SSブログ

大腸癌検診としての大腸内視鏡検査の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸内視鏡検診の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
大腸癌検診としての大腸内視鏡検査の効果についての論文です。

昨日は大腸癌のスクリーニングに関しての、
便潜血検査を定期的に繰り返す検診の、
効果についての記事でした。

今日は同じ雑誌に並んで掲載された、
もう1つの大腸癌のスクリーニング法としての、
大腸内視鏡検査の効果を検証した内容になっています。

大腸の内視鏡検査は、
直接的に大腸の粘膜を観察して、
ポリープなどの病変を診断が可能ですから、
大腸癌の検診として、
有用であることは間違いがありません。

ただ、海外では毎年内視鏡検査を行なう、
というような方法は、
コスト的な面からも過剰診断の面からも、
適切とは見做されませんから、
1回の内視鏡検査で、
どのくらいの期間その効果が期待出来るのか、
というような点と、
その検査の結果をどのように利用すれば、
最も適切であるのか、
というような点が問題になります。

更には大腸の内視鏡検査には、
全大腸を観察する方法と、
より簡易的に肛門に近い、
直腸とS状結腸のみを観察する方法とがあり、
そのどちらを用いるのが検診としては適切か、
というような点も、まだ未解決の問題です。

勿論全大腸を観察する方が、
より精密な検査になることは間違いがありませんが、
下剤を掛けたりする前処置が必要となります。
その一方で直腸とS状結腸のみを観察する、
シグモイドスコピーは、
排便後に簡便に出来るというメリットがあり、
全ての大腸癌の7割以上は直腸とS状結腸に存在しているので、
これでもスクリーニングとしては充分である、
という考え方もあります。

今回の研究はアメリカにおいて、
看護師と医療関係者を長期間観察した、
2つの疫学研究のデータを活用して、
1回の全大腸内視鏡検査と1回のシグモイドスコピーの結果が、
その後の対象者の予後に、
どのような影響を与えるのかを検証しています。

対象者はトータル88902名という大規模なもので、
観察期間は22年間を越えています。

規模は大きいのですが、
これは大腸内視鏡検査を行なう群と行わない群とを分けて比較する、
というような試験ではありません。

対象者に質問をして、
何らかの理由で大腸内視鏡検査を受けた人に、
その理由やその後の経過の情報の提供を受け、
その内容をしなかった人と比較しているだけです。

その結果…

トータルに全大腸内視鏡検査を行なうことによる、
大腸癌の死亡リスクに対する影響を計算すると、
68%の死亡リスクの低下が認められました。
シグモイドスコピーではこのリスクの低下は41%に留まります。

これを条件毎に考えると、
ポリープの切除を伴う大腸内視鏡検査を受けた人は、
検査を受けなかった人と比較して、
大腸癌で観察期間中に死亡するリスクが、
43%低下しました。

これは1回でも検査を受けてポリープを切除した場合、
ということです。

これがシグモイドスコピーを受けて異常のなかった場合には、
その後に大腸癌で死亡するリスクは40%低下し、
大腸内視鏡検査で異常がなかった場合には、
56%低下しました。

この大腸内視鏡検査後の大腸癌死亡リスクの低下は、
肛門に近い部位の大腸癌ではより顕著で、
より小腸に近い部位の大腸癌では少ない傾向にあり、
特にシグモイドスコピーでは、
小腸に近い部位の大腸癌の死亡リスクは、
有意な低下を示しませんでした。

シグモイドスコピーはその性質上、
肛門に近い部位の癌しか検出は出来ませんから、
これは当然のことのように思えますが、
全大腸内視鏡検査においてもそうした傾向は認められています。

大腸内視鏡検査後の大腸癌死亡リスクの低下は、
たった1回の検査後10年間は殆ど変わることがありません。
しかし、近い親族に大腸癌が多い場合には、
リスクは5年で認められなくなります。

現行のアメリカのガイドラインにおいては、
大腸癌のスクリーニング目的の大腸内視鏡検査は、
平均的なリスクが想定される場合には、
10年に1回で良く、
家族性など高いリスクが想定される場合には、
5年に1回の必要がある、
という記載になっていて、
今回のデータはこのガイドラインの正当性を、
サポートするものとなっています。

頻度は少なくとも、
大腸内視鏡検査後5年以内に発見される大腸癌もあって、
それを5年以降で発見される癌と比較すると、
遺伝性大腸癌の遺伝子的な特徴の1つとされる、
マイクロサテライト不安定性という所見や、
別個の比較的稀な特徴である、
アイランドメチル化形質という所見を示す頻度が、
2倍以上と高い傾向がありました。

これはつまり、
多くの大腸癌は1回大腸内視鏡検査を行なって、
問題のないことを確認すれば、
少なくとも5年間は発症する可能性は低いのですが、
中には短期間で発症する癌があり、
それは組織のレベルで別個の特徴を示す可能性が高い、
ということになるのです。

昨日の便潜血による検診と、
今日の大腸内視鏡検診とを比較して考えると、
全大腸内視鏡検査が死亡リスクを68%低下させるのに対して、
便潜血によるスクリーニングは、
32%低下させています。
条件は違うので単純に比較は出来ませんが、
傾向としては矢張り内視鏡検査の方が、
有効性は高いのですが、
一方で便潜血検査はコストも低く、
気軽に毎年でも検査が出来る、
という点が優れています。
大腸内視鏡検査は診断能も有効性も高いのですが、
コストや手間は掛かり、
下剤を掛けるなどの面倒な前処置も必要です。
どのような間隔でこの検査を行なうのが、
適切であるかという点についての、
明確な指針もありません。

今後今回のようなデータを元に、
どのような検査をどのように組み合わせれば、
より効率的に癌を検出することが出来る、
真の意味で有用性の高い大腸癌検診になるのか、
そうした検証が、
具体的な指針に結び付くことを期待したいと思います。
おそらく一番の問題は、
どのような対象者の絞り込みを行なうのが適切か、
という点にありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(29)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 29

コメント 4

オレンジ

ちょうど1年前の便潜血検査で初めて陽性となり、
慌てて大腸内視鏡検査を予約しました。
半年待ちでしたので、半年後に検査し、
良性のポリープが1つ見つかり切除しました。
少なくとも5年間は大腸内視鏡の検査は不要と言われました。
今回の記事はそのことととも符合しますので、
興味深く拝読致しました。

by オレンジ (2013-09-27 10:43) 

モカ

石原先生こんにちは。
いつも拝見しています。

便潜血と今回の内視鏡のお話し、とても興味深かったです。

個人的には大腸内視鏡検査は2年ほど前にやったのですが、無麻酔でかなりきつかったです。
家族歴はないので、あとしばらくは検査しないでも安心出来るかもしれませんね。

いつもありがとうございます。

http://bit.ly/qDwnpK
by モカ (2013-09-27 13:35) 

fujiki

オレンジさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-09-28 08:22) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
基本的には3年後の検査で良いように思います。
ただ、上にも書きましたように、
厳密には少数の例外があり、
そうした癌を生じ易い方を、
どのように見分けるかが問題になります。
by fujiki (2013-09-28 08:23) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0