うつ病とアスペルガー症候群との関係について [仕事のこと]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの生理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はある事例のお話です。
実際の事例を元にしていますが、
守秘義務及び個人の特定を避ける観点から、
細部は敢えて事実を変えて記載していることを、
予めお断りしておきます。
Aさんは30代前半の男性で、
企業のコンピューターのシステムの、
開発及び保守点検を請け負う会社に、
新卒で就職しました。
最初に3ヶ月くらいの研修期間があり、
その後に配属が決まって、
主にチームを組んで、
お客さんの会社での作業になります。
Aさんは、
周囲の社員からは、
非常に生真面目で物静かな人、
と概ね見られています。
一度研修中に電車の人身事故で遅刻した時など、
5分おきに会社に電話を入れ、
「遅れて大変申し訳ない」
と何度も繰り返し、
事故の状況のアナウンスの内容なども、
詳細に上司に説明しました。
人身事故は不可抗力なのですし、
「何もそこまでしなくても…」
とちょっと奇異の目で見られたこともありました。
仕事は1つのことを脇目も振らずにするタイプで、
やる内容が決まっている時は、
何も今日そこまでしなくても、
というくらいに頑張るのですが、
イレギュラーな仕事が入った時や、
幾つかの仕事を調整したり、
他の社員に割り振ったりすることが、
明らかに苦手で、
必要以上の仕事を、
1人で抱え込んでしまうようなところがあります。
上司もそのことはすぐに把握出来たので、
その旨Aさんに指導を行ないます。
「マネージメントが一番重要な仕事だからな。
仕事の調整が出来なければ、
今は良くても出世は出来ないぞ」
というような具合です。
Aさんはその話を真剣に聞きますが、
実際的にはそのアドバイスは、
仕事に反映されているとは考え難く、
矢張り同じような仕事ぶりで、
他人との仕事の調整が出来ず、
自分の仕事ばかりを増やして、
ケアレスミスが目立つようになります。
同僚からは、
同じ質問を何度も何度もされて、
子供じゃないんだし、
うっとうしいので何とかして欲しい、
というような話もあります。
それで上司はAさんを呼び、
少し厳しい口調で指導をします。
自分の仕事の範囲は自分で調節し、
あまり細かいことを、
いちいち確認するのは、
最小限度にするべきだ、
というような内容です。
Aさんは真剣な様子で聴いていましたが、
上司の目を見ることはありませんでした。
Aさんの様子が明らかにおかしくなったのは、
それからのことです。
遅刻が多くなり、
体調不良で欠勤することもしばしばになります。
その度に連絡はあるのですが、
それがまた「本当に申し訳ありません」
と暗い声で何度も繰り返すような内容なので、
聞いている方も暗い気持ちになってしまいます。
出勤しても仕事の効率は悪く、
1人でぶつぶつ言いながら、
落ち着かない様子で同じ作業を繰り返しています。
本当に申し訳なさそうに、
直接やメールで同僚に質問をするのですが、
それがまた些細なことなのに、
何度も執拗に繰り返され、
「それはA君、さっきも言ったじゃないか」
と同僚の態度もどうしてもきつくなります。
すると、
Aさんは本当に恐縮した様子になって、
「すいません。本当にすいません。
僕が全部悪いんです。
性格を何とかして変えないといけないですよね」
と深刻そうな様子になるので、
これはちょっとまずいのではないか、
とその同僚も思い、
報告を受けた上司も思います。
それで促して心療内科を受診させると、
うつ病という診断が下り、
Aさんは3ヶ月の休職に入ります。
僕はその会社の産業医として、
休職前にAさんと面談しました。
Aさんは非常に落ち込んだ様子で、
声も小さく、
自責の念が非常に強くて、
「自分が会社の皆に迷惑を掛けてしまっている」
と何度も繰り返します。
主治医の診断は、
古典的なうつ病、ということのようでしたが、
僕は印象としては、
何か違う、
という思いがしました。
通常のうつ病と言うのは、
どちらかと言えば社交的で、
順応性が高い人がなることが多いのです。
つまり、少なくともお元気だった時には、
その人にとっての周囲の世界の感じ方と、
周囲の人にとってのその人の感じ方は、
ほぼ一致したところにあるのです。
周囲と同じように、
その人は見て感じているのです。
しかし、
Aさんのケースはどうでしょうか?
その時の状態は確かにうつです。
それは間違いがありません。
ただ、
うつになる前から、
Aさんにとっての周囲の世界と、
実際の周囲の世界との間には、
明確な溝があったように思えます。
ある同じ出来事を、
AさんとAさん以外の職場の同僚や上司とでは、
違うものとして見ているような気がします。
Aさんがうつになったのは、
上司から自分の仕事のやり方を、
変えるように言われたのが直接のきっかけです。
しかし、
上司にとってそれは至極まっとうなことで、
充分に了解可能なことですが、
Aさんにとっては、
自分の存在を、
根底から否定されたように感じられたのです。
それはどうしてでしょうか?
