プロカルシトニンとその臨床応用について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はプロカルシトニンの話です。
プロカルシトニンは身体の炎症のマーカーとして、
最近頻用されている検査であり、
炎症に伴って身体で産生される物質です。
皆さんが熱や咳やお腹の痛みなどのために、
医療機関を受診すると、
それが身体に病原体が侵入したための炎症ではないかと、
疑った場合に血液の炎症反応が測定されます。
この代表的な検査が、
CRPです。
CRPはインターロイキン6というサイトカインによって、
肝臓で産生される炎症物質で、
病原体による炎症のみならず、
動脈硬化などによっても軽度の上昇を示します。
現在でも非常に有用な検査ですが、
あまりに炎症の指標として、
頻用されたために、
幾つかの問題点が指摘されています。
この物質は肝臓で産生されるため、
肝臓の働きが悪い場合には炎症の状態を適切に反映しません。
また、ステロイドの治療を行なっている場合などでは、
インターロイキン6自体を抑えてしまうので、
感染症でもこの数値は上昇し難くなります。
細菌感染などの場合には、
感染自体が改善しても、
しばらく上昇が続くことがあります。
更には関節リウマチのような炎症でも、
細菌感染症のような炎症でも、
同じように上昇するため、
その原因の見分けに使い難い、
というような多くの欠点が指摘されています。
臨床での問題点の1つは、
たとえば肺炎が見付かり、
CRPが上昇している場合には、
通常抗生物質が使用されますが、
CRPが正常値になるまで使用するという方針を取ると、
抗生物質の過剰な使用に、
結び付き易い、ということにあります。
その意味で、
感染症に伴う炎症でのみ上昇し、
病状が改善すれば速やかに低下するような、
そうした炎症反応が望まれていたのです。
そうした検査指標として、
現在最も有望視されているのがプロカルシトニンです。
プロカルシトニンとは何でしょうか?
その名前の通り、
プロカルシトニンはカルシトニンという、
甲状腺から分泌されるカルシウム代謝に関連するホルモンの、
前駆物質です。
つまり、通常は炎症とは無関係に、
甲状腺の中で生成され、
甲状腺の中でプロカルシトニンはカルシトニンとなって、
血液中に分泌されるので、
血液中には存在しない物質なのです。
ところが、不思議なことに、
身体に炎症、特に細菌の感染症による炎症が起こると、
白血球や肺、肝臓など、多くの組織でプロカルシトニンが産生されます。
特に細菌の重症感染症で、
血液で細菌が増殖し、
エンドトキシンという毒素が放出されると、
それに反応して2~3時間のうちにプロカルシトニンが産生され、
3時間以降では血液の検査で、
検出可能になります。
プロカルシトニンがこのように全身で産生されるには、
何らかの理由がある筈ですが、
その実際の意味はまだ明らかにはなっていません。
ただ、血液で測定するプロカルシトニンの濃度は、
感染症、特に細菌感染症の重症度と大きな相関があり、
血液に細菌が増殖した敗血症という状態では、
その数値はほぼ100%上昇し、
その状態が改善すると速やかに低下することが、
多くの研究から明らかになっています。
その数値が0.5ng/ml を超えると、
全身性の細菌感染症の可能性が疑われ、
2.0ng/ml を超えると敗血症の可能性が高くなります。
感染症には細菌以外にウイルスや真菌によるものがあり、
その鑑別が治療に直結するものなので、
臨床的には大きな問題になります。
抗生物質は細菌感染のみに有効で、
真菌やウイルスの感染には無効だからです。
CRPの数値は必ずしも一定の傾向がありませんが、
プロカルシトニンが2.0を超えるのは、
原則として細菌感染症のみで、
他の感染では軽度の上昇に留まるのです。
集中治療室に入院したような患者さんに対して、
プロカルシトニンが0.5を超えた時のみ抗生物質を使用し、
正常化した時点で中止すると、
死亡率を悪化させることなく、
抗生物質の使用期間が短縮された、
という海外の研究があります。
CRPとの比較においても、
より確実に細菌感染症を診断した、
という報告が多く存在します。
プロカルシトニンは重症感染症でないと上がらないので、
軽症の感染症の診断には不向きですが、
病院の集中治療室などではその有効性は高く、
現在では欠くことの出来ない検査ですし、
僕のような診療所の医者にとっては、
老人ホームや在宅の患者さんの診察において、
発熱時などにその重症度を簡単に判断する指標になるので、
有用性が高いのです。
ご高齢の寝た切りの患者さんにおいては、
その重症度が判断し難いことが多いからです。
この数値だけに頼ることは危険ですが、
これまで抗生物質の使用に迷うようなケースで、
適切な判断の一助になるという意味で、
患者さんにとっても医療者にとっても、
意義のあるものだと思います。
今日はプロカルシトニンの総説でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はプロカルシトニンの話です。
プロカルシトニンは身体の炎症のマーカーとして、
最近頻用されている検査であり、
炎症に伴って身体で産生される物質です。
皆さんが熱や咳やお腹の痛みなどのために、
医療機関を受診すると、
それが身体に病原体が侵入したための炎症ではないかと、
疑った場合に血液の炎症反応が測定されます。
この代表的な検査が、
CRPです。
CRPはインターロイキン6というサイトカインによって、
肝臓で産生される炎症物質で、
病原体による炎症のみならず、
動脈硬化などによっても軽度の上昇を示します。
現在でも非常に有用な検査ですが、
あまりに炎症の指標として、
頻用されたために、
幾つかの問題点が指摘されています。
この物質は肝臓で産生されるため、
肝臓の働きが悪い場合には炎症の状態を適切に反映しません。
また、ステロイドの治療を行なっている場合などでは、
インターロイキン6自体を抑えてしまうので、
感染症でもこの数値は上昇し難くなります。
細菌感染などの場合には、
感染自体が改善しても、
しばらく上昇が続くことがあります。
更には関節リウマチのような炎症でも、
細菌感染症のような炎症でも、
同じように上昇するため、
その原因の見分けに使い難い、
というような多くの欠点が指摘されています。
臨床での問題点の1つは、
たとえば肺炎が見付かり、
CRPが上昇している場合には、
通常抗生物質が使用されますが、
CRPが正常値になるまで使用するという方針を取ると、
抗生物質の過剰な使用に、
結び付き易い、ということにあります。
その意味で、
感染症に伴う炎症でのみ上昇し、
病状が改善すれば速やかに低下するような、
そうした炎症反応が望まれていたのです。
そうした検査指標として、
現在最も有望視されているのがプロカルシトニンです。
プロカルシトニンとは何でしょうか?
