SSブログ

胃食道逆流症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は「胃食道逆流症」の話です。

胃食道逆流症とは、
英語のgastro-esophageal reflux disease の訳語で、
略して、GERDと呼ばれています。

よく胃酸が口に上がって、
口が苦いとか、胸焼けがするとか、
げっぷがする、といった症状がありますね。
これは通常何らかの原因で、
胃酸や時には十二指腸液が、
食道や時には口鼻まで逆流することによって、
起こる症状です。

このように、胃の中の物が、食道に逆流することによって、
不快な症状や合併症の起こるものを、
総称して「胃食道逆流症」と呼んだのです。

この病名は2006年に提唱された比較的新しい呼び名で、
それまでは「逆流性食道炎」の名称が一般的でした。
ただ、逆流性食道炎と言うと、
胃カメラで検査をして、食道に炎症が認められるものだけを指すのですが、
実際には胃カメラで食道の変化がはっきりしなくても、
症状のあるケースがあり、
「非びらん性胃食道逆流症」、と呼ばれています。
また、逆流により、
食道の粘膜の一部が、
胃の粘膜に近い形に変化する、
「バレット食道」と名付けられた現象もあります。
こうした病態を含めた総称が、
「胃食道逆流症」なのです。

この病気は欧米に多く、
日本には比較的少ないものとされていました。
しかし、最近ではその頻度は日本で急増し、
欧米とあまり変わらない水準になっています。

その理由が何かを考えるには、
この病気の原因を考える必要があります。

何故胃の内容物が、食道に逆流するのでしょうか?

シンプルに考えれば、
それは食道の出口、つまり胃の入り口に異常があるからです。

皆さんが食事をする時、
食べ物を飲み込むと同時に、
食道の下部にある括約筋が弛みます。
すると、胃の入り口が開いて、
食べ物はするりと胃の中に入るのです。

問題は食べ物を飲み込む時以外にも、
括約筋が弛むことです。
たとえば、寝ている時に括約筋が弛めば、
当然胃液は逆に流れて、
口の方に上がって来ます。

この弛みの原因にも幾つかの種類があって、
消化の悪いものを大量に食べると、
胃が異常に拡張し、
副交感神経が緊張して、
括約筋が弛む場合があります。
つまり胃が膨れると、一種の危険信号が発令され、
場合によっては簡単に吐けるように、
胃の入り口が弛むのです。
食べ過ぎたり、炭酸飲料を飲むと、
げっぷが出ますね。
これは、胃の中のガスが、
口まで上がって来る症状です。
この時には、当然括約筋は緩んでいるのです。
要するに、胃がある程度拡張されると、
括約筋が弛んで、
胃液は食道に逆流します。
従って、食べ過ぎが続けば、
胃酸の逆流が起こり易くなるのです。

肥満の悪影響はこればかりではありません。
沢山食べて内臓脂肪が増えると、
胃の圧力は高まります。
胃の中の圧力が、括約筋の圧力を超えれば、
別に括約筋に弛みがなくても、
胃液は食道に逆流します。
これが繰り返されれば、
結果として、括約筋の弛みが生じます。

更には脂肪を多く摂ると、
胃の動きが悪くなり、
同様に括約筋が弛緩し易くなることも知られています。

ただ、括約筋の弛みが起こっても、
胃酸が強力でなければ、
直接食道に障害を与えることは少ない筈です。

従って、胃食道逆流症のもう1つの原因は、
胃酸が強い、ということにあります。

脂肪を多く含む食事や大食いは、
結果として酸の出を強くします。
また、胃癌や胃炎の誘因となるピロリ菌は、
基本的に胃酸を抑えているので、
ピロリ菌がいない人は、
胃酸の出は強くなるのです。

つまり日本で胃食道逆流症が増えた原因は、
1つは食生活の欧米化と、
肥満が増えたこと、
そしてもう1つは皮肉なことに、
ピロリ菌の感染した日本人の比率が低下したことです。

では、胃食道逆流症には、
どのような問題があるのでしょうか?