僕はAさんのお話をお聞きしていて、
Aさんはアスペルガー症候群で、
非常な苦労をして、
通常の社会生活が送れるように、
自分を変えたのですが、
上司の指導から、
そうした自分の努力の全てを、
否定されたように感じて、
うつ状態になったのではないかと考えました。
アスペルガー症候群というのは、
発達障碍の一種に区分される概念ですが、
軽症の方を含めれば、
その傾向を持つ方は、
人口の数%はいると考えられ、
病気ではなく、
一種の体質と考えるのが、
僕は妥当なように思います。
エジソンやビル・ゲイツ、アインシュタイン、
ヒットラーにヒッチコック、
ジョージ・ルーカスなどの著名人が、
皆そうした傾向を持つ人物だ、
という説もあるように、
この傾向を持つ方は、
ツボに嵌まれば、
驚くような業績を挙げて成功を治め、
多くの人を幸せにし、
時には独裁者として、
多くの人を不幸に陥れることもあります。
アスペルガー症候群にも幾つかのタイプがあり、
単純化することは危険ですが、
Aさんに即して考えれば、
コミュニケーションが苦手で、
他人の考えを推測することが難しく、
自分の好きなことには打ち込みますが、
強制されることを好まず、
仕事を調整したり、
幾つかのことを同時にこなしたりすることが苦手です。
これは単純に苦手、
というレベルの話ではなく、
たとえば相手の目を見て話したり、
相手の笑顔に合わせて自分も笑ったりするのは、
通常の100倍くらいの、
物凄い努力が要るのです。
従って、
もしアスペルガー症候群の傾向のある人が、
普通に目を見て、
相手に共感ありげに話しをするとしたら、
その人は物凄い努力をして、
そうした態度を取っているのだ、
と考える必要があります。
アスペルガー症候群の傾向のある人の極一部は、
たとえばエジソンやアインシュタインのように、
その特殊な才能を思う存分開花させ、
「変人」であることを、
世間も容認するので、
その風変わりと見られる部分を、
隠したり直したりせずに済むのですが、
通常はそれはいけないこととして、
子供のうちから、
「もっと相手の気持ちを考えて行動しなさい」
とか、
「何故先生の目を見て話が出来ないんだ!」
とか、
「どうしてそうわがままなの?」
などと言われるので、
Aさんのようにそれを悪いこととして、
自責の念に囚われ、
世間から「良い子」と評価されるように、
必死の努力を続けるのです。
しかし、
その努力は概ねその傾向を持たない人には、
当たり前のこととして、
あまり評価はされず、
本人にとっては、
自分の才能を、
伸び伸びと開花させる機会を逃してしまいます。
そして、
その努力が否定され、
過度のストレスに晒されると、
うつ病を発症したり、
強迫神経症になったり、
ということが起こり得るのです。
従って、
これを普通のうつと同じように考えて、
同じ職場に復帰させ、
勤務時間だけ減らして同じ作業が再開されると、
本人はまたガムシャラに仕事をしようとして、
同じ負のスパイラルに入る危険があるのです。
それではどうすれば良いのでしょうか?
