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「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キラーズオブザフラワームーン.jpg
名匠スコセッシがメガホンを取り、
ディカプリオとデ・ニーロが競演した話題の映画が、
今公開されています。

上映時間206分、3時間半近いという大作で、
それで途中休憩なしというのは、
かなりの覚悟を要します。

ただ、
語り口は平明で奇を衒ったところはないのですが、
名匠の演出と堂々たる絵作りはさすがに見ごたえがあり、
名優の演技に見惚れているうちに、
それほどのストレスなく、
最後まで休憩なしで完走することが出来ました。

最近あまりない、
劇場公開映画らしい映画だと思います。
それでいてバックはamazonですから、
もう映画館で上映するために作られる映画というのは、
なくなる流れになるのかも知れません。

内容はアメリカの過去の先住民に対する犯罪を、
告発するノンフィクションの映画化で、
先住民の一家を次々と殺害して、
石油の利権を手に入れようとする悪党をデ・ニーロが演じ、
その甥で真相を知らないままに犯罪に加担する主人公を、
ディカプリオが演じます。

ただ、その素材からイメージされるような、
ドロドロした感じではなく、
語るべきことはしっかりと語りながらも、
タッチはドライで感情的ではなく、
誰にでも内容がそのまま伝わるような作劇となっています。
この辺りにもスコセッシの円熟が感じられます。

オープニングの町の描写が、
俯瞰やドローンの活用、
CGの節度のある使用などと相俟って、
スケール感とリアルさが両立されているのが好印象です。
その後の展開も殺される先住民一家の人物描写が巧みで、
家族の抗争劇として、
「ゴットファーザー」のような気分で観ることが出来ます。
その後はディカプリオとデ・ニーロの真向演技対決が、
これはもう映画ファンには至福の時間を約束してくれるのです。
ラストはタバコ会社がスポンサーの、
ラジオドラマとして締め括られるという、
そのアイロニカルでコミカルなオチも抜群で、
名匠の手際を心ゆくまで味わることが出来ました。

今映画らしい映画を観たい、
という向きには、絶対のお薦めで、
社会派映画と気合を入れるのではなく、
名匠と名優の名人芸を、
時間を忘れてゆっくりと味わうのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「愛にイナズマ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
愛にイナズマ.jpg
石井裕也監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

撮影時期は違うのでしょうが、
同じ石井監督の「月」と同時公開となっています。

物凄く褒めている批評を読んで、
ちょっと興味が沸いたのですが、
スケジュールを見ると、
早くも公開は縮小されていたので、
頑張って映画館に足を運びました。

この作品はコロナ禍の現在から始まって、
松岡茉優さん演じる新人映画監督を主人公に、
生きづらい現代での格闘から、
自分が振り捨てて来た家族と向き合い、
その再生に向かうという物語です。

それをきっかりとした構成の語り口ではなく、
即興的で自由度の高い作劇で見せて行きます。
その遊びの部分を楽しめるか、
それとも無駄で冗長に感じるのかが、
この作品の評価を分けるポイントで、
個人的にはこうした冗長さが嫌いではないのですが、
破格なら破格で、後半はもう少し予想外の展開や仕掛けが、
あっても良かったな、というのが正直な感想でした。

これはかなり作家性の強い作品で、
主人公は松岡茉優さん演じる新人映画監督なのですが、
彼女の作家性が全く評価されず、
自分の家族をテーマにした作品を準備していたのに、
質の悪い助監督に企画自体を奪われてしまう、
というような設定になっています。

この設定は要するに監督自身が反映されているのですね。

それで映画の現場から弾かれてしまった主人公は、
自分だけの手で家族の映画を完成させようと、
改めて疎遠になっていた家族と向き合うことになるのです、

「愛にイナズマ」という題名は、
多分園子温さんの「愛のむきだし」が、
元になっているのではないかと思うのですね。
仰々しいサブタイトルを多用しているのもそうですし、
大袈裟な展開や宗教を取り入れている点もそうですね。
雷鳴に白いマリア像と赤い薔薇が浮かぶのは、
明らかにそのトリビュートだと思います。

ただ、「愛のむきだし」のような、
ぶっ飛んだ展開を期待すると、
今回の作品はそこまでではなくて、
ちょっと期待させるだけ期待させておいて、
最後は肩透かしという感じが、
正直少しありました。

