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アドエアとシムビコートはどちらが良い薬なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は健診説明会への出席のため、
午後の診療は5時半で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDの吸入剤による予後の差について.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
現在頻用されている、
2種類の吸入ステロイドと気管支拡張剤の合剤の、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんに対する、
その予後の違いについての論文です。

吸入ステロイドというのは、
強い抗炎症作用を持つステロイド剤を、
吸入で使用することによって、
その全身的な副作用を軽減しよう、
というもので、
この薬の開発により、
気管支喘息の患者さんの治療が、
格段に進歩したことは、
皆さんご存じの通りです。

吸入ステロイドは抗炎症剤ですから、
直接的な気管支拡張作用はありません。

従って、
気管支喘息の治療の場合、
吸入ステロイド剤とβ2刺激剤と呼ばれる気管支拡張剤を、
一緒に吸入することにより、
気道を広げて症状を改善すると共に、
気道のアレルギー性の炎症を抑えて、
喘息をトータルにコントロールする、
という手法が生まれ、
臨床において広く使用されて、
効果を上げています。

現時点で広く使用されている、
こうした吸入ステロイドとβ2刺激剤の合剤には、
アドエア(ステロイドのフルチカゾンとβ2のサルメトロールの合剤)と、
シムビコート(ステロイドのブデソニドとβ2のホルモテロールの合剤)
とがあります。

この2種類の薬の、
どちらがより有効性と安全性の面で優れているか、
という点に関しては、
色々な見解があります。

両者とも世界的な製薬企業のドル箱的商品ですから、
一方が優れている、
という文献が発表されたとしても、
メーカーの影響が及んでいる可能性も、
当然想定されますから、
単純に内容を鵜呑みにするのは危険です。

気管支喘息の治療に関しては、
いずれの薬もその有効性はほぼ確立していると思います。

ただ、
最近になって、
この合剤は気管支喘息のみならず、
主にタバコにより、
肺の機能が低下して、
呼吸困難や繰り返す肺炎などの原因となる、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療としても、
広く使用されるようになりました。

気管支喘息とCOPDの違いは、
何処にあるでしょうか?

これはもう色々な点が違いますが、
吸入薬の使用に影響を与える点で言うと、
気管支喘息は気道のアレルギー性の炎症で、
勿論細菌などの感染の併発はありますが、
持続的に気道の細菌感染が起こる、
というようなことは、
あまりないのに対して、
COPDはより高齢の患者さんが多く、
気道のみならず肺自体にも多くの変化が起きていて、
より感染に弱い状態であると共に、
慢性化した気道の細菌感染も、
存在している可能性が高い、
という点があります。

ステロイドは強力な免疫抑制剤です。

免疫機能の一部に、
炎症を起こす作用があるので、
その点を強化して、
喘息やCOPDの治療に使われているのですが、
免疫の働きを、
トータルに抑えることには変わりはありません。

ただでさえ、
免疫機能の低下している高齢者に、
吸入ステロイドを使用すれば、
更に免疫機能が低下して、
細菌は気道で増殖し易くなります。

そのため、
COPDに吸入ステロイドを使用することに関しては、
当初から肺炎などの発症が増えるのではないか、
という危惧がありました。

2007年のAm J Respir Crit Care Med誌の論文では、
高齢者への吸入ステロイドの使用により、
肺炎による入院や死亡が増加する、
という結果が報告されています。

こうした報告は複数あり、
2009年のLancet誌のメタ解析では、
ブデソニドと肺炎の発症との間には、
明確な関連性はなかったものの、
フルチカゾンの使用により、
肺炎のリスクが増加した、
という結果が得られています。

つまり、
この点に関しては、
アドエアがシムビコートと比較して、
どうも分が悪いのです。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
観察研究という形式ではありますが、
同一のマッチさせた集団で、
アドエアとシムビコートの直接比較により、
両者の薬剤のCOPDに対する処方と、
その後の肺炎や肺炎による死亡との関連性を検証したものです。

