小児期のビタミンDの不足とその後の動脈硬化との関係について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
小児期のビタミンD濃度と大人になってからの動脈硬化との、
関連についての論文です。
ビタミンDは骨の形成に必須のビタミンですが、
それ以外に近年注目を集めているのが、
ビタミンDの不足が動脈硬化を進展させるのではないか、
という話題です。
これはメカニズムには不明の点が多いのですが、
血液中のビタミンD濃度が低いと、
脳卒中のリスクが増加する、
心筋梗塞が増加する、
心血管疾患のリスクがトータルに増加する、
というような報告が複数存在しています。
その一方で、心血管疾患のリスクが高い人に、
ビタミンDをサプリメントとして使用して、
その後の脳卒中や心筋梗塞などの発症リスクを抑制出来るか、
というような所謂介入試験では、
今のところ明確な結論が得られていません。
2011年に51の論文を解析したメタ解析の論文が、
J Clin Endocrinol Metab誌に掲載されていますが、
矢張りビタミンDの補充による有益性は確認されていません。
何故こうした乖離が生じているのでしょうか?
1つの考えは、
動脈硬化というのは一旦進行してしまうと、
それからビタミンDを補充しても、
もうその有効性は得られないのではないか、
というものです。
つまり、
ビタミンDの不足は動脈硬化の進行の誘因にはなるのですが、
それはかなり人生の早い時期に決定される事項ではないか、
という考え方です。
しかし、
実際にお子さんの時期のビタミンDの不足が、
その後の動脈硬化に繋がる、
という根拠を示すようなデータは、
これまでに殆ど存在していませんでした。
そこで今回の研究では、
1980年の時点で3から18歳のお子さん2148名を対象とし、
その時点での血液中のビタミンD(25-OH ビタミンD)の濃度と、
その27年後の2007年の時点での、
頚動脈の内中膜複合体の厚みとの、
関連性を検証しています。
頚動脈の内中膜複合体の厚みというのは、
首の超音波検査で簡単に測定が可能な、
全身の動脈硬化の1つの指標です。
この指標は簡単で数値化もし易いため、
動脈硬化そのもののように、
捉えられがちなのですが、
必ずしもそうではありません。
勿論無関係ではないのですが、
コレステロール低下療法などにより、
比較的短期間でこの数値は改善するのですが、
その一方で心血管疾患の発症リスクは、
有意な改善は見られないことが多いからです。
本来はこの研究においても、
実際の脳卒中や心筋梗塞の発症で評価をしたいところなのですが、
対象年齢がせいぜい30から40代なので、
まだ好発年齢ではないので出来ないのです。
そのために、
まだ動脈硬化が進行する前に、
所見として現れる可能性のある、
頚動脈の超音波所見を使用しているのですが、
これは敢くまで動脈硬化そのものを見ている訳ではない、
という点には注意が必要です。
しかし、2000名を超えるお子さんのビタミンDを測定し、
30年近い経過観察を行なっているので、
これまでにあまり類のない研究であることは間違いがありません。
その結果…
年齢や性別などの影響を補正した結果として、
女性においては、
小児期のビタミンD濃度が低いほど、
頚動脈の内中膜複合体の厚みが厚い、
という相関関係が成立していました。
しかし、男性においては、
そうした関連は認められませんでした。
これは左の総頚動脈の分岐部付近の特定の地点での、
中内膜複合体の厚みを対象としています。
次に解析方法を変えて検討しています。
頚動脈の所見は、
頚動脈の特定の部位の内中膜複合体の面積が、
全体の90パーセンタイル以上であるか、
プラークと呼ばれるような病変のあるものを、
高リスク病変として規定します。
お子さんのビタミンD血液濃度を4つに分け、
最も低い40nmol/L未満のグループでは、
それ以上のグループと比較して、
大人の頚動脈の高リスク病変が、
お子さんの時期のコレステロール値やBMIなどの因子を補正した場合は、
1.7倍有意に、
大人の時期のコレステロール値やBMIなどを補正した場合には、
1.8倍有意に増加が認められました。
しかし、大人の時点でのビタミンD濃度は、
この頚動脈の高リスク病変とは相関を示しませんでした。
要するに、
10代のくらいまでの小児期に、
血液のビタミンDの濃度が低いと、
その30年後に動脈硬化の進行に繋がる可能性がある、
ということが想定されます。
従って、これが仮に事実であるとすると、
将来の動脈硬化性疾患の予防のためには、
大人になってからのビタミンDの補充では不充分で、
10代くらいの時点で、
その補充を行なう必要性があるのではないか、
という推論が成り立ちます。
ただし、繰り返しになりますが、
これは動脈硬化性疾患そのものを見ているのではなく、
敢くまで頚動脈の所見のみを指標としてるので、
今後検証するべきは、
小児期にビタミンD濃度が低い対象者に、
ビタミンDのサプリメントを行ない、
それが将来の動脈硬化性疾患の予防に、
本当に結び付くのかの介入試験ということになります。
しかし、現実には40年かそれ以上の経過観察を必要とするので、
そうしたデータが実現するのは、
かなり困難なことのように思います。
ビタミンDの不足が、
心血管疾患の発症に何らかの関与をすること自体は、
ほぼ間違いがなさそうですが、
少なくともある程度動脈硬化が進行している時期には、
ビタミンDを補充しても、
それほどの効果はないと考えた方が良さそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
小児期のビタミンD濃度と大人になってからの動脈硬化との、
関連についての論文です。
ビタミンDは骨の形成に必須のビタミンですが、
それ以外に近年注目を集めているのが、
ビタミンDの不足が動脈硬化を進展させるのではないか、
という話題です。
これはメカニズムには不明の点が多いのですが、
血液中のビタミンD濃度が低いと、
脳卒中のリスクが増加する、
心筋梗塞が増加する、
心血管疾患のリスクがトータルに増加する、
というような報告が複数存在しています。
その一方で、心血管疾患のリスクが高い人に、
ビタミンDをサプリメントとして使用して、
その後の脳卒中や心筋梗塞などの発症リスクを抑制出来るか、
というような所謂介入試験では、
今のところ明確な結論が得られていません。
2011年に51の論文を解析したメタ解析の論文が、
J Clin Endocrinol Metab誌に掲載されていますが、
矢張りビタミンDの補充による有益性は確認されていません。
何故こうした乖離が生じているのでしょうか?