ただ、これはこっちの勝手な期待が、
悪かっただけのことで、
これはそうした性質の作品では、
最初からなかったのかも知れません。

キャストは今絶好調の松岡さんが絶妙で、
脇のキャストも充実度が高いので、
まずはその演技の競演を楽しむことが出来ました。

総じて、それほど高い期待を持って観なければ、
まずまず楽しめる映画ではあるのですが、
一部の絶賛に引き摺られて足を運ぶと、
落胆してしまう結果になるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「月」(石井裕也監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は院長の石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
月.jpg
相模原障碍者施設殺傷事件を元にした、
辺見庸さんの同題の小説を原作とした映画が、
今ロードショー公開されています。

これは原作は、
外界とのコミュニケーションが一切取れない、
障碍者の女性の内面を、
ジョイスばりの意識の流れで描写する、
というかなり実験的な小説で、
実際の障碍者の内面を描いたというよりは、
作者自身がそうした身体状態になった時の内面を、
想像力で描写したという感じの作品です。
事件をもとにはしていますが、
それを正面から描いた、という性質の作品ではありません。

それを「ジョニーは戦場に行った」や、
僕の大好きな「潜水服は蝶の夢を見る」のように、
ナレーションなどを使用してそのままに映像化することも、
不可能ではないと思うのですが、
今回はそうした手法は取ってはいなくて、
原作の主人公の女性は、
その外面を少し描写するに留め、
宮沢りえさん扮する作家の女性を新たに主人公に設定して、
彼女と夫のオダギリジョーさんの物語を主軸に据え、
その関わりの中で事件を描く、
というほぼオリジナルの物語に改変しています。

それで何で辺見庸さんの「月」が原作なのかしら、
というようには思うのですが、
監督の石井さんは筋金入りの辺見さんの大ファンなので、
これはもう充分分かった上でのアクロバティック的な発想なんですね。

途中で犯人役の磯村勇斗さんが、
絞首刑の時の首が折れる音の話をするのですが、
これは石井監督が辺見さんから聞いた話が、
そのまま使われているんですね。
原作には勿論そんな話は出て来ないのです。
つまり、石井監督は原作を映画化するというよりも、
大好きな辺見さんの作品世界のイズムのようなものを、
今回の映画で表現したかったように感じました。

ただ、その情熱は理解した上で、
今回の作品が映画として成功しているかと言うと、
その点はちょっと微妙です。

この映画、前半は割とオドロオドロしい感じなんですね。
登場する施設は幽霊屋敷のようで、
昔は病院を舞台にしたホラーが良くありましたが、
そんな雰囲気なんですね。

登場する職員の二階堂ふみさんにしても、
磯村有斗さんにしても、
他人の心を理解せず、
土足で踏み込んで踏みにじるような、
つまり、SNS全盛の現代的な怪物で、
その2人が主人公の宮沢さんの家で、
彼女を傷つけたり不快にする発言を、
悪意なく言い募るところなど、
恐怖映画のテイストで慄然とするものがありました。

なるほどこれは新しい発想で面白い、
とは思ったのですが、
この調子で事件を再現するつもりなのかしら。
深刻な事件をホラーにしてしまって、
本当に大丈夫なのかしら、
多方面から叱られることにならないのかしら、
というように危惧する思いも同時にありました。

ただ、実際には段々と映画のテイストは変わり、
基本的に傍観者的で知識人を気取る感じの主人公夫婦の、
「芸術家の苦悩」的なテーマが前面に出て、
それに対峙する現実として事件は置かれ、
事件自体は割とリアルに描写されていましたが、
実際の殺人の描写自体は描かない、
というスタイルで終了となりました。

まあ勿論、これで仕方がなかったのかな、
というようには思うのですね。
障碍者を惨殺する場面をそのまま描くことは、
それを結果として残酷見世物にする、
ということになりますから、
到底映像にするべきではないのですね。
そうなると、結果としてこのようになるしかないのですが、
それで映画として成立しているのかと言うと、
ちょっと難しいように思いました。

「芸術家の苦悩」というのは、
身内受けはすると思うのですね。
でも観客の多くは芸術家や表現者ではないと思うので、
その辺りもちょっと計算違いがあったのではないかな、
というようには感じました。