2734名のアドエアを使用している患者さんと、
同数のシムビコートを使用している患者さんとを比較したところ、
シムビコートを使用している患者さんと比較して、
アドエアを使用している患者さんでは、
肺炎の発症リスクが1.57倍、
肺炎による入院のリスクが1.74倍、
それぞれ有意に増加していました。

肺炎の発症数は、
シムビコートの使用群では、
年間100人の患者さん当たり6.4件であったのに対して、
アドエア使用群では11.0件です。

全ての原因による死亡のリスクは、
どちらの薬剤の使用群でも変わりはありませんでしたが、
肺炎による死亡数は、
シムビコート使用群が52例であったのに対して、
アドエア使用群で97例と、
肺炎による死亡リスクも1.76倍に有意に増加していました。

つまり、
かなり明瞭にアドエアの方が、
肺炎のリスクを上昇させている、
という結果です。

それでは何故、
アドエアの方が肺炎を多く発症するのでしょうか?

これまでに、
実験的なデータとしては、
アドエアに含まれているフルチカゾンは、
シムビコートに含まれているブデソニドに比べて、
細菌に対するマクロファージという免疫細胞の機能を、
10倍強く抑制する、
という報告があります。
更にはフルチカゾンは脂溶性が強く、
肺の局所の機能が低下しているCOPDの患者さんでは、
より長期間気道粘膜に貯留するので、
そこで局所の免疫機能を、
長期間に渡り抑制するのではないか、
という推測も、
上記の文献中には記載されています。

それでは今日のまとめです。

アドエアやシムビコートといった、
吸入ステロイドと気管支拡張剤との合剤は、
気管支喘息のコントロールには、
非常に有用性の高い薬剤ですが、
肺の機能や免疫の機能が低下した高齢者の多い、
COPDの患者さんへの使用については、
メリットのある反面、
過度の免疫の抑制により、
却って気道の細菌感染を惹起し、
肺炎を増やすのではないか、
という危惧が否定をされていません。

特にアドエアに含まれているフルチカゾンは、
より強力なステロイドで残留性が高く、
免疫機能が低下した高齢者や、
肺の細菌感染を繰り返しているような患者さんでは、
肺炎のリスクを高める可能性が高く、
慎重な使用が望まれるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

tosh

全ての原因による死亡のリスクは、どちらの薬剤の使用群でも変わりはないが、
肺炎による死亡数は、アドエア使用群が多かった
ということは、肺炎以外の死亡数はシムビコートの方が多かったということでしょうか?
by tosh (2013-06-10 09:37) 

紗理奈

こんばんわ。
十年前に急に風邪から気管支炎喘息になって。
アドエアが出るまで苦しみました。
今は、冬場だけ使用します。
もともとアレルギー性鼻炎があって、手術もしたことがありますから。
耳鼻科の先生とは子供地代から世話になってます。
ヘルニアと鼻炎に喘息に。
薬と適切な診察のおかげで、嫁には行けませんが、仕事と自立はできてます。
両親や障害を持つきょうだいの介護をして、看送れましたし。
アドエアの使用と肺炎の関係は、高齢のための免疫の低下や、他に免疫の持病があるとか。
リュウマチや糖尿、腎臓とか。
高齢者は持病が多いですよ。
私の両親は苦労のため、早死にしましたから、母親は五十代前半、父親は六十後半でした。糖尿も腎臓もリュウマチもありませんでしたが。
介護先の病院の患者の家族との対話で感じました。
by 紗理奈 (2013-06-11 00:36) 

fujiki

tosh さんへ
ご指摘ありがとうございます。
論文には1行だけ、
総死亡のリスクには両群で差がなかった、
と書かれているだけで、
実際の死亡の数や死亡の理由に関しての記載は、
一切ないので正直詳細は不明です。
ただ、これは両群の症例数はマッチングされていて、
肺炎の死亡には2倍近い差が付いているので、
ご指摘のように、
シムビコート群では他の原因による死亡は、
増えていることになります。
少しおかしいですね。
死亡リスクについての記載に関しては、
そのまま鵜呑みには出来ないような気がします。
by fujiki (2013-06-11 08:34) 

fujiki

紗理奈さんへ
コメントありがとうございます。
アドエアは気管支喘息のコントロールに関しては、
有用な薬だと思います。
ただ、COPDへの使用に関しては、
それとは別箇に考える必要があるようです。
by fujiki (2013-06-11 08:39) 