1つの考えは、
動脈硬化というのは一旦進行してしまうと、
それからビタミンDを補充しても、
もうその有効性は得られないのではないか、
というものです。
つまり、
ビタミンDの不足は動脈硬化の進行の誘因にはなるのですが、
それはかなり人生の早い時期に決定される事項ではないか、
という考え方です。
しかし、
実際にお子さんの時期のビタミンDの不足が、
その後の動脈硬化に繋がる、
という根拠を示すようなデータは、
これまでに殆ど存在していませんでした。
そこで今回の研究では、
1980年の時点で3から18歳のお子さん2148名を対象とし、
その時点での血液中のビタミンD(25-OH ビタミンD)の濃度と、
その27年後の2007年の時点での、
頚動脈の内中膜複合体の厚みとの、
関連性を検証しています。
頚動脈の内中膜複合体の厚みというのは、
首の超音波検査で簡単に測定が可能な、
全身の動脈硬化の1つの指標です。
この指標は簡単で数値化もし易いため、
動脈硬化そのもののように、
捉えられがちなのですが、
必ずしもそうではありません。
勿論無関係ではないのですが、
コレステロール低下療法などにより、
比較的短期間でこの数値は改善するのですが、
その一方で心血管疾患の発症リスクは、
有意な改善は見られないことが多いからです。
本来はこの研究においても、
実際の脳卒中や心筋梗塞の発症で評価をしたいところなのですが、
対象年齢がせいぜい30から40代なので、
まだ好発年齢ではないので出来ないのです。
そのために、
まだ動脈硬化が進行する前に、
所見として現れる可能性のある、
頚動脈の超音波所見を使用しているのですが、
これは敢くまで動脈硬化そのものを見ている訳ではない、
という点には注意が必要です。
しかし、2000名を超えるお子さんのビタミンDを測定し、
30年近い経過観察を行なっているので、
これまでにあまり類のない研究であることは間違いがありません。
その結果…
年齢や性別などの影響を補正した結果として、
女性においては、
小児期のビタミンD濃度が低いほど、
頚動脈の内中膜複合体の厚みが厚い、
という相関関係が成立していました。
しかし、男性においては、
そうした関連は認められませんでした。
これは左の総頚動脈の分岐部付近の特定の地点での、
中内膜複合体の厚みを対象としています。
次に解析方法を変えて検討しています。
頚動脈の所見は、
頚動脈の特定の部位の内中膜複合体の面積が、
全体の90パーセンタイル以上であるか、
プラークと呼ばれるような病変のあるものを、
高リスク病変として規定します。
お子さんのビタミンD血液濃度を4つに分け、
最も低い40nmol/L未満のグループでは、
それ以上のグループと比較して、
大人の頚動脈の高リスク病変が、
お子さんの時期のコレステロール値やBMIなどの因子を補正した場合は、
1.7倍有意に、
大人の時期のコレステロール値やBMIなどを補正した場合には、
1.8倍有意に増加が認められました。
しかし、大人の時点でのビタミンD濃度は、
この頚動脈の高リスク病変とは相関を示しませんでした。
要するに、
10代のくらいまでの小児期に、
血液のビタミンDの濃度が低いと、
その30年後に動脈硬化の進行に繋がる可能性がある、
ということが想定されます。
従って、これが仮に事実であるとすると、
将来の動脈硬化性疾患の予防のためには、
大人になってからのビタミンDの補充では不充分で、
10代くらいの時点で、
その補充を行なう必要性があるのではないか、
という推論が成り立ちます。
ただし、繰り返しになりますが、
これは動脈硬化性疾患そのものを見ているのではなく、
敢くまで頚動脈の所見のみを指標としてるので、
今後検証するべきは、
小児期にビタミンD濃度が低い対象者に、
ビタミンDのサプリメントを行ない、
それが将来の動脈硬化性疾患の予防に、
本当に結び付くのかの介入試験ということになります。
しかし、現実には40年かそれ以上の経過観察を必要とするので、
そうしたデータが実現するのは、
かなり困難なことのように思います。
ビタミンDの不足が、
心血管疾患の発症に何らかの関与をすること自体は、
ほぼ間違いがなさそうですが、
少なくともある程度動脈硬化が進行している時期には、
ビタミンDを補充しても、
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よろしくお願いします。
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2015-04-30 08:07
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