新規抗凝固剤とワルファリンの消化管出血リスクの比較 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のBritish Medical Journal誌にウェブ掲載された、
新規抗凝固剤(NOAC)とワルファリンとの、
消化管出血の有害事象の比較を行なった文献です。
同じテーマの文献が同じ紙面に、
もう1篇併載されていて、
そちらも含めてご紹介したいと思います。
長くワルファリンは内服で使用可能な唯一の抗凝固剤でした。
その主な用途は心房細動における脳卒中及び塞栓症と、
静脈血栓症(深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症)の予防です。
ただし、健康保険の適応には、
厳密には心房細動は含まれていません。
適応外処方として、長く使用されているのです。
その心房細動における予防効果は、
6つの偽薬と比較した大規模臨床試験のメタ解析において、
62%脳塞栓の発症リスクを低下させています。
同様の解析で低用量アスピリンは、
2割程度のリスク低下に留まっていますから、
明確にワルファリンの有効性がアスピリンに勝っています。
しかし、2011年に直接トロンビン阻害剤である、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)が発売され、
2012年4月には第ⅹa因子阻害剤である、
リバーロキサバン(商品名イグザレルト)が発売されました。
この両者の薬剤は、
メカニズムは異なりますが、
ワルファリンと同様の血栓塞栓症の予防効果を持ち、
切り替えも可能な薬剤です。
その後第Ⅹa因子阻害剤は、
2013年2月にアピキサバン(商品名エリキュース)が、
2014年9月にはアドキサバン(商品名リクシアナ)が加わりました。
このエドキサバンは、
整形領域の手術後の静脈血栓塞栓症の予防としては、
2011年7月に既に使用が開始されています。
以上のような近年発売されたワルファリン以外の経口抗凝固剤を、
そのままの表現ですが、
新規抗凝固剤(Novel Oral AntiCoagulants: NOAC )と呼んでいます。
ワルファリンは、
ダビガトラン以降の新規抗凝固剤と比較すると、
幾つかの欠点を持っています。
食品や薬との相互作用が多く、
食事や投薬が制限を受けてしまうことと、
そうした相互作用のために、
効果が不安定になり易いことです。
その一方で、
血液でPT-INRという指標を測定することにより、
薬の効果を数値で確認することが出来、
副作用にも対応し易いという利点があります。
たとえば、新規の心房細動の患者さんに対して、
抗凝固剤として何を用いるべきでしょうか?
脳塞栓の予防効果としては、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンのいずれも、
ワルファリンとの比較試験で、
少なくとも劣ってはいない、
という結果となっています。
つまり、効果はワルファリンとほぼ同等です。
一方で出血系の合併症については、
脳出血については、
ワルファリンより新規の抗凝固剤の方が、
その頻度が少ない、
という点でほぼ一致しています。
しかし、消化管出血については、
むしろ新規抗凝固剤の方が多いことを、
示唆するようなデータが存在しています。
新規の抗凝固剤のうち、
最もデータの多いのはダビガトランです。
ダビガトランを心房細動の患者さんに使用した、
RE-LY試験という大規模臨床試験では、
通常用量の1日300ミリグラムの使用において、
ワルファリンと比較して50%消化管出血のリスクが増加しています。
その後のメタ解析でも、
矢張り同様の結果が報告されています。
リバーロキサバンの同様の大規模臨床試験である、
ROCKET-AF試験においても、
ワルファリンより消化管出血の報告は多く、
その後のメタ解析の論文では、
ワルファリンと比較して47%のリスク増加、
というプラザキサと同様の結果が得られています。
ここまでは、いずれも主に発売前の、
臨床試験の結果を解析したものです。
それでは、実際の臨床で使用された結果としては、
消化管出血の頻度はどうなのでしょうか?
