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花粉症と高IgE症候群の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日の花粉症の話を続けます。

花粉症とは、
花粉を始めとする抗原に対して、
身体の免疫系が異常な反応を示し、
本来よりも多くのIgEという抗体を作ることで、
鼻水や鼻詰まり、目の痒みや結膜炎を起こす、
一種の免疫過敏症です。

ですから、問題は杉などの花粉にあるのではなく、
そうした小さな物質の刺激に対して、
過剰な反応をする身体の仕組みそのものにある訳です。

IgEはリンパ球の作る抗体の一種です。

それでは、IgEが異常に増えると、
どういう不具合が起こるのでしょうか。

ここで、1つの興味深い病気があります。
その名は「高IgE症候群」。
先天的にIgEが過剰に作られる病気で、
原因となる遺伝子は最近特定されました。

高IgE症候群は、別名ヨブ症候群と呼ばれています。
その報告は比較的最近で、
1966年が最初です。
ヨブは旧約聖書「ヨブ記」の主人公。
敬虔なユダヤ教徒で神の恩寵を受けていたのですが、
悪魔が神に「ヨブが神を信じているのは、
ギブアンドテイクの関係だからだ」という意味のことを言ったので、
神はヨブに試練を与えるのです。
その試練の1つとして、
身体中に湿疹が出来、それが膿んで苦しむ病気に罹ります。
神が悪魔に命じて与えた疫病に近い症状だ、
という意味でヨブ症候群と名付けられたのです。

その症状は全身の痒みを伴う湿疹と、
細菌感染を繰り返すこと、
そして血液のIgEの上昇です。

この病気の患者さんは、
子供の頃から、全身の細菌感染症を繰り返し、
それも重症化します。
皮膚に膿が溜まったり、
肺炎や中耳炎を繰り返したり、
全身のリンパ腺が腫れ上がったりします。
また骨は脆く骨折を起こし易くなります。
普通皮膚が膿めば、
熱を持ちますが、
この病気の患者さんでは、
皮膚は冷たいままです。

何故こんなことが起こるのでしょうか?

1つのポイントは、
インターフェロンγという物質の存在です。
アレルギーを起こす免疫の仕組みを大雑把に言うと、
花粉や細菌のようなアレルゲンが身体に入ると、
それがヘルパーT細胞というリンパ球を刺激、
そのうちのTh2と言われる細胞からは、
IL4という物質が出て、
それがIgEを作らせる刺激になります。
その一方で、Th1と言われる細胞からは、
インターフェロンγが分泌され、
それはIgEを抑える方向に働くのです。

この病気では、
インターフェロンγが低下していることが分かっています。

そのために、抑えが効かず、
じゃんじゃんIgEが出て、
他の免疫の働きは抑えられてしまうのです。
更にインターフェロンγが足りないと、
しっかりとした炎症が起こりません。
従って、熱も出にくいし、
病気の治りも悪いのです。

では何故骨が脆くなるのでしょうか。
実はインターフェロンγは、
骨の壊れるのを抑える働きもあるのです。
それが機能しないので、
骨も脆くなる訳です。

ここで皆さんはあることに気付かれませんか?

最近の子供は風邪に罹ると治りが悪く、
よく中耳炎を起こします。
骨も脆くなって、骨折をし易くなります。
運動の能力も低く、
すぐに疲れます。

そうしたお子さんは、
往々にして、
アレルギー傾向を持ち、
アレルギー性鼻炎や花粉症にも悩まされています。

耳鼻科の先生に、
一年中お世話になっているお子さんも、
多いですよね。
そこでどんな薬が出るでしょうか。
そう、アレルギーを抑える薬と、
抗生物質です。

でも、ちょっと待って下さい。

上の症状は全て、
軽い「高IgE症候群」の症状で、
充分説明の付くものです。
(勿論病気としての「高IgE症候群」とは別物です。
僕が言いたいのは、
同じような免疫異常のメカニズムが、
所謂アレルギーの病気の背後には、
存在しているのではないか、
という推論です)

その本体は花粉でもなければ、
耳の中のばい菌でもありません。

免疫のシステムの異常により、
インターフェロンγが減少し、
IgEが過剰に産生。
その結果として、
中耳炎にも風邪にも罹り易く、
疲れ易く、アレルギーの鼻水にも苦しめられるのです。
抗生物質を使えば、
更に免疫は自然の働きを失い、
弱体化します。
解熱剤を使えば、
尚更免疫力は低下します。
抗アレルギー剤は免疫を抑え、
身体を冷やす薬です。
このうちのいずれも、
インターフェロンγを増やすどころか、
免疫全体を弱体化する役目しかありません。

