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ベルリン 1994年 [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。

朝からいつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから何となくダラダラして、
今PCに向かっています。

今日は雑談です。

昨日ベルリンフィルの来日公演で、
マーラーの9番を聴きました。

「マーラーと私」と言うと偉そうですが、
これまで生で聴いたのは4番と6番だけで、
それに今回で9番が加わりました。
6番はルツェルンフェスティバルの来日公演だったと思います。
ヴィスコンティの「ヴェニスに死す」に、
5番の第4楽章が執拗に流されていて、
他の多くの方と同じように、
あの映画でマーラーを知り、
高校生の時に5番のレコードを買いました。
3枚組で歌曲とのカップリングだったと思います。

マーラーの交響曲は複雑怪奇で、
混沌とした音の壁の中を、
彷徨うような思いがします。
一種の迷宮です。

9番の第4楽章は、
5番の第4楽章のような緩やかな大河の流れのような旋律が、
時にうねり滝や渦を造りながら、
いつ果てるともなく続き、
最後は静かに「無」という闇の中に消えて行きます。

ラトルが指揮棒を止めた後、
少なくとも2分くらいは完全な静寂が、
ホールを支配しました。
それから静かに拍手が始まり、
それから次第にうねるように大きくなります。
あれにはちょっと痺れました。

「無音」という最高の音楽を、
聴衆の全員が聴き入っていることを感じたからです。

1994年に一度だけ、
循環器の学会でベルリンに行きました。
ベルリンの壁が崩壊してから、
まだあまり経っていない時期で、
西と東はまだ別の国のようで、
壁の欠片がお土産に売られていました。

一緒に行った先輩は、
勿論学会に毎日足を運んでいたのですが、
僕ともう1人一緒に行った後輩は、
ベルリンの街を散策するのが主な仕事でした。
その後輩がベルリンフィルが聴きたいと言って、
その時には僕は何の興味もなかったのですが、
後輩に連れられてコンサートホールまで行きましたが、
ホールは閉まっていましたし、
結局どうすれば良いのか良く分からず、
そのままホールを後にしました。

その時に手にした、
スケジュールの載ったパンフレットを今日見てみると、
マーラーの9番が書かれていました。

別に不思議なことではありませんが、
何となく記憶は1994年のベルリンに戻るような、
懐古的な気分になります。

僕は当時は音楽に興味がなく、
ベルリンでは専らダーレム博物館の絵画館で、
古い絵画に目を奪われていました。
あそこはあまり観光客の押し掛けない、
素敵なギャラリーで、
レンブラントやカラヴァドッジ、
日本ではあまり見ない、
テルボルフやデ・ホーホの絵などが、
静寂の中に飾られています。
フェルメールが1枚ありますが、
これは結構頻繁に日本の美術展に来ています。

その数年前に「ベルリン天使の歌」を見たので、
例の黄金の女神が天辺に載った、
戦勝記念塔には是非登らなくちゃと、
ブランデンブルグ門から、
夕暮れに歩いて行きました。

女神の台座の下のところまで、
登れるようになっていて、
そこからの眺めは、
矢張り格別に思いました。

道は何処までもひたすらに真っ直ぐで、
周囲には森が広がっています。
黄昏ということもあり、
辺りは幻想的な黄色い輝きに満ちていました。
僕はその黄昏の彼方に、
見えない何かを見たように思いました。

マーラーの9番のラストもそうですが、
有限な感覚を彼方に向ける時、
そこに見えないものが見え、
聞こえない音が聞こえます。
それが人間という有限の存在と永遠との、
最も接近する瞬間なのかも知れません。

一度行ったきりですがベルリンは好きな街で、
もう一度行きたいなとは思いますが、
叶わぬ夢になりそうな気もします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 4

アミナカ

ベルリンフィルでマーラーですか、
とっても羨ましいです。
マーラーを聴いていると、トランス状態になるので癖になると立て続けに聴いてしまいます。
その真逆になりたい時には私はサティを聴く事が多いです。
足元が覚束なく、置いてきぼりにされるような気持ちにもなるし、またその不安定さが何処にも属さない自由な感じがしてなんとなく好きです。
共通点は圧倒的な個性があるのに押し付けがましく無く、それでいて強く虜にする魅力があるところだと思っています。
先生の使用された言葉、
有限・永遠・無音
それから黄昏
これが合わさる時は一瞬にして人を虜にし
何処かで、静かに繰り返し訪れ長いようで、あっという間に消えて
思わせ振りな魅力で何かを引き延ばすような気がします。
by アミナカ (2011-11-25 00:25) 

MDISATOH

Dr.Ishihara生のベルリンフィルのマーラーですか、羨ましいです。
私は、ワグネリアンですが、マーラーもとても好きです。
故父もマーラー特に9番は好きでした。未だ元気な時に、私が相模原
に住んでいた頃、故父とN響のマーラー9番を聴きに行った事が想い出されます。マーラーの交響曲は全て好きですが、その内、5番、6番
9番、2番、3番、4番、後、意外に未完成ながら10番が好きです。
でも、やっぱり一番は「大地の歌」だと想います。此の曲は、純粋な交響曲とは言えないと思いますが、人生に対するデカダンスと言うより、諦念を感じさせてくれます。マーラー自身、強迫神経症・双極性障害
だと言われております。私自身双極Ⅰ型障害なので、マーラーの難解な音楽が心にレゾナンスして、とても合います。
by MDISATOH (2011-11-25 04:07) 

fujiki

アミナカさんへ
コメントありがとうございます。
5番のレコードは結構何度も聴きましたが、
最近はあまりCDでクラシックを聴くことはなくなりました。
少し余裕がないと矢張り駄目ですね。
by fujiki (2011-11-25 08:25) 

fujiki

MDISATOHさんへ
コメントありがとうございます。
交響曲はたまに聴くという程度ですが、
マーラーは魅力がありますね。
ワーグナーとも共通する魅力があると思います。
by fujiki (2011-11-25 08:30) 

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