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認知症に対する非定型精神病薬の効果と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
非定型抗精神病薬の認知症に対する効果と安全性.jpg
今年のAlzheimer's Research&Therapy誌に掲載された、
非定型抗精神病の認知症に対する、
有効性と安全性を検証した、
システマティック・レビューとメタ解析の論文です。

洋の東西を問わず、
認知症の高齢者の、
幻覚妄想や不穏、介護者や家族への暴力行為、
徘徊などの問題行動の抑制のために、
鎮静作用のある薬剤が、
しばしば継続的に使用されます。

この場合に最も多く使用される薬剤は、
所謂「抗精神病薬」です。

抗精神病薬は、
端的に言えば脳のドーパミンを抑制する薬です。

進行した認知症は、
脳の全般的な機能低下の状態ですが、
この時にその認知症の高齢者が、
不穏状態になったり暴力的になったりするのは、
バランス的にドーパミン系の作用が、
優位に立っている状況と考えられるからです。

こうした薬剤を適正に使用することは、
その高齢者にとっても、
過剰な興奮による疲労を改善しますし、
その方をケアする家族や介護者にとっても、
ケアの労力を軽減することに繋がります。

しかし、
抗精神病薬はそれ自体、
脳の働きを抑制する薬ですから、
その安易な使用が、
その高齢者に不利益を与えることも、
当然想定されることです。

古いタイプの抗精神病薬、
たとえばハロペリドール(商品名セレネースなど)は、
ドーパミン以外の多くの神経伝達物質に対して、
抑制的な作用を持つため、
錐体外路症状と呼ばれる、
歩行困難や手の震えや身体の動きの低下と共に、
口の渇きや便秘、
眠気や立ちくらみなど、
多くの副作用を持っています。

それに対して最近開発された、
「非定型精神病薬」と総称される、
抗精神病薬の一種の改良型は、
錐体外路症状の少ないのが特徴で、
副作用が少なく使い易い薬剤として、
一気にその使用が拡大し、
認知症の高齢者にも、
好んで使用されるようになりました。

この中には、
セロトニンを遮断する作用を併せ持つことにより、
錐体外路症状の主な原因となる、
黒質線状体と呼ばれる部位でのドーパミン遮断作用を軽度に留め、
歩行困難などの副作用を軽減した、
セロトニン・ドーパミン遮断薬と、
コリンやヒスタミンやアドレナリンなど、
他の神経伝達物質の作動薬としても効果のある、
多元受容体作用抗精神病薬、
そして、
部分的なドーパミン作用を併せ持つ、
ドーパミン部分作用薬、
という3種類が存在しています。

ところが…

2005年にアメリカのFDAは、
この非定型抗精神病薬を、
認知症の高齢者に使用すると、
心臓発作や脳卒中のリスクを高め、
使用していない方に比べて、
60~70%死亡リスクを高める可能性がある、
という警告を発表しました。
この警告は非定型精神病薬全体を対象としたもので、
個別の薬剤の危険度には触れていません。

しかし、その一方でアメリカの、
ナーシングホームと呼ばれる、
常時ケアを必要とする高齢者施設では、
3分の1の入所者が、
この抗精神病薬を処方されている、
という現状も同時期に報告されています。。

これはかなりの比率です。

僕が関わっている特別養護老人ホームでは、
その使用比率は1~2割は超えない程度だと思います。

しかし、矢張り認知症の進行した状態では、
こうした薬剤を一切使用しない、
という状況は、
成立し難いのも現状だと思います。

そこで1つ問題になるのは、
複数ある非定型抗精神病薬のうち、
どの薬剤がより安全性が高く、
死亡リスクに影響を与え難いのか、
という点です。

FDAのレポートには、
そうした点は論評されていないからです。

以前ご紹介した、
アメリカのナーシングホームの医療データを活用した論文では、
ハロペリドール(商品名セレネースなど)と比較すると、
リスペリドン(商品名リスパダールなど)などの非定型抗精神病薬は、
その死亡リスクなどは低い、という結果になっていました。

ただ、この辺りは、
文献によっては結論の違いもあり、
全ての非定型抗精神病薬に問題があるのか、
それとも一部の薬に問題があるのか、
そうした点についての情報は限られています。

今回の文献はこれまでの精度の高い臨床試験の結果をまとめて解析し、
偽薬と比較した場合の、
非定型精神病薬の認知症に対する有効性と安全性とを検証しています。

非定型精神病薬として、
リスペリドン(商品名りスパダールなど)、
オランザピン(商品名ジプレキサ)、
クロザピン(商品名クロザリル)、
クエチアピン(商品名セロクエル)、
アリピプラゾール(商品名エビリファイ)、
ジプラシドン(国内未採用)の6種類が対象となっています。

国内で使用されている非定型抗精神病薬には、
他にペロスピロン(商品名ルーラン)、
プロナンセリン(商品名ロナセン)、
パリペリドン(商品名インヴェガ)がありますが、
おそらくはデータが乏しいため、
対象とはなっていません。

無作為介入試験(RCT)と呼ばれる、
精度の高い23の臨床試験の、
5819名の認知症の患者さんのデータをまとめて解析した結果として、
抗精神病薬をトータルで見た結論として、
12週間の治療により、
有意に認知症の精神神経症状が改善し、
認知機能の低下も偽薬と比較して、
より遅らされていることが確認されました。

非定型抗精神病薬の個別の分析としては、
リスペリドン(商品名りスパダールなど)と、
アリピプラゾール(商品名エビリファイなど)の2種類については、
認知症に伴う精神神経症状を有意に抑制する効果が確認され、
認知機能への改善効果については、
アリピプラゾール、リスペリドン、
オランザピン、クエチアピンの4種類において、
有意な効果が確認されました。

非定型抗精神病薬の有害事象について、
外傷と転倒、死亡リスクについては、
薬との有意な関連は認められませんでした。
その一方で非定型抗精神病薬の使用により、
傾眠、歩行時のふらつき、浮腫、尿路感染症のリスクについては、
有意な増加が認められました。
脳卒中のリスクはリスペリドンのみで有意に増加していました。

この結果は製薬会社の臨床試験が主体で、
観察期間も12週間程度ですから、
それほど長期のものではありません。

従ってその点は割り引いて考える必要があります。
長期の使用は当然、
種々のリスクの増加に繋がる可能性があります。

ただ、12週間以内程度の利用であれば、
非定型抗精神病薬、特にアリピプラゾールは、
傾眠以外の強い副作用はなく、
認知機能にはあまり悪影響を与えることなく、
精神神経症状を改善しているので、
その使用は不可欠の場合に限るべきですが、
そうした場合には他剤より優先して、
使用を考慮しても良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara認知症の精神神経症状にアリピプラゾールが良い事は、爺の妻、統合失調感情障害(双極型)の治療成績からも、理解
できます。
by bpd1teikichi_satoh (2015-06-11 17:00) 

fujiki

bpd1teikichi_satohさんへ
コメントありがとうございます。
抗精神病薬も沢山あって迷うところで、
1つの指針にはなるような気がします。
by fujiki (2015-06-12 06:27) 

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