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旅客機内での急病とその対処について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
航空機内の救急.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
旅客機の機内での急病の頻度と、
その予後や対応についての文献です。

「お客様の中にお医者様はいませんか?」
というのはドラマなどでは定番の設定ですし、
現実にそういうことが起こっているのも事実です。
医療者の端くれとしては、
そうしたアナウンスがあるとドキリとしますし、
どうしようかと迷う気分になることも、
正直ないとは言えません。

医者がいたのに名乗り出なかったので、
そのために愛する家族や恋人が死んでしまい、
残されたパートナーや子供などが、
復讐の鬼と化して、
その名乗り出なかった卑怯者の医者に、
地獄の責め苦を味あわせたり、
殺害したりする、
というようなミステリーも沢山あります。

読んでも気分が暗くなるだけで、
ちっとも楽しくありません。

そうしたアナウンスがあれば、
僕のような殆ど役には立たないような者でも、
名乗り出ようとは思いますが、
どのような事態が起こっているかによっても、
必要とされる知識や技術、
人材にも違いがあると思いますし、
ただ、医者なら誰でもいいから出て来い、
というのも、
随分大雑把な話のような気もします。

実際にどのくらいの頻度で、
旅客機の機中でこうした救急事態があり、
どのような患者さんが多く、
どのような対処が求められているのでしょうか?

こうした知識を事前に持っておくことは、
そうした事態に対処する上において、
重要なことのように思います。

今回の文献においては、
2008年から2010年に掛けて、
アメリカの5つの航空会社の、
旅客機のフライトデータより、
急病でメディカルセンターと交信した事例をピックアップし、
その患者さんの病状や病名、
その後の経過や対処を解析しています。

11920のそうした事例が報告されていて、
これは604のフライトあたり1件の、
救急事例が発生している、
という比率になります。

救急の事例が多いのであれば、
乗務員として医者を1人乗せればいいのではないか、
と思うところですが、
600フライトに1事例という頻度を考えると、
さすがにそれはコストに合わない、
ということになるのだと思います。

急病の事例のうち、
最も多いのは失神やそれに近い状態で、
これが37.4%を占めています。
次に多いのが息苦しいなどの呼吸器症状で12.1%、
吐き気や嘔吐が9.5%、
胸の痛みなどの心臓の症状が7.7%と続いています。

AED(心臓電気ショック)は、
1.3%に当たる137例で使用されました。

そうした事例のうちの48.1%、
つまり半数近いケースで、
アナウンスにより呼び出された乗客の中の医療者が、
その対応の補助に当たっています。

実際に着陸地点が変更された事例は7.3%で、
病院に搬送された事例は、
急患のほぼ4分の1です。

こうしたデータを元に、
著者らの考える、
乗り合わせた医療者への心得が、
最後に載せられています。

基本的な姿勢として、
まず自分の医療スキルと立場、
出来ることと出来ないこととを、
包み隠さず乗務員に話します。

患者さんの主訴と症状の持続時間を確認し、
胸痛や呼吸困難、嘔吐や半身の麻痺など、
重症の疾患に結び付き易い兆候を見逃さないようにします。

メディカルキットの中身を確認し、
AEDや酸素の使用について検討します。
点滴も使用は可能ですが、
その使用の判断は、
必ず地上の職員や医療スタッフと、
連絡を取ってから決定します。

失神発作の場合には、
脈拍と呼吸の有無をまず確認し、
患者さんを寝かせて足を上げ、
酸素を使用します。
糖尿病の患者さんであることが分かるか、
その疑いがあれば、
メディカルキットに血糖の簡易測定器があるので、
それで血糖値を推測します。
意識レベルが改善すれば経口で補液を試みますが、
それが困難であれば、
地上のスタップと相談の上、
点滴を考慮します。

胸痛や動悸の場合には、
血圧や脈をチェックし、速やかに酸素を使用します。
収縮期血圧が100以上であれば、
血圧をチェックしながら、
ニトログリセリンを5分毎に舌下投与し、
胸の痛みが心臓由来の可能性が高いと判断すれば、
アスピリンを使用します。
アスピリンとニトログリセリンは、
概ねメディカルキットに含まれています。

そして、
モニター機能のあるAEDであれば、
それを装着して、
それにより心電図の変化の有無をチェックします。
上記の処置により改善が見られなければ、
緊急着陸の必要性について、
地上のスタッフと検討するのです。

当面飛行機に乗る予定はありませんが、
僕のような者でも多少の役には立てるように、
日々知識だけはアップデートをしてゆきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

ぼんぼちぼちぼち

あのドラマや映画でのお決まりの台詞 現実でもやってたのでやすね(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2013-06-03 21:43) 

fujiki

ぼんぼちぼちぼちさんへ
コメントありがとうございます。
意外に頻繁にそうしたことはあるようです。
神保町には最近足が向きませんが、
また行ってみようと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-06-03 22:00) 

紗理奈

先日は、リリカのことで、ありがとうございました。本日診察日なので、担当医に相談してみます。

村上春樹は、純文学でおりがちな、ダメ人間を描くことがうまくて、実際の人間の本音はダメ人間とおもっている人が多いんです。だから、おおくの人間から共感を得られるんじゃないかな。と読んでみて思います。

仕事柄よく飛行機に乗りますが、一度本当に倒れた人がいて、アナウンスが流れました。残念ながら、医師はいなくて、その後看護師を探しましたら、三名もいました?AEDが私のそばで運ばれまして、すぐに心臓だなと思いました。甦生ががうまくいったようで、館内から大丈夫ですとアナウンスが流れました。飛行機の着陸後は、もう救急車が待機してまして、真っ先に運ばれてました。乗客は降りるのが遅くはなりましたが、みな、命が助かって良かったと、笑顔で降りていきました。日本人はやさしいですね。
by 紗理奈 (2013-06-04 04:42) 

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