明治座五月花形歌舞伎(2015年) [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
明治座で猿之助と中車、
愛之助を中心とした布陣で、
花形歌舞伎が上演されています。
市川中車(香川照之)は、
襲名以降、東京では当代猿之助との共演はなく、
今回が本当に久しぶりの本格的な共演、
ということになります。
本当は名コンビと言われるような存在に、
お互いがなって、切磋琢磨して欲しいのですが、
どうもお互いに距離のある状態が続いているようです。
残念ですが仕方がありません。
今回は昼夜1つずつの演目で、
一応がっぷり四つという感じの共演が実現しました。
昼の部共演作「男の花道」は、
長谷川一夫が主演した映画が原作で、
その後に長谷川一夫が舞台でも主演して、
彼の代表作の1つとなりました。
元ネタは明治時代の講談です。
主人公は加賀屋歌右衛門という幕末の名女形で、
眼病で失明寸前となったところを、
土生玄碩という眼科医に救われます。
その恩義を感じた歌右衛門が、
後半ではひょんなことから切腹の危機にある玄碩のために、
上演中の舞台を放り出して助けに走ります。
時代劇版「走れメロス」という趣向です。
舞台では歌右衛門を長谷川一夫が演じ、
二世猿之助が玄碩を演じた、という歴史があります。
それを今度は当代猿之助の歌右衛門と、
中車の玄碩で継承しよう、
というのが今回の舞台です。
猿之助は実父の段四郎とのコンビで、
既に一度上演をしていて、
今度は中車とのコンビでの舞台になりました。
中車は勿論初役です。
これは音楽も録音が使われていますし、
照明もサスで絞り込んだりしていますから、
舞台は江戸時代で、
歌右衛門が演じるという趣向の劇中劇は、
しっかり歌舞伎にはなっていますが、
トータルには歌舞伎とは言い難く、
歌舞伎の趣向を取り入れて歌舞伎役者の演じる、
商業演劇の古典という塩梅です。
結論的にはでも、
これは意外に面白くて、
かつての昭和の黄金時代の商業演劇の、
底力を感じるという舞台です。
後半で八百屋お七の人形振りの舞台を、
劇場そのものを中村座に見立てて上演し、
そこに玄碩危うしの急報が入ると、
幕が下ろされ、歌右衛門が観客に舞台を中断した非礼を詫びます。
すると、
実際の客席に仕込まれた観客役の役者が、
最初は罵倒し、最後は応援して歌右衛門を送り出します。
実際の観客も拍手で後押しし、
大向うも劇中の歌右衛門の屋号である、
「加賀屋」という掛け声を掛けるのです。
こうした実際の観客を、
物語の観客にオーバーラップさせるような趣向は、
新劇でも小劇場でも何処でもやる古い手ですが、
成功することは稀です。
しかし、今回のものは、
内容も「走れメロス」と同じですから、
シンプルでわかり易いですし、
その前の八百屋お七の人形振りが、
本物の藝なので、
自然と猿之助の歌右衛門に、
感情移入することが出来るのです。
明治座のような老若男女取り混ぜた客席も、
こうした幻想を成立させるのには、
適していたように思いました。
猿之助は柄に合った緻密な芝居でさすがです。
対する中車はまだ硬い芝居であるのは否めないのですが、
それでも後半は随所に彼らしさも感じられました。
もっと普段の映像芝居に近いべらんめえ調の台詞で、
問題はないように思うのですが、
歌舞伎口調を彼なりに、
完成させたいと思っているのかも知れません。
その語尾の伸ばし方は、
それが良いことなのかどうかは微妙ですが、
父親の猿翁に、
かなり似て来ました。
脇も手堅い芝居が揃って厚みがあります。
愛之助の悪役武士の芝居も楽しく、
門之助の芝居の円熟味や、
今回は猿之助の演技の師匠とも言える、
坂東竹三郎も渋くて良かったです。
これが昼夜通して今回の最大の見もので、
もう1つの猿之助、中車共演の「あんまと泥棒」は、
主役の中車の練り上げがまだまだの途上の作品で、
夜の部の愛之助大活躍の「鯉つかみ」は、
何度か上演されている後半は、
セミ・クラシックと言って良い、充実した芝居でしたが、
今回付け加えられた前半は、
ちょっと上演するには完成度の低過ぎる舞台に終わっていました。
これは後半のみで充分ではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
明治座で猿之助と中車、
愛之助を中心とした布陣で、
花形歌舞伎が上演されています。
市川中車(香川照之)は、
襲名以降、東京では当代猿之助との共演はなく、
今回が本当に久しぶりの本格的な共演、
