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4価インフルエンザワクチンの問題点(修正版) [医療のトピック]

これは元々2015年7月6日の記事の、 修正版です。修正の経緯については1つ前の記事をご覧下さい。

先日、
今年の秋に接種の開始される、
季節性インフルエンザワクチンは、
これまでの3価から4価のものになる、
という話題を取り上げました。

今日はその変更について、
僕が現時点でやや疑問に思う点をまとめておきます。

これまでの国産インフルエンザワクチンは、
A型が2種にB型が1種類の抗原を含む3価のワクチンです。
しかし、B型はヴィクトリア系統と山形系統という、
2種類の系統のウイルスが季節性に流行していて、
どちらが流行るかという予測は困難な一方、
季節性インフルエンザワクチンには、
その一方の抗原した含まれていません。

そのため、
ワクチンに含まれていないB型ウイルスが流行すると、
インフルエンザワクチンはB型に対しては、
ほぼ無効となってしまいます。

これではワクチンによるインフルエンザの予防はおぼつきません。

この問題を解決するために、
通常流行する2系統の抗原両方を、
一緒に入れた4価のワクチンが製造されました。

この4価ワクチンは複数の海外のワクチンメーカーで製造され、
アメリカでは2013年のシーズンから、
その接種が開始されました。
イギリスとドイツにおいても、
2013年にこのワクチンが認可されました。

しかし、
日本においてはその時点で製造はされませんでした。

日本においても導入の動きはありましたが、
そこで問題となったのが、
生物学的製剤基準という法律において、
インフルエンザワクチンに含まれる蛋白質含量が、
240μg/mL以下と規定されていたことです。

これは抗原量が多い方が副反応が多い、
という考えがあったからで、
通常の方法で4価のワクチンを製造すると、
ワクチン1本当たりの蛋白質含量はこの基準を超えてしまうので、
製造は規則上出来ないのです。

それが、
今年(2015年)の3月にその基準が改訂され、
蛋白質含量は一気に400μg/mL以下にまで緩められたのです。
かなり大幅な規制緩和です。
ただ、WHOの現行の規準は300μg/doseですから、
1mLに換算すると600μgとなり、
それよりはまだ大分低い規準なのです。

これにより4価ワクチン製造が可能となったので、
今シーズンから導入の運びとなった訳です。

さて、それでは国産の4価インフルエンザワクチンの、
有効性と安全性にはどのようなデータがあるでしょうか?

日本の複数のワクチン製造会社によって、
4価インフルエンザワクチンは製造されていますが、
実施されている臨床試験は、
2014年の始めと終わり頃のどちらかの時期に、
各社共横並びで2回ずつ、
50名程度の被験者に対して、
この4価ワクチンを接種し、
その後に抗体価の上昇を確認し、
有害事象のチェックを行なったという試験のみです。

これは単独施設で、
未接種群や3価ワクチン接種群との比較もなく、
偽ワクチンなどの使用もない、
という試験です。

しかも、その結果はJAPICで概要を見ることが出来るだけで、
論文のような形では公表されてはおらず、
その予定もないようです。
概要では注射部位の疼痛が50%など、
有害事象の比率は記載がされていますが、
効果については「抗体産生が確認された」
という記載のみに留まっています。
具体的な数値などは公開されていません。

更にはこの臨床試験は成人のみに施行され、
小児のデータは別個に三重病院の菅先生によるものが、
1つあるだけです。
この内容は0から18歳の小児に対して、
4価ワクチンと3価ワクチンを別々のお子さんに接種し、
HI抗体価の上昇と、
有害事象の発現とをチェックしたものです。
概ね同等かやや4価で良い抗体上昇が見られた、
という結果になっていますが、
年齢分布等は公表されていません。
今後公表される予定があるのかも知れませんが、
現状は簡単な解説を読むことが可能なだけで、
その内容もやや不明瞭な部分の多いものです。

海外のワクチンに関しては、
以前ご紹介したグラクソ社のワクチンは、
実際の臨床上の効果を見た臨床試験が論文化されていますし、
アメリカのワクチンも、
もっと詳細な臨床試験結果が報告されています。

それと比較すると、
一般の接種医が参照出来る情報は、
かなり限られたものしかない、
という印象です。

ただ、データを見た印象としては、
抗原量が増えた分、
矢張り局所の発赤や腫脹などの、
副反応は増えていると思います。

もう1つの問題は、
アメリカでは3価のワクチンと4価のワクチンが、
選択して使用可能で、
おそらくヨーロッパでも同じ状況であるのに対して、
日本では全てのワクチンが4価に切り替わり、
3価のワクチンは使用不可となってしまう、
という点にあります。

これは結果として何らかの問題があって、
4価のワクチンの使用が出来なくなったような場合に、
代替のワクチンが国産では存在しなくなる、
という事態を意味しています。

以上をまとめると次のようになります。

今年導入が予定されているインフルエンザの4価ワクチンは、
3価のワクチンと比較して、
本当により臨床的に効果が高い、
という根拠は現状はなく、
同等であることを確認するような臨床試験も、
国内では殆ど行われていません。

勿論、単独ではこれまでに使用されている抗原の、
組み合わせを変えるだけだ、という言い方は出来ますから、
臨床試験を施行しなくても問題はない、
という考え方は出来ます。

しかし、これまでにも、
製法を少し変えたり、
抗原の組み合わせを変えたりしただけで、
有害事象により接種が中止されたような事例はあり、
抗原蛋白量は明確に増えている訳ですから、
もう少し慎重な対応が必要ではなかったのか、
という気がします。

更に全てのワクチンを4価で統一する、
という決定は、
接種をされる方の選択を狭め、
その比較も困難にしてしまう、
という意味で、
本来は3価のワクチンも1から2年は製造し、
選択を可能にするべきではなかったでしょうか?

最後にインフルエンザワクチンの小ネタですが、
国産ワクチンのうち北里のものだけは、
1歳未満の小児の適応がありません。
これは臨床試験において、
北里のみ基準値に達しておらずに取り下げとなったからで、
こうしたバランスの悪さも、
国産ワクチンの問題の1つだという気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

内容には充分気を配ったつもりですが、誤りがありましたら、またご指摘をお願い致します。
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