ウイルスの干渉現象を考える [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今温泉から戻って来たところです。
遊んでしまってすいません。
ただ、1年に一度のことなので、
どうかお許し下さい。
それでは今日の話題です。
こんなニュースがありました。
「新型インフルエンザ」の流行が続く中、例年なら年末に流行入りする「季節性インフルエンザ」の発生報告(確定診断)が1件しかないことが20日、国立感染症研究所への取材で分かった。年末にこれほど季節性の報告がないのは、少なくとも過去10年は例がない特異な事態。詳しい原因は不明だが、猛威を奮う新型の流行が、季節性ウイルスの増殖や感染の機会を封じている可能性を専門家らは指摘している。
新型インフルエンザの流行に伴い、
季節性インフルエンザの報告数が、
現時点で殆どない、というのです。
ある感染症の専門家の発言として、
新型のウイルスが勢力を持ったために、
今までいた季節性インフルエンザのウイルスが、
淘汰されていなくなったのだ、
という説が書かれています。
本当にそんなことがあるのでしょうか?
今日はちょっとそのことを考えてみたいと思います。
まず、「ウイルス干渉現象」という考え方があります。
一般にあるウイルスが、
あなたの身体の細胞に感染したとすると、
その細胞に、他のウイルスが感染することは、
出来難くなります。
また、仮に感染したとしても、
後から感染したウイルスの増殖は、
抑えられてしまいます。
これをウイルスの「干渉現象」と言います。
これは基本的には細胞レベルの現象です。
ただ、これを拡大解釈すると、
たとえば、AというウイルスとBというウイルスがいて、
それがいずれも、人間に感染して、
同じような風邪症状を起こすとすれば、
Aウイルスが流行している時期には、
Bウイルスは感染しづらくなるのでは、
という考えが成り立ちます。
Aウイルスの数がBウイルスより圧倒的に多ければ、
結果として、Bウイルスの方が後から感染する機会が多くなり、
そのために、Bウイルスが感染機会を失う、
という可能性が想定されるためです。
これをウイルスの「疫学的干渉現象」と言います。
この1つのサンプルは、
インフルエンザウイルスと、RSウイルスとの関係です。
通常日本では、この2つのウイルスは、
いずれも同じような風邪症状を起こします。
しかし、通常11月から12月には、
RSウイルスの流行が起こって、
インフルエンザはあまり流行らず、
その一方で、1月から2月は、
インフルエンザの流行が起こって、
RSウイルスはその影を潜めることが多いのです。
実際に感染した細胞のレベルでも、
インフルエンザに先に感染した細胞には、
RSウイルスが感染し増殖することがし難いことが、
実験的に証明されています。
もう1つの興味深いサンプルは、
肝炎のウイルスの干渉現象です。
B型肝炎のウイルスと、C型肝炎のウイルスが、
時に同時に感染することがあることが知られていますが、
B型肝炎の患者さんが、
新たにC型肝炎に感染すると、
B型肝炎のウイルスが、
消滅することもあることが、
報告されています。
つまり、C型肝炎に感染することによって、
B型肝炎が治ってしまうのです。
ダルマ落としのように、
B型肝炎ウイルスが、
C型肝炎ウイルスに押し出されてしまうのです。
面白いですよね。
ただ、決してこうした事例ばかりではなく、
状況によっては、
同様にB型肝炎の患者さんが、
C型肝炎に感染すると、
却ってB型肝炎が重症化することもあるのです。
以前記事にした重感染の事例のように、
最初に感染したウイルスの重症化が、
後から感染するウイルスによって、
誘発される事例もあるのですから、
話は非常に複雑です。
話をインフルエンザのニュースに戻しますと、
新型インフルエンザウイルスと、
季節性インフルエンザウイルスを、
干渉現象を起こす対象であると仮定すると、
新型ウイルスが先に感染する事例が多いため、
季節性のウイルスの感染が妨害されて、
目立たなくなっている、という可能性は考えられるのです。
ただ、これは別に淘汰された、とか、
駆逐された、というのとはニュアンスが違う現象です。
その時の流行のバランスの問題で、
新型の流行が一旦鎮静化すれば、
むしろ季節性ウイルスが活発化するのが、
自然の成り行きです。
この考えからいけば、季節性インフルエンザの流行は、
年明け、少し遅れて現われるのでは、
という可能性の方が高いのでは、
と思われるのです。
もしこのまま季節性インフルエンザが、
世界的に流行しないとすれば、
それは単純に「干渉現象」では説明は困難で、
知られていない新たなメカニズムを、
想定しないといけないのだと思います。
今日はウイルスの干渉現象の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今温泉から戻って来たところです。
遊んでしまってすいません。
ただ、1年に一度のことなので、
どうかお許し下さい。
それでは今日の話題です。
こんなニュースがありました。
「新型インフルエンザ」の流行が続く中、例年なら年末に流行入りする「季節性インフルエンザ」の発生報告(確定診断)が1件しかないことが20日、国立感染症研究所への取材で分かった。年末にこれほど季節性の報告がないのは、少なくとも過去10年は例がない特異な事態。詳しい原因は不明だが、猛威を奮う新型の流行が、季節性ウイルスの増殖や感染の機会を封じている可能性を専門家らは指摘している。
新型インフルエンザの流行に伴い、
季節性インフルエンザの報告数が、
現時点で殆どない、というのです。
ある感染症の専門家の発言として、
新型のウイルスが勢力を持ったために、
今までいた季節性インフルエンザのウイルスが、
淘汰されていなくなったのだ、
という説が書かれています。
本当にそんなことがあるのでしょうか?