その名前の通り、
プロカルシトニンはカルシトニンという、
甲状腺から分泌されるカルシウム代謝に関連するホルモンの、
前駆物質です。
つまり、通常は炎症とは無関係に、
甲状腺の中で生成され、
甲状腺の中でプロカルシトニンはカルシトニンとなって、
血液中に分泌されるので、
血液中には存在しない物質なのです。
ところが、不思議なことに、
身体に炎症、特に細菌の感染症による炎症が起こると、
白血球や肺、肝臓など、多くの組織でプロカルシトニンが産生されます。
特に細菌の重症感染症で、
血液で細菌が増殖し、
エンドトキシンという毒素が放出されると、
それに反応して2~3時間のうちにプロカルシトニンが産生され、
3時間以降では血液の検査で、
検出可能になります。
プロカルシトニンがこのように全身で産生されるには、
何らかの理由がある筈ですが、
その実際の意味はまだ明らかにはなっていません。
ただ、血液で測定するプロカルシトニンの濃度は、
感染症、特に細菌感染症の重症度と大きな相関があり、
血液に細菌が増殖した敗血症という状態では、
その数値はほぼ100%上昇し、
その状態が改善すると速やかに低下することが、
多くの研究から明らかになっています。
その数値が0.5ng/ml を超えると、
全身性の細菌感染症の可能性が疑われ、
2.0ng/ml を超えると敗血症の可能性が高くなります。
感染症には細菌以外にウイルスや真菌によるものがあり、
その鑑別が治療に直結するものなので、
臨床的には大きな問題になります。
抗生物質は細菌感染のみに有効で、
真菌やウイルスの感染には無効だからです。
CRPの数値は必ずしも一定の傾向がありませんが、
プロカルシトニンが2.0を超えるのは、
原則として細菌感染症のみで、
他の感染では軽度の上昇に留まるのです。
集中治療室に入院したような患者さんに対して、
プロカルシトニンが0.5を超えた時のみ抗生物質を使用し、
正常化した時点で中止すると、
死亡率を悪化させることなく、
抗生物質の使用期間が短縮された、
という海外の研究があります。
CRPとの比較においても、
より確実に細菌感染症を診断した、
という報告が多く存在します。
プロカルシトニンは重症感染症でないと上がらないので、
軽症の感染症の診断には不向きですが、
病院の集中治療室などではその有効性は高く、
現在では欠くことの出来ない検査ですし、
僕のような診療所の医者にとっては、
老人ホームや在宅の患者さんの診察において、
発熱時などにその重症度を簡単に判断する指標になるので、
有用性が高いのです。
ご高齢の寝た切りの患者さんにおいては、
その重症度が判断し難いことが多いからです。
この数値だけに頼ることは危険ですが、
これまで抗生物質の使用に迷うようなケースで、
適切な判断の一助になるという意味で、
患者さんにとっても医療者にとっても、
意義のあるものだと思います。
今日はプロカルシトニンの総説でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2011-11-22 08:05
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コメント(8)
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プロカルシトニンという指標は日本でも臨床に適応されているのでしょうか。確かに今まで長い間、CRPがすべての炎症反応の指標になっていました。ICUではゼプシスでなくなることが少なくなかったですが、細菌感染に特異的に上昇する指標ができてくると治療の上でとても役立つことなんでしょうね。
最新の研究をご紹介いただき、興味深く拝見しました。
by ちばおハム (2011-11-22 15:02)
昨日のインフルエンザのことで質問したかったのですが、4歳の娘に接種させるか迷っています。1歳から毎年接種、新型も受けました。今年から量がかなり増えたそうですが、重篤な副反応は報告されているのでしょうか?お教えいただければ嬉しいです。
by さち (2011-11-22 19:41)
ちばおハムさんへ
コメントありがとうございます。
結構もう認知されている検査になっていると思います。
by fujiki (2011-11-23 17:12)
さちさんへ
まとまった報告はないと思いますが、
診療所で接種している印象としては、
今のところは昨年と大きな変化はないと思います。
by fujiki (2011-11-23 17:16)
お忙しい所お返事ありがとうございました。ひとまず安心しました。
by さち (2011-11-23 21:00)
はいけんさせていただきました。
by モンクレールダウン (2011-11-26 14:41)
大学院で骨の研究をしています。テリボン、プロカルシトニンの疑問点が明瞭に解決できました。とてもわかりやすい解説です!またブログ読ませていただきます。体調が悪い際はぜひ先生の診療を受けたいと思いました!
by take (2011-11-28 20:41)
take さんへ
コメントありがとうございます。
そう言って頂けると励みになります。
僕は大学院の頃には、
研究は正直嫌なことが多かったのですが、
今になると研究をされている方が、
非常に羨ましく感じます。
是非頑張って下さい。
by fujiki (2011-11-28 21:18)