「2020」(上田岳弘作 高橋一生1人芝居) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
上田岳弘さんが書き下ろした戯曲を、
高橋一生さんが1人芝居として演じ、
白井晃さんが演出した舞台が、
今渋谷のパルコ劇場で上演されています。
これは人類の創生期から何度も転生を繰り返し、
人類の終末までを全て経験した男が、
2020年の人類に語り掛けるというモノローグドラマで、
如何にも上田さんらしい作品です。
同時期に上田さん原作の「私の恋人」が、
渡辺えりさんの脚色で3人芝居として再演されていますが、
こちらは10万年で何度か転生した男が、
永遠の恋人を探すというお話なので、
かなり似通った双子のような物語です。
「私の恋人」を、
2020年ヴァージョンとして、
上田さんが戯曲化した作品、
という言い方をしても良いかも知れません。
この作品にはもう1つ相似形の過去作があって、
2001年に野田秀樹さんが「2001人芝居」という、
1人芝居を上演していて、
題名も似ていますし、
抽象的な舞台装置も演出も相似性があります。
内容はオムニバス的なものでしたが、
その1つとして宇宙の果てまで孤独に旅する男の話があって、
その部分はほぼ同じ内容が、
今回の作品にも含まれています。
髙橋一生さんの演技自体も、
時々野田さんに見えるような感じがありました。
更に同じ年号の入った題名の映画「2001年宇宙の旅」も、
人間を人間たらしめている、
白い立方体の情報素子のようなものが登場するところは、
映画のモノリスが意識されていると思います。
今回の作品は80分ほどの短い1幕劇で、
客席から登場したマスク姿の高橋一生さんが、
「沈黙は金」と語り掛け、
そこから人類の歴史を遡って、
「大錬金」と「肉の海」と名付けられた2つの人類滅亡を語り、
宇宙の果てまで1人で旅をして、
その真実を語ってもう一度2020年に転生。
それから2022年に至って終わります。
非常に知的な刺激に満ちた凝縮された世界で、
髙橋さんの演技と上田さんの知的迷宮的な物語、
白井さんのスタイリッシュで、
世界標準という感じのする明確さのある演出が、
非常に上手く一体化しているという気がします。
演劇ファンであれば、必見と言って良い意欲作です。
ただ…
個人的には不満もあります。
コロナによる個人の分断とか、
SNSの普及であるとか、
他人と違うことが言えない今の空気感であるとか、
そうしたことを批判したいのは分かるのですね。
でも、それをちゃんと言わないで、
はぐらかすような作劇ですよね。
せっかく創世記から未来までの俯瞰的な物語にするのなら、
過去にも何度も疫病の歴史というのはあったでしょ。
それをシンクロさせても良かったと思うのに、
していないんですね。
最初でコロナで世界人口は減っていないけれど、
スペイン風邪の時は1億人減った、
というような話をして、
要するに今のコロナ対策を、
批判しているという感じを出すのですが、
それで終わってしまうんですね。
そうした及び腰のところが、
どうも観ていてイライラしてしまいます。
戯曲として一番の欠点は、
感情を梃にして物語が動いたり、時間が流れたりすることが、
全くないというところなんですね。
劇中で高橋さんは何人かの時空を超えた人物を演じます。
石原莞爾を演じたり、
アフリカの赤ちゃん売買の男を演じたりするのですが、
どの人物も1人の人間としての背景が希薄というのか、
はっきり言えば殆どないんですね。
小説としては人間を描かないでロジックだけを書いても、
それはそれで成立するのですが、
生身の藝術である演劇は、
それでは成立しないでしょ。
白井さんはそれを承知の上で、
実験的な演劇としてこうした上演をしたのだと思いますが、
矢張り観ていてその点には不満を感じました。
渡辺えりさんの「私の恋人」は、
のんさんの肉体を梃子にして、
作品を巧みに自分の情緒の世界に引き寄せて構成していたんですね。
その方法も是非はあるところだと思いますが、
今回は良くも悪くも上田さんの硬質な作品世界を、
ほぼそのままに舞台に上げた、
ということなのだと思います。
それからダンサーを1人使っているんですね。
せっかく完全な1人芝居で、
映像の多彩な効果も盛り込んで、
ビジュアルにも刺激的なものに仕上がっていたので、
肉体が2つになるのは如何なものだろうか、
という気はしました。
相手役が必要であれば映像でもロボットでも良かったと思いますし、
ダンサーを1人使うというのは、
白井さんにしてはやや安易なチョイスであったように感じました。
そんな訳で個人的には演劇としては不満もあったのですが、
髙橋一生さんの魅力が充分に発揮された意欲的な力作であることは確かで、
今年を代表する演劇作品の1本となることは、
ほぼ間違いがないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
