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シメチジンの不思議 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

プロバイダがメンテナンスのため、
朝の更新が出来ず、
今はお昼です。
午前中の診察が終わり、
これから往診に出掛けるところです。

それでは今日の話題です。

胃薬の話を続けます。

昨日はH2ブロッカーという薬の発明によって、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療が、
画期的に進歩した、
という話でした。

今日はH2ブロッカーの各論です。
現在日本で使われているH2ブロッカーには、
大元の薬であるシメチジン(商品名タガメット)以降、
ラニチジン(商品名ザンタック)、ファモチジン(商品名ガスター)、
ロキサチジン(商品名アルタット)、ニザチジン(商品名アシノン)、
そしてラフチジン(商品名プロテカジン、ストガー)などがあります。

多分皆さんに最もポピュラーなのは、
ガスターでしょうか。

最初に開発されたシメチジンは、
非常に優れた薬ですが、
その中に「イミダゾール環」と言われる構造を持ち、
それが肝臓の他の薬に使われる代謝酵素を妨害するため、
他の薬の作用を強くすることが多い、
というあまり歓迎出来ない特徴があります。
この酵素群を、チトクロームP450と言います。

特に、多く使うと中毒になる危険の強い薬では、
より慎重な判断が必要です。

たとえば、気管支喘息に使われる、
テオフィリン(商品名テオロングなど)では、
シメチジンと一緒に使ったために、
「テオフィリン中毒」となり、
死亡した事例が報告されています。
「テオフィリン中毒」では吐き気が起こるのですが、
それを胃の症状と誤解して、
シメチジンの量を主治医が増やしたために、
却って病状が悪化してしまったのです。

臨床の医者の端くれとしては、
常に心に刻むべき事例ですね。

それ以外にも、
血をさらさらにする薬であるワーファリンや、
抗痙攣剤、不整脈の薬も、
同様にシメチジンと一緒に使うことで、
効きが急に強くなることがあるので、
注意が必要です。
安定剤のジアゼパム(商品名セルシン)や、
睡眠剤のトリアゾラム(商品名ハルシオン)も、
同様の注意の必要な薬です。

他にシメチジンだけに報告されている副作用として、
以前何度かドグマチールの件でお話した、
高プロラクチン血症があります。
女性ホルモンを妨害する作用があるから、
と説明されていますが、
何故シメチジンだけにこうした作用があるのかは、
はっきりしません。

こうした副作用を除去する目的で、
シメチジン以外の薬には「イミダゾール環」はありません。
そのために他の薬にそれほどの神経を遣わずに、
使用が出来るようになりました。

それではシメチジンはもう過去の薬なのでしょうか?
作用に変わりがなく、
副作用だけが強いとすれば、
そんな薬ならもうなくしてしまった方が良さそうです。

でもね、必ずしもそうでもないところが、
薬というものの面白さです。

シメチジンには、胃潰瘍以外に、
普通に考えるとH2ブロッカーと無関係と思われるような、
他の病気に対しての効果が報告されているのです。
H2ブロッカーの中でも、
他の薬剤にはあまりそうした報告はないのですね。

まず、整形外科の領域で、
「肩関節石灰沈着性腱板炎」という病気があります。
これは肩の関節の中に、
石灰化が起こるという原因のはっきりしない病気ですが、
この石灰化に対して、
シメチジンが効果があるのです。
著効例では、このシメチジンを飲むだけで、
関節の石灰化が完全に消失しています。
それも1例や2例の報告ではないのです。
ちょっと凄いでしょ。

これに比べると報告例は少ないですが、
動脈硬化や骨粗鬆症に伴う石灰化に対しても、
それが小さくなったり消失した、
という報告が存在します。

何故こんなことが起こるのでしょうか?

正確な機序は不明ですが、
シメチジンはヒスタミンそのものか、
あるいはそれ以外の作用で、
関節や血管の炎症を抑え、
それによって炎症によるカルシウムの沈着を、
改善するのではないか、
と考えられます。

アレルギーに対しての効果も指摘されています。
アレルギーに使われる抗ヒスタミン剤は、
H1ブロッカーと呼ばれ、
本来H2ブロッカーとは別物です。

しかし、H1ブロッカーを使っている患者さんに、
新たにシメチジンを加えると、
格段にその効果が増して、
特にそれに伴う副作用が起こらなかった、
という報告が、これも複数あるのですね。
この効果も矢張り、
シメチジンに強く、
他のH2ブロッカーにはあまりデータがありません。
不思議ですね。

最後に、シメチジンが癌に効く、
というデータも、
その開発の早い時期から報告されています。

1979年に気管支癌が、シメチジンだけで縮小した、
という報告があり、
その後大腸癌や胃癌、メラノーマなどにおいて、
その予後改善効果や癌縮小効果が報告されています。
そのメカニズムは、
シメチジンの持つ、免疫調整作用にある、
と言われています。
より大きな範疇で言えば、
シメチジンは炎症を抑える作用があるのですね。
そして、その作用は副作用を抑える目的で開発された、
それ以後のH2ブロッカーには、
あまり見られないのです。
その辺に薬というものの不思議さがありますね。

