造影CT検査のヨード造影剤が甲状腺に与える影響について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のThyroid誌に掲載された、
造影CT検査後の甲状腺機能の変化と、
尿へのヨード排泄の推移を検証した論文です。
心臓のカテーテル検査などの血管造影の検査や、
血管に薬を入れて撮影する、
造影CTの検査などでは、
大量のヨードを含む造影剤が使用されます。
これは放射性ヨードではありませんが、
ヨードであることには間違いがなく、
一時的には甲状腺はヨードで飽和状態となり、
一種のヨードブロックと同じ状態になります。
甲状腺に取り込まれた以外のヨードは、
速やかに体外に排泄されますから、
通常は大きな問題にはならない筈です。
大量のヨードは、
それ自体が甲状腺のホルモン合成を抑えるので、
一時的には甲状腺機能は低下しますが、
その効果は通常は一時的なものだからです。
ただし、
バセドウ病のような、
甲状腺機能亢進症のある方では、
大量のヨードが強制的に取り込まれることにより、
甲状腺機能の亢進症状が、
悪化することが想定されます。
また、橋本病のような慢性の甲状腺炎のある患者さんでは、
甲状腺のホルモン産生工場の、
配管に水漏れのあるような状態なので、
大量のヨードが入ることにより、
通常より機能低下の状態は遷延します。
しかし、大量のヨードの曝露は、
あくまで1回きりなのですから、
数週間からせいぜい2~3ヶ月の経過の中で、
多くの場合甲状腺機能は、
ヨード曝露前の状態に戻ると想定されます。
従って、
甲状腺のご病気をお持ちの方でも、
治療により甲状腺の機能が安定した状態にあれば、
必ずしも造影検査の禁忌にはなりません。
ただ、大量のヨード剤の使用が、
たとえ1回限りの使用ではあっても、
その後の甲状腺機能にある程度持続的な影響を与えるのでは、
という考え自体は以前よりあり、
以前ご紹介した2012年のArch Intern Med誌の論文では、
甲状腺機能異常の頻度が、
数倍に増加したとする結果が報告されています。
しかし、データの精度はそれほど高いものではなく、
本当にこうしたことがあるのかの真偽は、
まだ不明と考えた方が良さそうです。
さて、今回のデータは甲状腺のご病気のない、成人54名に、
造影CT検査を施行し、
施行前と施行後最大24週間まで経時的に、
甲状腺機能と尿中のヨードの濃度を測定して、
その経過を検証したものです。
例数はそれほど多くはありませんが、
ヨード代謝と甲状腺機能を、
前向きに経時的に見ている、という点が特徴です。
こうしたデータはこれまでに殆ど存在していません。
その結果…
最初の登録者は54名ですが、
そのうちの4名はTSHが基準値を超えて上昇しており、
1名は登録前のTSHが計測されていなかったため、
最終的な甲状腺機能などの解析は、
49名で行われています。
このうち22%に当たる11名において、
CT検査後1から4週間の間に、
甲状腺機能の変動が生じ、
観察期間の24週の間には正常に復しています。
具体的にはそのうちの5名では、
TSHが0.05から0.31mIU/Lと抑制されていて、
残りの6名では、
TSHが4.50から5.60とやや増加しています。
つまり、潜在性の機能低下症と機能亢進症が、
ほぼ半数ずつ生じています。
造影剤によるヨードの投与量は、
平均で34.6グラムでした。
人間には毎日、概ね150から200マイクログラムあれば、
充分と考えられていますから
(妊娠中及び授乳中はもう少し多めが推奨)、
非常に大量であることが分かります。
ただ、甲状腺に取り込まれるのは、
遊離のヨードですから、
造影剤に含まれている蛋白などに結合したヨードは、
比率的には極わずかしか、
遊離のヨードにはならないまま、
排泄されると考えられています。
今回の検討ではヨードの尿中への排泄は、
平均で1.1週間くらいでピークになり、
5.2週間くらいで元に戻ります。
検査前の尿中ヨードは平均で105.1μg/Lで、
ピークでは3519μg/Lに達しています。
つまり、造影CT検査により大量のヨードが身体に入ると、
その影響は平均でも5週間は、
正常に戻るまで続きます。
この間に、
一見甲状腺の病気のない方でも、
2割以上で軽度の甲状腺の異常が起こります。
これは通常は問題のないものですが、
仮にバセドウ病が隠れていたり、
橋本病のように、
甲状腺ホルモンの合成に問題のあるような患者さんでは、
大きな問題となる可能性も否定は出来ないのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のThyroid誌に掲載された、
