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新規HPVワクチン「ガーダシル」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ガーダシル.jpg
ヒトパピローマウイルスワクチン、
「ガーダシル」がつい最近製造販売承認を取得しました。
まだ発売日は未定ですが、
今年中には確実に使用が可能となる予定です。

2年前の2009年に、
日本では最初のヒトパピローマウイルスワクチン
「サーバリックス」が発売となりました。

「子宮頸癌予防ワクチン」として、
大々的に宣伝がされ、
一時期挙って自治体が10代の女性に補助を出したので、
皆さんもよく御存知かと思います。

接種者が昨年から急増したために、
品薄の状態が長く続いていて、
一時は診療所でも非常に困った事態となりました。

おそらくはそうした事態も受けても措置なのだと思いますが、
もう少し先になると思われていた、
ガーダシルの審査も早まったのです。

ただ、実際には世界での発売は、
サーバリックスよりガーダシルの方が先行しています。

何か表には出ない事情があるのかも知れませんが、
サーバリックスのメーカーは、
いつも同種の薬剤のうち、
真っ先に何故か採用になるのです。

サーバリックスとガーダシルには、
どのような違いがあるのでしょうか?

どちらもヒトパピローマウイルスの、
感染を予防するためのワクチンです。

ヒトパピローマウイルスは、
8つの遺伝子のみからなる、
非常に小さなDNAウイルスで、
人間にしか感染せず、
それも性交渉以外では基本的に感染しない、
という大きな特徴があります。

尖圭コンジローマと呼ばれる外陰部のイボは、
その感染の目に見える症状としては代表的です。

皮膚病以外で問題になるのが、
子宮頸癌を始めとする発癌との関連性です。

ヒトパピローマウイルスには、
数十種類のタイプが存在しますが、
子宮頸癌の患者さんでは、
いずれかのタイプのヒトパピローマウイルスの感染が、
ほぼ100%検出されます。

ただ、これは人間の7~8割は感染するのですから、
即ヒトパピローマウイルスが子宮頸癌の原因とは言えません。

しかし、特に発癌との関連が高いとされる、
16型と18型においては、
その感染により発癌のリスクは数百倍になり
(これは海外データです)、
日本でも6割の患者さんはこの2種の型の感染者なのですから、
ヒトパピローマウイルスの持続感染が、
10~15年以上の月日を経て、
子宮頸癌の発症に繋がる、という仮説は、
現在ではほぼ事実として認識されています。

サーバリックスはこの16型と18型の2種の型のウイルスの、
感染を防御するためのワクチンで、
要するに2価のワクチンです。

その一方でガーダシルは、
16型と18型に加えて、
6型と11型の抗原由来の成分を含む、
4価のワクチンです。

その製法はほぼ同じで、
生ワクチンではありませんが、
遺伝子再重合という手法で、
ウイルスに似た粒子を生成して抗原とし、
そこに免疫増強剤(アジュバント)を加えて、
抗原性を強化したワクチンで、
現行7年以上は100%その後の感染を阻止している、
と言う意味で、
極めて強力なワクチンです。

通常のこれまでのワクチンは、
基本的に身体の免疫を真似て、
実際にその病気に罹ったような状態を誘導するもので、
その誘導された免疫は、
自然免疫を超えるものには成り得ないのですが、
この遺伝子再重合によるワクチンは、
自然免疫より強力な液性免疫を、
人工的に誘導する点に、
その顕著な特徴があるのです。

今後のワクチンはこうしたものが主流になると考えられ、
その効果が高まることは良いことだとは思いつつ、
多くの医療従事者の方からは、
「お前の立場でそんなことを言ってはいかん」
と言われるかも知れませんが、
僕は安全性に本当に問題はないのかと、
根拠のない不安を現時点では完全に払拭することは出来ずにいます。

勿論、現時点でそうした安全性を危惧させるような、
信頼の置けるデータが存在しているという訳ではありません。

ただ、液性免疫を自然より強く誘導することにより、
細胞性免疫がむしろ抑制されるのでは、
という危惧を指摘される専門家の方もいて、
そのリスクは現時点で完全に否定された物ではない点に、
注意は必要だと思います。