最後にご注意頂きたいのですが、
シメチジンの癌に対する効果には、
異論もあって、
癌の転移が却って誘発されたという報告や、
癌がむしろ増大したという報告も散見されます。
もし癌に対してこの薬を使用する場合には、
そうした点も充分理解した上での、
判断が必要となるのです。

今日はシメチジンを中心とした、
H2ブロッカーの概説でした。

それでは今日はこのくらいで。
明日は現在最も使用されている胃薬である、
「プロトンポンプ阻害剤」の問題について話を進めます。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

ガロ

はじめまして。

>異論もあって、
>癌の転移が却って誘発されたという報告や、
>癌がむしろ増大したという報告も散見されます

シメチジンの癌に対してのこれらのネガティブな報告は目にしたことがありません。
模試宜しければURLを教えて頂けませんでしょうか?
by ガロ (2009-03-31 16:42) 

fujiki

ガロさんへ
孫引きで僕も元の論文を読んでいないのですが、
Barna BP et al :Tumor-enhancing effect of cimetidine. Oncology 1983;40:43-35
Hannant D et al : Cimetidine and therapy of rodent tumors. Br J Cancer 1982 ; 45 : 613-614
Caignard A et al : Effects of cimetidine and indomethacin on the growth of dimethylhydrazine-induced or transplanted intestinal cancers in the rat. Br J Cancer 1984;50:661-665
あたりがそれに当たるようです。
お読みになってもし違う内容でしたら、
教えて頂けるとうれしいです。
確かに最近の論文で、あまりネガティブなものは、
ないようですね。
by fujiki (2009-03-31 20:24) 

カタヤマです

シメチジンの事 大変参考になりました。今 肩石灰化のためシメチジンを朝晩1回200mg服用しています。胃薬と言うことで禁酒しなくても良いと聞きましたが 本当に大丈夫なのでしょうか?ご回答 宜しくお願いします。
by カタヤマです (2014-07-12 16:29) 

fujiki

カタヤマさんへ
一切禁止でなくても良いと思いますが、
節酒や禁酒が可能でしたら、
その方がより安全、
という言い方は出来るかと思います。
by fujiki (2014-07-14 08:05) 

カタヤマです

ご回答ありがとうございました。なるべく節酒で頑張ります。
by カタヤマです (2014-07-14 08:17) 

まきの

はじめまして

私は手の親指関節が数年前から痛み
ずっと整形(リウマチ科医師)に診てもらって来ました

病院内の整形なのでリハビリも何もありません
両方同じ部分が痛いのでリウマチを疑われ
2年間、8週おきに通院
採血、レントゲン、MRIとかで観察でしたが
リウマチは陰性
一昨年の秋にSS-Aが陽性反応出て1年、観察でしたが
去年の10月に膠原病は内科なので専門医がいる病院に
転院
親指の関節に関しては膠原病医師もリウマチではないので
以前の整形外科医師に診てもらえとのことで
先日また、以前の医師に診てもらったとろ
レントゲン、過去のレントゲンと見比べ少しの変化はあるものの
骨が欠けてる、その部分に薄い影
石灰化かもね・・・と言われ手術しても治らない
上手く痛みと付き合って・・・と言われました
親指なのでどんなときでも使う指なので上手く痛みと付き合えは
納得いかずです

色々と検索し、この場に辿りつきましたが
やはりタガメットという消化器系の薬で効果あるんでしょうか?
消化器内科にも通院していて今、ランソプラゾールを処方してもらってます。
あと降圧剤も循環器内科で処方されてます。
まだ、膠原病の処方薬は飲んでません
採血のみ陽性でまだグレーです

とにかくどんな動作をしても痛むので辛いのが正直です
何か意見あれば宜しくお願いします

痛みは徐々に強くなって2年以上前からあります
by まきの (2016-01-30 22:32) 

みさき

ちょっと似たような質問をお許しください。
わたしも、関節痛があり(ホルモンバランス?)、いろんな骨の腫れなのか増殖なのか、いろんな関節がごりごり言い出したりします。リウマチは現在(-)
逆流性食道の維持療法で胃酸の薬をつかっていますが、関節にも効きそうなら、タガメットやザンタック、とてもきょうみがあります。(>_<)
どうせ使っていく胃酸止めなら 関節にも効いてくれたらうれしいです(>_<)
いまは整形から、増殖を抑えるのを期待できると言うことでセレコックスをたまに飲みますが胃腸がやられたりで(*_*)
胃腸症状がおちついたらまた先生のところいきたいです(>_<)
by みさき (2016-04-28 16:02) 

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