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脂質異常症治療薬エゼチミブ(ゼチーア)の長期効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンへのエゼチミブの上乗せ効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
エゼチミブ(ゼチーア)の長期予後を検証した論文です。

エゼチミブ(ezetimibe)という薬があります。
商品名はゼチーア。
現在日本でも使用されている、
血液のコレステロールを下げる薬です。

コレステロールを下げる薬の代表は、
所謂スタチンと総称される薬剤です。
リポバスやメバロチン、リピトールやリバロ、クレストール、
そしてリポダウンなどの多くのジェネリックは、
全てスタチンの仲間です。

このスタチンは、
コレステロールの肝臓での合成を、
抑制する作用の薬剤です。

しかし、
長期間このスタチンを使用していると、
身体はコレステロールの不足状態と判断するので、
小腸からのコレステロールの吸収を増加させます。

このことにより、
スタチンのコレステロール低下作用は、
部分的には相殺されてしまうのです。

そこで、
食事と一緒に口から入り、
小腸から吸収されるコレステロールを低下させる薬があれば、
スタチンとの相乗効果があるのでは、
と期待されました。

皆さんはどのようなメカニズムで、
コレステロールは小腸から吸収されると思いますか?

実はこのメカニズムが解明されたのは、
意外に最近のことなのです。

ニーマン・ピック病という病気があります。
これは身体に脂肪が異常に蓄積し、
小脳失調などの神経症状を来す、
重度の遺伝性の病気ですが、
このニーマン・ピック病C型の原因遺伝子が、
コレステロールの細胞内の輸送蛋白であることが、
1990年代の後半に明らかになったのです。

これをNCP1(Niemann-Pick C1)と呼びます。

NCP1L1(Niemann-Pick C1-like 1)というのは、
NCP1に良く似た構造の蛋白分子として2000年に同定され、
それが小腸におけるコレステロール輸送蛋白であることが、
製薬会社の研究グループにより、
2004年に明らかにされました。

ゼチーアという薬は、
このNCP1L1を阻害することにより、
コレステロールの吸収を低下させる薬なのです。

コレステロールの吸収というのは、
小腸の細胞の中にあるコレステロール輸送蛋白NCP1L1が、
細胞膜に移動して、
そこで口から入った食事由来のコレステロールを捕捉し、
それが細胞内に移動する、
という仕組みによって行なわれます。

そして、これとよく似た蛋白質NCP1が、
細胞の中でのコレステロールの移動を、
行なっているのです。

コレステロール輸送蛋白NCP1L1は、
人間では小腸の細胞と共に、
肝臓の細胞でもその存在が確認されています。

そこで最近注目されている知見としては、
C型肝炎ウイルスの人間の肝臓の細胞への感染にも、
このNCP1L1が、
必要であるという発見があります。

つまり、エゼチミブはコレステロール降下剤としてだけではなく、
C型肝炎の予防薬や治療薬としても、
その可能性が注目されているのです。

このように非常に魅力的で興味深い薬であるエゼチミブですが、
肝心のコレステロール降下剤としての効果については、
今のところそれほど画期的な知見が得られていません。

2008年の4月に発表された、
エゼチミブの有効性を見たENHANCE試験と呼ばれる、
大規模臨床試験の結果では、
高コレステロール血症の患者さんに、
シンバスタチンというスタチン製剤に上乗せして、
エゼチミブを使用したところ、
使用しない場合と比較して、
コレステロール自体は有意に低下しましたが、
動脈硬化の指標である、
頸動脈の動脈硬化病変には、
2年間の経過観察中、
有意な抑制効果は認められませんでした。

この試験自体、
観察期間も短いですし、
動脈硬化の指標が頸動脈の超音波所見だけですから、
はなはだ中途半端なものですが、
それでもスタチンの効果の柱が、
心筋梗塞などの心血管疾患の予防効果ですから、
スタチンに上乗せして使用した際に、
より強力な心臓病の予防効果がなければ、
エゼチミブの高コレステロール血症への使用は、
かなり限定的な使用に留まる、
ということになってしまうのです。

今回のデータは前述とは別個の臨床試験で、
より長い観察期間を取り、
実際の心血管疾患の発症リスクを検証している点で、
この薬剤にとっての待ち望まれたデータ、
ということになります。

世界の39ヵ国の1147の専門施設において登録された、
急性冠症候群(急性心筋梗塞とその類縁の病態のことです)で入院した患者さんのうち、
血液のLDLコレステロール値が、
未治療の場合には50から125mg/dL、
治療中の場合には50から100mg/dLの、
トータル18144名を入院から10日以内に登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方はスタチンであるシンバスタチン(リポバス)を、
1日40ミリグラムとエゼチミブを10ミリグラムで併用し、
もう一方は同じシンバスタチンの40ミリグラムと偽薬を使用して、
その後平均で6年間の経過観察を行なっています。

その間に心血管疾患による死亡と、
急性心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症と心臓のカテーテル治療の施行の、
いずれかを発症したか行なった頻度を比較検証しています。

その結果…

平均のLDLコレステロールの数値は、
偽薬群では69.5mg/dL出会ったのに対して、
エゼチミブ上乗せ群では53.7mg/dLで、
これは有意に上乗せによるコレステロールの低下が確認されました。

これまでのデータでも、
上乗せで2割強程度の低下が認められていますから、
従来の結果と一致するものです。

そして、心血管疾患の発症と死亡のトータルの頻度は、
偽薬群では34.7%であったのに対して、
エゼチミブ上乗せ群では32.7%となり、
絶対リスクで2.0%と差は僅かですが、
有意に上乗せ群の方が、
病気やそれによる死亡を、
より強く抑制していることが確認されました。

このように、
LDLコレステロールが高値ではない集団で、
エゼチミブをスタチンに上乗せすることにより、
実際に上乗せの病気の予防効果が確認されたのは、
今回が初めてのことだと思います。

高用量のスタチンを使用するのと、
エゼチミブとスタチンの併用で治療するのとで、
同じコレステロールレベルに達した場合に、
果たしてどちらが患者さんにとってメリットが大きいのか、
という点は非常に難しい問題です。

スタチンに付加的な抗動脈硬化作用がある、
という知見は多く存在していて、
それを重視すると、
スタチンの増量こそ優先、ということになります。

その一方で矢張りメインの心血管疾患の予防作用は、
コレステロールの低下にある、
という見解も根強くあり、
その立場に立つなら、
どのような薬をどのように使用しても、
コレステロールが充分下がりさえすれば良い、
ということになります。

スタチンは筋肉の病変や糖尿病のリスク上昇など、
多くの有害事象のある薬でもあります。

それを考えると、
スタチンの使用を比較的低用量に留め、
エゼチミブを併用することは、
非常に魅力的な選択肢に思えます。

実際に診療所においても、
中等量のスタチンとエゼチミブの併用で、
良好なコントロールを得ている患者さんが多くいらっしゃいます。

コストの問題はありますが、
スタチンとエゼチミブの併用は、
今後のコレステロール降下療法の、
有用な選択肢として、
今後その適応が広がる可能性は大いにありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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