ガーダシルにはサーバリックスには含まれていない、
2種類の抗原が含まれていますが、
これは子宮頸癌には関わりは薄く、
主に尖圭コンジロームの予防のためです。
従って、子宮頸癌の予防という観点で言うと、
この2種類のワクチンには、
大きな差はないのです。

接種方法は基本的に同一ですが、
サーバリックスは0、1、6ヶ月後の3回接種で、
ガーダシルは0、2、6ヶ月後の3回接種です。
これは臨床試験の時の設定によるようで、
1ヶ月程度接種時期が前後しても、
特に問題はないようです。

接種方法は筋肉注射で、
サーバリックスは肩の三角筋部のみの接種とされていますが、
ガーダシルは肩以外に太腿への注射も認められています。

2種類のワクチンの安全性には違いがないのでしょうか?

海外に両者を比較した2009年のデータが存在しますが、
接種後の腫れや痛み、
接種後の熱やだるさなどの症状は、
いずれもサーバリックスの方が、
やや多い、という結果でした。

接種後の失神や気絶は、
10万人に1人弱くらいの比率で認められています。
これはガーダシルの海外データですが、
サーバリックスでもそれほどの差はないと考えられます。

アジュバントの成分には、
両者で違いがあり、
ガーダシルにのみ含まれている、
界面活性剤のポリソルベート80が、
不妊の原因になるのでは、
という情報がニュースとなったことがありましたが、
これは基本的にただの乳化剤なので、
3回のみの筋肉注射が、
大きな問題になるとは考え難く、
無理筋だと僕は思います。

ただ、妊娠中の使用については、
サーバリックに関しては「延期が望ましい」という表現で、
ガーダシルは「妊娠中の接種は避けること」
ともう少し踏み込んだ表現になっています。
これは不妊の可能性が問題になった件と、
無関係ではないという気がします。

所属の医師会からの文書によると、
発売された時点で、
サーバリックスとガーダシルは、
同等の扱いで補助も出るようです。

基本的には両者は同質のワクチンと、
考えて頂いて良いと思いますが、
日本人に接種した場合の特異性もないとは言えず、
今後の情報を注意深く見守りたいと思います。

最後に強調したいことは、
このワクチンは、
たとえば16型に関しては、
その感染が成立する前に接種しないと、
有効性は全くない、ということです。

感染は性交渉と共に増加するので、
なるべく性交渉を開始する前の接種で、
有用性が高いのです。
ある日本の専門家の推定によると、
未感染者の7割に予防効果が期待出来る一方、
20~30歳の接種で5割、
45歳での接種では、
3割程度の予防効果と推定しています。
(これは勿論癌の予防効果ではなく、
感染の予防効果です)

この推定をした先生は、
勿論ワクチン推進派ですから、
このデータも、
少し割り引く必要があるかも知れません。
要するに最大限でこの程度の効果と把握した上で、
その接種の必要性を考える必要があると思います。

日本では45歳まではワクチンを推奨する、
という意見がありますが、
その判断は非常に疑問に思います。
このワクチンは10代で接種してこそ、
その有用性が発揮される性質のものだからです。

今日は間もなく2種類になる、
ヒトパピローマウイルスワクチンの話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 13

Hirosuke

「専門家」様は10代の性交渉を想定していないのでしょうね。

あるいは、そこまでを想定範囲とすると「10代の性交渉を推奨している」と非難されるのを嫌って、かもしれません。

あるいは、この手のワクチンを1つでも10代に適用すると、
-------------------------------------------
「コレが適用なら、アレも適用だろッ。」
「アレが適用じゃないなら、コレも適用じゃないだろッ。」
「適用基準を『統一』しろよなッ。」
--------------------------------------------
のような議論を吹っかけて、その基準を潰しに来る「専門家」がいるのかもしれません。

英文テクニカルライター時代には、この不毛な議論に何度も巻き込まれました。
by Hirosuke (2011-07-29 17:52) 

