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インフルエンザ入院患者におけるタミフルの生命予後改善効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
2009年のインフルエンザに対するタミフルの効果.jpg
今月のLancet Respiratory Medicine誌に掲載された、
2009年に流行したH1N1タイプのA型インフルエンザに対する、
初期のタミフル投与の生命予後に対する効果についての論文です。

これまでタミフル(一般名オセルタミビル)などの抗ウイルス剤の使用により、
発熱などの症状の持続期間が短縮した、
というようなデータは複数存在していましたが、
明確に患者さんの生命予後を改善した、
とか、重症化を予防した、
というようなデータは、
少なくとも精度の高いものは存在していませんでした。

2009年に当時新型インフルエンザと呼ばれた、
インフルエンザA(H1N1pdm09)の流行が世界的にあり、
当初はより重症化の可能性が高いウイルスと考えられたため、
発症早期からタミフルなどの使用が積極的に行なわれました。
従って、この時の予後のデータが、
最もタミフルの生命予後への効果を検証する上で、
適切なものと現時点では考えられます。

今回のデータは世界中の401の専門施設にコンタクトを取り、
2009年から2011年に掛けて、
臨床検査もしくは診療症状より、
インフルエンザA(H1N1pdm09)の感染と判断され、
入院治療の適応となった、
29234名の患者さんを対象として、
タミフルに代表されるノイラミニダーゼ阻害剤の使用と、
患者さんの生命予後との関連性を検証しています。

患者さんの年齢は平均で26歳、
16歳未満のお子さんが32%含まれています。
良く知られているように、
このタイプのインフルエンザの感染は、
流行初期には若年成人に多いという傾向がありました。

地域的にはアメリカとヨーロッパの患者さんが多く、
日本を含むアジアの対象者はごく僅かです。

使用されたノイラミニダーゼ阻害剤は、
タミフルが92%と圧倒的で、
リレンザは全体の2%程度です。

その結果…

29234名の患者さんのうち、
ほぼ1割に当たる2784名が、
インフルエンザ症状出現後30日以内に亡くなっています。

タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤の使用は、
未使用と比較して、
トータルに見て死亡リスクを19%有意に低下させていました。

症状出現後2日以内の使用開始を、
それ以降の使用開始と比較すると、
死亡リスクを52%有意に低下させていました。

そして、症状出現後2日以内の使用と、
未使用との比較では、
その使用により死亡リスクは50%低下していました。

つまり、症状出現後2日以内にタミフルを使用すると、
その後の患者さんの死亡リスクが半分に低下した、
ということになります。

ただ、このタミフルの使用による死亡リスクの低下は、
16歳未満のお子さんのみでの解析では、
有意なものではなくなりました。

これはこれまでで最も明確に、
発症初期のタミフルの使用により、
その後の死亡リスクが低下することを示した大規模なデータです。

ただし…

今回の結果は若年の成人にのみ明確なもので、
全ての患者さんではなく、
入院加療の対象となった患者さんのみで成立しているものです。
死亡された患者さんの半数は、
何らかの基礎疾患をお持ちの方です。
2009年の「新型インフルエンザ」には、
若年成人で重症化し易いという特異性があり、
高齢者で重症化することの多い季節性インフルエンザと、
同等に考えることは出来ません。
更にはお子さんでの効果は未知数です。

しかし、こうした限定的なデータではありますが、
症状出現早期のタミフルの使用により、
比較的重症のインフルエンザ感染の生命予後が改善する、
という結果が得られたことの意義は大きく、
今後のタミフルの位置付けに、
一石を投じる可能性のある結果だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara興味深い記事何時も有難う御座います。症状出現前
のタミフルの投与は、死亡リスクを50%低下させる事は、非常に
重要ですね。約30年昔、インフルエンザのHI抗体価測定を手伝った爺にインフルエンザウィルスが細胞内に進入する時に働くノイラミダーゼと言う酵素が重要で、その酵素の阻害薬を用いれば、感染が防げると考えた事が現実化している事に感動を覚えます。
本当に医学の進歩は素晴らしいものです!
by bpd1teikichi_satoh (2014-03-26 05:11) 

fujiki

bpd1teikichi_satoh さんへ
コメントありがとうございます。
これが事実として、
どのような患者さんにどのタイミングで使用するか、
というのは、また難しい判断になりそうです。
by fujiki (2014-03-26 08:31) 

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