか、
結果であるのか、と言う点も、
まだ明確には分かっていない事項です。

いずれにしても、
重要なポイントは、
GAD抗体が陽性になるタイプの糖尿病では、
実際に血糖値が上昇する前に、
血液の自己抗体は陽性になる、
という事実です。

自己抗体が上昇しているということは、
膵臓の細胞を破壊するような変化が、
持続的に起こっていることを示し、
それがある程度持続すると、
インスリンの欠乏状態になるので、
血糖が上昇し、
糖尿病が発症します。

自己免疫系糖尿病の場合、
その経過は急激で、
通常はインスリンの注射による治療以外には、
膵臓移植くらいしか、
治療の方法はありません。

問題は上の図のⅢかⅣの時期、
つまり完全にインスリンが欠乏する以前の時期に、
何らかの治療を行なうことにより、
膵臓の機能の低下を食い止めることは出来ないのか、
という点にあります。

自己免疫が原因であるのなら、
免疫を低下させたり、
調節することで、
糖尿病の進行を食い止めることは出来ないのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
GAD抗原治療レター.jpg
これは2008年のDiabetologiaという医学誌に載ったレターで、
今回ご紹介する論文の、
アイデアの元になったものです。

GADの抗原を注射することにより、
初期段階のGAD抗体陽性の患者さんにおいて、
糖尿病の進展が予防された、
という報告です。

何故、GADの抗原の注射が、
糖尿病の進展予防になるのでしょうか?

これは花粉症の治療をイメージして頂くと、
分かり易いと思います。

スギ花粉症の予防に、
スギの抗原を少量ずつ注射したり口の中に入れたりして、
段々に身体を慣らして、
症状を出難くする、
という治療があります。

身体を徐々に抗原の刺激に対して慣らしていって、
過剰な反応が起こり難くする、
という手法です。
主にアレルギーに使用されています。

これと似た発想で、
まだGAD抗体があまり多くは検出されず、
膵臓の炎症も進んでいない時期に、
GAD抗原に接触させることにより、
GAD抗体を人為的に上昇させ、
膵臓の免疫反応を進行し難くしよう、
と言うのです。

上記のレターの著者は、
GADワクチンという言い方をしています。

当然GADワクチンを接種すれば、
GAD抗体はドーンと上がるのですから、
ちょっと逆転の発想ですが、
これはGAD抗体の検出はむしろ免疫反応の結果であって、
GAD抗体自体が膵臓に炎症を惹起する訳ではない、
という考え方がある訳です。

そこで、最初の論文に戻りますが、
334名の1型糖尿病の初期のお子さんを対象として、
GAD抗体は検出されているけれど、
インスリンの分泌はまだある程度保たれている時期に、
GADワクチンの接種を行ない、
その後15ヶ月の、
糖尿病の状態を検討しました。

その結果は、
残念ながら、
未使用群と全く違いはありませんでした。

これは臨床試験の一環で、
それ以前の段階の試験では、
一定の膵臓機能保持効果が得られていました。

論文の著者らは、
より初期の患者さんへの使用であれば、
もっと効果があったのではないか、
また、
免疫の状態には季節性があるので、
もっとタイミングを選べば、
効果が期待出来たのではないか、
という推測をしていますが、
やや製薬企業に配慮した言い訳の感があり、
説得力は乏しいという気がします。

糖尿病の免疫治療は、
まだそうた易くは実現しないようですが、
初期の糖尿病の段階で、
進展をしないような治療が実現すれば、
1型糖尿病の患者さんにとっての福音であることは間違いなく、
今後の研究成果を期待したいと思います。

今日は糖尿病の免疫治療についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ドクター・ヘル

産婦人科の医師の中には、妊婦に対して「太るな 食いすぎるな ダイエットしろ」という医師が見られます。

しかし、人間の体というものは飢餓に強いように出来ている為、母体がダイエットをすると、胎児は自然と少ない食事で生きていける体質になってしまいます。これを別な言い方にすると、糖尿病になりやすい体質になるという事ではないでしょうか?。

胎児とは、親の栄養を無理やりに奪い取っても成長しようとするものです。子供の糖尿病(特に、Ⅰ型)には、妊娠期の食生活も大きく起因していると思っていますが、いかがでしょうか?。
by ドクター・ヘル (2012-02-07 09:00) 

fujiki

ドクター・ヘルさんへ
コメントありがとうございます。
妊娠中はあまり明確なデータはないと思いますが、
母乳かミルクかで発症率が異なるなどのデータはあり、
ご指摘の点は充分可能性はあると思います。
by fujiki (2012-02-08 15:02) 

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