ごぶりん

サーバリックスの宣伝講演会でも、10代の接種が一番効果的であると言ってたと思います。
その当時未発売のガーダシルにも触れていて4価だけど有効性はサーバリックスと
変わりませんとも言ってた気もします。
うちにも市から接種の案内が来てましたが、娘は頑として嫌がります。
要はただただ痛いのと3回もしないといけないからだそうです。
感染の恐れが無いような生活を送るからと言い張りますが、
団鬼六先生の本を人前で堂々と読み、夕食時の会話で外国には
馬の精液で作ったカクテルがあることを話す娘なんて
全く信用できません。
どうすれば説得できるか教えて下さい。
by ごぶりん (2011-07-29 22:28) 

fujiki

Hirosuke さんへ
コメントありがとうございます。
科学的データと称するものも、
意外に胡散臭い部分があり、
「やらせ」も多いのではないか、
という気がします。
by fujiki (2011-07-30 08:27) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
お父様のお気持ちは分かりますが、
強制する性質のものではないので、
後は検診をしっかり受けて頂くことかも知れません。
感染の有無を調べるのも1つの方法だとは思いますが、
色々とトラブルの要因になる可能性もあり、
推奨はされていないようです。
感染のリスクについては、
充分理解して頂けると良いですね。
by fujiki (2011-07-30 08:29) 

ごぶりん

お返事ありがとうございます。
少しでも子どものメリットになるようでしたら痛かろうがなんだろうが
受けさせたいのが親心ですが、先生のおっしゃる通りやはり無理強いは
いけないですね。
状況に応じて検査も必要かもしれませんが、感染するとどうなるかということを
追々話していこうと思います。
全くもって蛇足ですが、私はおとんでなく、おかんです。
夫の専門は全くの畑違いなので、家庭内の健康関係は全然相談できないんですよ。
怪奇現象なら多少は解明してくれるかもしれませんが。
by ごぶりん (2011-07-30 23:20) 

あこ

詳しく書いてくださってありがとうございます。
うちの娘には受けさせません。

たとえ感染しても発症しない免疫力のある身体にしてあげたいです。
by あこ (2011-09-08 12:24) 

fujiki

あこさんへ
コメントありがとうございます。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2011-09-09 08:30) 

ぷくりん

石原先生

こんにちは。
私は二児の母です。
色々な医療問題についてお医者さまの本音の部分が知りたくて、先生のブログを時々拝見しています。医療関係者ではありませんので、すべてを理解できるわけではありませんが、先生のお話は大変参考になります。

娘が中1で、そろそろ子宮頸がんワクチンの無料接種券が自治体から送付されてくるので、接種すべきかどうか現在思案中です。

子宮頸がんワクチンにはいくつかの疑問を持っています。
まず、免疫持続期間が思いのほか短かそうなので、せっかく中1で接種しても、実際に色っぽい出来事が起こる前に免疫が切れてしまうのではないか?ということです。

次に、副作用のことです。少々痛いぐらいは娘に我慢させますが、長期的な副作用が本当にないのかどうかが気になります。
今回、先生が「液性免疫を自然より強く誘導することにより、 細胞性免疫がむしろ抑制されるのではないか」と書かれていますが、これはどういうことでしょうか。将来的に発がん等免疫異常が起こる可能性があるのでしょうか。
素人にも分かるように説明していただけましたらありがたいです。

by ぷくりん (2012-03-06 21:00) 

fujiki

ぷくりんさんへ
これは同じ抗原に対する免疫反応で、
抗体の産生やリンパ球の活性化などが起こるとして、
そのうち抗体の産生のみを、
過剰に刺激した場合、
免疫全体のバランスに影響を与えるのではないか、
というくらいの意味合いだと思います。

このことは不活化ワクチン全てに当て嵌まることですが、
ヒトパピローマウイルスワクチンを含む最近のワクチンは、
免疫増強剤の進歩等により、
通常生体が自然に誘導する免疫より、
数段強い抗体産生能を持つようになったので、
そのことが免疫全体のバランスに、
影響を与える可能性が、
一部で危惧されている訳です。

