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心臓手術が出来ない施設での心臓カテーテル治療の是非について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心臓外科なしのカテーテル治療.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心臓のカテーテル治療は、
心臓手術の出来る施設で施行するべきか、
という点についての論文です。

心筋梗塞や進行した狭心症の治療では、
心臓の血管にカテーテルを入れて、
詰まった血管を風船で広げたり金属の管を入れたりする、
カテーテル治療と、
日本では積極的に行なわれることは少なくなりましたが、
血管から血栓を溶かすような薬を投与する抗血栓療法、
そして心臓バイパス手術の3つの方法があります。

現在の日本では、
概ね最初に試みられるのはカテーテル治療で、
それが何らかの理由で困難であったり、
失敗したりした場合に、
バイパス手術が検討されることが一般的です。

カテーテル治療が世界的に開始されたのは、
1977年のことで、
その当時にはカテーテル治療のリスクは高く、
施行された患者さんのうちの6~10%の患者さんは、
緊急で心臓バイパス手術が必要になりました。

しかし、
その後カテーテル治療は急速な進歩を遂げ、
最近の海外の統計では、
その比率は0.1~0.4%程度にまで低下しています。

カテーテル治療は循環器内科で行ない、
バイパス手術は心臓血管外科の担当です。
この2つの診療科は、
心臓病の専門病院のようなところでは、
勿論緊密な連携を取って患者さんの治療に当たっていますが、
多くの市中医療機関や大学病院のようなところでは、
必ずしもそうではありません。

僕が心臓カテーテル検査などの循環器のトレーニングを受けていたのは、
1980年代の後半から、
1990年代の前半に掛けての時期でしたが、
当時研修のために毎週行っていた総合病院には、
循環器内科はあっても心臓血管外科はなく、
それでいてカテーテル治療の実施件数は、
県下でも有数という、
ちょっと特殊な状況にありました。

年間1000例くらいのカテーテル検査をして、
すぐにバイパス手術が必要と判断されるような事例は、
数例あるかないかです。

カテーテル治療には、
出血や拡張の失敗などのリスクがあるのですが、
丁度IABPや、
簡易的な人工心肺のPCPSなどの器具が、
導入され、
余程のことがなければ、
外科の手を借りなくても対処は可能だ、
というような自信が、
カテーテル治療を行なう循環器内科の医師には、
概ねありました。

バイパス手術が必要なケースでは、
車で30分くらい掛かる、
他の総合病院に運ぶことになるのですが、
特にカテーテル治療時に、
バックアップの態勢をお願いするようなことは、
実際にはありませんでした。

今でもよく覚えていますが、
僕がトレーニングを積んでいた3年ほどの間に、
一度だけ大きなトラブルがあり、
カテーテル治療を夕方行った患者さんが、
治療に失敗して心臓の状態が悪化し、
緊急手術が必要になる、
という事態がありました。

IABPとPCPSを装着してその場を凌ぎ、
近隣の病院の心臓血管外科に連絡を取りましたが、
「心臓血管外科もない施設で、
そんなリスクの高い症例を手掛ける方が悪い」
と外科のドクターが受け入れに難色を示し、
一触即発の事態になりました。

責任者が電話口で遣り取りをして、
どうにか受け入れの方向になったのですが、
矢張り外科のドクターの意見の方が正論なのではないかと、
正直疑問に思いました。

ただ、現実には今でも、
多くの心臓血管外科のない病院で、
心臓のカテーテル治療が行われ、
余程リスクの高い事例でなければ、
明確な外科のバックアップ態勢などはないことが、
多いのが実際ではないかと思います。

欧米ではこうした件での考え方も非常にドライで、
心臓のカテーテル治療が、
心筋梗塞や狭心症の第一選択の治療であり、
なるべく症状出現から速やかに、
その治療の行える施設に患者さんを搬送することが、
その治療成績を上げることに不可欠である現状を考えると、
その全ての施設に心臓血管外科を併設することは、
あまり現実的ではない、
ということになります。

治療の数からすれば、
カテーテル治療の方がバイパス手術より圧倒的に多く、
緊急の手術が必要となるのは、
多くても1000例に数例程度なのですから、
治療体制の維持のためには、
外科のない病院でもそうした治療を行なうことが、
現実的だ、ということになる訳です。

今回の論文では、
心臓血管外科のある施設と、
外科はない施設とで、
緊急ではない心臓のカテーテル治療の、
予後に対する影響をみています。

対象はアメリカの心臓血管外科のない病院で、
診断のためのカテーテル検査を受け、
カテーテル治療の適応とされた3691名の患者さんで、
そのうちの2774名はその病院での治療を受け、
残りの917名は提携する心臓血管外科のある病院で、
同じ治療を受けます。
この選択は3対1でくじ引きで決められます。

その結果…

治療後30日の時点でも、
1年後の時点でも、
死亡や心筋梗塞、治療の再試行や脳卒中のリスクは、
外科のバックアップのある施設でも、
そうでない施設でも、
統計的な差はありませんでした。

今回の結果をもって、
心臓のカテーテル治療には、
外科のバックアップは必要ない、
ということは勿論言えません。

たとえリスクの少ない緊急ではないカテーテル治療であっても、
緊急手術が必要となるようなリスクは、
常に僅かではあっても存在するのですから、
外科のバックアップのある施設で、
行なうことが可能であれば、
その方が良いに決まっています。

しかし、
現実にはそうした施設のみでカテーテル治療を行なうとすると、
とてもカテーテル治療自体がまわらない、
という事態になります。

日本においても、
地方においては医療資源に大きな差があり、
現実にはリスクの高い緊急の治療も、
その地域によっては、
外科のバックアップなしで行なわなければならない、
という現実があるのではないかと思います。

そうした意味で、
より現実的な治療の選択肢を考える意味で、
こうした研究は必要性が高いもののように思います。

上記の内容は僕の理解する範囲で、
事実と思えることを記載しましたが、
僕が実際にカテーテルなどの手技に携わっていたのは、
ずっと昔の話なので、
ひょっとすると現状については事実誤認があるかも知れません。
お気付きの点は「優しく」ご指摘頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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もも

こんばんは

インフルエンザの重症化予防の為に、肺炎球菌ワクチンは有効だと思われますか?
また、接種をした場合はどのくらいの期間で効果がではじめるのでしょうか?
そして免疫は一時的に落ちるのでしょうか?

六歳の男の子を持っており、今回の中国でのインフルエンザが日本で発生することを危惧しております。
ゴールデンウィークに入ることもあり、重症化予防の為に出来る事があればしたいと思います。
しかし、免疫が落ちることがあるのであれば、ゴールデンウィーク前の接種は逆効果なのかなとも思ってます。

お忙しいとは思いますが、見解をお聞かせ願えればと思います。




by もも (2013-04-26 22:13) 

fujiki

ももさんへ
6歳のお子さんに追加で接種する、
という意味合いでしたら、
あまり意味はないように思います。
肺炎球菌ワクチンの有効性は、
あくまで高齢者の肺炎重症化予防と、
乳幼児期の髄膜脳炎などの予防に関してのみです。
現時点でH7N9ウイルスは、
人から人への感染は、
滅多には起こしませんから、
野生の鳥や豚などの動物に、
不用意に近付かないことと、
充分に加熱しない動物の肉は食べないことなどが、
むしろ重要ではないかと思います。
by fujiki (2013-04-27 08:16) 

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