HbA1cを下げると心臓死が増えるのか? [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
東京は朝から結構本格的な雪です。
でも、パウダースノーですね。
それでは今日の話題です。
今日は糖尿病の話題です。
糖尿病は特有の目や腎臓、
神経の合併症があるばかりでなく、
動脈硬化を強力に進めることによって、
心筋梗塞や脳梗塞の発症を増やし、
現在の大きな死因の、
遠因ともなっています。
ここまでは間違いのない事実です。
さて、糖尿病の治療は、
血糖値を下げることにその主な目標があります。
インスリンが使用出来るようになるまでは、
「糖尿病性昏睡」が、
糖尿病の患者さんの一番の亡くなる原因でした。
血糖値がたとえば1000mg/dl というような状態が続くと、
血液は高度の酸性になり、
昏睡状態になって呼吸は止まってしまいます。
インスリンの注射を使用することで、
この危険が回避されました。
今では「糖尿病性昏睡」で亡くなる方は、
少なくとも適切な治療を受けていれば、
皆無に近いと思います。
これは間違いなく医療の大きな進歩です。
その次に糖尿病の患者さんで亡くなる原因となったのは、
腎臓の働きが悪化することによる、
腎不全での死亡です。
これは透析という技術の進歩により、
まだ不充分な形ではありながら、
少なくともすぐ死に繋がる、
というような危機的な状況からは離脱が可能となりました。
そして、ここで注目されたのが、
所謂糖尿病の「合併症」です。
皆さんも良くご存知のように、
糖尿病特有の合併症として、
小さな血管の障害があり、
その結果として、
腎臓の働きが悪くなります。
それでは、治療を駆使して血糖値を下げれば、
この腎臓の障害は起こらなくて済むのではないでしょうか?
その仮定のもとに、
飲み薬やインスリンを駆使して、
ともかく少しでも多く血糖を下げ、
糖尿病のない人の血糖に近付けよう、
という治療が始められました。
この時の血糖のコントロールの指標として、
血糖値そのものより重視されたのが、
HbA1c という数値です。
これはグリコヘモグロビンとも言われ、
血糖が高いことで変性したヘモグロビンという物質を、
その変性した比率で測定したものです。
当然血糖が高いほど、
その比率も高まります。
ヘモグロビンが分解されて新しく入れ替わるのに、
120日くらい掛かるので、
そこから推測してこの数値は、
大体2~3ヶ月くらいの、
血糖のコントロールを示していると、
考えられています。
この数値が5.7%くらいまでが正常範囲で、
6%を超えると糖尿病の疑いが強くなります。
僕が国際糖尿病学会に出席していた頃、
そうした臨床研究の結果がまとまり、
この数値が7.5%以上になると、
合併症が進み易くなり、
逆に6.5%以下だと進行が抑えられる、
という結果が出ました。
それを元に現在日本糖尿病学会では、
HbA1c が6.5%未満を、
コントロール良好としています。
ここまでも、一応確立した事実です。
さて、現在糖尿病の患者さんで、
一番亡くなられる原因として多いのは、
心筋梗塞です。
海外ではこれが圧倒的ですが、
日本では脳梗塞の多いことにも、
その特徴があります。
そのいずれの病気も、
動脈硬化が原因として起こります。
糖尿病は最も強力に動脈硬化を進める因子ですが、
その原因にはまだ不明の点も残っています。
1つのポイントは、他の合併症が進まないくらいの血糖値でも、
動脈硬化だけは進む場合があることです。
ただ、糖尿病のあるなしで動脈硬化の進み方は違い、
糖尿病とは血糖の上昇する病気なのですから、
血糖値を正常に近付ければ、
すなわちHbA1c を正常に近付ければ、
動脈硬化も進まないだろう、
と多くの研究者は考えました。
それで、持ち得る薬剤を駆使して、
血糖を下げる治療が行なわれたのです。
少しでも血糖が低く、
少しでもHbA1c が低いのが正しい、
というのが、その基本的な理念です。
それを立証するために、
アメリカで大規模な臨床試験が行なわれました。
その結果が発表されたのが、2年前のことです。
ところが…
平均のHbA1c が8%という、
比較的コントロールの悪い患者さんを対象とし、
血糖を強力に下げる治療をしたところ、
理想的な6%未満をターゲットとした群で、
却って心臓病の死亡率の上昇が認められたのです。
その結果、この臨床試験は途中で中止されました。
何故こんなことが起こったのでしょうか?
