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2型糖尿病に対するインスリン治療の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
基礎インスリン療法の心血管イベントへの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
2型糖尿病の治療についての、
大規模な臨床試験の結果についての論文です。

同じ試験の結果について、
同じ雑誌に2つの論文が掲載されていて、
これはそのうちの1篇です。
もう1篇は青味魚の脂の効果を見たもので、
これは先月ご紹介しています。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2012-06-15

糖尿病には、
お子さんの頃からインスリンという、
ブドウ糖を身体で利用するのに必要なホルモンが減少し、
最初からインスリンの注射による治療が必要となる、
1型糖尿病と、
体質や環境要因が複雑に絡み合い、
典型的には過食と肥満による、
インスリンの抵抗性が先行して、
それからインスリンの分泌も減少して発症する、
生活習慣病の側面の大きな、
2型糖尿病とがあります。

1型糖尿病の治療は、
インスリンの自己注射以外には、
膵臓の移植くらいしかありませんが、
2型糖尿病の治療薬には、
飲み薬や注射など、
多くの種類があり、
インスリンの注射も使用されるなど、
多くの選択肢があります。

選択肢が多いことは、
歓迎すべきことでもありますが、
一面では決定的な治療がない、
ということでもあります。

糖尿病の治療の目標は、
理想的には全く正常の状態に、
血糖の数値を戻すことですが、
それは現状では不可能なので、
なるべく正常に近いコントロールを達成し、
それにより、
糖尿病の合併症の進行を阻止する、
ということが大きな課題となっています。

糖尿病の合併症のうち、
目の出血などの小血管合併症と言われるものは、
糖尿病自体はあっても、
一定レベル以上のコントロールが達成されていれば、
それほど進行はしないことが分かっていますが、
動脈硬化の進行と、
それによる脳卒中や心筋梗塞の発症は、
より厳密なコントロールがその予防のためには必要とされ、
従来の治療では、
その達成が困難であることが、
1つの大きな問題となっています。

通常の2型糖尿病の治療ガイドラインでは、
生活改善と共に、
まずは飲み薬による治療が選択されます。

しかし、
そうではなく、
より厳格なコントロールを実践する考えから、
まだ軽症のうちからインスリンの注射を積極的に使用し、
血糖を正常に極力近付けることが必要だ、
という立場があります。

その立場に立つ専門家の意見としては、
糖尿病の初期、
もしくはまだ前糖尿病と呼ばれる、
血糖が僅かに高いだけの状態から、
積極的にインスリンで血糖を正常化することにより、
将来的な動脈硬化の進展が、
より効果的に抑えられる、
という考え方があるのです。

これは本当に正しいものでしょうか?

インスリンは身体にあるホルモンですが、
過剰に存在すれば、
却って動脈硬化を進め、
場合により細胞の増殖を刺激して、
癌の発症要因となる可能性も示唆する意見があります。

また、
インスリンを使用して、
血糖を低下させると、
重症の低血糖を生じるリスクが高まり、
低血糖は脳を始めとする組織に、
ダメージを与えます。

インスリンにより初期から血糖を強力に低下させることは、
場合によっては身体にとって有害に働く可能性もあるのです。

2型糖尿病の予後を改善するには、
初期からインスリンを使用して、
血糖値を正常に近付けるべきなのでしょうか?
それとも従来の治療の方が、
トータルにはリスクが少ないのでしょうか?

この疑問を解消するためには、
精度の高い臨床研究で、
その両者の治療を比較する必要があります。

そこで今回の大規模な臨床研究では、
糖尿病予備軍から顕性の2型糖尿病に至る、
幅広い血糖の異常を持ち、
一定の心臓病や脳卒中のリスクのある患者さんを対象として、
従来の治療を継続した場合と、
インスリンを使用して、
極力朝の食前の血糖値を、
正常に近付ける治療をした場合とで、
その経過を平均6年余観察しています。

インスリンはインスリングラルジンと呼ばれる、
持続型のインスリンを、
寝る前に1回注射する形で行なわれています。

このインスリンはランタスという商品名で、
日本でも使用されています。
朝の食前に血糖値を自己測定し、
それが95mg/dl以下になるように、
寝る前のインスリンの量を調節するのです。

即効型のインスリンは使用しません。
治療中の患者さんでは、
基本的には従来の治療に、
上乗せしてインスリンを使用する形になる訳です。

トータルな対象者は12537例ですから、
かなり大規模な研究です。
40の国の患者さんが参加していますが、
主体はアメリカとカナダ、ヨーロッパです。

ただ、肥満の指標であるBMIの平均は29を超えていますから、
肥満の方が主体で、
日本の状況に、
そのまま当て嵌めることは難しそうです。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

6年余の観察期間において、
インスリンを使用してもしなくても、
心臓病や脳卒中の発症という観点から見ると、
統計的に意味のある違いは、
認められませんでした。

ただ、まだ糖尿病と診断される前の、
所謂予備軍の状態の患者さんでは、
糖尿病の経過の中での発症が、
抑制されていました。

しかし、
インスリンを使用した群では、
明らかに重症の低血糖の発症は多く、
体重は増加する傾向を示していました。

インスリン使用で癌の発症が増える、
という傾向はありませんでした。

今回のデータを、
どのように考えれば良いのでしょうか?

今回の結果を見る限り、
糖尿病の早期からインスリンを使用して、
食前の血糖値を正常に近付けても、
心臓病や脳卒中の予防という観点からは、
これまでの通常の治療と、
あまり違いはない可能性が高い、
とは言えそうです。

海外ではインスリン抵抗性のある場合の、
2型糖尿病の基礎薬は、
メトホルミンという薬ですが、
同程度のコントロールであれば、
体重が増え易く低血糖を起こし易いインスリンは、
選択はするべきではないと思われます。

ただ、全ての2型糖尿病の患者さんで、
早期のインスリン治療が意味がないかと言えば、
それは勿論そうとは言い切れず、
またインスリンの使用法についても、
今回は基礎分泌の補充ですが、
むしろ初期に低下するのは、
食後の追加分泌ですから、
食前に少量の即効型インスリンの追加、
というような手法であれば、
低血糖のリスクも少なく、
また別の結果が得られた可能性もあると思います。

いずれにしても、
2型糖尿病の治療はまだ議論の多いところで、
こうした大規模な治療介入の臨床試験が、
行なわれた意味が大きいと思いますし、
今後の診療のために、
有益な情報だと思います。

今日は2型糖尿病の初期からのインスリン治療の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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