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アメリカの新ガイドラインにおけるスタチンの適応について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から検査結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨年の11月にアメリカの心臓病学会(ACC)と心臓病協会(AHA)が、
心臓病の予防のための臨床のガイドラインを改定しました。

そこで最も注目を集めたのが、
スタチンというコレステロール降下剤を、
どのような患者さんに用いるべきかという、
その基準の改定です。

これはどういうものかと言うと、
心筋梗塞などの既往のある患者さんと、
悪玉コレステロールの数値が190mg/dL以上の患者さん、
悪玉コレステロールは70から189mg/dLで、
40歳から75歳の2型糖尿病の患者さん、
そして将来10年間の心疾患の発症リスクが、
7.5%以上と推定される40歳から75歳の患者さんでは、
スタチンによる治療を積極的に検討する、
と言う内容になっています。
(悪玉コレステロールはLDLコレステロールのことです)

これまでのガイドラインにおいては、
治療の悪玉コレステロールの目標値が設定されていましたが、
今回のガイドラインではなくなっています。
また、将来10年の心筋梗塞発症リスクを、
これまでのガイドラインでは10%を基準としていましたが、
それが7.5%に下がっています。

その理由の1つになっているのがこの文献です。
コレステロール低下療法の低リスク患者への効果.jpg
2012年のLancet誌の文献です。
これまでの多くの臨床試験のデータを解析した結果として、
ベースラインの脂質レベルには関わりなく、
心筋梗塞や脳卒中のリスクを20%程度低下させる、
という結果になっています。
将来の5年間の心筋梗塞発症リスクが10%未満の、
これまでのガイドラインの低リスクであっても、
スタチン治療によるコレステロール降下療法は、
一定の有用性がある、
という知見も得られています。

スタチンというコレステロール降下剤による治療が、
特に心筋梗塞の予防に、
有用性の高い薬であることは間違いがありません。

特に一度心筋梗塞を起こした患者さんにおいては、
その効果は確立されていて、
疑う余地はありません。

ただ、問題はコレステロールの目標値を設定した試験において、
これまでに明確な有効性が確認されていないことです。

つまり、
以前のガイドラインにおいては、
コレステロールの治療目標値が定められていたのですが、
その根拠があまりない、
と言う点が問題であったのです。

今回のアメリカのガイドラインにおいては、
2012年のLancetの文献の知見なども加味して、
コレステロールの目標値は設定せず、
心筋梗塞の発症リスクが想定される場合には、
スタチンの使用自体がリスクの低下になる、
という考え方が取られています。

この考え方自体は誤りのないものだと思いますが、
問題は将来10年の心筋梗塞リスクが7.5%という線引きをすると、
年齢が高くなるとほぼ100%がスタチンの適応となってしまう、
という点にあります。

スタチン使用の適応となる患者さんの数は、
このガイドラインの変更により倍に増える、
という推計もあります。

こうした点がアメリカにおいても議論となっていて、
もっと治療の対象者を絞り込むことが必要ではないか、
という論調がある一方で、
スタチンはアスピリンと同じように、
健康管理上の一種の基礎薬であって、
コレステロールの数値とは関わりなく、
一定の動脈硬化の病気のあるリスクのある人は、
洩れなく飲むことが望ましい、
というような意見もあります。

スタチンという薬は、
そもそもはコレステロールの合成を抑える薬として、
コレステロールを降下させることにより、
動脈硬化の病気の再発や予防に役立つ、
と考えられたのですが、
意外にもその効果はコレステロールの低下度とは、
それほどの関連性を示しておらず、
むしろ付随的な抗炎症作用などの方が、
よりその効果の本質ではないかと、
考えられるようになってきています。

そのために、
その使用法もコレステロールの数値で階層化するのではなく、
むしろ将来的な心筋梗塞などの発症リスクにおいて、
アスピリンと同様に判断して使用するべきなのかも知れません。

問題は心筋梗塞の多い欧米においては、
比較的低リスクの方でも、
スタチンの使用のメリットが、
副作用などの弊害を上回るのですが、
日本においても同様のことが言えるとは、
限らないという点にあります。

最近の国内のガイドラインは、
欧米のそれをほぼ模写したようなものが主流で、
スタチンの使用の基準についても、
心筋梗塞の将来のリスク判定のマニュアルが、
日本のデータを元にして設定されていることを除けば、
ほぼ同一にものになっています。

ただ、昨年のアメリカのガイドラインの改定以降、
どのような方針を取るべきか、
まだ決めかねているように思えます。

欧米と比較すると心筋梗塞の少ない日本では、
筋肉や神経系などの副作用や、
認知機能の低下や血糖上昇などのリスクを、
より重く考える必要があります。
従って、より慎重にスタチンの適応を、
考える必要があるのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara 何時も興味深い記事ありがとうございます!
爺の妻は、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の一種、ロスバスタチンカルシウム(商品名:クレストール)を朝5mg飲んでいて、有意にLDLコレステロールが下がってきています。
by bpd1teikichi_satoh (2014-05-02 13:28) 

zzz

石原先生こんにちは(^^)
今日の話題のスタチンについては、出雲のDr. Ippei KanazawaのHPでも取り上げられていたのを思い出しまして・・・。(外来で一度診て頂いて、大変お世話になった先生です)やはりアメリカのガイドラインを日本人にそのまま適応するのは「?」で「日本人でのエビデンスに基づいた日本人特有のガイドラインが必要だと思います。」とおっしゃってました。そういえば、サプリメントなどもアメリカ製のはなんか、強引なイメージがありますね。時々、T3や成長ホルモンなど個人輸入したくなる誘惑に駆られたりしますが・・・(^^);
今回偶然お二人のDr.の同じ意見を拝見して、やはり人種差を考えないといけないのだな、と思いました。
私事で恐縮ですが、以前骨粗鬆症の治療薬についてご相談しておりましたが、3月に検査入院した折、フォルテオに落ち着きました。石原先生が紹介しておられた「テリボン」を希望したのですが、取り扱いがない(!?)ということで。毎日チクチクやっております。
体調のほうはもうよろしいのですか?いつも楽しみに拝見しておりますので、ご自愛ください。m(__)m


by zzz (2014-05-02 14:08) 

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