村上春樹「1Q84 BOOK3」 [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
これからまた在宅診療に出掛けます。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
昨日に引き続いて村上春樹さんの、
小説の話です。
「1Q84」はまずBOOK1とBOOK2が同時に出版され、
それから1年後にBOOK3が刊行されました。
僕は1と2は出版からそれほど経たない時期に読みましたが、
この3は読まないでいて、
今回昨日ご紹介した新作と一緒に、
遅ればせながら読了しました。
すぐに読まなかったのは、
「1Q84」自体があまり好みではなかったことと、
前作から大分日数が経ってしまい、
内容も細部は忘れてしまっていたので、
今更続編と言われてもね、
という気分もあったからでした。
ただ、
読んでみると意外にすんなり作品世界に入れましたし、
「あれ、どうだったかな…」
と前作を読み直すようなことも、
殆どなしで済みました。
トータルな感想としては、
村上作品としては矢張り蛇足の感が強くて、
エンターティンメント的なものを、
狙った感もあるのですが、
追いつ追われつのサスペンスは、
村上さんの得意分野では到底ないので、
特に中段の辺りはかなりしんどい気分で読みました。
以下ネタバレを含む感想です。
青豆という殺し屋の女性と、
天吾という予備校教師で雑文書きの男性が、
小学校の時に運命的な出会いをしていて、
そのことには気付かずに成長しているのですが、
月が2つあるもう1つの世界との関わりを介して、
互いの存在を知り、
前作ではすれ違いに終わって、
お互いに再会を期すところで終わるのですが、
今回の続編では、
最後に実際に出逢い、
それから月の2つある世界から脱出して、
月が1つある現実(?)世界へと戻ります。
村上春樹作品は、
概ね前作の終わりのように、
運命的な2人が、
実際には出逢わない段階でラストを迎えるのですが、
今回は続編として、
その再会を実際に描いています。
ただ、
それでは前作にあった諸々の謎が、
解き明かされているのか、と言うと、
そんなことはなく、
謎はむしろそのまま引き伸ばされただけで終わり、
全体の輪郭は不明なまま、
2人の再会のみが実現する、
という感じになっています。
青豆はオウム真理教をイメージした、
新興宗教の教祖を殺し、
そのために教団に追われています。
その教団の手下として働いている牛河という男が、
些細な手掛かりから、
潜伏している青豆にジワジワと迫ります。
この追う者と追われる者との攻防が、
交互に描かれるのですが、
牛河という男もそう冴えたところがなく、
純粋な悪党の凄みもなく、
最後は青豆の仲間に、
あっさりと殺されてしまいますし、
青豆の潜伏生活自体も、
あまり緊張感のないもので隙だらけなので、
お互いに間抜けで、
何らサスペンスフルではなく、
読んでいて正直イライラします。
小説の構成としては、
確かに追う者と追われる者とを、
交互に章を分けて描くのは、
サスペンスなどの定番ですが、
実際にはよほど上手く書けていないと、
単純に2倍に長さが水増しされた感じで、
作品世界に没入出来ないことが多いのです。
こうした手法は今では、
むしろ映像に向いているものかも知れません。
個人的にはBOOK3前半の、
天吾が何するでもなく、
青豆との再会を願って、
父親の入院先で無為な日々を過ごすパートが、
如何にも村上さんらしくて好きでした。
「ダンス・ダンス・ダンス」の、
失われた女性を探すための、
無為な北国のホテルの日々の描写にも似ています。
ただ、
問題は青豆を探す手掛かりが、
看護師からもらった大麻の吸引で得られる、
という点で、
これは如何にも安易で、
ある種麻薬礼賛のようにも取れますから、
村上さんらしくない、
軽率な展開であったように思います。
「羊をめぐる冒険」においても、
「ダンス・ダンス・ダンス」においても、
「ねじまき鳥クロニクル」においても、
主人公は本当に苦労して、
麻薬などの安易な手段に頼ることなく、
もう1つの世界への入り口を見付けたのですから、
今回の安易な麻薬の使用は、
問題があるように思います。
更には牛河が無雑作に殺され、
それが当然のことのように描かれるのも、
如何なものかな、
と思います。
主人公の側の残虐さは、
素直に容認されてしまうのは、
いくらもう1つの世界のこととは言え、
問題なのではないでしょうか?