上田岳弘さんが書き下ろした戯曲を、
高橋一生さんが1人芝居として演じ、
白井晃さんが演出した舞台が、
今渋谷のパルコ劇場で上演されています。
これは人類の創生期から何度も転生を繰り返し、
人類の終末までを全て経験した男が、
2020年の人類に語り掛けるというモノローグドラマで、
如何にも上田さんらしい作品です。
同時期に上田さん原作の「私の恋人」が、
渡辺えりさんの脚色で3人芝居として再演されていますが、
こちらは10万年で何度か転生した男が、
永遠の恋人を探すというお話なので、
かなり似通った双子のような物語です。
「私の恋人」を、
2020年ヴァージョンとして、
上田さんが戯曲化した作品、
という言い方をしても良いかも知れません。
この作品にはもう1つ相似形の過去作があって、
2001年に野田秀樹さんが「2001人芝居」という、
1人芝居を上演していて、
題名も似ていますし、
抽象的な舞台装置も演出も相似性があります。
内容はオムニバス的なものでしたが、
その1つとして宇宙の果てまで孤独に旅する男の話があって、
その部分はほぼ同じ内容が、
今回の作品にも含まれています。
髙橋一生さんの演技自体も、
時々野田さんに見えるような感じがありました。
更に同じ年号の入った題名の映画「2001年宇宙の旅」も、
人間を人間たらしめている、
白い立方体の情報素子のようなものが登場するところは、
映画のモノリスが意識されていると思います。
今回の作品は80分ほどの短い1幕劇で、
客席から登場したマスク姿の高橋一生さんが、
「沈黙は金」と語り掛け、
そこから人類の歴史を遡って、
「大錬金」と「肉の海」と名付けられた2つの人類滅亡を語り、
宇宙の果てまで1人で旅をして、
その真実を語ってもう一度2020年に転生。
それから2022年に至って終わります。
非常に知的な刺激に満ちた凝縮された世界で、
髙橋さんの演技と上田さんの知的迷宮的な物語、
白井さんのスタイリッシュで、
世界標準という感じのする明確さのある演出が、
非常に上手く一体化しているという気がします。
演劇ファンであれば、必見と言って良い意欲作です。
ただ…
個人的には不満もあります。
コロナによる個人の分断とか、
SNSの普及であるとか、
他人と違うことが言えない今の空気感であるとか、
そうしたことを批判したいのは分かるのですね。
でも、それをちゃんと言わないで、
はぐらかすような作劇ですよね。
せっかく創世記から未来までの俯瞰的な物語にするのなら、
過去にも何度も疫病の歴史というのはあったでしょ。
それをシンクロさせても良かったと思うのに、
していないんですね。
最初でコロナで世界人口は減っていないけれど、
スペイン風邪の時は1億人減った、
というような話をして、
要するに今のコロナ対策を、
批判しているという感じを出すのですが、
それで終わってしまうんですね。
そうした及び腰のところが、
どうも観ていてイライラしてしまいます。
戯曲として一番の欠点は、
感情を梃にして物語が動いたり、時間が流れたりすることが、
全くないというところなんですね。
劇中で高橋さんは何人かの時空を超えた人物を演じます。
石原莞爾を演じたり、
アフリカの赤ちゃん売買の男を演じたりするのですが、
どの人物も1人の人間としての背景が希薄というのか、
はっきり言えば殆どないんですね。
小説としては人間を描かないでロジックだけを書いても、
それはそれで成立するのですが、
生身の藝術である演劇は、
それでは成立しないでしょ。
白井さんはそれを承知の上で、
実験的な演劇としてこうした上演をしたのだと思いますが、
矢張り観ていてその点には不満を感じました。
渡辺えりさんの「私の恋人」は、
のんさんの肉体を梃子にして、
作品を巧みに自分の情緒の世界に引き寄せて構成していたんですね。
その方法も是非はあるところだと思いますが、
今回は良くも悪くも上田さんの硬質な作品世界を、
ほぼそのままに舞台に上げた、
ということなのだと思います。
それからダンサーを1人使っているんですね。
せっかく完全な1人芝居で、
映像の多彩な効果も盛り込んで、
ビジュアルにも刺激的なものに仕上がっていたので、
肉体が2つになるのは如何なものだろうか、
という気はしました。
相手役が必要であれば映像でもロボットでも良かったと思いますし、
ダンサーを1人使うというのは、
白井さんにしてはやや安易なチョイスであったように感じました。
そんな訳で個人的には演劇としては不満もあったのですが、
髙橋一生さんの魅力が充分に発揮された意欲的な力作であることは確かで、
今年を代表する演劇作品の1本となることは、
ほぼ間違いがないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2022-07-16 09:13
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