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運動が心臓に良いのは何故か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マイクロRNAによる心臓肥大.jpg
今年のCell Metabolism誌に掲載された、
運動が心臓に与える影響についての、
新たな知見についての論文です。

スポーツ心臓という言葉があります。

たとえば、
運動を激しく続けているような人では、
心肥大と思えるような所見が、
レントゲンや心電図などの検査で見られることがあります。

その一方で、
高血圧の患者さんや、
心筋症と呼ばれる心臓の筋肉の病気の患者さんでは、
病的な心肥大が認められます。

スポーツ心臓と言うのは、
言ってみれば心臓が正常に強化された状態のことです。
トレーニングによって手や足に筋肉が付くように、
心臓に筋肉が付き、
その機能が強化されるのです。
それに反して病的な心肥大は、
心臓の筋肉よりも線維などの成分が異常に増殖して、
見た目は肥大であっても、
実際には心臓の機能は低下してしまうのです。

それでは、
どのような時に正常な心肥大が起こり、
どのような時に病的な心肥大が起こるのでしょうか?

運動が健康に良い、という要因の1つは、
心臓の筋肉に適切な負荷が掛かることにより、
心臓の筋肉が強化されることです。

しかし、たとえば高血圧においても、
心臓には負荷が掛かり、
それに伴って心臓は病的に肥大します。

同じように負荷が掛かっているのに、
別個の現象が起こるとすれば、
別個の物質なりメカニズムが、
それを分けている、ということになります。

それは一体何でしょうか?

上記文献の著者らは、
運動によって血液のmiRNA(マイクロRNA)という物質の1つが、
アスリートなどで増加している点に着目し、
人間の心筋細胞及びネズミを使った実験によって、
miRNA-222という物質が、
正常な心肥大のシグナルの伝達をしている、
という事実を確認しています。

miRNAというのは、
細胞内に存在している、
小さな1本の鎖の遺伝子、RNAの断片です。
これは細胞の遺伝子から切り出されて生じるものですが、
通常のRNAのように蛋白質に翻訳されることはなく、
他の遺伝子に結合することによって、
その細胞内の調節をするのが主な役割です。

遺伝子というのは全ての細胞において、
基本的に同一のものですが、
そのどの部分が働くか、という点については、
こうした外的な調節因子が、
細胞毎に存在しているのです。

miRNAにはその種類毎に番号が付いています。
今回運動によりその発現量が増加するのは、
miRNA-222とナンバリングされた物質ですが、
これがp27、HMBOX1、HIPK1/2という遺伝子を調節することによって、
正常な心筋細胞の増殖を促し、
その一方でこの物質がないネズミでは、
運動による心筋細胞の正常な増殖はストップしてしまいます。

更にはネズミに心筋梗塞を起こして、
その後の状態を検証すると、
miRNA-222の発現を増加させることにより、
そうでない場合と比較して、
心筋の病的な線維化が阻害されることも確認されました。

つまりはこういうことです。
マイクロRNAによる心臓の調節の図.jpg
これはNew England…の解説記事の図ですが、
運動は図の右のように、
miRNA-222の発現を増やすことによって、
正常な心筋の増殖を促し、
心臓機能の増進に結び付くのに対して、
心臓に虚血などのストレスが加わると、
miRNA-222の発現量は低下して、
それにより心臓の病的な肥大と線維化が進行するのです。

今後遺伝子治療のような形で、
miRNAの発現をコントロールすることにより、
心臓の病的な肥大を抑制するような、
抜本的な心臓の治療が開発されることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ひでほ

たいへん参考になりました。
心臓OPの翌日から歩行リハビリを行うのは理にかなっていますね。
by ひでほ (2015-06-04 08:48) 

fujiki

ひでほさんへ
コメントありがとうございます。
運動の質との関連も、
もっと深まればより面白いと思います。
by fujiki (2015-06-04 21:24) 

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