ということになります。
本当は名コンビと言われるような存在に、
お互いがなって、切磋琢磨して欲しいのですが、
どうもお互いに距離のある状態が続いているようです。
残念ですが仕方がありません。
今回は昼夜1つずつの演目で、
一応がっぷり四つという感じの共演が実現しました。
昼の部共演作「男の花道」は、
長谷川一夫が主演した映画が原作で、
その後に長谷川一夫が舞台でも主演して、
彼の代表作の1つとなりました。
元ネタは明治時代の講談です。
主人公は加賀屋歌右衛門という幕末の名女形で、
眼病で失明寸前となったところを、
土生玄碩という眼科医に救われます。
その恩義を感じた歌右衛門が、
後半ではひょんなことから切腹の危機にある玄碩のために、
上演中の舞台を放り出して助けに走ります。
時代劇版「走れメロス」という趣向です。
舞台では歌右衛門を長谷川一夫が演じ、
二世猿之助が玄碩を演じた、という歴史があります。
それを今度は当代猿之助の歌右衛門と、
中車の玄碩で継承しよう、
というのが今回の舞台です。
猿之助は実父の段四郎とのコンビで、
既に一度上演をしていて、
今度は中車とのコンビでの舞台になりました。
中車は勿論初役です。
これは音楽も録音が使われていますし、
照明もサスで絞り込んだりしていますから、
舞台は江戸時代で、
歌右衛門が演じるという趣向の劇中劇は、
しっかり歌舞伎にはなっていますが、
トータルには歌舞伎とは言い難く、
歌舞伎の趣向を取り入れて歌舞伎役者の演じる、
商業演劇の古典という塩梅です。
結論的にはでも、
これは意外に面白くて、
かつての昭和の黄金時代の商業演劇の、
底力を感じるという舞台です。
後半で八百屋お七の人形振りの舞台を、
劇場そのものを中村座に見立てて上演し、
そこに玄碩危うしの急報が入ると、
幕が下ろされ、歌右衛門が観客に舞台を中断した非礼を詫びます。
すると、
実際の客席に仕込まれた観客役の役者が、
最初は罵倒し、最後は応援して歌右衛門を送り出します。
実際の観客も拍手で後押しし、
大向うも劇中の歌右衛門の屋号である、
「加賀屋」という掛け声を掛けるのです。
こうした実際の観客を、
物語の観客にオーバーラップさせるような趣向は、
新劇でも小劇場でも何処でもやる古い手ですが、
成功することは稀です。
しかし、今回のものは、
内容も「走れメロス」と同じですから、
シンプルでわかり易いですし、
その前の八百屋お七の人形振りが、
本物の藝なので、
自然と猿之助の歌右衛門に、
感情移入することが出来るのです。
明治座のような老若男女取り混ぜた客席も、
こうした幻想を成立させるのには、
適していたように思いました。
猿之助は柄に合った緻密な芝居でさすがです。
対する中車はまだ硬い芝居であるのは否めないのですが、
それでも後半は随所に彼らしさも感じられました。
もっと普段の映像芝居に近いべらんめえ調の台詞で、
問題はないように思うのですが、
歌舞伎口調を彼なりに、
完成させたいと思っているのかも知れません。
その語尾の伸ばし方は、
それが良いことなのかどうかは微妙ですが、
父親の猿翁に、
かなり似て来ました。
脇も手堅い芝居が揃って厚みがあります。
愛之助の悪役武士の芝居も楽しく、
門之助の芝居の円熟味や、
今回は猿之助の演技の師匠とも言える、
坂東竹三郎も渋くて良かったです。
これが昼夜通して今回の最大の見もので、
もう1つの猿之助、中車共演の「あんまと泥棒」は、
主役の中車の練り上げがまだまだの途上の作品で、
夜の部の愛之助大活躍の「鯉つかみ」は、
何度か上演されている後半は、
セミ・クラシックと言って良い、充実した芝居でしたが、
今回付け加えられた前半は、
ちょっと上演するには完成度の低過ぎる舞台に終わっていました。
これは後半のみで充分ではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2015-05-10 18:59
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コメント(2)
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中車は歌舞伎の世界にしがみついている感じですね。
by Silvermac (2015-05-11 05:51)
Silvermacさんへ
まだ大化けする可能性は、
秘めているように思います。
by fujiki (2015-05-11 06:27)