テーマとしては、
「存在すること自体の意味」
という重いものがあるのですが、
個人的にはあまり刺さるテーマではないんですね。

僕も医療従事者で、
障碍のある方や認知症の方に、
接する機会は多いので、
「存在すること自体の意味」ということについては、
割と抵抗なく受け入れられる感じではあるからです。

原作でも映画でも、
老人の入所者が汚物に塗れて自慰行為をする姿に、
衝撃を受けて事件を起こすことを決意する、
という流れになっているのですが、
個人的にはあまりそれが衝撃的とは思わないんですね。

そういうのは日常茶飯事のことだと思うからです。

それより多分あり得るのは、
障碍者や認知症の方に殴られたりする職員はいるんですね。
それから罵倒されたり、
召使のように命令されたり、
汚物を投げつけられたり、
というようなことですね。
こうしたことが積み重なると結構きつくて、
それが理由で施設を辞めるという職員については、
僕も何度か経験があります。

ただ、そうした描写をすると、
それはそれで障碍者の方を悪く描く、
という感じになってお叱りを受けることにもなるので、
その辺りの匙加減は、
現実的には非常に難しいところであるように思います。

総じて、本当に難しいテーマに、
真っ向から取り組んだ力作ではあるのですが、
矢張り正攻法でこのテーマは映画にするのは困難だ、
という事実を確認したような作品でもあったように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「キリエのうた」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キリエのうた.jpg
岩井俊二さんの新作映画が今公開されています。

岩井さんの映画は、
個人的には「リップヴァンウィンクルの花嫁」が、
何と言っても素晴らしくて、
これはもう僕のオールタイムベストの1本です。

ただ「LOVE LETTER」と「ラストレター」は、
あまり乗らなかったですし、
「スワロウテイル」は公開当時に物凄く期待をして観に行って、
「何だかなあ」という感想でした。

そんな訳で好き嫌いの大きな岩井映画ですが、
今回の作品は「リップヴァンウィンクルの花嫁」ほどではないのですが、
最初のかすれ声のオフコースから、
「いいな、いいな」と思って観ていて、
その後の展開の程よい「おとぎ話」感が心地良く、
ヒロインの歌声が素晴らしいですし、
途中で震災の場面は、
あまりにリアリティのない絵作りで、
ここは「オヤオヤ」という感じはしたのですが、
ラストにオフコースが再現された時には、
結構満足感がありました。

まあ、「リップヴァンウィンクル…」的な世界と、
「ラストレター」的な世界のミックスなのですが、
個人的には「リップヴァンウィンクル…」的部分がとても良くて、
「ラストレター」的な部分もそれほど邪魔にはならなかった、
という作品でした。

アイナ・ジ・エンドさんの個性を巧みに利用していて、
まあ岩井さん的にはCharaさんやCcccoさんの相似形なのですが、
今回アイナさんの歌う小林武史さんの楽曲は、
テーマ曲の1曲だけなんですね。
後は彼女自身の思いつくまま叫んでみた、
みたいな感じのもので、
それを巧みに利用して、
物語自体に何処に行くか分からないという感じの、
不安を孕んだ疾走感のようなものが生まれています。

対峙される広瀬すずさんがまたいいんですよね。
彼女はどんな役をやるときでも、
何か媚びたような計算を感じるのですが、
それを役柄にそのまま映しているのが岩井さんの卓越したセンスで、
その哀しさがラストは心に滲みました。

岩井さんの作品は、
何か禍々しい悪、
それは通常「男」ということなのですが、
そうしたものが登場する作品がいいんですね。
今回は最近の映画で、
男の醜悪さを一手に引き受けているような、
異能の松浦祐也さんが登場し、
北村有起哉さんとハミングの歌しか歌わない石井竜也さんなど、
禍々しさを振りまいているのが、
とても魅力的でした。

物凄く拘って作っている映画の筈なのに、
あの震災の場面の噓臭さと凡庸さは、
一体何なのかなあ、
という感じはどうしても残るのですが、
トータルには心に残るとても素敵な映画で、
最近では一番のお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「BAD LANDS バッド・ランズ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
バット・ランズ.jpg
原田眞人監督の新作映画が今公開されています。

これは一応黒川博行さんの「勁草」という作品が原作ですが、
オレオレ詐欺に関わる物語の骨格の一部は、
確かに原作が使われてはいるものの、
キャラ設定などは大幅に変えられていて、
原作のリアルな雰囲気は皆無となり、
それに代わって原田眞人ワールドが、
大々的に展開されています。