僕の考えは、
まずAさんがどのような人なのかを、
周りの人に分かってもらう、
ということが重要なのではないか、
ということです。
勿論仕事を調節して割り振ることは大事なことですし、
あいさつをするのも大事なことですし、
イレギュラーな仕事を途中で振られても、
対応出来ることも大事なことだと思います。
しかし、
そうしたことをマスターするのに、
他の人の100倍の苦労があるとしたら、
そのことから取り掛かるというのは、
あまりに効率が悪いことだと思います。
従って、
まずは決められた仕事を、
集中してこなすことを優先し、
たとえばある仕事は今日のうちにやった方が良いけれど、
もう1つの仕事は後回しでも問題はない、
というような場合には、
それを明確な形で伝えてもらえれば、
Aさんは迷うことなく、
その日の仕事に向かえるのではないか、
と考えました。
診断は確定という訳ではありませんから、
性格の1つの傾向として、
職場の同僚と上司とにお話しました。
すると…
復職後Aさんの不安は徐々に軽減し、
仕事の能率も見違えるように改善したのです。
全てがこのようにうまくいくとは限りませんし、
単にうつが改善したためかも知れません。
しかし、
アスペルガー症候群のような体質が、
うつなどの症状の裏に隠れていることはしばしばあり、
その方の持っている傾向を、
考えに入れた上で、
個別に対応することが、
非常に重要なことではないかと思います。
たとえば、
多くの企業では、
特に新人の頃には、
職場を定期的に移動させ、
色々な仕事を経験させたり、
1つの職場で固定されないようにすることがありますが、
経験的には一定の割合の人は、
その移動をきっかけとして、
うつ病を発症したり、
体調を崩したりすることがあります。
こうした方の全てがそうという訳ではありませんが、
仮にアスペルガー症候群で、
非常に苦労して環境に適応しているタイプの方がいれば、
その人にとってはこの移動は、
そうでない方の数十倍はストレスが掛かることになるので、
予めある程度その人のタイプを考え、
その人を移動させるかどうかの判断を、
するべきではないのか、
と最近強く思います。
努力しても結果が出なければ同じことだ、
と言う方がいます。
相手が機械ならその通りですが、
人間の場合は必ずしもそうではなく、
その人の努力自体も、
総体として理解することが、
特にその人の能力がまだ完全に発揮されていない時期には、
重要なことではないかと思うのです。
努力を評価されることによって、
その人の能力が開花することがあるからです。
人間には多くのタイプがあり、
そのタイプによっては、
同じ行動を取ることに、
100倍くらいのストレスが掛かったり、
苦労が要ることがあるのです。
これはアスペルガーに限ったことではなく、
そのことを理解することが、
真の適材適所に繋がり、
トータルに見て、
この社会の活性化に繋がるのではないでしょうか。
今日はアスペルガー症候群と、
うつ病との関連についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの生理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はある事例のお話です。
実際の事例を元にしていますが、
守秘義務及び個人の特定を避ける観点から、
細部は敢えて事実を変えて記載していることを、
予めお断りしておきます。
Aさんは30代前半の男性で、
企業のコンピューターのシステムの、
開発及び保守点検を請け負う会社に、
新卒で就職しました。
最初に3ヶ月くらいの研修期間があり、
その後に配属が決まって、
主にチームを組んで、
お客さんの会社での作業になります。
Aさんは、
周囲の社員からは、
非常に生真面目で物静かな人、
と概ね見られています。
一度研修中に電車の人身事故で遅刻した時など、
5分おきに会社に電話を入れ、
「遅れて大変申し訳ない」
と何度も繰り返し、
事故の状況のアナウンスの内容なども、
詳細に上司に説明しました。
人身事故は不可抗力なのですし、
「何もそこまでしなくても…」
とちょっと奇異の目で見られたこともありました。
仕事は1つのことを脇目も振らずにするタイプで、
やる内容が決まっている時は、
何も今日そこまでしなくても、
というくらいに頑張るのですが、
イレギュラーな仕事が入った時や、
幾つかの仕事を調整したり、
他の社員に割り振ったりすることが、
明らかに苦手で、
必要以上の仕事を、
1人で抱え込んでしまうようなところがあります。
上司もそのことはすぐに把握出来たので、
その旨Aさんに指導を行ないます。
「マネージメントが一番重要な仕事だからな。
仕事の調整が出来なければ、
今は良くても出世は出来ないぞ」
というような具合です。
Aさんはその話を真剣に聞きますが、
実際的にはそのアドバイスは、
仕事に反映されているとは考え難く、
矢張り同じような仕事ぶりで、
他人との仕事の調整が出来ず、
自分の仕事ばかりを増やして、
ケアレスミスが目立つようになります。
同僚からは、
同じ質問を何度も何度もされて、
子供じゃないんだし、
うっとうしいので何とかして欲しい、
というような話もあります。
それで上司はAさんを呼び、
少し厳しい口調で指導をします。
自分の仕事の範囲は自分で調節し、
あまり細かいことを、
いちいち確認するのは、
最小限度にするべきだ、
というような内容です。
Aさんは真剣な様子で聴いていましたが、
上司の目を見ることはありませんでした。
Aさんの様子が明らかにおかしくなったのは、
それからのことです。
遅刻が多くなり、
体調不良で欠勤することもしばしばになります。
その度に連絡はあるのですが、
それがまた「本当に申し訳ありません」
と暗い声で何度も繰り返すような内容なので、
聞いている方も暗い気持ちになってしまいます。
出勤しても仕事の効率は悪く、
1人でぶつぶつ言いながら、
落ち着かない様子で同じ作業を繰り返しています。
本当に申し訳なさそうに、
直接やメールで同僚に質問をするのですが、
それがまた些細なことなのに、
何度も執拗に繰り返され、
「それはA君、さっきも言ったじゃないか」
と同僚の態度もどうしてもきつくなります。
すると、
Aさんは本当に恐縮した様子になって、
「すいません。本当にすいません。
僕が全部悪いんです。
性格を何とかして変えないといけないですよね」
と深刻そうな様子になるので、
これはちょっとまずいのではないか、
とその同僚も思い、
報告を受けた上司も思います。
それで促して心療内科を受診させると、
うつ病という診断が下り、
Aさんは3ヶ月の休職に入ります。
僕はその会社の産業医として、
休職前にAさんと面談しました。
Aさんは非常に落ち込んだ様子で、
声も小さく、
自責の念が非常に強くて、
「自分が会社の皆に迷惑を掛けてしまっている」
と何度も繰り返します。
主治医の診断は、
古典的なうつ病、ということのようでしたが、
僕は印象としては、
何か違う、
という思いがしました。
通常のうつ病と言うのは、
どちらかと言えば社交的で、
順応性が高い人がなることが多いのです。
つまり、少なくともお元気だった時には、
その人にとっての周囲の世界の感じ方と、
周囲の人にとってのその人の感じ方は、
ほぼ一致したところにあるのです。
周囲と同じように、
その人は見て感じているのです。
しかし、
Aさんのケースはどうでしょうか?