パル

私は軽い喘息で、以前はアドエアを使用していましたが、近くの病院ではシムビコートを出してくれたので、最近はこちらを使っています。

先生が書かれているステロイドの種類のせいかもしれませんが、アドエアを使っていた時は使用を中断するとしばらくして発作が出ていたのにシムビコートにしてからは発作時以外は使わなくても発作の回数が格段に減りました。
シムビコートを処方してくれた先生は「この薬は軽い発作の時は1回、しんどい時は2回吸入すればいいから、自分で加減できていいよ」と教えてくれたので、ほとんど1回で済んでいます。
アドエアは強すぎたのかも…
口内の荒れもシムビコートにしてから減りました。

死亡リスクなどのむずかしい話はよくわかりませんが、個人的な使用感ではシムビコートのほうがいい感じです。
by パル (2013-10-05 10:58) 

fujiki

パルさんへ
コメントありがとうございます。
どちらが合うかと言うのは、
結構個人差があるようで、
それは粒子径などで説明のつく部分もあり、
説明のつかない部分もあると思います。
by fujiki (2013-10-07 08:35) 

30代男

ずっとフルタイド使ってて、5年前からアドエア250ディスカス60吸入用を使っていて、引越しのために病院を変えたらシムビコートタービュヘイラー30吸入を処方されました。

1週間使ってますが、効き目が弱く感じます。吸わないより良いですが、、、息苦しさが残ります。
目盛りの表示も見にくいし、、、
アドエアが個人的には合っていたようです。

その医師には、取り敢えずアドエアを処方してくれれば良いと伝えたのですが、シムビコートをやたらゴリ押しされたので、次もゴリ押しされたら病院変えようかなと思ってます。

アステラス製薬の広報展開って言うか(過敏性腸症候群とかあんな気休め薬より下痢止めで足りるやろ?みたいな。いちいち病名くっつけやがって)
営業に力を入れてるのだろうけど、もうシムビコートはいらない。
by 30代男 (2014-08-21 15:26) 

fujiki

30代男さんへ
相性は矢張りあると思いますので、
シムビコートで調子が今一つのようであれば、
アドエアへ戻して頂いた方が、
良いように思います。
by fujiki (2014-08-21 19:31) 

赤星憲一

小学校4年のとき、メジヘラーを使いました。小児喘息が治り就職後1年して再発。そして22歳の時からアロテック?現在はベロテックです。30歳の時、結婚して1年くらいは性生活で無発作でした。しかし、離婚して生活が不規則になり発作が出て何回も入退院の繰り返し、またベロテックを30年使っています。この薬に頼りきっています。10年前、偶然、自慰の後、ベロテックを使い息苦しさがなくなり、それ以来入院までの状態にはなりませんが(点滴まで)。性ホルモン等と喘息治療は無関係ではないと思いますが?息を深く吸うとそれに呼応して勃起します。呼吸法でも喘息は治るそうですね。この分野も研究してくださいませんか。今は月に1度通院し、シムビコートと、ベロテックを服用しています。シムビコートは、目盛が見にくく、ベロテックに頼り、私は規則正しいのが苦手で、しないので主治医から怒られます。たぶんステロイドという言葉に恐れているし、ステロイド中毒、やめたら悪いということへの不安から、いつでも出来るベロテックに走るのです。しかし重い物を持ったり走ったらすぐ苦しくなるので悲しいです。

by 赤星憲一 (2014-10-14 09:28) 

fujiki

赤星憲一さんへ
主治医の先生と同じ意見になってしまうと思うのですが、
矢張り定期的にシムビコートをやって頂いて、
べロテックの使用量は極力減らすのが、
お身体全体を考えると、
方向性としては良いように思います。
性欲や勃起は自律神経の関与が大きいので、
喘息治療が直接と言うより、
交感神経の刺激が、
影響している可能性が高いように思います。
by fujiki (2014-10-18 08:33) 

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