長期の厳格な血糖コントロールの効果を考える [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
高齢者の厳格な血糖コントロールの効果を検証した、
大規模臨床試験の追跡調査の結果を報告した論文です。
糖尿病の診療において、
常に議論となるのは、
HbA1cという血糖コントロールの数値が、
平均で7%を切るような、
厳格な血糖コントロールの、
心血管疾患のリスクや予後に対する効果です。
糖尿病には三大合併症と呼ばれる、
比較的細い血管の合併症と、
動脈硬化の進行による、
心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の合併症があります。
このうち、目の網膜症と、腎症、そして神経症の三大合併症については、
より厳格なコントロールが、
その予後の改善に有効なことがほぼ実証されています。
しかし、大規模な介入試験と呼ばれる厳密な臨床試験において、
厳格な血糖コントロールが、
動脈硬化性の合併症の予後に与える影響については、
それほどクリアな結果が得られていません。
特に患者さんの生命予後については、
厳格な血糖コントロールを行なっても、
明確な改善が確認された報告はあまりなく、
むしろ死亡リスクは増加する、
という報告すら認められます。
今回追跡調査と解析が行われた、
VADT（the Veteran Affairs Diabetes Trial）という臨床研究は、
2型糖尿病を持つ退役軍人1791名を対象としたもので、
HbA1cが平均で6.9%という、
厳格な血糖コントロール群と、
平均で8.4%という通常治療群とを、
平均で5.6年という経過観察を行ない、
その間の心血管疾患の発症と生命予後を比較しています。
標準治療という区分ですが、
8.4%は実際には悪めのコントロールです。
患者さんの登録時の平均年齢は60歳くらいです。
その結果は、
心血管疾患のリスクは、
厳格なコントロールで有意な低下を示すことが出来ませんでした。
今回のデータは、
試験終了後も観察を大部分の対象者で継続し、
トータルで平均11.8年の経過観察を行なって、
同じ心血管疾患のリスクと生命予後を、
再度検証したものです。
血糖コントロールは、
試験期間終了の1年後には、
厳格なコントロール群で7.8%、通常群で8.3%と、
殆ど違いはなくなっています。
その結果、10年を超える検証においては、
心血管疾患のトータルな発症リスクは、
厳格な治療群で17%有意に低下していました。
これは、厳格なコントロールにより、
年間1000人当たり8.6件の心血管疾患を予防した、
ということになります。
しかし、患者の生命予後については、
その改善は明らかではありませんでした。
データの解釈は難しいのですが、
高齢者の2型糖尿病の治療において、
5年に渡る厳格な血糖コントロールが、
その後5年は元のコントロールに戻ったとしても、
一定レベル心筋梗塞やの脳卒中の発症を予防する、
という可能性を示唆するものです。
ただ、今回も生命予後の改善には、
結び付いてはいないことを考えると、
心血管疾患の予後改善のために、
厳格な血糖コントロールを行なうという考え方は、
まだ良いとも悪いとも結論が出ていないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
高齢者の厳格な血糖コントロールの効果を検証した、
大規模臨床試験の追跡調査の結果を報告した論文です。
糖尿病の診療において、
常に議論となるのは、
HbA1cという血糖コントロールの数値が、
平均で7%を切るような、
厳格な血糖コントロールの、
心血管疾患のリスクや予後に対する効果です。
糖尿病には三大合併症と呼ばれる、
比較的細い血管の合併症と、
動脈硬化の進行による、
心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の合併症があります。
このうち、目の網膜症と、腎症、そして神経症の三大合併症については、
より厳格なコントロールが、
その予後の改善に有効なことがほぼ実証されています。
しかし、大規模な介入試験と呼ばれる厳密な臨床試験において、
厳格な血糖コントロールが、
動脈硬化性の合併症の予後に与える影響については、
それほどクリアな結果が得られていません。
特に患者さんの生命予後については、
厳格な血糖コントロールを行なっても、
明確な改善が確認された報告はあまりなく、
むしろ死亡リスクは増加する、
という報告すら認められます。
今回追跡調査と解析が行われた、
VADT（the Veteran Affairs Diabetes Trial）という臨床研究は、
2型糖尿病を持つ退役軍人1791名を対象としたもので、
HbA1cが平均で6.9%という、
厳格な血糖コントロール群と、
平均で8.4%という通常治療群とを、
平均で5.6年という経過観察を行ない、
その間の心血管疾患の発症と生命予後を比較しています。
標準治療という区分ですが、
8.4%は実際には悪めのコントロールです。
患者さんの登録時の平均年齢は60歳くらいです。
その結果は、
心血管疾患のリスクは、
厳格なコントロールで有意な低下を示すことが出来ませんでした。
今回のデータは、
試験終了後も観察を大部分の対象者で継続し、
トータルで平均11.8年の経過観察を行なって、
同じ心血管疾患のリスクと生命予後を、
再度検証したものです。
血糖コントロールは、
試験期間終了の1年後には、
厳格なコントロール群で7.8%、通常群で8.3%と、
殆ど違いはなくなっています。
その結果、10年を超える検証においては、
心血管疾患のトータルな発症リスクは、
厳格な治療群で17%有意に低下していました。
これは、厳格なコントロールにより、
年間1000人当たり8.6件の心血管疾患を予防した、
ということになります。
しかし、患者の生命予後については、
その改善は明らかではありませんでした。
データの解釈は難しいのですが、
高齢者の2型糖尿病の治療において、
5年に渡る厳格な血糖コントロールが、
その後5年は元のコントロールに戻ったとしても、
一定レベル心筋梗塞やの脳卒中の発症を予防する、
という可能性を示唆するものです。
ただ、今回も生命予後の改善には、
結び付いてはいないことを考えると、
心血管疾患の予後改善のために、
厳格な血糖コントロールを行なうという考え方は、
まだ良いとも悪いとも結論が出ていないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-06-09 08:14
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fujikiさま、こんにちは。
血糖値のコントロールはいろいろあると思いますが、
食事療法を考えた場合、
カロリー制限か、糖質のみの制限か、どちらがお勧めでしょうか？
（糖尿病ガイドラインでは、摂取エネルギー量=標準体重×身体活動量が
基本：カロリーとされているようですが）
by dumbo (2015-06-09 12:52)
dumboさんへ
その辺りはまさに最近のトピックで、
議論のあるところです。
体重減少を短期的に目標とする場合には、
そのための方法としては、
糖質制限が有用だと思います。
ただ、長期的に糖質を制限した場合の身体への影響は、
未知数の部分があると思います。
日本の現行のガイドラインは、
かつての日本人の食生活（日の丸弁当のようなもの）を、
元にしているので、
糖質主体の食事療法となっており、
実態と乖離している点が、
問題だと思います。
現時点での私の考えは、
カロリーの最低でも35パーセントくらいは、
糖質からが妥当ではないか、
というものです。
by fujiki (2015-06-09 15:34)
fujikiさま、ご丁寧なご返事ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
by dumbo (2015-06-09 17:42)