その時の状態は確かにうつです。
それは間違いがありません。
ただ、
うつになる前から、
Aさんにとっての周囲の世界と、
実際の周囲の世界との間には、
明確な溝があったように思えます。
ある同じ出来事を、
AさんとAさん以外の職場の同僚や上司とでは、
違うものとして見ているような気がします。
Aさんがうつになったのは、
上司から自分の仕事のやり方を、
変えるように言われたのが直接のきっかけです。
しかし、
上司にとってそれは至極まっとうなことで、
充分に了解可能なことですが、
Aさんにとっては、
自分の存在を、
根底から否定されたように感じられたのです。
それはどうしてでしょうか?
僕はAさんのお話をお聞きしていて、
Aさんはアスペルガー症候群で、
非常な苦労をして、
通常の社会生活が送れるように、
自分を変えたのですが、
上司の指導から、
そうした自分の努力の全てを、
否定されたように感じて、
うつ状態になったのではないかと考えました。
アスペルガー症候群というのは、
発達障碍の一種に区分される概念ですが、
軽症の方を含めれば、
その傾向を持つ方は、
人口の数%はいると考えられ、
病気ではなく、
一種の体質と考えるのが、
僕は妥当なように思います。
エジソンやビル・ゲイツ、アインシュタイン、
ヒットラーにヒッチコック、
ジョージ・ルーカスなどの著名人が、
皆そうした傾向を持つ人物だ、
という説もあるように、
この傾向を持つ方は、
ツボに嵌まれば、
驚くような業績を挙げて成功を治め、
多くの人を幸せにし、
時には独裁者として、
多くの人を不幸に陥れることもあります。
アスペルガー症候群にも幾つかのタイプがあり、
単純化することは危険ですが、
Aさんに即して考えれば、
コミュニケーションが苦手で、
他人の考えを推測することが難しく、
自分の好きなことには打ち込みますが、
強制されることを好まず、
仕事を調整したり、
幾つかのことを同時にこなしたりすることが苦手です。
これは単純に苦手、
というレベルの話ではなく、
たとえば相手の目を見て話したり、
相手の笑顔に合わせて自分も笑ったりするのは、
通常の100倍くらいの、
物凄い努力が要るのです。
従って、
もしアスペルガー症候群の傾向のある人が、
普通に目を見て、
相手に共感ありげに話しをするとしたら、
その人は物凄い努力をして、
そうした態度を取っているのだ、
と考える必要があります。
アスペルガー症候群の傾向のある人の極一部は、
たとえばエジソンやアインシュタインのように、
その特殊な才能を思う存分開花させ、
「変人」であることを、
世間も容認するので、
その風変わりと見られる部分を、
隠したり直したりせずに済むのですが、
通常はそれはいけないこととして、
子供のうちから、
「もっと相手の気持ちを考えて行動しなさい」
とか、
「何故先生の目を見て話が出来ないんだ!」
とか、
「どうしてそうわがままなの?」
などと言われるので、
Aさんのようにそれを悪いこととして、
自責の念に囚われ、
世間から「良い子」と評価されるように、
必死の努力を続けるのです。
しかし、
その努力は概ねその傾向を持たない人には、
当たり前のこととして、
あまり評価はされず、
本人にとっては、
自分の才能を、
伸び伸びと開花させる機会を逃してしまいます。
そして、
その努力が否定され、
過度のストレスに晒されると、
うつ病を発症したり、
強迫神経症になったり、
ということが起こり得るのです。
従って、
これを普通のうつと同じように考えて、
同じ職場に復帰させ、
勤務時間だけ減らして同じ作業が再開されると、
本人はまたガムシャラに仕事をしようとして、
同じ負のスパイラルに入る危険があるのです。
それではどうすれば良いのでしょうか?