村上春樹さんの作品を、
処女作から読み続けている者としては、
この作品で明瞭に主人公の「父親」が登場し、
昏睡状態でありながら、
幽体離脱をして「悪」を為す、
という描写は、
これまでにもしばしば垣間見られた、
「父親との葛藤」というテーマを、
かなり明瞭かつ具体的に描いた、
という点で、これまでの作品には、
あまりないものであったと思います。
「ノルウェイの森」の緑の父親など、
これまでにもそうしたテーマを、
暗示させるような展開はありましたが、
今回の作品における父親の邪悪さは、
これまでにない徹底したものです。
NHKの集金人である父親が、
自分の肉体は滅んでも、
見知らぬ他人の家のドアを叩き、
執拗に悪意のある言葉で、
NHK料金の滞納を責め続ける、
という趣向は、
その言葉のおぞましい不快さと相俟って、
村上さんの悪の造形として間違いなく最高のものですし、
そうか、「海辺のカフカ」のカーネルサンダースも、
「ねじまき鳥クロニクル」の時空を超えた邪悪な存在も、
要するにお父さんのことだったのね、
ということが腑に落ちる気がするのです。
今回の作品は村上さんのクロニクルの中では、
あまり優れたものとは思いませんし、
正直BOOK2で終わりで良かったのではないか、
というようにも思いますが、
父親の存在の描写などを含めて、
新たな発見もあり、
ラストのこれまでにあまりないハッピーエンドは、
それがただのフィクションに過ぎないにせよ、
この世界を幸せにしたいという、
村上さんなりの一歩踏み込んだ意思表示なのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
これからまた在宅診療に出掛けます。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
昨日に引き続いて村上春樹さんの、
小説の話です。
「1Q84」はまずBOOK1とBOOK2が同時に出版され、
それから1年後にBOOK3が刊行されました。
僕は1と2は出版からそれほど経たない時期に読みましたが、
この3は読まないでいて、
今回昨日ご紹介した新作と一緒に、
遅ればせながら読了しました。
すぐに読まなかったのは、
「1Q84」自体があまり好みではなかったことと、
前作から大分日数が経ってしまい、
内容も細部は忘れてしまっていたので、
今更続編と言われてもね、
という気分もあったからでした。
ただ、
読んでみると意外にすんなり作品世界に入れましたし、
「あれ、どうだったかな…」
と前作を読み直すようなことも、
殆どなしで済みました。
トータルな感想としては、
村上作品としては矢張り蛇足の感が強くて、
エンターティンメント的なものを、
狙った感もあるのですが、
追いつ追われつのサスペンスは、
村上さんの得意分野では到底ないので、
特に中段の辺りはかなりしんどい気分で読みました。
以下ネタバレを含む感想です。
青豆という殺し屋の女性と、
天吾という予備校教師で雑文書きの男性が、
小学校の時に運命的な出会いをしていて、
そのことには気付かずに成長しているのですが、
月が2つあるもう1つの世界との関わりを介して、
互いの存在を知り、
前作ではすれ違いに終わって、
お互いに再会を期すところで終わるのですが、
今回の続編では、
最後に実際に出逢い、
それから月の2つある世界から脱出して、
月が1つある現実(?)世界へと戻ります。
村上春樹作品は、
概ね前作の終わりのように、
運命的な2人が、
実際には出逢わない段階でラストを迎えるのですが、
今回は続編として、
その再会を実際に描いています。
ただ、
それでは前作にあった諸々の謎が、
解き明かされているのか、と言うと、
そんなことはなく、
謎はむしろそのまま引き伸ばされただけで終わり、
全体の輪郭は不明なまま、
2人の再会のみが実現する、
という感じになっています。
青豆はオウム真理教をイメージした、
新興宗教の教祖を殺し、
そのために教団に追われています。
その教団の手下として働いている牛河という男が、
些細な手掛かりから、
潜伏している青豆にジワジワと迫ります。
この追う者と追われる者との攻防が、
交互に描かれるのですが、
牛河という男もそう冴えたところがなく、
純粋な悪党の凄みもなく、
最後は青豆の仲間に、
あっさりと殺されてしまいますし、
青豆の潜伏生活自体も、
あまり緊張感のないもので隙だらけなので、
お互いに間抜けで、
何らサスペンスフルではなく、
読んでいて正直イライラします。
小説の構成としては、
確かに追う者と追われる者とを、
交互に章を分けて描くのは、
サスペンスなどの定番ですが、
実際にはよほど上手く書けていないと、
単純に2倍に長さが水増しされた感じで、
作品世界に没入出来ないことが多いのです。
こうした手法は今では、
むしろ映像に向いているものかも知れません。
個人的にはBOOK3前半の、
天吾が何するでもなく、
青豆との再会を願って、
父親の入院先で無為な日々を過ごすパートが、
如何にも村上さんらしくて好きでした。
「ダンス・ダンス・ダンス」の、
失われた女性を探すための、
無為な北国のホテルの日々の描写にも似ています。
ただ、
問題は青豆を探す手掛かりが、
看護師からもらった大麻の吸引で得られる、
という点で、
これは如何にも安易で、
ある種麻薬礼賛のようにも取れますから、
村上さんらしくない、
軽率な展開であったように思います。
「羊をめぐる冒険」においても、
「ダンス・ダンス・ダンス」においても、
「ねじまき鳥クロニクル」においても、
主人公は本当に苦労して、
麻薬などの安易な手段に頼ることなく、
もう1つの世界への入り口を見付けたのですから、
今回の安易な麻薬の使用は、
問題があるように思います。
更には牛河が無雑作に殺され、
それが当然のことのように描かれるのも、
如何なものかな、
と思います。
主人公の側の残虐さは、
素直に容認されてしまうのは、
いくらもう1つの世界のこととは言え、
問題なのではないでしょうか?