かつて雪さんが言われるように、
発癌の誘発に繋がるのでは、
とか、
却って別の種類のヒトパピローマウイルスの感染が、
重篤化する可能性があるのでは、
というような言説があったのですが、
一般論としては、
現在そうした可能性は否定されていると思います。

ただ、免疫の仕組みが完全に解明されてはいない以上、
全くそうしたことがない、
と断言することは難しいのではないかと思います。
by fujiki (2012-03-07 08:31) 

ぷくりん

石原先生

お返事いただきましてありがとうございます。
先生のおっしゃることは私なりに分かりました。

実は、私の周りの医療関係者(医師や看護師)は、自分の子どもには子宮頸がんワクチンを受けさせないという方が多いのです。「ワクチンを受けているからと安心してガン検診を受けなくなることの方が問題」「将来的にワクチンの影響で子宮頸がんが増えるのではないか」というのがその理由です。

ワクチンなら何でもかんでも反対されている団体がありますが、考え方が偏っているように思え、信用できません。
でも、「子宮頸がんを予防できるワクチンができたからみんな必ず接種しましょう」と何の迷いもなく勧めるお医者様も製薬会社の説明を鵜呑みにされているようでやはり信用できません。

石原先生は、データに基づいて何でも客観的に判断されているので、信頼しています(素人が生意気ですみません)。

最終的には私が決めることだと思いますが、もし先生に思春期の娘さんがいらっしゃったら、子宮頸がんワクチンを接種されますか。

by ぷくりん (2012-03-07 20:27) 

ぷくりん

先生こんばんは。
時々質問させていただきますが、その都度ご丁寧にお返事いただきありがとうございます。

お忙しいところ申し訳ありませんが、また教えてください。
今日、サーバリックスの重大な副作用で、長期間に渡って苦しんでおられる方がおられるとのニュースを見ました。
うちは悩みながらもガーダシルを2回接種し、あと1回残すのみとなりましたが、ここに来てまた心配になってきました。

それでネットで調べていると、ガーダシルを接種した副作用でSLEを発症した人が何人もあるという情報を見つけました。なんでも、抗原を何度も過剰に体に入れることにより、免疫が異常な反応を起こすらしいです。
メルク社の副作用情報にはそのような記載はないように思うのですが、実際のところはどうなのでしょうか。

by ぷくりん (2013-03-08 19:40) 

fujiki

ぷくりんさんへ
通常の感染より強く免疫誘導を行なうので、
そうした危惧は常に存在していると思いますが、
現時点で証明されたものではないと思います。
接種時期と膠原病の発症時期とは、
重なっていますから、
接種後に膠原病を発症した事例は、
確かに複数あると思いますが、
その因果関係の判断は非常に難しいところではないかと思います。

こうしたワクチンを強く推奨される専門家の方は、
「○○年までに子宮頸がんの発症をゼロにする」
のような将来的な世界観を持って、
お話しをされていると思うので、
小さなリスクや現時点で不明の点のあるメカニズム、
現時点で不明の有害事象の可能性などについては、
はなから問題視はされていません。

ただ、
接種される方とそのご家族の方は、
そうした専門家と同じ考えを持つ必要は、
必ずしもないと思いますので、
独自にご判断されて、
何の問題もないと思います。

個人的には、
2回接種されたのであれば、
3回目は矢張り接種した方が、
確実な効果が望めると思いますし、
仮に免疫の過剰な賦活の弊害があるとすれば、
2回で留めても3回の接種をしても、
その接種毎の有害事象を除けば、
あまり変わりがないと考えて頂いて、
良いのではないでしょうか。
by fujiki (2013-03-09 08:19) 

ぷくりん

おはようございます。
さっそくお返事いただきましてありがとうございます。
少し心配ですが、もう2回接種していますし、やはりあと1回は受けさせようかと思います。

それと、もう一つだけ教えてください。
現在、花粉症の症状が強く出ていますが、このようなときに予防接種をすると、免疫系がおかしくなって副反応が強く出るということはありますか?心配しているのは先に質問させていただいた膠原病などの自己免疫疾患になってしまうことです。

by ぷくりん (2013-03-09 08:39) 

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