僕の考えは、
まずAさんがどのような人なのかを、
周りの人に分かってもらう、
ということが重要なのではないか、
ということです。
勿論仕事を調節して割り振ることは大事なことですし、
あいさつをするのも大事なことですし、
イレギュラーな仕事を途中で振られても、
対応出来ることも大事なことだと思います。
しかし、
そうしたことをマスターするのに、
他の人の100倍の苦労があるとしたら、
そのことから取り掛かるというのは、
あまりに効率が悪いことだと思います。
従って、
まずは決められた仕事を、
集中してこなすことを優先し、
たとえばある仕事は今日のうちにやった方が良いけれど、
もう1つの仕事は後回しでも問題はない、
というような場合には、
それを明確な形で伝えてもらえれば、
Aさんは迷うことなく、
その日の仕事に向かえるのではないか、
と考えました。
診断は確定という訳ではありませんから、
性格の1つの傾向として、
職場の同僚と上司とにお話しました。
すると…
復職後Aさんの不安は徐々に軽減し、
仕事の能率も見違えるように改善したのです。
全てがこのようにうまくいくとは限りませんし、
単にうつが改善したためかも知れません。
しかし、
アスペルガー症候群のような体質が、
うつなどの症状の裏に隠れていることはしばしばあり、
その方の持っている傾向を、
考えに入れた上で、
個別に対応することが、
非常に重要なことではないかと思います。
たとえば、
多くの企業では、
特に新人の頃には、
職場を定期的に移動させ、
色々な仕事を経験させたり、
1つの職場で固定されないようにすることがありますが、
経験的には一定の割合の人は、
その移動をきっかけとして、
うつ病を発症したり、
体調を崩したりすることがあります。
こうした方の全てがそうという訳ではありませんが、
仮にアスペルガー症候群で、
非常に苦労して環境に適応しているタイプの方がいれば、
その人にとってはこの移動は、
そうでない方の数十倍はストレスが掛かることになるので、
予めある程度その人のタイプを考え、
その人を移動させるかどうかの判断を、
するべきではないのか、
と最近強く思います。
努力しても結果が出なければ同じことだ、
と言う方がいます。
相手が機械ならその通りですが、
人間の場合は必ずしもそうではなく、
その人の努力自体も、
総体として理解することが、
特にその人の能力がまだ完全に発揮されていない時期には、
重要なことではないかと思うのです。
努力を評価されることによって、
その人の能力が開花することがあるからです。
人間には多くのタイプがあり、
そのタイプによっては、
同じ行動を取ることに、
100倍くらいのストレスが掛かったり、
苦労が要ることがあるのです。
これはアスペルガーに限ったことではなく、
そのことを理解することが、
真の適材適所に繋がり、
トータルに見て、
この社会の活性化に繋がるのではないでしょうか。
今日はアスペルガー症候群と、
うつ病との関連についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2012-08-02 08:23
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先生こんにちは。毎日暑いですがお身体大丈夫でしょうか?私は今 強迫性障害を治療中です。以前はパニック障害を患い 同時に鬱にもなりました。私は自分が本当はネクラだと思っています。大学に入るまでは奥手で不登校などもありました。大学に入って友人に恵まれ アルバイトに励みだし変わったと思っていました。社交的で人見知りもせず みんなの中心にいたからです。それが働きだしてから イレギュラーな対応にうまくいかず アダルトチルドレンなのではないかと思い出しました。結婚し育児するなかで強迫性障害を患いましたが これは元の性質が復活したというか再度沸き上がってきたような気がするんです。育児を主人に否定されやることすべてにだめだしをされるなか段々鬱にもなりました。強迫性障害は不潔恐怖が主です 除菌に必死なパターンです。それも否定されればされるほど悪化します。もともとアスペルガーの気質が根底にあるとこのような経過をたどる可能性はありますか?いまの主治医は性格テストなどもよくしますし カウンセリングもうけていますが 強迫性障害の症状は ほんとは違う理由からの逃避として表れるといわれています。アスペルガーの気質が根底にあると主人に否定され続けるとこのようになるのでしょうか? 母親は私に依存するタイプで父にいじめられ鬱になったことがあります。父自体 強迫性障害ですが それらも関係ありますか?
