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続・納豆を1パック食べると癌になるのか? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日は最近報道された、
「大豆を摂り過ぎると肝臓癌に成り易い」、
という研究に対する疑問についての話でした。

今日はこの研究が、
どの程度の信用性のあるものなのか、
という点についての、
僕なりの検証です。

まず、研究のアウトラインについて、
報道から分かる範囲で見てみましょう。

対象は約2万人の開始当時中年から初老層の方で、
12年間追跡調査をしたところ、
そのうちのほぼ100人が肝臓癌になり、
その80パーセントはB型かC型のウイルス肝炎の患者だった、
ということのようです。

肝臓癌の多くが、ウイルス肝炎を母体としていることは、
実証された事実で、
このデータも、それを裏付けている訳です。

ですから、肝臓癌に対して、
この2万人を解析して、危険因子を計算するとすれば、
圧倒的にウイルス肝炎の存在が大きなものになり、
それ以外の因子は仮にあったとしても、
無視出来るくらいの数値になることが想定されます。
また、もう少し大きな括りで、
「肝機能障害」を危険因子として設定すれば、
それもまた大きなものになることが推測されます。

ここで報道を見てみると、
肝臓癌になった101人のうち、
32人が女性で、
納豆を3分の2パック以上摂っている人は、
摂らない人の3倍以上、
肝臓癌に成り易かった、
と記載されています。

ここではっきりしないのは、
この3倍という数字がどのようにして割り出されたのか、
ということです。
全体の人数は2万人ですが、
3倍の根拠になった女性の肝臓癌の患者さんは、
たった32人です。
しかもその8割の方は、
ウイルス肝炎の患者さんでもある訳です。
単純にリスクの計算をすれば、
納豆の量など、あまりに僅かな影響で、
吹き飛んでしまいます。

となると、肝炎の患者さんに限って、
リスクの分析を行なったのか、
統計的な1種のトリックを使って、
肝炎の影響は排除して、
全体の2万人(女性のみなので、実際は1万人程度です)
で発症のリスクを計算したのか、
そのどちらかということになります。

もし、肝炎の患者さんだけを対象にしたのであれば、
あまりに人数が少なく、
また肝炎の患者さんであれば、
治療も受けていた可能性が高いので、
その治療自体も、
当然肝臓癌の発生に、
大きな影響を与えます。
細かく言えば、追跡した12年間のうち、
どの時点で肝炎になったのか、
それとも最初から肝炎を持っていたのか、
によってもリスクは異なります。
従って、そうしたデータを全て考慮することは、
ほぼ不可能に近く、
そうである以上、
結論にも信憑性は乏しいと考えられます。

また、1万人で検証したとすれば、
余程特殊な処理をしなければ、
有意な結果が出るとは考えられません。

研究者の大先生もさすがに気がさしたのか、
報告の末尾には、
「症例数は少ないので、
今回の結果は偶然の可能性もある」
と書かれています。
語るに落ちるとはこのことで、
もしそうなら、
研究自体が無意味になってしまいます。

この研究内容は論文として既に発表されています。
本来は論文そのものに当たらないといけないのですが、
僕の立場では元の文献を取り寄せるのに、
結構コストが掛かるのと、
そのコストの一部は印税のように、
研究者にバックされるので、
それも何か腹立たしい気がして、
そこまではしていません。
ただ、研究機関のサイトにある報告と、
論文の要旨を見る限り、
僕がここに書いていることに、
そう間違いはないものと考えます。

あくまで推測になるのですが、
この2万人というのは、
おそらく健康診断のような検査を受けた方を、
その対象にしているものと考えられます。
毎年の健診ごとに、
食事内容や生活習慣の調査票を渡して、
記入してもらい、
それを集計して、
結果を出したものだと思います。

これは肝臓癌のみのための、
研究ではないことは明らかです。
多分皆さんもこれまでに、
「大腸癌にはこれこれが影響する」
とか
「これを食べると胃癌に成り難い」
といった報道に、
接したことがあるのではないかと思います。
そこに厚生労働省研究班と書いてあれば、
多分それは全てこのデータから、
計算され小出しにされた報告なのです。
(実際には何回かの区切りを付けながら、
同様の調査が継続され、
その度ごとに、こうした研究が、
山のようにひねり出されています)

しかし、こうした研究の精度を上げるのは、
そう簡単なことではありません。
癌の発生に影響する因子は、
勿論食事だけではありませんし、
遺伝子に関わるもの、
環境に関わるもの、
感染症に関わるものなど、
多種多様です。
勿論適切な統計処理をして、
ある因子がどれだけの重みで、
影響しているかを判断する訳ですが、
僕の疑問は、
アンケートレベルの調査で得たデータが、
果たしてこうした統計処理に、
耐え得るだけのレベルのものなのかどうか、
ということです。

特に食事の内容などというのは、
毎日でも変わってしまいます。
12年間も経てば、食事の嗜好も変わるでしょう。
たとえばある時点でアンケートを取り、
1日に納豆を1パック以上摂っている、
というデータが取れたところで、
それは12年間毎日納豆を食べていたことにはなりません。

しかも、報告の文面を見ると、
2万人全員にしている調査の内容は、
ただアバウトに1日どのくらいのものを食べているか、
といった調査でしかないのです。
要するに納豆や豆腐の量を、
個別に調べた訳ではないのです。
あくまでその中の限られた人数だけ、
個別の食事内容の調査をした、
と書かれているのです。
こんな杜撰なデータから割り出された、
たとえばイソフラボンの摂取量に、
一体どのような厳密性があるでしょうか。