一応作者のコメントもあるのですが、
全く別物と言って良い映画版に、
社交辞令ではなく、
実際にどう思ったのかは興味のあるところです。
おそらく、あまり関心などないのかも知れません。

原田さんの最近の作品、
「検察側の罪人」、「ヘルドックス」、
そして今回の「バッド・ランズ」は、
どれも原作があるのですが、
いずれも原作の世界とは全く別の、
「原田眞人ワールド」に改変されていて、
「検察側の罪人」を観た時には、
何でこんな変梃りんな演出をするのだろう、
と理解不能であったのですが、
要するに原作はただのたたき台に過ぎず、
原田さんが独自に作り上げた、
一種の架空の日本という舞台で、
色々なエピソードが展開されるシリーズ物として、
理解するべき作品であると今回理解しました。

言ってみれば、
バットマンシリーズのような世界観で、
バットマンではニューヨークのようで、
現実のニューヨークとはちょっと違う、
より暴力的で荒廃したゴッサムシティで、
物語が展開されますが、
最近の原田さんの一連の映画も、
現実の日本とはちょっと違う、
より腐敗してより暴力的になった架空の日本で、
展開される物語なのです。

そこでは「検察側の罪人」に描かれたような、
正義のために殺人を犯す検察官がいて、
「ヘルドックス」に描かれたような犯罪組織が暗躍し、
その底辺では今回の映画に描かれたような、
貧困に喘ぐ悪人の騙し合いの世界があるのです。

今回の映画はより縦横無尽に、
その原田ワールドが展開されていて、
主人公の安藤サクラさんは、
マーベルのダークヒロインのように、
2人の自分を凌辱した男に復讐することで、
次のステージに進むという物語を展開していますし、
家族でも骨肉の争いを展開します。

そのアメコミめいた世界観は、
黒川さんのリアルな犯罪小説の世界とは、
全く別物と言って良いのです。

この映画が好きかどうかは、
原田ワールドを受け入れられるかどうかで、
違ってくるのかな、という気がします。

個人的には、
スタイリッシュでグロテスクな世界観には魅力もあるのですが、
暴力的な企業経営者のSMめいた描写や、
時々正気に戻る宇崎竜童さんの極道など、
あまりに絵空事でリアリティがなく、
ゲンナリしてしまったことも事実でした。
勿論そんな人物は原作には全く登場はしていないのです。

そんな訳で、
最近の原田さんの映画が好きな方には、
今回も濃厚でお勧めの映画ですが、
それ以外の方には、
ガッカリする可能性もあることを、
事前にお伝えしておきたいと思います。

原田ワールド全開です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「栗の森のものがたり」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
栗の森のものがたり.jpg
あまり観ることのないスロヴェニア映画
(イタリアと合作)で、
1950年代の忘れ去られた国境の村を舞台に、
妻を失った棺桶職人の老人と、
栗を売る若い女性との交流を、
意識の流れ的な構造で描いた作品です。

何かタルコフスキーの「鏡」みたいな雰囲気なのですが、
監督は30代ですし、
今の映画なんですよね。
そう思うと、字幕の出方であるとか、
時間を頻繁に交錯させたり、
急にミュージカル仕立てになったりするのは、
タランティーノの影響かしら、
というような感じもあります。

ただ、短い割にモヤモヤしたしんどい映画で、
イメージフォーラムで観たのですが、
如何にもイメージフォーラムという感じの作品でした。

つまり、
年間で50本くらい映画を観るという感じの人には向かなくて、
そうですね、200本以上観る人になら、
ちょこっとお薦めしても良いかな、
というような感じの映画でした。

とても一般向けの映画とは言えないのですが、
某週刊誌の映画欄では結構褒めている人が多くて、
勿論悪い訳ではないし映像も美しいのですが、
到底普通に面白いという作品ではないので、
もうちょっと考えて批評して欲しいものだな、
というようには感じました。
ちょっと騙されてしまいました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スイート・マイホーム」(斎藤工監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スイート・マイホーム.jpg
神津凛子さんのサイコホラーを原作にした、
斎藤工さん監督の新作映画が今公開されています。

家を舞台にして禍々しい存在のために、
家族が崩壊してしまうというような話は、
昔からホラーの定番ですが、
今回の作品は住宅展示場で契約した、
ありふれた注文住宅で暮らし始めた家族に、
幽霊の仕業のような奇怪な事件と、
身近な人が殺される殺人事件や脅迫などの、
人間によるとしか思えない事件の、
双方が振るかかるという点が面白いポイントです。