今日はちょっとそのことを考えてみたいと思います。
まず、「ウイルス干渉現象」という考え方があります。
一般にあるウイルスが、
あなたの身体の細胞に感染したとすると、
その細胞に、他のウイルスが感染することは、
出来難くなります。
また、仮に感染したとしても、
後から感染したウイルスの増殖は、
抑えられてしまいます。
これをウイルスの「干渉現象」と言います。
これは基本的には細胞レベルの現象です。
ただ、これを拡大解釈すると、
たとえば、AというウイルスとBというウイルスがいて、
それがいずれも、人間に感染して、
同じような風邪症状を起こすとすれば、
Aウイルスが流行している時期には、
Bウイルスは感染しづらくなるのでは、
という考えが成り立ちます。
Aウイルスの数がBウイルスより圧倒的に多ければ、
結果として、Bウイルスの方が後から感染する機会が多くなり、
そのために、Bウイルスが感染機会を失う、
という可能性が想定されるためです。
これをウイルスの「疫学的干渉現象」と言います。
この1つのサンプルは、
インフルエンザウイルスと、RSウイルスとの関係です。
通常日本では、この2つのウイルスは、
いずれも同じような風邪症状を起こします。
しかし、通常11月から12月には、
RSウイルスの流行が起こって、
インフルエンザはあまり流行らず、
その一方で、1月から2月は、
インフルエンザの流行が起こって、
RSウイルスはその影を潜めることが多いのです。
実際に感染した細胞のレベルでも、
インフルエンザに先に感染した細胞には、
RSウイルスが感染し増殖することがし難いことが、
実験的に証明されています。
もう1つの興味深いサンプルは、
肝炎のウイルスの干渉現象です。
B型肝炎のウイルスと、C型肝炎のウイルスが、
時に同時に感染することがあることが知られていますが、
B型肝炎の患者さんが、
新たにC型肝炎に感染すると、
B型肝炎のウイルスが、
消滅することもあることが、
報告されています。
つまり、C型肝炎に感染することによって、
B型肝炎が治ってしまうのです。
ダルマ落としのように、
B型肝炎ウイルスが、
C型肝炎ウイルスに押し出されてしまうのです。
面白いですよね。
ただ、決してこうした事例ばかりではなく、
状況によっては、
同様にB型肝炎の患者さんが、
C型肝炎に感染すると、
却ってB型肝炎が重症化することもあるのです。
以前記事にした重感染の事例のように、
最初に感染したウイルスの重症化が、
後から感染するウイルスによって、
誘発される事例もあるのですから、
話は非常に複雑です。
話をインフルエンザのニュースに戻しますと、
新型インフルエンザウイルスと、
季節性インフルエンザウイルスを、
干渉現象を起こす対象であると仮定すると、
新型ウイルスが先に感染する事例が多いため、
季節性のウイルスの感染が妨害されて、
目立たなくなっている、という可能性は考えられるのです。
ただ、これは別に淘汰された、とか、
駆逐された、というのとはニュアンスが違う現象です。
その時の流行のバランスの問題で、
新型の流行が一旦鎮静化すれば、
むしろ季節性ウイルスが活発化するのが、
自然の成り行きです。
この考えからいけば、季節性インフルエンザの流行は、
年明け、少し遅れて現われるのでは、
という可能性の方が高いのでは、
と思われるのです。
もしこのまま季節性インフルエンザが、
世界的に流行しないとすれば、
それは単純に「干渉現象」では説明は困難で、
知られていない新たなメカニズムを、
想定しないといけないのだと思います。
今日はウイルスの干渉現象の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2009-12-28 13:53
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コメント(2)
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一年の疲れはとれましたか。石原先生。
仕事もブログもホントに、1年間ご苦労様でした。
大変勉強になりました。来る年は、先生の過去記事を読み、さらに知識を得たいと望んでいます。
by a-silk (2009-12-28 20:01)
a-silk さんへ
コメントありがとうございます。
来年もお付き合い頂ければ幸いです。
(ブログは大晦日まで更新はする予定です)
by fujiki (2009-12-29 08:58)