by たけちよ (2012-08-02 10:07)
私は8年前にうつ病と診断されて3年間死ぬほど苦しみましたが、自らの判断で減薬と睡眠のみで完治しました。今から思うとうつ病の判断そのものがおかしかったような気もします。
症状を訴えるたびに抗うつ剤を増やされ最後には5種類も飲んでいた時期が有り、薬が増えるたびに症状の悪化に気付き、薬による体調不良の疑いを持ち、減薬をしながら兎に角寝る事に徹しました。
9ヶ月ほど寝たと思いますが、ある日突然スイッチが入ったように、何時もの私に戻りその日からバリバリ仕事が出来るようになりました。
あの苦しみの3年間はなんだったろうかと今でも不思議で仕方が有りません。
by 今野祥山 (2012-08-02 11:29)
今日の記事を拝見して、目からうろこでした。
知人の一人ですが、彼女の行動はこの症状に非常に当てはまります。変な人だとは思っていたのですが、アスペルガー症候群という病名?があるのですね。
これからは、そのつもりで付き合うことにします。
by ekoppi (2012-08-02 20:50)
健診の看護師・保健師をしています。
結婚して退職した元同僚が、おそらくそうだったろうと思われます。
初めはちょっと空気の読めない天然な子で済んでいましたが…人間を相手に、臨機応変に行動しなければならない医療の仕事を、なぜ彼女は選んでしまったのか…
本人はもちろん、上から彼女の指導を任された私たちも苦しみました。
高校あたりまでは学力もあり、何とか過ごしてきたのでしょうが、いざ同僚として仕事をする場合には、産業医をはじめ管理職の理解がなければ現場は混乱するばかりです。
もっと理解が広まればと思います。医療関係者は、メンタルヘルスや発達障害について、一般社会よりも遅れているように感じますので。
by あんみつ (2012-08-02 22:53)
たけちよさんへ
可能性はないとは言えません。
ただ、どんな方でも、
自分のすることを否定され続ければ、
同様の症状になっておかしくはないので、
そう決め付けるのは難しいと思います。
固定された状況を変えるために、
そうした可能性を考えることが、
前向きな意味があれば、
それはたけちよさんにとってメリットがあることだと思います。
主治医の先生にも、
一度お聞きになってみては如何でしょうか?
要はどう環境を調節すれば、
最も生きやすいか、
それを考えることが重要だと思いますし、
誰にとってもそうした環境はあると思います。
by fujiki (2012-08-03 08:22)
今野祥山さんへ
コメントありがとうございます。
そうしたお話しは多くの方から、
お聞きすることがあります。
脳がリセットされる瞬間のようなものは、
確実にあると思いますが、
その生理学的な意味合いというのは、
なかなか解明は困難のように思います。
by fujiki (2012-08-03 08:24)
ekoppi さんへ
コメントありがとうございます。
あまりそう決め付けないでは頂きたいと思うのですが、
人間には色々なタイプがあり、
その極端なものについては、
生理的に拒絶する反応が起こり易いので、
その点に目を向けるだけで、
全く見え方が違ってくる、
ということはあるのだと思います。
by fujiki (2012-08-03 08:26)
あんみつさんへ
コメントありがとうございます。
一時より理解は広がっていると思いますが、
ご本人も実際には、
診断を受けても、
秘密にされる場合が多いようです。
まだ無理解や偏見も多いように思います。
by fujiki (2012-08-03 08:28)
石原先生、いつも記事を見て、勉強させてもらっております。
私は、医療従事者です。私も、子供のころからみなと仲良くするのが困難で、いつもトラブルが絶えません。職場でも、やはりトラブルが多く、眠れなくなり、うつと診断され、前の職場をやめました。精神科では、私は、社会不安障害、うつ病、アスペルガー症候群との診断で、主治医は、漫然と抗うつ薬を処方するだけで、私のほうから、薬を減らし、現在は内服なしで、なんとか仕事ができています。本来なら、臨床に戻り、第一線でしっかり働きたいのですが、やはりそれは都合がよすぎるのでしょうか?いまは、時間に余裕のある職場ですが、私のような人は、一生、この職場にいるべきでしょうか?自分自身が、情けなく、つらい日々です。
by mirai (2012-08-03 10:22)
mirai さんへ
コメントありがとうございます。
今お薬も止めて、
仕事が出来ていることは素晴らしいことで、
前の職場の状態よりも、
人間としてワンランク上の状態にあることは、
間違いないと僕は思います。
それで不満を感じるのは、
もうワンステップ上に行こうとする気持ちがあるからで、
そうしたお気持ちが持続すれば、
かならず何らかの形で、
良い結果に結び付くと思います。
ただ、前の職場でうまくゆくというイメージを、
目標にするのは良くないように思います。
ご自分をリセットするつもりで、
もう一度目標を、
具体的に設定してみるのが、
良いのではないかと思います。