その点を検証したのが、
最初にご紹介した論文です。
アメリカの医療保険のデータベースを活用して、
トータル22万人近くに及ぶ、
新規の抗凝固剤使用患者を抽出し、
その使用目的や患者さんの背景、
出血のし易さのリスクなどをマッチさせるなどして、
ワルファリンとダビガトラン、リバーロキサバンとの比較を行なっています。
その結果、
患者さんの条件などをマッチさせた解析においては、
心房細動の患者さんに使用した場合、
ワルファリンによる消化管出血の発症が、
年間患者100人当たり2.87件であったのに対して、
ダビガトランは2.29件となっていました。
心房細動以外の目的での使用については、
ワルファリンによる消化管出血の発症が、
年間患者100人当たり3.71件に対して、
ダビガトランでは4.10件となっていました。
リバーロキサバンとワルファリンの比較では、
心房細動への使用の場合、
ワルファリンによる消化管出血の発症が、
年間患者100人当たり3.06件であったのに対して、
リバーロキサバンでの発症は2.84件となり、
心房細動以外への使用の場合、
ワルファリンによる発症が1.57件に対して、
リバーロキサバンが1.66件となっていました。
これらはいずれも有意な差は付いていません。
しかし、消化管出血のリスクは、
65歳以上では年齢と共に増加し、
76歳以上においては、
心房細動への使用で、
ダビガトランがワルファリンの2.49倍、
リバーロキサバンもワルファリンの2.91倍、
それぞれ有意に消化管出血のリスクの増加を認めました。
リバーロキサバンについては、
心房細動以外への使用で、
そのリスクは更に高く、
ワルファリンの4.58倍に達していました。
次にこちらをご覧下さい。
同じ紙面に載ったもう1つの論文ですが、
こちらもアメリカにおいて、
別個の医療保険のデータから、
46000人余の患者さんを解析したものです。
こちらは結論的には、
ワルファリンとダビガトラン、リバーロキサバンの、
いずれの比較においても、
消化管出血の発症に明瞭な差は認められていません。
ただ、かなり患者の背景には差があって、
頻度自体もダビガトランでは年間100人当たり9.01件と、
かなり多くなっているので、
明瞭にこれだけで3つの薬剤に差がないとは、
言い切れないようなデータになっています。
今回のデータをどのように考えるべきでしょうか?
高齢者において、
ワルファリンよりもダビガトランやリバーロキサバンで、
その使用時に消化管出血の起こるリスクは高いと想定した方が良く、
その要因としては腎機能の低下などによる、
血液濃度の上昇が想定されるので、
特に75歳以上の年齢層においては、
より慎重にその適応を考える必要があります。
問題は消化管出血よりもむしろ、
後遺症や生命予後にも直結する脳出血ですが、
欧米の知見としては、
脳内出血は新規抗凝固剤では増えない、
という結論になっているのですが、
脳出血の多い日本において、
それが本当に正しいかどうかは、
実際の臨床でのデータがもっと蓄積されないと、
何とも言えないところだと思います。
現状アピキサバンが、
臨床試験のデータからは、
特に高齢者で低用量を使用したケースでは、
良いデータを残しているのですが、
リバーロキサバンやダビガトランと比較して、
その検証出来るデータはまだ少ないので、
今後のデータを慎重に検討しながら、
個々の患者さんにおける選択を考えたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のBritish Medical Journal誌にウェブ掲載された、
新規抗凝固剤(NOAC)とワルファリンとの、
消化管出血の有害事象の比較を行なった文献です。
同じテーマの文献が同じ紙面に、
もう1篇併載されていて、
そちらも含めてご紹介したいと思います。
長くワルファリンは内服で使用可能な唯一の抗凝固剤でした。
その主な用途は心房細動における脳卒中及び塞栓症と、
静脈血栓症(深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症)の予防です。
ただし、健康保険の適応には、
厳密には心房細動は含まれていません。
適応外処方として、長く使用されているのです。
その心房細動における予防効果は、
6つの偽薬と比較した大規模臨床試験のメタ解析において、
62%脳塞栓の発症リスクを低下させています。
同様の解析で低用量アスピリンは、
2割程度のリスク低下に留まっていますから、
明確にワルファリンの有効性がアスピリンに勝っています。
しかし、2011年に直接トロンビン阻害剤である、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)が発売され、
2012年4月には第ⅹa因子阻害剤である、
リバーロキサバン(商品名イグザレルト)が発売されました。
この両者の薬剤は、
メカニズムは異なりますが、
ワルファリンと同様の血栓塞栓症の予防効果を持ち、
切り替えも可能な薬剤です。
その後第Ⅹa因子阻害剤は、
2013年2月にアピキサバン(商品名エリキュース)が、
2014年9月にはアドキサバン(商品名リクシアナ)が加わりました。
このエドキサバンは、
整形領域の手術後の静脈血栓塞栓症の予防としては、
2011年7月に既に使用が開始されています。
以上のような近年発売されたワルファリン以外の経口抗凝固剤を、
そのままの表現ですが、
新規抗凝固剤(Novel Oral AntiCoagulants: NOAC )と呼んでいます。
ワルファリンは、
ダビガトラン以降の新規抗凝固剤と比較すると、
幾つかの欠点を持っています。
食品や薬との相互作用が多く、
食事や投薬が制限を受けてしまうことと、
そうした相互作用のために、
効果が不安定になり易いことです。
その一方で、
血液でPT-INRという指標を測定することにより、
薬の効果を数値で確認することが出来、
副作用にも対応し易いという利点があります。
たとえば、新規の心房細動の患者さんに対して、
抗凝固剤として何を用いるべきでしょうか?