ミステリーとして考えるとすぐに底が割れてしまうプロットに、
超常現象(らしきもの)を組み合わせることで、
真相を読みづらくしているんですね。

映画版では家に苦しめられる主人公を、
当代きっての曲者役者、窪田正孝さんが演じていて、
いつもの癖の強い演技を全開で演じています。
最初はこんなに癖のある芝居だと、
主役に感情移入するのが難しいなあ、と思っていたのですが、
後半はそれがむしろ活きて来るというのか、
異様な世界への窪田さんが道案内的に見えるので不思議でした。
物語では窪田さんのお兄さんが、
窪塚洋介さんですから、
何とも癖の強い兄弟だと思いました。

結果として、窪田さんが主人公を演じているので、
結末がより見えにくくなった、
というように思います。
これが狙いであれば冴えていますね。

斎藤工さんは俳優の中でも、
映画の見識が高いことで知られていますから、
どうしても作品の期待は高くなります。

たとえば黒沢清監督のような、
どんな平凡な話であっても、
誰が観ても黒沢監督だと分かる個性的な絵作りを、
期待してしまったのですが、
結果的にはあまりそうした感じではなく、
原作を丁寧に分かり易く映像化する、
というスタイルで一貫していました。

全体に画面にチープな感じが漂うのと、
窪田さんの演技のせいか、
場面のお尻が常に長いのが残念な感じで、
獲物を狙う蜘蛛のカットとか、
役者の正面の象徴的アップなどを、
場面の間に挟む演出も、
何か自主映画的であまり乗れませんでした。

何処か一か所でも、
「あっ、ここ凄い」と言えるような絵が、
あれば印象はかなり変わるのではないでしょうか?

少し残念に感じました。

総じて悪くはないのですが、
映画館に足を運ぶほどのことはなく、
配信で充分かな、という感じの映画ではありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「アステロイド・シティ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アステロイド・シティ.jpg
映画作家としては、
当代アメリカを代表する1人である、
ウェス・アンダーソン監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

初日に観たのですが、
映画館はほぼ満席の盛況でした。
ただ、大きないびきをかいて寝ている方もいて、
それを聴いて怒っているような人もいました。

これは1950年代のアメリカを舞台に、
「アステロイド・シティ」という3幕の戯曲の上演のドキュメンタリーを、
テレビで放映しているというモノクロパートと、
その戯曲自体が「映画」として上映されるカラーパートが、
交互に差し挟まれるという複雑な入れ子構造になっていて、
物語自体は西部の町を舞台に、
天才の少年少女が集まって表彰される、
科学賞の集まりに、
色々な背景を持つ家族が集まるという、
所謂グランドホテルスタイルの群像劇となっています。

物語をわざわざ「舞台劇」としているのは、
極彩色のポスターみたいな非現実的な映像を、
多分成立させるための仕掛けなんですね。
コーエン兄弟の映画に近いようなスタイルで、
こうした仕掛けをスムースに受け入れられるかどうかが、
この映画が好きになるかどうかの分かれ目、
という気がします。

かなりもってまわった感じの作劇なので、
個人的にはもっとストレートな映画の方が好きなのですが、
途中で衝撃的かつユーモラスに描かれる「未知との遭遇」が、
とても魅力的で素晴らしく、
大袈裟に言えば、
映画の新しい可能性を感じさせる場面に仕上がっていました。

それぞれの役柄を余裕を持って楽しそうに演じている、
豪華な出演者の競演も楽しく、
詩的でポップで美しい、
映画そのものの魅力に浸れる作品だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「リボルバー・リリー」(行定勲監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
リボルバー・リリー.jpg
長浦京さんの同題のミステリー小説を映画化した、
綾瀬はるかさん主演の話題作が、
今ロードショー公開されています。

これは大正時代を舞台にして、
伝説の女殺し屋が帝国陸軍の陰謀から、
少年を守って戦うという荒唐無稽なお話で、
「グロリア」や「レオン」みたいな感じもありますし、
「るろうに剣心」の女主人公版を狙った、
というような感じもあります。