造影CT検査後の甲状腺機能の変化と、
尿へのヨード排泄の推移を検証した論文です。
心臓のカテーテル検査などの血管造影の検査や、
血管に薬を入れて撮影する、
造影CTの検査などでは、
大量のヨードを含む造影剤が使用されます。
これは放射性ヨードではありませんが、
ヨードであることには間違いがなく、
一時的には甲状腺はヨードで飽和状態となり、
一種のヨードブロックと同じ状態になります。
甲状腺に取り込まれた以外のヨードは、
速やかに体外に排泄されますから、
通常は大きな問題にはならない筈です。
大量のヨードは、
それ自体が甲状腺のホルモン合成を抑えるので、
一時的には甲状腺機能は低下しますが、
その効果は通常は一時的なものだからです。
ただし、
バセドウ病のような、
甲状腺機能亢進症のある方では、
大量のヨードが強制的に取り込まれることにより、
甲状腺機能の亢進症状が、
悪化することが想定されます。
また、橋本病のような慢性の甲状腺炎のある患者さんでは、
甲状腺のホルモン産生工場の、
配管に水漏れのあるような状態なので、
大量のヨードが入ることにより、
通常より機能低下の状態は遷延します。
しかし、大量のヨードの曝露は、
あくまで1回きりなのですから、
数週間からせいぜい2~3ヶ月の経過の中で、
多くの場合甲状腺機能は、
ヨード曝露前の状態に戻ると想定されます。
従って、
甲状腺のご病気をお持ちの方でも、
治療により甲状腺の機能が安定した状態にあれば、
必ずしも造影検査の禁忌にはなりません。
ただ、大量のヨード剤の使用が、
たとえ1回限りの使用ではあっても、
その後の甲状腺機能にある程度持続的な影響を与えるのでは、
という考え自体は以前よりあり、
以前ご紹介した2012年のArch Intern Med誌の論文では、
甲状腺機能異常の頻度が、
数倍に増加したとする結果が報告されています。
しかし、データの精度はそれほど高いものではなく、
本当にこうしたことがあるのかの真偽は、
まだ不明と考えた方が良さそうです。
さて、今回のデータは甲状腺のご病気のない、成人54名に、
造影CT検査を施行し、
施行前と施行後最大24週間まで経時的に、
甲状腺機能と尿中のヨードの濃度を測定して、
その経過を検証したものです。
例数はそれほど多くはありませんが、
ヨード代謝と甲状腺機能を、
前向きに経時的に見ている、という点が特徴です。
こうしたデータはこれまでに殆ど存在していません。
その結果…
最初の登録者は54名ですが、
そのうちの4名はTSHが基準値を超えて上昇しており、
1名は登録前のTSHが計測されていなかったため、
最終的な甲状腺機能などの解析は、
49名で行われています。
このうち22%に当たる11名において、
CT検査後1から4週間の間に、
甲状腺機能の変動が生じ、
観察期間の24週の間には正常に復しています。
具体的にはそのうちの5名では、
TSHが0.05から0.31mIU/Lと抑制されていて、
残りの6名では、
TSHが4.50から5.60とやや増加しています。
つまり、潜在性の機能低下症と機能亢進症が、
ほぼ半数ずつ生じています。
造影剤によるヨードの投与量は、
平均で34.6グラムでした。
人間には毎日、概ね150から200マイクログラムあれば、
充分と考えられていますから
(妊娠中及び授乳中はもう少し多めが推奨)、
非常に大量であることが分かります。
ただ、甲状腺に取り込まれるのは、
遊離のヨードですから、
造影剤に含まれている蛋白などに結合したヨードは、
比率的には極わずかしか、
遊離のヨードにはならないまま、
排泄されると考えられています。
今回の検討ではヨードの尿中への排泄は、
平均で1.1週間くらいでピークになり、
5.2週間くらいで元に戻ります。
検査前の尿中ヨードは平均で105.1μg/Lで、
ピークでは3519μg/Lに達しています。
つまり、造影CT検査により大量のヨードが身体に入ると、
その影響は平均でも5週間は、
正常に戻るまで続きます。
この間に、
一見甲状腺の病気のない方でも、
2割以上で軽度の甲状腺の異常が起こります。
これは通常は問題のないものですが、
仮にバセドウ病が隠れていたり、
橋本病のように、
甲状腺ホルモンの合成に問題のあるような患者さんでは、
大きな問題となる可能性も否定は出来ないのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-05-11 08:10
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