そんなものは殆どない、
というのが僕の意見です。

もしこうしたデータを精度の高いものにするには、
対象となる方と契約をして、
ある方には納豆を必ず毎日1パック食べてもらい、
別の方には一切食べないでもらって、
それを12年間続けてもらわなければなりません。

海外ではこうした研究も行なわれていますが、
日本では薬以外でこうしたデータを、
長期間取るのは非常に困難であることが、
お分かり頂けるかと思います。

はっきり言えば、そうしたデータはありません。

せいぜい2週間くらい毎日納豆を食べてもらって、
血液などのデータを取ったり、
血液を流して、
「ほら、血がさらさらになりましたね」
というテレビの健康番組レベルの、
実験をするのが関の山です。

こうした粗雑な実験から分かることは、
納豆は身体に良さそうだ、とか、逆に悪そうだ、
といった、ある種のイメージであって、
それ以上のものではありません。
また、大豆の摂取量の調査をして、
必要な摂取量の推測をするには役立つでしょうが、
それが癌の発生に関与しているかどうか、
という厳密な事実の推定には不向きです。

以上をまとめるとこうなります。

2万人の方を12年間追跡したデータは、
非常に有意義なものではありますが、
個別の癌の発症と、
食事の成分との関係を調べるような、
細かい研究には本来不向きな方法です。
特に栄養調査の考え方と、
ある成分が癌化を促進しているのでは、
といった研究に扱うデータには、
基本的にその取り方に違いがあり、
それを強引に一緒に行なったところに、
無理があったのではないか、
と考えられます。

要するに、同じデータから、
あまりに多くの結論や報告を、
得ようとし過ぎているのです。

では何故そうしたことが起こり、
それがかなり軽率に、
大新聞やテレビで報道されるのでしょうか?

明日はその仕組みについて、
ちょっとお話したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

acco

☆ 石原先生こんばんわ ☆

納豆もお豆腐も大豆の加工食品なので、
イソフラボン以前に、主婦としては、
消泡剤・凝固剤・着色料等の添加物と
発癌性の関係の方が気になります。

今回槍玉に挙げられている大豆や果物は、
お野菜に比べて自給率が低いのも気になりました。
(重量ベースで、大体 大豆5%、果物40%、
お野菜80%前後で推移していたと思います。)
大豆は搾油等にも使われるので、
一概には言えませんが、
昨今の日本食の見直し運動に対して、
国産大豆の生産が追いつかないのかも?
と思っちゃいました。

輸入果物はポストハーベストも使うでしょうし、
ちょっと乱暴な言い方ですが、
厚労省は添加物や農薬の問題を棚に上げて・・・
という感じがしました。

by acco (2009-03-25 00:21) 

fujiki

accoさんへ
いつもありがとうございます。
研究というのは、ある意味命懸けでやるものだ、
と僕は思いますし、
命を削って研究をされている方を、
少数ですが、
知っています。
そう思って癌の疫学研究なるものを見ると、
僕にはどうも片手間仕事の感覚に思えてなりません。
ビタミンCや大豆を普通の量摂っただけで、
何倍も癌に成り易いなんて、
どう考えてもおかしいですよ。
報道を含めて、
研究の結果の検証は、
もっと厳密であるべきではないのかな、
という気がします。
by fujiki (2009-03-25 08:25) 

acco

2億円あったら、2万人の対象者に
各1万円の謝礼を払えますね (・∀・)ノ
食事内容と疾病の関係を調査するだけなら、
入札方式か何かで、民間に委託した方が
コストもバイアスも掛からない気がします。
対象として公務員さんに協力して貰えば、
10年単位のコホート研究も難しくないかも…。
何れにしても、
用意された結果を立証する為に、
研究費が支払われる体質は良くないですね。

by acco (2009-03-25 21:35) 

fujiki

そうですよね。
アンケート調査に毛の生えたようなものなら、
民間に任せて、入札しても、
何の問題もないという気がします。
全ての公務員と医療関係者が協力すれば、
(勿論国への貢献なので、無償でいい訳です)
あらゆるデータは集められますし、
お金も掛かりません。
by fujiki (2009-03-26 08:05) 

iyashi

納豆摂取→肝臓癌になりやすい........こじつけですね。
殆どの肝がんはウイルス性の肝炎→肝硬変→肝がんというのが常識ですですよね。
C型肝炎ウイルスが見つかり、その原因も明らかになって久しいのに、この様な無意味とも思われる研究の為に莫大な費用を使うのであれば、C型肝炎の患者さんに、有意義な治療が受けられるよう補助すべきではないでしょうか?
ウイルス性肝炎の治療にはかなり患者さんの負担が大きいですからね。
by iyashi (2009-03-26 16:17) 

fujiki

iyashiさんへ
コメントありがとうございます。
元々肝臓癌の誘因を調べるためのデータではないのに、
強引に肝臓癌の論文にしようとしたので、
無理があったのだと思います。
結果的にはたった32人の解析なのですから、
意味のある何かが出てくるとは思えません。
少なくとも税金を使ってやるような研究ではないですよね。

by fujiki (2009-03-26 20:29) 

バク

古今東西良く有る話ですよね。
一般人の多くの人は研究者は純粋にストイックに研究をしてると思ってるので、TVや新聞などで報道されると鵜呑みにしてしまう人が多いんですよね。
実際には研究はお金を出すスポンサーの意向が入ることが多く、また注目を集める為にセンセーショナルな話題や書き方をしてる事も多々なんですよね。
なので本来はある研究の結果が発表されたら、その後の後追い研究の結果を注目しなきゃならない。
後追い研究が全く別の結果なんて事はザラですからね。
by バク (2017-04-12 13:21) 

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