エボラウイルス病ワクチンの効果について [医療のトピック]
こんにちは。
石原藤樹です。
朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月Lancet誌にウェブ掲載された、
ギニアにおけるエボラウイルス病ワクチンの、
臨床試験の結果を報告した論文です。
その効果の高さから、
発表された7月31日以降、
一般メディアでも広く紹介されました。
エボラウイルス病(エボラ出血熱)はウイルス性出血熱の1つで、
エボラウイルスという病原体の感染による、
重篤な感染症です。
出血熱という名称は、
この病気により、全身の出血傾向が起こることから、
名付けられているものですが、
昨年以降の西アフリカの流行の事例を見ても、
発熱は8割以上の患者さんで認められているのに対して、
原因不明の出血は、
せいぜい2割程度の患者さんで認められているのみで、
むしろ嘔吐や下痢が6割を超えていますから、
出血熱という名称は必ずしも適切ではなく、
エボラウイルス病という呼称が現在では一般的です。
1976年のスーダンとコンゴでの流行が、
この病気が認識された最初のもので、
当初から家族や医療関係者に、
感染が拡大するという特徴がありました。
感染はおそらくは患者の分泌物や便、血液を介したもので、
感染力自体は決して強くはないのですが、
患者のケアをするスタッフには、
かなり注意をしていても、
感染が拡大するように見えるのも特徴です。
エボラウイルス病が怖れられているのは、
有効な治療薬や予防薬が現時点では存在せず、
かつその致死率が非常に高いという事実にあります。
これまでの流行において、
少なく見積もっても4割以上、
多いデータでは8割を超えています。
その流行はこれまでのケースでは、
コウモリやチンパンジーなどの野生動物の、
生体もしくは死体への接触から始まり、
周辺の特に家族や医療介護スタッフに、
感染が拡大しますが、
概ね短期間で終息に向かい、
その地域を超えて広がったり、
持続的な感染に至る、
ということにはなりませんでした。
ところが、2013 年暮れからの西アフリカの流行は、
2013年12月のギニアでの患者発生に始まり、
2014年の3月にWHOがギニアのアウトブレイクとして、
発表を行なったのですが、
その後周辺のリベリア、シエラレネオ、ナイジェリア、セネガルと、
感染が国境を越えて拡大し、
ついには海を隔てたアメリカやスペインでの、
自国での二次感染が確認され、
ギニアで始まった感染が、
世界7か国に広がるという事態になりました。
その後感染は地域によっては終息に向かい、
世界規模の拡大が続く、
という事態には至っていませんが、
今年の8月2日の時点においても、
ギニアで3784名、
シエラレネオで13406名の感染者が確認されています。
ウイルス感染症において最大の医療の武器は、
現状ではワクチンです。
当然この病気の流行拡大以降、
世界中で有効なワクチンの開発が急ピッチで進められました。
そして、幾つかあるワクチンの候補のうちで、
今回ギニアにおける臨床試験の結果が発表されたのが、
そもそもはカナダで開発され、
その後権利がアメリカに移ったメルク社のワクチンです。
実際に人間の感染の予防について、
流行地域での臨床試験が行われた、
という意味では、
最も現時点では先行していると言って良いと思います。
このrVSV-ZEBOVと名付けられたワクチンは、
牛などの家畜に口内炎を起こす、
水疱性口内炎ウイルス(VSV)というウイルスを、
元の構造として利用し、
そこにエボラウイルスの糖蛋白抗原を発現させた、
遺伝子再集合の技法を用いたワクチンです。
VSVは非常に増殖力の強いウイルスなので、
ワクチンのベースとしては有用性が高いのです。
臨床試験は今年の3月から、
現在も流行地域であるギニアにおいて施行されました。
ギニアの複数の地域で医療スタッフが、
エボラウイルス病の患者を同定した場合、
その患者と接触した感染のリスクの高い集団を特定し、
くじ引きで2つのグループに分けます。
そして、その一方はすぐに1回ワクチンを筋肉注射し、
もう一方のグループはその21日後にワクチンを接種します。