アレルギーの時に、
一番強い薬は何ですか?
ストロイドでしょ。
ステロイドは免疫抑制剤です。
確かに増えすぎたIgEは抑えますが、
同時に免疫全体を弱体化させます。

要するに、今あるアレルギーの治療と称するものは、
一時的な症状を取る効果と引き換えに、
却って免疫異常は悪化させているのです。

僕の提案はこうです。

現時点でアレルギーに有効な治療はありません。
今ある治療はあくまで症状を取るだけのものです。
従って、必要最小限の量を、
最短の期間使うのが、
現時点での望ましい選択です。
中耳炎と風邪が治りにくいことと、
アレルギーは決して別のことではないのです。
最近模索されている免疫治療は、
その糸口には成り得るものです。
ただ、過信してはいけません。
免疫を賦活する薬は、
常に重篤な副作用を呼ぶものだからです。
僕達はまだ免疫の仕組みの全体像を知らないのです。

ヨブ記の最後では、
神自身がヨブの前に現れて、
人間が神の力を知ったと過信し、
それを侮る愚かさを諭し、
一緒に創造の時を作る喜びを語ります。
(僕はキリスト教徒でもユダヤ教徒でもないので、
この解釈は僕の個人的なものです)

神を試したヨブのように、
免疫の巧緻なシステムを、
人間の浅智恵で試すことは、
慎重を期すべきだと僕は思います。

今日は花粉症の原因についての、
1つの仮説の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

nao_san

アレルギーに対して知識のない私にも分かりやすい記事で、ためになりました。
先日わが息子のアレルギー反応が例年にも増して酷かったので、血液検査をしたところ、IgE数値に異常(高い)で、IgEって何?という事でこのページに辿り着きました。

息子は幼年期からアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎・中耳炎・聴力低下があり(極度の悪さではない)、数年にわたり耳鼻科通いをしておりました。点媚薬の他にひどい季節には飲み薬も併用でした。
今現在11歳。
普通の生活をしている子どもでは罹らないような反応による皮膚の炎症・蕁麻疹や微熱・すぐに疲れる等々、免疫力が弱っているとの見方をしていて正解だったということですね。

しかし、アレルギーを抑える薬は「免疫全体を弱体化させる」とのこと、驚きました。
病院で処方の際、強調すべきところでしょうが印象が薄くて…ともかく症状をやわらげるが先というところでしょうか。

結局、免疫力をあげる為には、抗アレルギー剤など出来る限り薬に頼らないほうが、より良いという事になる!?のですね。

by nao_san (2009-03-17 12:56) 

fujiki

nao_sanさんへ
コメントありがとうございました。
現状で根本的な治療がない以上、
症状を取る目的で、
必要最小限に抗アレルギー剤を使うのは、
止むを得ない選択だと思います。
ただ、長期の使用は極力避けるのが、
正しい考え方だと僕は思います。
身体に合う漢方薬があれば、
使用してみるのも1つの考えです。
また、月並みですが、
適度な運動で自律神経に刺激を与えるのも、
重要なことだと思います。
by fujiki (2009-03-17 20:51) 

nao_san

お返事ありがとうございます。
早速子どもと話合い、この1ヶ月は処方された薬で、
花粉季節が落ち着いてきたら、地道な対策に
切り替えようということにしました。
運動のほうはばっちりなので、漢方薬、頭においておきます。

ひとつ、もしかして?と思うことがあります。
糖分の過剰摂取もアレルギーの引き金となっているのではないか、と。

これは私の経験から感じることなのですが、
私も原因不明の皮膚のかゆみ(蕁麻疹と診断されました)と
何年も付き合っており、抗ヒスタミン剤を3日に一度の割合で
服用しています。
本来は、きちんと服用するものらしいのですが、
薬を最小限にしたいという私の希望で、かゆみが出始める頃に
服用、処方してもらってます。
服用頻度を振り返ると、
疲れている時・忙しくて体調や気持ちが不安定な時・
特に、チョコを食べ過ぎた時など、心当たるのです。
5日位、服用せずに済むこともあります。

とすると、刺激物は勿論、糖分も何ら関係があるのか…と。
息子は砂糖たっぷりの紅茶が好きで、1日に
約150cc(砂糖小さじ2杯強)×3杯 ほど摂取しています。

またいつか記事にして下されば幸いです。

by nao_san (2009-03-18 10:57) 

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