「TAR ター」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トッド・フィールド監督によるアメリカ映画で、
ケイト・ブランシェットがオーケストラのカリスマ指揮者を演じ、
彼女がそのキャリアの絶頂から、
転落する姿を外連味たっぷりに描きます。
アメリカ映画ですが、
主人公はベルリンフィルの首席指揮者という設定で、
舞台はドイツに設定され、
ちょっとヨーロッパ映画的な粘着な雰囲気のある映画です。
主人公は女性として初めて、
ベルリンフィルの首席指揮者になったという設定で、
ベルリンフィルは実際に少し前まで女性の団員がいなかったという、
典型的な男性主義の世界なんですね。
彼女はレズビアンで女性のコンサートマスターと関係を持っているのですが、
それ以外に複数の教え子とも関係を持っています。
男性上位の社会の中で、
絶大な権力を手にした彼女ですが、
パワハラやアカハラを教え子や部下から指弾された辺りから、
彼女の立場は次第に揺らぎ始め、
それと共に彼女の精神もその均衡を崩し始めます。
成功者で権力者の主人公が、
ひょんなことから転落してどん底に至る、
というような話は昔から映画の定番ですが、
今回の作品では講義の画像が編集されてSNSにアップされたり、
学生が自分の性的嗜好から、
バッハを認めないと言い張ってそれがトラブルになったりと、
今の時代を反映するものとなっています。
また、後半からは主人公が精神の均衡を崩して、
狂気と幻想が入り混ざるような描写となり、
ポランスキーの「テナント」などを彷彿とされる部分もあります。
ただ、ポランスキーのように、
実際に幻想が現実を侵食するような感じにはならず、
現実の転落がそのまま描かれて、
ちょっとしたオチが付いた感じで終わります。
この辺りは好みが分かれるところで、
今回のラストもそれなりにエスプリが効いているとは思いましたが、
ゲームやアジアを下に見る感じが、
やや抵抗を感じるところはあり、
個人的にはもっと現実の底を抜いて欲しかった、
というような思いもありました。
主人公が民族音楽の研究を若い頃にしていて、
その映像が一瞬流れるようなところもあるので、
多分その世界に入り込むようなラストが、
当初は想定されていたようにも思えるのですが、
色々と試行錯誤があったのかも知れません。
この映画の魅力は、
何と言っても主役のケイト・ブランシェットの入魂の演技で、
これは本当に素晴らしいと思います。
リアルに天才指揮者に見えますし、
その精神の均衡が、ギリギリのタイミングで保たれ、
崩れてゆく辺りの演技プランも、
極めてリアルで理知的です。
全体には、ヨーロッパ映画を模倣したアメリカ映画、
というような若干の中途半端さはあるのですが、
古典的な転落精神崩壊劇のパターンを、
権威や権力が簡単に引きずり落される世相でアップデートした力作で、
ケイト・ブランシェットの名演だけでも、
鑑賞の値打ちは充分にある作品だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トッド・フィールド監督によるアメリカ映画で、
ケイト・ブランシェットがオーケストラのカリスマ指揮者を演じ、
彼女がそのキャリアの絶頂から、
転落する姿を外連味たっぷりに描きます。
アメリカ映画ですが、
主人公はベルリンフィルの首席指揮者という設定で、
舞台はドイツに設定され、
ちょっとヨーロッパ映画的な粘着な雰囲気のある映画です。
主人公は女性として初めて、
ベルリンフィルの首席指揮者になったという設定で、
ベルリンフィルは実際に少し前まで女性の団員がいなかったという、
典型的な男性主義の世界なんですね。
彼女はレズビアンで女性のコンサートマスターと関係を持っているのですが、
それ以外に複数の教え子とも関係を持っています。
男性上位の社会の中で、
絶大な権力を手にした彼女ですが、
パワハラやアカハラを教え子や部下から指弾された辺りから、
彼女の立場は次第に揺らぎ始め、
それと共に彼女の精神もその均衡を崩し始めます。
成功者で権力者の主人公が、
ひょんなことから転落してどん底に至る、
というような話は昔から映画の定番ですが、
今回の作品では講義の画像が編集されてSNSにアップされたり、
学生が自分の性的嗜好から、
バッハを認めないと言い張ってそれがトラブルになったりと、
今の時代を反映するものとなっています。
また、後半からは主人公が精神の均衡を崩して、
狂気と幻想が入り混ざるような描写となり、
ポランスキーの「テナント」などを彷彿とされる部分もあります。
ただ、ポランスキーのように、
実際に幻想が現実を侵食するような感じにはならず、
現実の転落がそのまま描かれて、
ちょっとしたオチが付いた感じで終わります。
この辺りは好みが分かれるところで、
今回のラストもそれなりにエスプリが効いているとは思いましたが、
ゲームやアジアを下に見る感じが、
やや抵抗を感じるところはあり、
個人的にはもっと現実の底を抜いて欲しかった、
というような思いもありました。
主人公が民族音楽の研究を若い頃にしていて、
その映像が一瞬流れるようなところもあるので、
多分その世界に入り込むようなラストが、
当初は想定されていたようにも思えるのですが、
色々と試行錯誤があったのかも知れません。
この映画の魅力は、
何と言っても主役のケイト・ブランシェットの入魂の演技で、
これは本当に素晴らしいと思います。
リアルに天才指揮者に見えますし、
その精神の均衡が、ギリギリのタイミングで保たれ、
崩れてゆく辺りの演技プランも、
極めてリアルで理知的です。
全体には、ヨーロッパ映画を模倣したアメリカ映画、
というような若干の中途半端さはあるのですが、
古典的な転落精神崩壊劇のパターンを、
権威や権力が簡単に引きずり落される世相でアップデートした力作で、
ケイト・ブランシェットの名演だけでも、
鑑賞の値打ちは充分にある作品だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2023-05-21 19:09
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