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研究のためのお金の話 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻ります。

それでは今日の話題です。

昨日、一昨日の2日は、
癌に関する、やや杜撰と思える統計データについて、
僕なりの検証をお届けしました。

今日は何故こうしたデータが、
比較的頻繁に、鳴り物入りで報道され、
確定した事実のように扱われるのか、
という点についての、
僕なりの考えをお話したいと思います。

政治家にお金が必要なように、
医学研究者にもお金が必要です。

そのお金の多くは、
科学研究費と呼ばれる厚生労働省からの補助金と、
製薬会社や医療機器メーカーからの、
研究費で当てられます。
科学研究費というのは要するに税金です。
通常毎年1度、募集があり、
研究計画やそれまでの実績を文書の形でアピール。
それを元に審査が行なわれ、
そのうちの一部が認められ、
金額も国が決めて、拠出される仕組みです。

僕も大学にいた時に、
1度だけ応募したことがあります。
勿論認められませんでした。
冷たく却下ですね。
お前ごときに税金を使って研究などさせてやるものか、
という訳です。
大学の上の先生もその年によって、
認められたり、認められなかったり、
といった感じでした。

建前としては、
研究内容が平等公正に審査され、
より世の中の役に立ったり、
有意義だと判断されるような研究に、
お金が配分されることになっています。

ただ、皆さんも薄々お感じになるように、
こうした税金の配分が、
公正に行なわれるのは極めて稀なことです。
厚生労働省には、多くの関連研究機関があります。
また、当然OBが天下りしているような研究機関もあります。
その中には、こんな研究機関が、
どうして必要なのだろう、
と疑問に思うものが沢山あります。
そして、そうした機関の、
どう考えても怪しげだな、
と思うような研究に、
かなり巨額の税金が、
研究費として認められているのです。
要するにお手盛りなのですね。

たとえば、
厚生労働省のホームページを見ていたら、
「癌臨床研究に不可欠な症例登録を推進するための患者動態に対する研究」
という長たらしい研究が認められています。
一体何をするのでしょうか?
推測するところ、
癌の患者さんにアンケートを取って、
それを解析するだけの研究のようです。
研究期間は3年間。
認められた研究費は、
何と1400万円以上です。

ね、おかしいでしょ。
何でただのアンケートに、
1400万円も税金を使わなければいけないのでしょうか?
その積算の根拠は何なのでしょうか?

研究を進めるためではなく、
要するに天下り団体に、
多くの税金を投入するために、
こうした研究費が使われているのではないか、
という内幕が何となく透けて見えます。

研究費が支給されると、
その報告の義務が生じます。
これはまあ、当たり前のことですね。
本来は論文を書き、
それを一流の雑誌に掲載することが、
適切な報告のあり方の筈です。

しかし、通常それが必須ではありません。
簡単な報告書があれば、
それで充分なのです。
元々他愛のない内容で許可されているのですから、
内容の薄味のものでいい訳です。
ここにもお手盛りの実態が窺えます。

誤解のないように追加しますと、
昨日お話した肝臓癌のデータは、
海外のそこそこの雑誌に、
論文が掲載済みです。
その意味では成果をきちっと出している訳です。
しかし、実体はそのレベルのことも、
していないような研究が他に幾らもあるのです。

ただ、結果が出たぞ、というアピールは、
必要です。
そのために利用されるのが、
お馴染みのマスメディアです。

つまり、
「万能ワクチンが開発されそうだぞ」
とか、
「漢方薬が認知症に効くメカニズムが分かったぞ」
というような報道が、
格別論文が出た訳でもないのに、
時々大きな記事になるのは、
それを読む皆さんの役に立つように、
という訳ではなく、
厚生労働省に対して、
しっかり研究して結果を出していますよ、
次もお金をよろしくね、
というアピールなのであり、
それは結局国民に対して、
税金は無駄に使ってはいないのですよ、
というアピールでもある訳です。
わざわざいつも「厚生労働省研究班」のように書かれているのは、
そのためのアリバイ作りなのです。

