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「ラニナミビル」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から検診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日はインフルエンザウイルス感染治療で初の注射剤、
「ラピアクタ」の話をしました。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2010-01-27

今日は2月1日に厚生労働省に承認申請の出された、
もう1つの新薬、「ラニナミビル」の話です。

この薬は第一三共製薬の製品で、
日本企業が創製した、
初めてのインフルエンザの新薬です。

注射薬の「ラピアクタ」も報道では、
日本発の薬と紹介されているので、
ちょっとややこしいのですが、
「ラピアクタ」は元々はアメリカの企業から、
その権利を買った商品なので、
純粋に開発から日本企業が行なった、
という薬剤とは違うのです。

従って、純粋な意味では、
今回申請が出された「ラニナミビル」が、
初めての日本発の新薬、ということになる訳です。

この薬はリレンザやタミフルと同じ、
「ノイラミニダーゼ阻害剤」です。
人間の細胞に侵入してその中で増殖したウイルスが、
細胞の外に出るのを妨害する薬です。
使用法は吸入ですから、
この点はリレンザと同じです。

では何処がリレンザと違うのかと言うと、
リレンザの5日間の使用と同等の効果が、
1回の吸入で済む、というところにあります。
その気道や肺におけるウイルスに対する効果は、
動物実験のレベルでは、
タミフルの10倍である、
とされています。

これまでに明らかになっている臨床試験の結果では、
タミフルを連続使用したよりも、
この薬を1回吸入した方が、
効果的であったとされています。

ただ、これは「ラピアクタ」と同様に、
インフルエンザの症状が治まるまでの期間が、
やや短縮した、という結果に過ぎないものです。

大半の新型インフルエンザは、
現状では軽症のままで治癒します。

従って、その症状の出る期間が、
多少短縮したところで、
それほど大きなメリットが、
使用する方にあるとは思えません。

問題は一部の患者さんに起こる、
ウイルス肺炎や脳症などの、
重篤な合併症や重症化であり、
それをこの薬剤を使用することにより、
予防したり治したりすることが可能であるのか、
ということにあります。

この点に関しては、
その効果はまだ未知数だ、
と言わざるを得ません。

この薬は通常の「長く効く薬」と同様のメカニズムで、
薬の設計が成されています。

要するにリレンザにかなり良く似た骨格に、
わざわざ長い尻尾のような余計な部分
(脂肪酸の側鎖というのがより正確な表現です)
がくっついていて、
身体の中に入ると、
その尻尾が外れて、
その作用を「じわじわと」表わす、
という仕組みです。

ただ、長く効く薬は、
仮にその副作用が出現した場合には、
その影響も長く残る、
という欠点が当然あります。
従って、注射剤のようなリスクはないにしても、
その副作用のリスクは、
やや多目に見積もった方が、
より適切ではないか、
と僕は思います。

短い効きの薬の方が、
当然より安全性は高いのです。
この鉄則は忘れてはならないことだと思います。

この薬の発売には、まだもう少し時間は掛かりそうですが、
「ノイラミニダーゼ阻害剤」というタイプの薬剤については、
これで一応のラインナップが揃った、
という言い方は出来そうです。

短期作用型の飲み薬であるタミフルに、
同じく短期作用型の吸入薬であるリレンザ、
注射薬のラピアクタに、
長期作用型の吸入薬である「ラニナミビル」です。
これに、発売はまだもう少し先になりそうですが、
細胞内部での増殖を抑える、
という新しいタイプの飲み薬である、
これも国産のファビピラビルが控えています。

今後の問題はこれらの薬剤を使用して、
果たしてインフルエンザの稀な重症化を防ぎ得るのか、
ということであり、
今後予想される「強毒性」のウイルスに対しての有用性が、
果たしてあるのか、ということになります。
また、どのくらいの用量が、
重症例では必要となるのか、
という検討も必要です。
現時点でのこうした薬剤の効果は、
あくまで「症状のなくなるまでの時間」が短縮する、
という効果のみでの判定なのであり、
たとえば重症肺炎の治療に、
それだけの量が必要か、
というような検討は、
実際には全くされてはいないからです。

今日はインフルエンザの新薬の、
現時点での総説をお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

iyashi

抗生剤でいえばジスロマックのような感じですね。吸入剤という点では違いますが。
長時間作用型の薬剤は副作用が発生した時大変ですよね。
by iyashi (2010-02-08 13:53) 

a-silk

今朝の朝食は、口を大きく開かず、飲み込みも悪く、食事に時間が掛かり、またもや、イライラしてしまいました。

帰宅して、「ゆっくりでも、必ず回復されると僕は思います。」という先生のコメントを見て、ほんとに元気をいただき、勇気づけられました。

やはり、お医者さんの言葉は、重いですね。

今夕の母は、大きく口を開き、飲み込みは痰が絡んだりしてイマイチでしたが、朝よりよくなっていました。

今の病院は良い病院ですが、出来れば、母の89歳の誕生日は老健で迎えたいです。

明日からまた、頑張れそうです。

ありがとうございます。
by a-silk (2010-02-08 20:44) 

fujiki

iyashi さんへ
確かにそんな感じですね。
長時間作用型の吸入剤というのは、
僕はあまり優れた薬とは思いません。
リレンザの使い難いケースで、
2番手として考えるべきではないか、
という気がします。
by fujiki (2010-02-08 22:49) 

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