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スタチン誘発糖尿病と甲状腺機能低下症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日も北品川藤クリニック開業に向け、
細々した日程をこなす予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンによる糖尿病発症に与える甲状腺機能低下の影響.jpg
今月のDiabetes Care誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤による糖尿病の発症と、
それに与える甲状腺機能の影響についての論文です。

昨日は甲状腺機能低下時に、
インスリン抵抗性が生じるメカニズムについての、
文献をご紹介しました。

甲状腺機能低下症においては、
インスリン抵抗性がある程度生じることは事実だと思います。

ただ、現実的にそのことが、
臨床上の問題となることは少ないと思います。

ただし…

別個に糖尿病の発症のリスクが高い、
と考えられるような集団ではまた話が別です。

そうした集団として1つ想定されるのが、
スタチン誘発性糖尿病との関連です。

スタチンというのは、
コレステロールの合成阻害剤で、
商品名ではメバロチンやリポバス、リピトール、クレストールなどが、
それに当たります。

スタチンは強力にLDLコレステロールを低下させると共に、
抗炎症作用などの副次的な作用も持ち、
その動脈硬化疾患の予防効果は、
二次予防のみならず一次予防においても実証されています。

そのため、
動脈硬化性疾患のリスクが、
ある程度想定される場合には、
スタチンは基礎薬としてその使用が推奨されています。

しかし、
スタチンは副作用や有害事象の多い薬でもあります。

そのうちでも、
頻度的に多いのが横紋筋融解症などの筋肉の症状と、
臨床的に問題となるのが糖尿病の発症リスクの増加です。

スタチンは筋肉細胞を不安定にさせ、
その炎症や破壊を起り易くさせる作用があります。
それから、コレステロール合成酵素の阻害自体が、
糖尿病の発症リスクの増加と、
結び付いていると考えられています。

仮にスタチンを使用することで、
全ての患者さんの糖尿病発症リスクが増加するとすれば、
糖尿病は強力に動脈硬化を推進する因子ですから、
たとえコレステロールは高くても、
スタチンを使用しない方が良い、
ということになってしまいます。

しかし、勿論実際にはそうしたことはなく、
現行のガイドラインにおいては、
糖尿病の患者さんにおいても、
ある程度の動脈硬化性疾患のリスクのある患者さんでは、
スタチンを使用することが、
予後の改善に結び付くという立場を取っています。

これはつまり、
全ての患者さんでスタチンにより糖尿病が誘発されるのではなく、
ある一部の患者さんにそうしたことが起こる、
ということを示しています。

どのような患者さんに、
そうしたことが起こり易いのかが明瞭になれば、
そうした患者さんにはスタチンを使用しない方が良い、
ということになり、
治療方針はもう少し明瞭になる訳です。

しかし、現実にはそのことは殆ど分かっていません。

そこで今回の文献では、
イスラエルにおいて、
スタチンによる糖尿病の誘発に、
甲状腺機能が関連するのではないか、
という仮説の元に、
大規模な医療保険のデータを解析し、
スタチンの使用の有無と、
糖尿病の発症リスク、
そして甲状腺機能低下症との関連を比較検証しています。

(顕在性)甲状腺機能低下症は、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、
10IU/mLを超える場合を指し、
潜在性甲状腺機能低下症は、
5.5以上10以下である場合を指しています。

スタチンを使用している39263名と、
未使用の20334名をまとめて解析したところ、
甲状腺機能低下症と潜在性甲状腺機能低下症の患者さんでは、
顕在性で1.53倍(95%CI:1.31-1.79)、
潜在性で1.75倍(1.40-2.18)、
それぞれ糖尿病の新規発症リスクが有意に増加していました。

潜在性の方がリスクが高いという、
ちょっと不思議に思える結果です。

顕在性甲状腺機能低下症では、
スタチンの使用と未使用とに関わらず、
糖尿病の発症リスクは増加していましたが、
潜在性甲状腺機能低下症では、
スタチン使用群では糖尿病発症リスクは1.94倍(1.13-3.34)と、
有意に増加している一方、
スタチン未使用群では1.20倍(0.52-2.75)と有意な増加は認められませんでした。

そして、甲状腺機能低下症でホルモン剤の治療を受けている患者では、
糖尿病発症リスクの増加は認められませんでした。

つまり、甲状腺機能低下症はそれ自体が糖尿病の発症リスクを高め、
治療を行なって甲状腺機能が正常化すれば、
そのリスクも元に戻ります。

潜在性甲状腺機能低下症における糖尿病発症リスクは、
スタチンを使用した場合のみに有意となり、
スタチン誘発糖尿病を、
甲状腺機能低下が後押ししている可能性が示唆されます。

このデータは顕在性の機能低下症より潜在性の方が、
糖尿病リスクが高くなっているなど、
辻褄の合わない部分もあるのですが、
スタチンを使用している患者において、
甲状腺機能低下症を併発すると、
より糖尿病の発症リスクが高まる、
という可能性は興味深く、
今後のより精度の高いデータの蓄積を期待したいと思います。

現時点での対応としては、
潜在性を含む甲状腺機能低下症のある患者さんに、
スタチンを使用する場合には、
まず甲状腺刺激ホルモン値を治療により正常化した上で、
スタチンを使用することが安全かも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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