ワクチンは18歳以上のみが対象とされ、
妊娠されている女性や授乳中の女性も除外されています。
全部で90の集団が登録され、
総人数は7651名に及ぶ大規模な研究です。
48の集団の4123名が早期のワクチン接種群で、
42の集団の3528名が3週間後のワクチン接種群です。
エボラウイルス病の潜伏期間は、
平均で11日程度で、
最長で21日程度と想定されています。
このため、今回の研究では、
患者との接触後10日を超えて感染者が新たに出現した場合に、
最初に同定された患者からの二次感染、
という判断を取っています。
その結果…
患者と接触後直ちにワクチンの接種された4123名中では、
10目以降の新たな患者は出現しなかったのに対して、
21日後にワクチンを接種した3528名中では、
16人の新規患者が最初の患者の接触から、
7つの集団で16名の患者が新たに診断されました。
接種時期をずらしたどちらのグループにおいても、
ワクチン接種後6日以降には新規の患者は発生しませんでした。
集団として、
中途で除外された成員も含めた解析では、
ワクチンの有効率は75.1%と計算されました。
重篤な有害事象は43例が報告され、
そのうち回復した高熱の事例のみが、
ワクチンと因果関係ありと認定されました。
ただ、この安全性の検証は、
まだ最終的なものではないと記載されています。
ワクチンの効果があることは間違いがありません。
ただ、潜伏期は10日より短い場合もあるにも関わらず、
10日で線を引くことにより、
有効率が100%と表現されていて、
それがそのまま報道されている点には、
一部で批判の声もあるようです。
一部報道では、
この10日という規準は最初から設定されたものではなく、
後から改変されたのではないか、
という疑義もある、
という記載がありました。
このワクチンの有効率と安全性がどの程度のものであるかは、
もう少し時間が経たないと、
冷静な検証は難しいのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
石原藤樹です。
朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月Lancet誌にウェブ掲載された、
ギニアにおけるエボラウイルス病ワクチンの、
臨床試験の結果を報告した論文です。
その効果の高さから、
発表された7月31日以降、
一般メディアでも広く紹介されました。
エボラウイルス病(エボラ出血熱)はウイルス性出血熱の1つで、
エボラウイルスという病原体の感染による、
重篤な感染症です。
出血熱という名称は、
この病気により、全身の出血傾向が起こることから、
名付けられているものですが、
昨年以降の西アフリカの流行の事例を見ても、
発熱は8割以上の患者さんで認められているのに対して、
原因不明の出血は、
せいぜい2割程度の患者さんで認められているのみで、
むしろ嘔吐や下痢が6割を超えていますから、
出血熱という名称は必ずしも適切ではなく、
エボラウイルス病という呼称が現在では一般的です。
1976年のスーダンとコンゴでの流行が、
この病気が認識された最初のもので、
当初から家族や医療関係者に、
感染が拡大するという特徴がありました。
感染はおそらくは患者の分泌物や便、血液を介したもので、
感染力自体は決して強くはないのですが、
患者のケアをするスタッフには、
かなり注意をしていても、
感染が拡大するように見えるのも特徴です。
エボラウイルス病が怖れられているのは、
有効な治療薬や予防薬が現時点では存在せず、
かつその致死率が非常に高いという事実にあります。
これまでの流行において、
少なく見積もっても4割以上、
多いデータでは8割を超えています。
その流行はこれまでのケースでは、
コウモリやチンパンジーなどの野生動物の、
生体もしくは死体への接触から始まり、
周辺の特に家族や医療介護スタッフに、
感染が拡大しますが、
概ね短期間で終息に向かい、
その地域を超えて広がったり、
持続的な感染に至る、
ということにはなりませんでした。
ところが、2013 年暮れからの西アフリカの流行は、
2013年12月のギニアでの患者発生に始まり、