人間は誰でも得手不得手があるので、
それをある程度客観的に見た上で、
戦略を建てた方が成功率が高いように思うからです。
by fujiki (2012-08-04 09:01)
はじめまして、検索をしている最中に先生のブログに偶然行きつきました。
・・・幸運です。その中で、このページを見つけ愕然としてしまいました。
私は三年ほど前に離婚して今は息子16歳と二人で暮らしています。離婚前体調を崩した私は初めてメンタルクリニックと言われるところに通院しました。
何度も診察を重ね先生が言われるには、「あったことはないがお話を聞いていると御主人はアスペルガー症候群ではないかと思います。」と言われました。はじめて聞く名前でした。
その後離婚し今に至りますが、昨年6月より息子が登校拒否になりました。結局学校は退学し今は引きこもり状態、昨年末床屋に行ったのを最後に一歩も外に出なくなりました。24時間起きていて、24時間眠り続けるような生活を送っているのをただ見守ることしかできず途方にくれています。まじめすぎて生きるのに不器用な息子を見ていると、クリニックの先生の言われた”アスペルガー”の言葉が頭をよぎります。
これだけでは何もわからないとは思いますが、何かアドバイスがあれば・・・。
by hisako (2012-08-10 21:36)
hisako さんへ
ご返事が遅れまして申し訳ありません。
必ず何かの気づきが、
息子さんにもあると思いますので、
そうした小さな変化の兆候を見逃さないで、
対応するのが重要なように僕は思います。
そうした時には、
些細なものでも息子さんなりの目標が出来る筈で、
それがあれば、
実現に向けてのプラン作りは、
お母様のサポートが必要だと思います。
それがないうちは、
粘り強く経過を見るのが、
お辛いとは思いますが、
肝要なように思います。
by fujiki (2012-08-15 22:16)
お返事ありがとうございます。先生からのアドバイスありがたく読ませていただきました。今は辛抱の時と、見守って行きたいと思います。
先生のブログは、とても興味深いです。知らない分野のことをわかりやすく書かれていて楽しいし、勉強になります。
これからも楽しみに読ませていただきます。
まだまだ暑い日が続きそうです。お体に気をつけてご活躍ください。
by hisako (2012-08-18 19:49)
はじめまして。
インターネットで、調べ毎をしている中で、
先生の記事をみつけ、拝見しました。
わたしは、
マネージメントを、職業としておりますため、
(職場でも思いあたることが、多くあり)
この異変については、現実の問題として、
深く、考えさせられます。
さいきんは、
多くの人が、
心の悩みを抱えているようです。
すでに、生産の現場にも、
影響しています。
さいきんですが、
アスペルガという病気について、
知る機会がありました。
先生の記事を読み、多くのことがわかり、
心が軽くなりました。
その上で、
なにが出来るのか? と考えます。
たとえば、生産の現場も、医療との連携を深めています。
しかし、医療のサポートも、
個人の人生を、サポートするわけでは、ありません。
出口が無いまま、
ケースの数が増えていくと言う状況です。
ニュースで、取り上げられるような、
社会問題としての、事件の背景には、
日常の中で、
ストレスを育てる土壌があると、感じます。
”この”社会は、
大家族制度と、地域社会を失ったことを、
軽んじてしまい、
その罰を受けていると、思えて仕方ありません。
せめて、
幼児教育の段階で、
専門家がサポートすれば、
次第に、改善するのではないかと、
考えた事があります。
以上ざっぱくとしましたが、
感謝と御礼をめて、
わたしの思ったことなど、
コメントとして、書かせていただきました。
by mit (2012-10-13 19:40)
こんにちは。たまたま検索でこの記事を読みました。
凄いです…Aさんが、まるで自分のようで…思わず書き込んでおります。
わたしはこれまで なぜ自分はこう生き辛く、人と上手く付き合えないのかと悩み、一時は1年以上外出できなくなった時期も経験しました。
病院では、うつや統合失調症の診断を下され、薬を色々処方されましたがネット等で調べてみると、あまり信頼できる診断と思えず…この「生きづらさ」は幼少期の親子関係や、己の考え方のクセ、性格的なものが原因に思えたので、薬は飲まず 「普通の人の日常が難なくこなせるようになること」を目標に日々頑張っていました。
そんな中、社会のいち社員として働いた私が、Aさんそっくりで…。
仕事内容も評価され 上司も大らかだったので楽しく働けていて、
少し自分に自信が持てたのが、とても嬉しく、充実していました。
が、1度異動があり、Aさんのようになってからは
欠勤こそしませんでしたが、耐えられず自主退職してしまいました。
最近になってアスペルガーのことを知り、自分の中では腑に落ちたというか合点がゆく点が多く、今後生きるためのヒントになりそうだと感じているところなのですが。
この記事内の、
『病気ではなく、一種の体質と考えるのが