脳塞栓の予防効果としては、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンのいずれも、
ワルファリンとの比較試験で、
少なくとも劣ってはいない、
という結果となっています。
つまり、効果はワルファリンとほぼ同等です。
一方で出血系の合併症については、
脳出血については、
ワルファリンより新規の抗凝固剤の方が、
その頻度が少ない、
という点でほぼ一致しています。
しかし、消化管出血については、
むしろ新規抗凝固剤の方が多いことを、
示唆するようなデータが存在しています。
新規の抗凝固剤のうち、
最もデータの多いのはダビガトランです。
ダビガトランを心房細動の患者さんに使用した、
RE-LY試験という大規模臨床試験では、
通常用量の1日300ミリグラムの使用において、
ワルファリンと比較して50%消化管出血のリスクが増加しています。
その後のメタ解析でも、
矢張り同様の結果が報告されています。
リバーロキサバンの同様の大規模臨床試験である、
ROCKET-AF試験においても、
ワルファリンより消化管出血の報告は多く、
その後のメタ解析の論文では、
ワルファリンと比較して47%のリスク増加、
というプラザキサと同様の結果が得られています。
ここまでは、いずれも主に発売前の、
臨床試験の結果を解析したものです。
それでは、実際の臨床で使用された結果としては、
消化管出血の頻度はどうなのでしょうか?
その点を検証したのが、
最初にご紹介した論文です。
アメリカの医療保険のデータベースを活用して、
トータル22万人近くに及ぶ、
新規の抗凝固剤使用患者を抽出し、
その使用目的や患者さんの背景、
出血のし易さのリスクなどをマッチさせるなどして、
ワルファリンとダビガトラン、リバーロキサバンとの比較を行なっています。
その結果、
患者さんの条件などをマッチさせた解析においては、
心房細動の患者さんに使用した場合、
ワルファリンによる消化管出血の発症が、
年間患者100人当たり2.87件であったのに対して、
ダビガトランは2.29件となっていました。
心房細動以外の目的での使用については、
ワルファリンによる消化管出血の発症が、
年間患者100人当たり3.71件に対して、
ダビガトランでは4.10件となっていました。
リバーロキサバンとワルファリンの比較では、
心房細動への使用の場合、
ワルファリンによる消化管出血の発症が、
年間患者100人当たり3.06件であったのに対して、
リバーロキサバンでの発症は2.84件となり、
心房細動以外への使用の場合、
ワルファリンによる発症が1.57件に対して、
リバーロキサバンが1.66件となっていました。
これらはいずれも有意な差は付いていません。
しかし、消化管出血のリスクは、
65歳以上では年齢と共に増加し、
76歳以上においては、
心房細動への使用で、
ダビガトランがワルファリンの2.49倍、
リバーロキサバンもワルファリンの2.91倍、
それぞれ有意に消化管出血のリスクの増加を認めました。
リバーロキサバンについては、
心房細動以外への使用で、
そのリスクは更に高く、
ワルファリンの4.58倍に達していました。
次にこちらをご覧下さい。
同じ紙面に載ったもう1つの論文ですが、
こちらもアメリカにおいて、
別個の医療保険のデータから、
46000人余の患者さんを解析したものです。
こちらは結論的には、
ワルファリンとダビガトラン、リバーロキサバンの、
いずれの比較においても、
消化管出血の発症に明瞭な差は認められていません。
ただ、かなり患者の背景には差があって、
頻度自体もダビガトランでは年間100人当たり9.01件と、
かなり多くなっているので、
明瞭にこれだけで3つの薬剤に差がないとは、
言い切れないようなデータになっています。
今回のデータをどのように考えるべきでしょうか?
高齢者において、
ワルファリンよりもダビガトランやリバーロキサバンで、
その使用時に消化管出血の起こるリスクは高いと想定した方が良く、
その要因としては腎機能の低下などによる、
血液濃度の上昇が想定されるので、
特に75歳以上の年齢層においては、
より慎重にその適応を考える必要があります。
問題は消化管出血よりもむしろ、
後遺症や生命予後にも直結する脳出血ですが、
欧米の知見としては、
脳内出血は新規抗凝固剤では増えない、
という結論になっているのですが、
脳出血の多い日本において、
それが本当に正しいかどうかは、
実際の臨床でのデータがもっと蓄積されないと、
何とも言えないところだと思います。
現状アピキサバンが、
臨床試験のデータからは、
特に高齢者で低用量を使用したケースでは、
良いデータを残しているのですが、
リバーロキサバンやダビガトランと比較して、
その検証出来るデータはまだ少ないので、
今後のデータを慎重に検討しながら、
個々の患者さんにおける選択を考えたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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