まず食道の炎症が続けば、
食道の粘膜が荒れ、時には出血したり、
潰瘍を作ったり、それを繰り返して、
食道が狭くなったりする場合があります。
また、「バレット食道」と呼ばれる変化は、
食道癌の原因として知られています。

胃食道逆流症は不眠や気管支喘息、
睡眠時無呼吸症候群とも、
かかわりが深いと考えられています。
また、中耳炎の原因が胃食道逆流症ではないか、
という説もあります。
原因はまだ不明の部分が多いのですが、
たとえば、気管支喘息の患者さんの5割以上は、
胃食道逆流症を持っているとの統計が複数あり、
これは偶然とは考えられません。
そして、おそらくは主に夜間の胃液や腸液の、
のどや気管支、中耳への侵入が、
その誘因ではないかと考えられているのです。
そして、実際、胃食道逆流症の治療後に、
喘息や中耳炎が改善した事例も複数報告されています。

胃食道逆流症の治療は、
主に胃酸を抑える薬を飲むことです。
通常、「プロトンポンプ阻害剤」
と言われるタイプの薬剤を使用します。
ただ、これはあくまで酸を抑えて、
逆流を減らすだけの効果で、
決して逆流自体を防止する訳ではありません。
重症例は手術を必要とすることもあります。
また、何より重要なことは、
脂肪の摂取を避け、食べ過ぎを避けて、
肥満のある方は、体重のコントロールをすることです。

今日は「胃食道逆流症」の概説でした。
明日は実際の胃カメラの画像を見て頂きます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 2

ばくちゃん

初めまして。田舎の医療法人系グループホームで勤務しています、介護職員です。
アリセプトで、検索していたら記事にめぐりました。
実は、うちの独りの医者が、薬大好きで。
80代の男性アルツハイマーではありません。認知症の診断は受けていますが・・
アリセプトを長い間飲んでいましたが、病院が変わり認知症も進みまあ、骨折が原因で入院したのですが、帰って来て!。
薬漬けにされていたのか、目はトローン、歩けない、発語もない。
現場では、早くもとの姿に戻してあげたいとリスパは中止。
先生に言った所、とんぷくとして使えと言われましたが・・・・
やっと、今は杖歩行で歩けるようになったのです。
私たちは、無駄な?薬を辞めて欲しいと常々言ってました。
アリセプトは、高い薬です。
飲んだらよけい興奮状態になる男性に投薬しつづけても意味があるのか?
先生に再三お願いしたものの処方され続けています。
で、職員が飲まさなかった事があり・・・
このことで、私は先生より現場の人間が色々口出しをするのが気に喰わない、言うなと言われました。
しかし、現場で介護している私たちが薬漬けにされて本来の人間らしさがなくなるのがこわいと言っているのです。
医療と介護の現場での情報提供やともによくしていこうという気持ちが感じられません。むなしくなって・・・すいません。はじめてでこんなに長く。医者が皆同じではないと思っていますけれど。
by ばくちゃん (2009-10-21 10:15) 

fujiki

ばくちゃんさんへ
コメントありがとうございます。
難しい問題ですね。
アリセプトの効果は判断し難い部分があり、
認知症の進行予防のためと、
使用し続ける医者の気持ちも、
理解は出来ます。
ただ、介護の方の方がより長い時間、
ご本人に接している訳ですし、
その判断はより尊重されるべきだと思います。
一旦中止して経過を見ても悪くないのではないか、
という気がします。
その先生も、意固地になっている面はあるのではないかと思います。
一度担当のスタッフ全員で、
じっくり相談出来るような機会があればいいのですが…
医者はプライドの動物なので、
プライドに配慮してうまくあしらえば、
意外と素直に考えを変えたりするものです。

ただ、僕自身も老人ホームに関わっていますが、
スタッフに同じように言われているかも知れません。
人間はどうしても立場によって、
考えを硬直させるものなので、
難しいところだと思います。
by fujiki (2009-10-21 16:21) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0