僕は妥当なように思います。』 という一文が とても響きました。
アスペルガーとうつ の関係も 私はこの記事の通りだなと
実感も込めて そう思います。 大変興味深く、また丁寧な考察で
このような診療所があるなんて…とも思って感動しています。
今後は、より理解を深めていきたいと思います。
長文すいませんでした。
by kori (2013-02-13 07:54)
kori さんへ
コメントありがとうございます。
少しでも記事に響く部分があれば、
とてもうれしく思います。
考えのクセを無理に変えることなく、
伸び伸びと生きられるような、
そんな社会になると良いですね。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-02-13 08:19)
はじめまして。
検索していてたどり着きました。
主人がうつで休職中です。
仕事のストレスから頭痛と不眠がありました。
来週復帰を控えております。
が、しかし休職中の様子に何か違和感を感じていました。
頭痛や不眠は抗鬱薬のおかげもあり解消しています。
すでに4ヶ月近くたちますが、家でくつろぐ様子はなく、まるで仕事に行かなくなったことに混乱しているようで、いつもやることを探しています。子供との暖かいふれあいや会話もなく、一度にひとつのことしかできません。予定の変更などもすんなりいかず手こずります。4ヶ月ほとんど変わりなしです。気分の落ち込みというのもあまり感じられません。(表に出していないだけかもしれませんが)本で読むようなうつの回復とは異なる気がするのです。
一緒にいるのが辛く、まるで家族が何の役にも立たないような、いることがかえって邪魔なような気さえしていました。違和感をなんとか解明しようと調べていて、アスペルガーというのを知りました。
もしその傾向があるとしてもきっとごく軽いものと思います。でもそうと分かればこちらの対応は180度変えることができます。
主治医に相談するべきでしょうか?素人がこんな意見を言うと医師との信頼関係が悪くなるかな?と危惧しています。(主治医の診断はうつ病です)
by ねこ (2013-02-20 00:19)
ねこさんへ
ご主人様ご心配なことと思います。
医者はこうした場合、
表面にある症状を取ることに重点を置き、
パーソナリティ的な部分については、
ご本人がそのことを気にされている場合以外は、
それほど重きを置かないことが、
多いように思います。
復職後にまたご様子が変化する可能性もあると思いますので、
個人的にはもう少しそのご様子を見て頂いても、
良いのではないかと思いますが、
ご心配でしたら、
主治医の先生に、
「うつ病のことを本で勉強しているのだけれど、
これこれの点が家での夫の様子と違っている気がする」
くらいのニュアンスで、
お聞きしてみることは良いように思います。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2013-02-21 08:35)
はじめまして。
うつ病と診断され、治療をはじめて10年以上がすぎ、
「もうこれ以上は何もできない」と医者に言われ、転院を勧められるも、
知らない土地、知らない人のところへ通うのが苦痛で転院はせずに
同じクリニックに通い続けて2年目の今なのですが、
先日「自閉症スペクトラムの疑い」があるので専門家を紹介すると言われました。
自閉症=知的障害、というイメージがあったので「何かおかしいな」と思ったのと
知らないことに対して、徹底的に調べないと気が済まない性格なので
ネットで検索してくうちにアスペルガーかもしれないと考えるようになり
、さらに調べていく過程でここにたどりつきました。
Aさんの事例は当てはまってるのだけど少し違っていて
私の場合はすごく頑張ると社交的になれるし
仕事面での複雑な要求や臨機応変な対応など
すごく困難で泣きたくなりつつ(一人でいる時は涙がでることもありつつ)
うまく出来た時の喜びを知っているので
不眠症になりつつも頑張ってクリアしてきました。
その無理がたたってのうつ病なのだと思っていたのです。
Aさんと違って頑張ればこなせる、という意味で
やっぱりアスペではないのなかぁ?というのが今の気持ちです。
専門家の紹介は知らない病院で知らない人(医師を含め)と話すことになるので逃げだしたい気持ちでいっぱいですが
「うつじゃないかもしれない」
「アスペじゃないかもしれない」
「だったら私は何なんだ」
ということで頭がグルグルして今まで出来たことに対するミスが出てきたので
(おつかいを頼まれてもレシートとおつりを渡し忘れる等)
勇気を出した方がいいですよね。
「アスペかもしれない」→「アスペだろう」と考えが固まってしまうと
病院に行かなくても分かってるから勇気ださなくてもいいや
となるところでしたが、一石を投じてくださる記事が読めて良かったです。
投じてくださった石による波紋が消えないうちに
詳しく知りたいという情熱が消えないうちに
紹介してもらう方向で進めてもらおうと思います。
ありがとうございました。
by がく (2014-03-08 16:25)