2014年の3月にWHOがギニアのアウトブレイクとして、
発表を行なったのですが、
その後周辺のリベリア、シエラレネオ、ナイジェリア、セネガルと、
感染が国境を越えて拡大し、
ついには海を隔てたアメリカやスペインでの、
自国での二次感染が確認され、
ギニアで始まった感染が、
世界7か国に広がるという事態になりました。
その後感染は地域によっては終息に向かい、
世界規模の拡大が続く、
という事態には至っていませんが、
今年の8月2日の時点においても、
ギニアで3784名、
シエラレネオで13406名の感染者が確認されています。
ウイルス感染症において最大の医療の武器は、
現状ではワクチンです。
当然この病気の流行拡大以降、
世界中で有効なワクチンの開発が急ピッチで進められました。
そして、幾つかあるワクチンの候補のうちで、
今回ギニアにおける臨床試験の結果が発表されたのが、
そもそもはカナダで開発され、
その後権利がアメリカに移ったメルク社のワクチンです。
実際に人間の感染の予防について、
流行地域での臨床試験が行われた、
という意味では、
最も現時点では先行していると言って良いと思います。
このrVSV-ZEBOVと名付けられたワクチンは、
牛などの家畜に口内炎を起こす、
水疱性口内炎ウイルス(VSV)というウイルスを、
元の構造として利用し、
そこにエボラウイルスの糖蛋白抗原を発現させた、
遺伝子再集合の技法を用いたワクチンです。
VSVは非常に増殖力の強いウイルスなので、
ワクチンのベースとしては有用性が高いのです。
臨床試験は今年の3月から、
現在も流行地域であるギニアにおいて施行されました。
ギニアの複数の地域で医療スタッフが、
エボラウイルス病の患者を同定した場合、
その患者と接触した感染のリスクの高い集団を特定し、
くじ引きで2つのグループに分けます。
そして、その一方はすぐに1回ワクチンを筋肉注射し、
もう一方のグループはその21日後にワクチンを接種します。
ワクチンは18歳以上のみが対象とされ、
妊娠されている女性や授乳中の女性も除外されています。
全部で90の集団が登録され、
総人数は7651名に及ぶ大規模な研究です。
48の集団の4123名が早期のワクチン接種群で、
42の集団の3528名が3週間後のワクチン接種群です。
エボラウイルス病の潜伏期間は、
平均で11日程度で、
最長で21日程度と想定されています。
このため、今回の研究では、
患者との接触後10日を超えて感染者が新たに出現した場合に、
最初に同定された患者からの二次感染、
という判断を取っています。
その結果…
患者と接触後直ちにワクチンの接種された4123名中では、
10目以降の新たな患者は出現しなかったのに対して、
21日後にワクチンを接種した3528名中では、
16人の新規患者が最初の患者の接触から、
7つの集団で16名の患者が新たに診断されました。
接種時期をずらしたどちらのグループにおいても、
ワクチン接種後6日以降には新規の患者は発生しませんでした。
集団として、
中途で除外された成員も含めた解析では、
ワクチンの有効率は75.1%と計算されました。
重篤な有害事象は43例が報告され、
そのうち回復した高熱の事例のみが、
ワクチンと因果関係ありと認定されました。
ただ、この安全性の検証は、
まだ最終的なものではないと記載されています。
ワクチンの効果があることは間違いがありません。
ただ、潜伏期は10日より短い場合もあるにも関わらず、
10日で線を引くことにより、
有効率が100%と表現されていて、
それがそのまま報道されている点には、
一部で批判の声もあるようです。
一部報道では、
この10日という規準は最初から設定されたものではなく、
後から改変されたのではないか、
という疑義もある、
という記載がありました。
このワクチンの有効率と安全性がどの程度のものであるかは、
もう少し時間が経たないと、
冷静な検証は難しいのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-08-07 08:11
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