この映画は評判は散々で、
お客さんも入っていないようですが、
個人的な感想としては、
かなり頑張って作っているな、と思いましたし、
確かにアクションはかなりトホホの感じで、
どのような映画にしたいのかも、
絞り切れていない感じはありましたが、
日本の大作娯楽映画というジャンルとしては、
水準以上の仕上がりにはなっていたと思います。

鈴木清順監督みたいな馬鹿馬鹿しさがあるでしょ。
女殺し屋というジャンル物を、
徹底した様式美で撮ろう、という趣旨ですよね。
だから、拳銃をぶっ放すと敵だけがバタバタ倒れて、
敵の弾は一切当たらない、というのは、
それはそれでいいんですよね。
ただ、敵の弾なんて当たらなくていい筈なのに、
最後は主人公は血まみれになって、
それでいて全然死にそうではないので、
ちょっと、どうしたかったのか分からないな、
というような気はするのです。

ストーリーは決して悪くないんですよね。
見せ場の構成も悪くない感じだし。
最初に列車の活劇があって、
脱出すると草原でまた活劇、というのはいいですよね。
ラストは霧の中での撃ち合いから、
段々霧が晴れて集団戦に持ち込む、
というのも、行定監督らしい様式美だったと思います。

ただ、アクションがねえ…
最初の列車の場面から、
何かとても間抜けでセンスがないんですよね。
そこは「るろうに剣心」との致命的な違いですね。
それから悪役が弱いんですね。
そこも「るろうに剣心」との違いで、
もっとアクの強い、怪物みたいな敵が欲しかったですね。

キャストは皆好演と言って良いのですが、
綾瀬さんがね、何と言うのか、
こうしたどシリアスは、
ちょっと厳しい感じなんですね。
何処か真面目にやっていても、
それがかくし芸の演技、みたいな感じがあるのです。

総じて、美術にしても映像にしても、
相当頑張った映画なのですが、
監督がアクションに不慣れな感じが、
ちょっと致命的になってしまったかな、
という感じの映画でした。

でも、映画館ではガッカリですが、
ちょっとカルト的な雰囲気はあって、
配信で観直すと、
結構何度も見てしまうような、
そんな中毒性はある作品だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「キングダム 運命の炎」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キングダム 運命の炎.jpg
漫画の「キングダム」を実写映画化した、
シリーズの第3弾が、
今ロードショー公開されています。

これは多分今漫画の実写映画を監督したら、
当代随一と言って良い、
佐藤信介監督のもと豪華キャストが集結した、
日本映画としては破格の娯楽連続活劇映画で、
勿論海外の同種の作品や娯楽大作と比較すれば、
予算は多分10分の1かそれ以下くらいでしょうから、
画格として見劣りがするのは仕方がないのですが、
「安っぽさ上等」と割り切って、
その中で最善の娯楽を観客に提供しよう、
という姿勢が素直に好感が持てます。

その分を弁えた演出が、
おそらく佐藤監督の最も優れた資質のように、
個人的には思います。

1作目は続編があるかどうかは不明ですから、
その中で完結する、という姿勢で作られていましたが、
2作目からは完全に連続活劇というパターンで、
マーベルのシリーズ辺りをお手本として、
ラストには続編に繋がるカットを入れています。

作品の流れで見る限り、
おそらく次作の4作目で一区切り、
ということになりそうです。

今回はほぼほぼ2部作の前半、という感じの作りになっていて、
それを知らないで観ると、
「えっ、これで終わりなの…」という感じにはなると思います。
本来は○○編パート1のようにするべきだったと思いますが、
集客を気にしてそこに触れていないのが、
やや姑息な感じはします。

ただ、それを別にすれば、
前半と後半を分けた構成にしても、
10万単位の兵が激突する戦場を描くという大風呂敷を、
曲りなりにも絵として成立させた力業にしても、
これまでのシリーズで培われた経験が、
良く活きているという気がします。

かなりカリカチュアされたキャラクターが登場する原作で、
それを活かしてリアルにし過ぎない、
という実写化の工夫がいいですよね。
これ、リアルにしたら、
とてもハリウッド製や中国製にはかなわない素材でしょ。
そこに少し遊びを入れることで、
チープさを受け入れやすくして、
バランスを取っているんですね。
これはかなり高度な綱渡り的な演出で、
佐藤監督のこれぞ真骨頂という感じがしました。

いずれにしても、いつになるのか分かりませんが、
次作の公開も心待ちにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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