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高齢者の高血圧の管理目標値はどのくらいか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別の仕事に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アメリカの高血圧ガイドラインの変更論拠.jpg
先月のJournal of the American College of Cardiology誌に掲載された、
今年改訂されたアメリカの高血圧ガイドラインの、
変更の根拠となった研究結果です。

以前にもご紹介しましたように、
この2014年の時点で、
アメリカと日本の高血圧のガイドラインには、
結構大きな差が認められます。

その1つが高齢者の血圧管理をどう考えるか、
という点にあります。

日本高血圧学会による、
高血圧治療ガイドライン2014では、
高血圧の治療目標値は、
上が140で下が90未満ですが、
それが75歳以上の高齢者においては、
上が150未満で下が90未満に緩和されています。

一方アメリカの高血圧ガイドラインは、
米国合同委員会(JNC)によって作成され、
昨年まで使用されていたものでは、
年齢による血圧目標値の差はなかったのですが、
今年改訂されたJNC8においては、
年齢が60歳以上において、
上が150未満で下が90未満に引き上げられています。
59歳以下の目標値は、
日本と同じ上が140未満で下が90未満です。

この変更の論拠とされているのが、
上記の文献における検討です。

これは一種のサブ解析で、
2003年のJAMA誌に発表された、
INVESTと呼ばれる大規模臨床試験のデータを、
年齢と血圧値を絞って再解析したものです。

INVESTという試験は、
心筋梗塞や狭心症などの既往があり、
収縮期血圧が登録時で150以上であった、
50歳以上の成人22576例を対象として、
ベラパミルとアテノロールという、
2種類の降圧剤をくじ引きで使用して、
平均で4年間の経過観察を行なったものです。
この試験では治療による予後の差はなかったので、
今回の再解析においては、
全てを同一と見做して、
年齢は60歳以上に限定し、
治療1年後に達成された血圧の数値により、
上の血圧が140未満の群と、
140以上150未満の群、
そして150以上の群の3群に分けて、
その予後の差を検証しています。
トータルな患者数は8354名です。

その結果、総死亡と心筋梗塞や脳卒中による死亡のリスクは、
いずれも150以上の群では有意に高く、
140未満の群と140から150未満の群では、
明確な差が認められませんでした。

この結果をほぼ唯一の拠り所として、
アメリカのガイドラインでは、
60歳以上の血圧目標値を変更しています。

正直何となく釈然としません。

ガイドライン変更の根拠が、
以前行なった臨床試験のサブ解析のみ、
というのは弱い気がします。
しかも、これは心臓病の患者さんに限定した試験で、
2つの治療群を有意差がなかった、
というだけの理由で全ての対象者をゴタ混ぜにしています。
年齢の区分も血圧値の区分も極めて意図的なもので、
線引きを変えれば、
全然別箇の結果が得られてもおかしくはありません。

高齢者を60歳で線引きするのは、
患者さんの身体状況や活動性から見て、
如何なものでしょうか?

この点については、
日本の75歳以上という線引きの方が、
勿論根拠の乏しいのはお互い様なのですが、
常識的な感覚としては納得のいく気がします。

更には今回のデータを細かく見ると、
脳卒中の発症については、
140から150の間の血圧より、
140未満の方が発症リスクは低下しています。

つまり、患者さんの個々の病状や、
どのような病気のリスクを重く考え、
何を予防することを目的とするかによって、
自ずと結果は異なるような気がします。

今回のガイドライン改訂は大雑把な上に、
個々の患者さんの背景に対する配慮に欠けているので、
臨床の現場において、
これを金科玉条の如く崇拝する必要はないように思います。

日本のガイドラインは、
おそらくそのうち、
アメリカにすり寄るように改訂されると思いますが、
1人の臨床医としては、
ガイドラインの見解は理解しつつも、
個々の患者さんの病態や希望に合わせて、
それをオーダーメイドして行く作業こそ、
重要になるような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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