脂質異常症治療薬による高齢者脳卒中予防効果：北品川藤クリニック院長のブログ：SSブログ

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脂質異常症治療薬による高齢者脳卒中予防効果　[医療のトピック] [編集]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
脂質異常症治療による脳卒中予防効果.jpg

今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
脂質低下作用のある薬を、
継続的に使用している高齢者における、
病気の予防効果についての論文です。

悪玉コレステロールと通称されている、
LDLコレステロールが高値であると、
動脈硬化が進行し易く、
特に心筋梗塞を一度起こしたような患者さんでは、
スタチンというコレステロール降下剤を使用することにより、
その再発が強力に予防されることは、
多くの精度の高い臨床試験で確認された事実です。

また、これまでに一度も心筋梗塞を起こしたことのない場合にも、
今後起こるリスクが高いと想定される場合には、
スタチンを使用することにより、
そのリスクが一定レベル予防されることも確認されています。

しかし、こうした知見の元になった臨床試験の多くは、
70歳以下の年齢を主な対象としていて、
特に75歳を超える年齢層におけるスタチンの有効性は、
必ずしも明らかではありません。
そのため、欧米の現行のガイドラインにおいては、
75歳を超える年齢において、
特に動脈硬化に起因する病気を持っていない人には、
スタチンの使用を積極的には推奨していません。

それでは、
もっと若い年齢でスタチンなどの治療を開始し、
病気には幸いにならないままに、
その人が75歳を超えた時は、
どのように考えれば良いのでしょうか？

その時点で治療を中止することが良いのでしょうか？
それとも、継続することにも一定の意味があるのでしょうか？

洋の東西を問わず、
実臨床においては、
こうした場合にはそのまま治療が継続されることが通例です。

しかし、スタチンも多くの副作用や有害事象の報告されている薬ですから、
あまり継続する意義がないのであれば、
中止をした方が本当は良いのではないでしょうか？

今回の研究はフランスのもので、
こうした疑問に回答をしようとしたものです。

登録の時点で、
心筋梗塞や脳卒中などの既往のない、
65歳以上の男女、トータル7484名を、
平均で9.1年間経過観察し、
登録時点での内服薬と、
その後の脳卒中や心筋梗塞の発症リスクとの関連を検証しています。

対象者の中で、
1007名はスタチンを使用していて、
1036名はフィブラート（ベザフィブラートなど）という、
主に中性脂肪の降下剤を使用していました。

その結果、
高血圧などの他の病気のリスク因子を補正した上で、
脂質硬化剤を使用しているグループは、
未使用のグループと比較して、
34%有意に脳卒中の発症リスクが低下していました。
これはスタチンとフィブラートの合計ですが、
個々に見ると、スタチンが32%の低下、
フィブラートが34%の低下となっていて、
2つの薬剤には差がありませんでした。

その一方心筋梗塞に関しては、
スタチン、フィブラート、いずれの予防効果も、
確認はされませんでした。

これはかなり興味深く、
そして意外な結果です。

スタチンと比較するとフィブラートの心血管疾患予防効果は、
劣るものとこれまでは考えられていましたし、
そのリスクの低下が明確であったのは、
脳卒中ではなく心筋梗塞においてでした。

しかし、今回のデータでは、
脳卒中でのみ3割という予防効果が認められていて、
しかもフィブラートとスタチンが同等の効果、
という結果になっています。

このデータをそのまま事実と考えれば、
75歳以上の年齢でも、
可能な範囲で脂質降下剤を継続することが、
その後の脳卒中の予防になり、
それはスタチンではなくフィブラートでも同じである、
ということになります。

本当にこれを事実と考えて良いのでしょうか？

実際には脳卒中の事例自体は少ないので、
何らかのバイアスが掛かった可能性もあり、
今の時点で鵜呑みにするのは早計のように思います。

ただ、非常に興味深いデータであることは間違いがなく、
今後同様のデータの蓄積により、
高齢者の投薬の意義が、
中止するにせよ継続するにせよ、
科学的に見直されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。