つまり何でもかんでも血糖が下がれば、
それでOKではないのです。
HbA1c は、血糖コントロールの指標でありますが、
それは糖尿病における死亡を減らすための指標ではなく、
その両者は分けて考える必要があるのです。
ちょっと長くなりましたので、
そのもう少し詳しい分析は、
明日に続けたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
東京は朝から結構本格的な雪です。
でも、パウダースノーですね。
それでは今日の話題です。
今日は糖尿病の話題です。
糖尿病は特有の目や腎臓、
神経の合併症があるばかりでなく、
動脈硬化を強力に進めることによって、
心筋梗塞や脳梗塞の発症を増やし、
現在の大きな死因の、
遠因ともなっています。
ここまでは間違いのない事実です。
さて、糖尿病の治療は、
血糖値を下げることにその主な目標があります。
インスリンが使用出来るようになるまでは、
「糖尿病性昏睡」が、
糖尿病の患者さんの一番の亡くなる原因でした。
血糖値がたとえば1000mg/dl というような状態が続くと、
血液は高度の酸性になり、
昏睡状態になって呼吸は止まってしまいます。
インスリンの注射を使用することで、
この危険が回避されました。
今では「糖尿病性昏睡」で亡くなる方は、
少なくとも適切な治療を受けていれば、
皆無に近いと思います。
これは間違いなく医療の大きな進歩です。
その次に糖尿病の患者さんで亡くなる原因となったのは、
腎臓の働きが悪化することによる、
腎不全での死亡です。
これは透析という技術の進歩により、
まだ不充分な形ではありながら、
少なくともすぐ死に繋がる、
というような危機的な状況からは離脱が可能となりました。
そして、ここで注目されたのが、
所謂糖尿病の「合併症」です。
皆さんも良くご存知のように、
糖尿病特有の合併症として、
小さな血管の障害があり、
その結果として、
腎臓の働きが悪くなります。
それでは、治療を駆使して血糖値を下げれば、
この腎臓の障害は起こらなくて済むのではないでしょうか?
その仮定のもとに、
飲み薬やインスリンを駆使して、
ともかく少しでも多く血糖を下げ、
糖尿病のない人の血糖に近付けよう、
という治療が始められました。
この時の血糖のコントロールの指標として、
血糖値そのものより重視されたのが、
HbA1c という数値です。
これはグリコヘモグロビンとも言われ、
血糖が高いことで変性したヘモグロビンという物質を、
その変性した比率で測定したものです。
当然血糖が高いほど、
その比率も高まります。
ヘモグロビンが分解されて新しく入れ替わるのに、
120日くらい掛かるので、
そこから推測してこの数値は、
大体2~3ヶ月くらいの、
血糖のコントロールを示していると、
考えられています。
この数値が5.7%くらいまでが正常範囲で、
6%を超えると糖尿病の疑いが強くなります。
僕が国際糖尿病学会に出席していた頃、
そうした臨床研究の結果がまとまり、
この数値が7.5%以上になると、
合併症が進み易くなり、
逆に6.5%以下だと進行が抑えられる、
という結果が出ました。
それを元に現在日本糖尿病学会では、
HbA1c が6.5%未満を、
コントロール良好としています。
ここまでも、一応確立した事実です。
さて、現在糖尿病の患者さんで、
一番亡くなられる原因として多いのは、
心筋梗塞です。
海外ではこれが圧倒的ですが、
日本では脳梗塞の多いことにも、
その特徴があります。
そのいずれの病気も、
動脈硬化が原因として起こります。
糖尿病は最も強力に動脈硬化を進める因子ですが、
その原因にはまだ不明の点も残っています。
1つのポイントは、他の合併症が進まないくらいの血糖値でも、
動脈硬化だけは進む場合があることです。
ただ、糖尿病のあるなしで動脈硬化の進み方は違い、
糖尿病とは血糖の上昇する病気なのですから、
血糖値を正常に近付ければ、
すなわちHbA1c を正常に近付ければ、
動脈硬化も進まないだろう、
と多くの研究者は考えました。
それで、持ち得る薬剤を駆使して、
血糖を下げる治療が行なわれたのです。
少しでも血糖が低く、
少しでもHbA1c が低いのが正しい、
というのが、その基本的な理念です。
それを立証するために、
アメリカで大規模な臨床試験が行なわれました。
その結果が発表されたのが、2年前のことです。
ところが…
平均のHbA1c が8%という、
比較的コントロールの悪い患者さんを対象とし、
血糖を強力に下げる治療をしたところ、
理想的な6%未満をターゲットとした群で、
却って心臓病の死亡率の上昇が認められたのです。
その結果、この臨床試験は途中で中止されました。
何故こんなことが起こったのでしょうか?
つまり何でもかんでも血糖が下がれば、
それでOKではないのです。
HbA1c は、血糖コントロールの指標でありますが、
それは糖尿病における死亡を減らすための指標ではなく、
その両者は分けて考える必要があるのです。
ちょっと長くなりましたので、
そのもう少し詳しい分析は、
明日に続けたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2010-02-18 07:56
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コメント(2)
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東京も雪ですか。
きっと電車が止まって、転ぶ人が続出しているのでしょうね。
北海道も今日は朝から雪。同僚の上京者は帰って来れるでしょうか。
心配しています。
by hikkabouya (2010-02-18 14:49)
hikkabouya さんへ
コメントありがとうございます。
朝は少し積もっていて驚きましたが、
9時頃には止んだので、
それほど積もりませんでした。
今はもう消えています。
by fujiki (2010-02-18 22:08)