村上春樹さんの作品を、
処女作から読み続けている者としては、
この作品で明瞭に主人公の「父親」が登場し、
昏睡状態でありながら、
幽体離脱をして「悪」を為す、
という描写は、
これまでにもしばしば垣間見られた、
「父親との葛藤」というテーマを、
かなり明瞭かつ具体的に描いた、
という点で、これまでの作品には、
あまりないものであったと思います。
「ノルウェイの森」の緑の父親など、
これまでにもそうしたテーマを、
暗示させるような展開はありましたが、
今回の作品における父親の邪悪さは、
これまでにない徹底したものです。
NHKの集金人である父親が、
自分の肉体は滅んでも、
見知らぬ他人の家のドアを叩き、
執拗に悪意のある言葉で、
NHK料金の滞納を責め続ける、
という趣向は、
その言葉のおぞましい不快さと相俟って、
村上さんの悪の造形として間違いなく最高のものですし、
そうか、「海辺のカフカ」のカーネルサンダースも、
「ねじまき鳥クロニクル」の時空を超えた邪悪な存在も、
要するにお父さんのことだったのね、
ということが腑に落ちる気がするのです。
今回の作品は村上さんのクロニクルの中では、
あまり優れたものとは思いませんし、
正直BOOK2で終わりで良かったのではないか、
というようにも思いますが、
父親の存在の描写などを含めて、
新たな発見もあり、
ラストのこれまでにあまりないハッピーエンドは、
それがただのフィクションに過ぎないにせよ、
この世界を幸せにしたいという、
村上さんなりの一歩踏み込んだ意思表示なのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-06-02 07:03
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コメント(3)
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村上春樹のことろにコメントしてしまいましたが。
リリカを検索してたらここにたどり着きました。
私は五年前の頸椎椎間板ヘルニアで、入院後もまだ痛みと痺れが残り、仕事をこなしながら耐えてきました。痛み止めはロキソニンくらいしか出されませんでした。リリカを飲むまでは、ロキソニンは効かなかったのでは?と思うほど、劇的に痛みが取れました。整形外科を、一ヶ月前に換え、MRI検査でヘルニアの大きさを確認してリリカを処方されました。先週から、ロキソニンは胃に負担がかかるからと、ロキソニンも朝夕二回処方になりましたが、途端に痛みが戻りまして。
明後日整形外科の医師に相談します。
医療方針としては、まずはロキソニンを減らして、次にリリカを減らすそうです。
ヘルニアは、腰椎も経験があり。腰椎の時は、十年は牽引しました。それでも現在二十年経過でやっと腰椎症まで改善です。
仕事は研究職で、どうしても重い資料の棚の上げ下げがあります。
by 紗理奈 (2013-06-02 15:01)
すみません。長くなったので、一旦区切りました。
心配なのは、痛みがややもどったのが、ロキソニンではなく、リリカに慣れてきたせいかと心配になったためです。
確かにロキソニンは、生理痛にはてきめんな効果があるので、起句と思いますが、慢性的なヘルニアの痛みには疑問がありますし。
リリカを飲んでからというもの、食欲が増して、体重が増えたことです。
また、痛みのせいで、不安感があり、モーズンを飲んでました。リリカののみはじめは、モーズンもいらないようでしたが。
ネットで検索すると、人によって麻薬性のようになる人もいるようで、不安に感じています。
また、デパスは、リハビリ病院に転院したさいに、モーズンがないからと、代わりに出されました。副作用で生理が止まらなくなりました。
このブログで、リリカにたいし、デパスのような状況になることを懸念されてますが。
私も心配になっています。
by 紗理奈 (2013-06-02 15:09)
沙理奈さんへ
リリカの二次無効の可能性は、
まだ何とも言えないところがありますが、
最初に明確な効果があったのであれば、
当面増量はせずにそのまま様子を見て頂くのが、
良いように思います。
リリカのようなタイプの薬に、
全く何の依存性もない、
ということは有り得ないと思いますが、
沙理奈さんへのリリカの処方は、
適切なものだと思いますので、
大きなご心配は要らないのではないかと思います。
by fujiki (2013-06-03 22:23)