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呼吸機能の喫煙抵抗性と血中鉄濃度との関連性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から色々とあって、
今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鉄とタバコ感受性との関連性.jpg
今月のPLOS ONE誌にウェブ掲載された、
血液の鉄濃度と喫煙が肺に与える影響についての、
日本の研究者による論文です。

PROS ONE誌は無料で全て全文を読むことの出来る、
ウェブ媒体のみの医学誌で、
速報性が重視されているので、
内容はまあ、ボチボチという感じで、
オヤオヤという感じのものもあります。

この論文はデータとしては、
それほどの重要性は感じませんが、
提起された問題は非常に興味深いものなので、
ご紹介したいと思います。

喫煙に健康上の害のあることは、
一部の風変わりな学者先生が数人、
反対するような言説を展開されていますが、
一般的には多くの専門家を含めて、
認知され証明された事実です。

喫煙の害には、
大きく分けて特定の癌の増加と、
肺気腫や慢性気管支炎などの肺の病気の発症と進行、
そして動脈硬化の病気である脳卒中や心筋梗塞の増加、
という3点があります。

今日問題にしたいのは、
そのうちの肺の病気の進行についてですが、
ヘビースモーカーの成人のうち、
概ね半数が将来的に、
肺気腫や慢性期間炎の総称である、
慢性閉塞性肺疾患になる、
という報告があります。

これは逆に言うと、
ヘビースモーカーであっても、
その半数は慢性閉塞性肺疾患にはならない、
ということを示しています。

それでは、同じようにタバコを吸っていても、
肺の病気になる場合とならない場合とがあるのは、
一体何が原因なのでしょうか?

これはまだ解決されていない、
非常に興味深い問題です。

今回の研究では、
山形県の高畠市で2004年から2006年に掛けて取られた、
疫学調査のデータを元にして、
ヘビースモーカーの成人男性を、
肺機能が低下した群と、
低下しない群とに分け、
どのような検査値が、
その肺機能の低下と関連性が強いかを検証しています。

3257名の住民の健康調査の結果から、
年齢が70歳以上で、
喫煙の年数が30年以上、毎日20本以上に相当する、
喫煙本数の男性をピックアップし、
そのうち肺機能の数値が正常である群と、
低下している群とに分けて検討したところ、
該当者は肺機能が低下した117名と、
正常の147名とになり、
測定値のうち有意な差があったのは、
血液の鉄の数値とBMIという体格の数値のみで、
そのうち血液の鉄の数値のみが、
喫煙者の肺機能の指標と相関を示しました。

肺機能が低下すれば、
栄養状態もそれに伴って悪化し、
貧血が生じてヘモグロビンが低下すると、
二次的に鉄が減少することが想定されますが、
そうした影響を補正しても、
矢張り血清鉄の数値と肺機能との相関は認められました。

この相関は喫煙者では明瞭でしたが、
非喫煙者では有意ではなくなりました。
これは要するに、
単純に低栄養などの影響で、
血清鉄と肺機能との間に関連があるのではなく、
喫煙による何らかの身体の変化が、
血清鉄の低下に結び付いている可能性を示唆しています。

つまり、
ヘビースモーカーにおいては、
血清鉄の数値が低いほど、
肺の機能も低下している、
という両者の関連性が認められ、
ヘビースモーカーであっても肺機能が低下しない男性の高齢者では、
血清鉄が高値に保たれている、
という関連性が認められました。

血清鉄の正常値の下限は概ね54μg/dLですが、
ヘビースモーカーの高齢男性を2つに分けた解析では、
肺機能の低下群の血清鉄の平均値が107.8μg/dLで、
正常群のそれが121.6μg/dLと、
正常よりむしろ両者とも高い値を示しています。

症例数は少ないため、
このデータだけで血清鉄の数値と、
ヘビースモーカーの肺機能との間に、
関連性があると断定は出来ません。

ただ、鉄の代謝と肺機能や喫煙との間には、
無視出来ない関連性があることを、
示唆する報告はこれまでにも存在するので、
満更無意味なデータとも言い切れません。

喫煙により肺の組織には鉄分の沈着が起こります。
この沈着した鉄分が炎症を誘発し、
肺の機能の低下に結び付く、という知見があります。
こうした肺組織への鉄分の沈着により、
血清鉄は低下する可能性があります。
HO-1という酵素は、
その活性の増加により、
ネズミの実験で血清鉄を上昇させる働きがあり、
一方で肺組織における抗酸化物質としての役割も果たしています。

つまり、このHO-1という酵素の遺伝子のタイプにより、
その活性に差があると、
HO-1の働きの強い個体では、
肺が酸化ストレスに強いと同時に、
血清鉄が上昇していて、
そうした個体は喫煙という酸化ストレスにも強いので、
肺に鉄分の沈着も起こらず、
肺機能が喫煙によっても低下しないのですが、
HO-1の活性が低下している個体では、
その逆のことが起こって、
喫煙により容易に肺機能が低下し易く、
血清鉄も低めに成り易い、
という推測が成り立つのです。

これは現時点では全くの仮説に過ぎませんが、
今後HO-1の遺伝子のタイプ毎に、
喫煙による肺機能の低下の程度や、
血清鉄の数値との間の関連性が、
より厳密に調べられれば、
今後喫煙により強い体質の肺の知見が深まり、
これまでとは別個のアプローチで、
肺の機能の低下を予防するような、
医療的な介入への道が開かれるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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