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新規抗うつ剤アゴメラチンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
新規抗うつ剤アゴメラチン.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
ヨーロッパで主に使用されている、
抗うつ剤の新薬の効果と安全性を検証した、
メタ解析の論文です。

アゴメラチン(商品名バルトキサンなど)は、
2009年にヨーロッパで認可され発売された、
新しいメカニズムの抗うつ剤で、
フランスの製薬会社の開発薬剤です。

アメリカでは現在採用に向けた審査中で、
日本では現時点で発売の予定はないようです。
(もし本当は予定があるようでしたら、
教えて頂ければ幸いです)

この薬が注目されるのは、
NDDI(ノルアドレナリン・ドーパミン脱抑制薬)という、
これまでにないメカニズムの薬剤であるからです。

NDDIというのはどのようなメカニズムの薬で、
どのような利点が期待出来るのでしょうか?

現在の抗うつ剤の主流は、
SSRIと呼ばれる薬です。

これはうつ病などの感情障碍では、
脳の神経伝達に関わるモノアミン、
特にセロトニンが減少しているとする、
所謂「モノアミン仮説」がその理論的裏付けとなっています。
そのため、脳内のセロトニン濃度を上昇させれば、
うつ症状は改善すると考え、
そうしたメカニズムの薬が開発されました。

SSRI開発前の抗うつ剤は、
正直なところ明確なメカニズムは不明の点があったのですが、
SSRIについては、
その作用は明らかで、
脳のセロトニンが上昇することも、
実際に確認がされています。

しかし、従来の抗うつ剤より、
理屈の上ではより効果があると想定されたSSRIでしたが、
実際に臨床で使用されてみると、
少なくとも従来の古いタイプの抗うつ剤と比較して、
明瞭に抗うつ効果が勝っている、
という成績は得られてはいません。

眠気などの副作用は確かに少ないのですが、
その一方で使用開始時の焦燥感や衝動性の亢進などの発症は、
その時期の問題行動などがむしろ多くなる、
という問題も生んでいます。
また、減量中止時の離脱症状の強さももう1つの問題です。

そもそも、薬剤の投与により、
脳内のセロトニンレベルはすぐに上昇して、
焦燥感などはすぐに出現するのに、
抗うつ作用自体は従来の抗うつ剤のように、
2週間程度の時間は要する、というのも、
それなりの理屈はあるのですが、
納得のいかないものが残ります。

セロトニンを上昇させても、
必ずしもうつ症状の治癒には、
結び付かないのではないでしょうか?

SSRE(セロトニン再取り込み促進剤)という、
SSRIとは逆の効果の薬があり、
これもヨーロッパでは実際に使用されていますが、
逆の効果の筈なのに、
臨床的には抗うつ剤としての効果を示しています。

こうした事実からも、
単純にセロトニンなどのモノアミンを脳で増やすことが、
うつ病の治療に直結するものではない、
ということは明らかです。

そこでNDDIというタイプの薬剤は、
神経に抑制的に働いているような、
セロトニンの一部の受容体の機能を阻害して、
結果として脳の神経系の機能を正常化しよう、
というコンセプトの薬です。

実際に創薬されたこのアゴメラチンは、
メラトニンの受容体であるM1とM2を刺激する作用と、
セロトニンの受容体であるHT2Bと2Cに拮抗する作用の、
両者を併せ持つ薬です。

メラトニンの誘導体としての作用は、
日本で発売されているロゼレムと、
基本的には同じです。

もう一方のセロトニンの2種の受容体への拮抗作用は、
脳の前頭葉に分布する抑制系の神経を阻害することによって、
間接的に前頭葉における脳内伝達を強めよう、
というもので、
これが脱抑制薬と呼ばれる所以です。

この薬のメカニズム的な利点は、
SSRIのように脳内のセロトニンをトータルに上昇させる、
というようなことがないので、
衝動性などの副作用が少ないことが想定されることです。

それでは実際のその効果はどうなのでしょうか?

今回の文献においては、
主にヨーロッパにおけるこれまでの臨床試験のデータを、
まとめて解析し、
その効果と安全性を検証しています。

その結果…

現時点において、
偽薬と比較したアゴメラチンの臨床試験のデータは、
従来の抗うつ剤に匹敵する蓄積があり、
その効果の比較において、
SSRIを含む抗うつ剤と、
その抗うつ効果は同等のものと判断されました。

その安全性については、
SSRIに多い吐き気や不眠などの副作用は少なく、
体重増加や離脱症状も少ないとされています。

ただ、まだ安全性についてはデータの蓄積は少なく、
上記文献のイギリスの研究者の見解としては、
その薬価の高さや長期使用の成績のない点などから勘案して、
第一選択の薬剤ではなく、
SSRIなどの使用により、
副作用が生じたようなケースが、
最も有用な適応ではないか、
と結論付けています。

個人的にはSSRIによる急激なモノアミンの上昇は、
特に病状が不安定な感情障碍の患者さんでは、
ベストの治療とは言えず、
むしろ前頭葉機能の調整薬に、
より身体に負担の少ない治療の選択肢としての、
可能性が大きいように思います。

これは凄く大雑把な話になりますが、
受容体に作用する薬は、
それを刺激するタイプの薬より、
ブロックするタイプの薬の方に、
より成功事例が多く、
効果のみならず安全性も高いように思います。

今後の研究の積み重ねを期待したいと思いますし、
こうしたメカニズムの異なる抗うつ剤については、
日本においても積極的な導入が、
強く望まれるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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