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臓器の低体温療法の移植腎機能に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腎移植前の低体温療法.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
献腎移植において問題となる、
「移植腎機能発現遅延」と呼ばれる病態の、
予防のための低体温療法の効果についての論文です。

これまでこの病態に対する、
はっきり有効とされる予防法は存在していなかったので、
注目すべき知見として、
解説記事も載せられ、
掲載号の巻頭を飾っています。

腎臓移植には生体移植と献腎移植(死体腎移植)があります。

生体移植は通常親族の片方の腎臓を、
生きている状態で切除して、
病気の方に移植する、というものです。

献腎移植は要するに亡くなられた方から、
脳死後に腎臓を取り出して移植をするものです。

生体腎移植の場合、
血管を繋いで血流が再開されてから、
数分から数十分で移植腎は働き始め、
おしっこが出るようになります。

一方で献腎移植の場合には、
すぐにおしっこの出ることもありますが、
数日から数週間が経たないと、
自尿が見られないというケースもしばしばあります。

自尿が出ない場合には、
透析をしてその間をしのぐより外はありません。

このように、
術後1週間以内に透析が必要な状態となることを、
移植腎機能発現遅延(DGF)と呼んでいます。

アメリカの統計では、
高齢者からの献腎移植では、
移植腎機能発現遅延は移植の5割近くに達する、
という報告があります。

生体腎の移植では起こらない移植腎機能発現遅延が、
死体腎では起こるということは、
脳死以降の時間の経過に伴い、
少なからぬ影響が、
移植手術前の腎臓に起こっている、
ということを示しています。

このことは、
当然移植の予後にも影響を与えます。

これもアメリカの2012年の統計ですが、
生体腎移植では5年後にも84%の移植腎が機能していましたが、
献腎移植ではその比率は73%に低下していました。

脳死が起こると、
自律神経反射により脳圧は上昇し、
カテコールアミンが大量に放出されるために、
末梢の血管は収縮し、
臓器の血流も低下します。

脳死は更には炎症を惹起してサイトカインを増加させ、
それも臓器の機能を低下させる、
大きな要因になっていると考えられます。

こうした脳死に伴う変化が、
献腎における移植腎機能発現遅延の、
大きな要因となり、
更には移植腎の予後にも、
少なからぬ影響を与えていると考えられます。

こうした死体腎のダメージを、
予防する方法はないでしょうか?

上記文献の著者らが今回試みているのは、
脳死後の献体を、
低体温で保護する、という方法です。

低体温療法は脳の外傷などの後で、
脳組織を保護する目的で使用されて有名になりました。

その炎症やサイトカインの抑制作用が、
脳死後の臓器のダメージの予防に、
有効ではないかと考えたのです。

アメリカの広範囲の臓器調達地域で、
脳死状態の移植のドナー候補を登録して、
2つのグループにくじ引きで割り付け、
一方は臓器摘出の手術時まで36.5から37.5℃の正常体温を維持し、
もう一方は34から35℃の低体温を維持して、
その移植後の経過を比較しています。

この試験は中間解析で明らかな差が確認されたため、
当初の予定より早めて終了となりました。
実際に登録され解析されたのは、
低体温群180例と通常体温群190例の、
トータル370例のドナーです。
そこから摘出された腎臓により、
低体温群で285例、
通常体温群で287例の患者が、
腎臓の提供を受けて手術を行いました。

その結果…

通常体温群では、
全体の39%に当たる112例に、
移植腎機能発現遅延が見られたのに対して、
低体温群では、
全体の28%に当たる79例で、
低体温療法により、
移植腎機能発現遅延は、
有意に38%抑制された、
という結果になりました。

この現象はまだメカニズムも詳細は不明で、
元の臓器の状態に関する情報も乏しく、
何らかのバイアスが加わった可能性もあります。
しかし、そうした点を差し引いても、
比較的簡単に可能な処置によって、
献腎移植の大きな合併症の予防が可能であるとすれば、
腎移植の患者さんにとって福音であることは間違いがなく、
まずは今後の追試の結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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しんじ

先生質問なのですが、橋本病などでない原因不明の潜在性甲状腺機能低下症と診断され、血液検査で10以上で薬を服用し、再検査でTSHが10以下になった場合、薬を中断することはできますか。薬を中断した場合どれくらいの期間中断して10以下が継続されれば薬の服用を中止できるのでしょうか。
思うのですが、1回目の検査だけたまたまTSHが10以上になっただけで薬を服用しなくても10以下になっていたということもあると思うのですが、そういったことはありふれているのでしょうか。どう思われますか。
by しんじ (2015-08-04 22:24) 

fujiki

しんじさんへ
TSHの10というのは、
1つの目安であって、
それが絶対というものではないと思います。
あくまで症状や全身状態を考慮して、
薬を継続するかどうかを、
相談の上決めるというスタンスで良いように思います。
たとえば、妊娠中の女性の場合は、
2.5を超えない方が流産や早産の予防になると言われているので、
それをキープする必要があります。
心機能に異常のあるようなケースでは、
慎重に増量しながら、
10未満をキープする必要があると思います。
それ以外については、
正常域を維持することが無難だ、
という言い方は出来ますが、
色々なリスクがあるとしても、
非常に軽微なものであり、
それほど重要視する必要はないように思います。
ホルモン剤を開始する前に、
軽度の異常であれば、
2回は測定することに意味はあると思います。
2回ともにほぼ同じ数値であれば、
それ以上は測定する必要性は低いように思います。
by fujiki (2015-08-06 08:40) 

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