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ナトリウム利尿ペプチドと脂肪細胞との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
利尿ペプチドと脂肪細胞.jpg
今年の3月のThe Journal of Clinical Investigation誌に掲載された、
心臓から分泌される蛋白質と、
脂肪細胞との関連についての論文です。
著者の中には、
東北大学の高橋信行先生が加わっています。

一般に内臓脂肪が蓄積すると、
動脈硬化が進行し、
かつ内臓脂肪の蓄積自体にも、
心臓に負荷を掛けるような作用があって、
心筋梗塞などの心臓病の、
原因になると言われています。

つまり、
内臓脂肪を生活習慣の改善によって減少させることは、
心臓病の予防になる、
という考え方です。

この考え方は、
内臓細胞の蓄積が、
心臓に悪い影響を与える、
という、
ある種一方通行のものになっています。

ところが…

最近になって、
心臓から脂肪細胞への影響も、
同様にあるのではないか、
という考え方が注目されています。

心臓から分泌される一種のホルモンに、
ナトリウム利尿ペプチド、
と名付けられた蛋白質があります。

これは日本の研究者によって発見されたもので、
心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)と、
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の2種類があります。

どちらも、
心臓の筋肉が、
過剰に引き伸ばされるような刺激により産生され、
腎臓と血管とに働いて、
血管を拡張し、
利尿作用でおしっこを増やして、
水と塩分を身体の外に排泄する作用があります。

これはつまり、
心臓に負荷が掛かると、
その負荷を軽減するために、
心臓は利尿ペプチドを分泌して、
心臓の働きを守ろうとしている、
と考えることが出来ます。

僕が大学にいた頃には、
丁度ANPを心臓病の患者さんや腎臓病の患者さんで、
測定することが始められた時期で、
透析の先生は研究として、
透析の患者さんのANPの数値を、
適正な体重の維持の指標などに、
利用していました。

ただ、
現在ではもっぱら測定されているのは、
BNPとその前駆体の断片であるNT-proBNPで、
その数値は、
心臓の血行動態を知るための、
かなり正確な指標となる、
と考えられています。

腎機能が低下するとこの数値は上昇するので、
注意が必要ですが、
腎機能の低下がない場合には、
概ねBNPが100pg/mlという数値を超えると、
明確な心臓の働きの低下がある、
と判断されます。

この数値は心不全の患者さんで、
状態が悪くなると上昇し、
治療により改善すると低下するので、
心不全の治療の指標として、
臨床にも定着した検査となっています。

さて…

最近になりこのBNPの受容体が、
脂肪細胞にもあることが明らかになりました。

心臓から分泌されたBNPが、
脂肪細胞に対して、
何らかの働きをしている可能性が出て来たのです。

しかし、
その詳細は不明なままでした。

そこで今回の論文では、
ネズミの脂肪細胞と、
人間の培養した脂肪細胞において、
ナトリウム利尿ペプチドが、
どのような働きをしているのかを、
多角的に検証しています。

その結果、
ナトリウム利尿ペプチドが、
脂肪細胞の受容体にくっつくことにより、
p38MAPKという酵素を介する、
細胞内の伝達経路が活性化され、
結果として白色脂肪細胞が、
褐色脂肪細胞化するような変化が惹起される、
ということがネズミでも人間でも、
いずれの細胞でも確認されました。

以前も何度か触れましたが、
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞との2種類があり、
白色脂肪細胞は、
中に脂肪を溜め込む細胞であるのに対して、
褐色脂肪細胞は、
脂肪を燃焼させて、
エネルギーに変える細胞です。

運動は白色脂肪細胞を、
褐色脂肪細胞に変える働きがあり、
そのために運動は内臓脂肪の減少に有効なのですが、
同様の変化が、
ナトリウム利尿ペプチドによっても、
もたらされるのです。

最初に内臓脂肪の蓄積が、
心臓にダメージを与える、
という脂肪から心臓への影響についてお話しましたが、
それとは反対の流れ、
すなわち心臓から脂肪細胞への影響が、
利尿ペプチドを介して行なわれていることが、
今回明らかになったのです。

内臓脂肪の蓄積により、
肥満が生じて心臓に負荷が掛かると、
心臓はANPやBNPといった利尿ペプチドを分泌して、
利尿を起こしその負荷を軽減しようとします。
その一方で脂肪細胞に働きかけ、
脂肪そのものの燃焼を促して、
内臓脂肪自体の抑制も行なっているのです。

脂肪の細胞と他の臓器との、
ホルモンを介した関連が、
また1つ明らかになったものと考えられます。

今回の結果は、
これまで心臓の状態の指標としての役割しか、
臨床的にはなかった利尿ペプチドが、
より積極的に、
治療薬として使用出来る可能性を開くものです。

利尿ペプチドをたとえば注射で使用することにより、
内臓脂肪の蓄積による悪影響を、
総合的に治療し、
心臓の負荷も軽減するという、
かなり理想に近い治療が、
実現する可能性があるからです。

しかし、
実際には利尿ペプチドの過剰が生じることにより、
今は分かっていない不利益が、
生じる可能性もあり、
今後の研究の進展を、
まずは慎重に見守る必要がありそうです。

今日は心臓から分泌されるホルモンと、
脂肪細胞との関連についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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