よろしいでしょうか。

研究にはまた流行りがあります。

たとえば、役所が「癌対策に力を入れます」
とか、
「肝炎対策に力を入れます」
と言いますよね。
皆さんは多分これも素晴らしいことだ、
と思われるでしょう。

でも、こうしたアピールをする時には、
研究費はその多くが癌と肝炎の研究に使われる、
ということを示しているのです。
ここで天下り先の研究機関の先生は、
ちゃっかり肝炎や癌関連の研究を、
申請するのです。
中身なんてどうでもいいのです。
たとえば、
「肝炎の長期予後についての疫学研究の精度についての研究」
なんて、名前を付ければ、
前に取った疫学調査のデータを、
計算し直せば、
それだけで済むことになってしまいます。
それでまた1000万以上のお金をもらい、
結果がまとまったら、
馴染みのマスメディアに、
面白そうな記事にしてもらえばいいのです。

その一方で、
癌や肝炎とは無関係だけれども、
本当に身を削って、
真摯に研究を続けている研究者の研究が、
流行りものではない、
という理由だけで却下されてしまうのです。
国がちょっとした旗振りをすると、
多くの本当に有意義な研究が、
犠牲になってしまうのです。

ここで、昨日の研究の内容をもう1度お考え下さい。
元になっているのは何年も前の古いデータです。
それをちょちょいと変形して、
肝臓癌に関わるデータをひねり出したのです。
これは素晴らしいウルトラCで、
肝炎と癌の両方に関わっているのです。
つまりどちらの研究としても、
申請が可能だということです。

さすが、日本の最先端の研究機関の判断は巧みです。
「税金をうまく頂く方法」みたいな、
面白本でも出版してもらいたいくらいです。
この本は、多分空前のベストセラーになりますね。

このようにして、
殆どお金の掛からないような研究に、
おそらくは巨額の税金が投資されているのです。

勿論アンケートだって、真面目にやれば、
お金は掛かります。

ただ、こうした事実があります。

先日、僕の所に製薬会社の医療情報担当の方が、
お見えになりました。
薬の宣伝なのかと思ったら、
そうではなく、
ある著名な研究機関の研究に使う、
アンケートを患者さんに取ってもらえないか、
というのです。
勿論報酬などはありません。
医学の進歩に意義のある研究だから、
無償で協力しろ、
と言うのです。
アンケートに協力してもらう患者さんにも、
報酬はありません。
しかも、そのデータは、
僕が自分のパソコンを使って、
その研究機関のサイトに、
入力しろ、と言うのです。

今までの話をお読みになれば、
皆さんにもこのからくりがお分かりになりますよね。
研究機関の大先生は、
自分の手下という認識の製薬会社の担当者に命じて、
アンケートを集めさせているのです。
それを更に個別に受け持つのは、
僕のような末端の医者で、
それから僕に頼まれた何も知らない患者さんです。
データは僕が入力するのですから、
大先生の仕事は、
入力済みのデータを、
ちょちょいと解析するだけです。
(多分その解析作業も別の人間の分担です)
殆どお金の掛かっていないこの研究は、
その大先生のみの業績となり、
おまけに巨額の研究費が税金から使われる仕組みです。

全てのこうした研究が、
このように行なわれているとは言いません。
しかし、公共工事と同じように、
どう考えてももっとお金が掛からない筈の研究に、
結構高額な予算が付いていることは、
間違いのない事実だと思います。

僕の現時点での考えはこうです。
患者さんを調査してその経過を分析したり、
健康診断の受診者を長期観察して、
病気のリスクを判断したりすることが、
有意義な研究であることを否定はしません。
しかし、これだけ国の財政事情が悪い現在、
そうした研究には税金を使用しない選択が、
望ましいのではないでしょうか。
マスメディアはそうしたデータを流用して、
多くの健康番組を作っているのですから、
マスメディアが出資して「疫学センター」のような施設を作って、
そこで一貫してこうした研究をしても良いのではないか、
と僕は思います。

数日前に、
人間型ロボットがファッションショーに出演、
とのニュースがありましたね。
政府系研究機関の産業技術総合研究所が、
3年間の期間と2億円以上の予算を使って、
開発したのだそうです。
こういうニュースに、
僕は最近素直に喜べないのです。
2億円は要するに税金でしょ。
こういうロボットは民間の機関でも、
研究開発され、
実用化もされていますよね。
それなのに、巨額の税金を使って、
同じようなものを作る必要性があるのでしょうか。
数千万円で販売を考えている、
とのことですが、
そんなものに買い手がつくのでしょうか?

研究費というのは、
結局隠れた補助金であり、
公共事業なんですよね。
もう少し配分を考え、
天下り機関の延命を図る用途に使われるようなことは、
避けて欲しいと切に願います。

皆さんはどうお考えになりますか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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