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肺炎球菌ワクチン(プレベナー13)の高齢者肺炎予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肺炎球菌ワクチンの成人への効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
肺炎球菌予防ワクチン(プレベナー13)の、
高齢者の肺炎予防効果を検証した文献です。

肺炎球菌ワクチンと言われるワクチンが、
現在日本では2種類使用されています。

1つは主に高齢者に使用されている、
ニューモバックスと名付けられたワクチンで、
もう1つは2ヶ月齢以降のお子さんへの接種が定期接種として行われ、
65歳以上の高齢者にも、
2014年6月からは接種が認められている、
プレベナーと名付けられたワクチンです。

麻疹でも水疱瘡でもインフルエンザでも、
基本的にはワクチンは1種類で、
2種類の製法の違うワクチンが並行して使用されている、
というようなことはあまりありません。

それでは何故、
肺炎球菌ワクチンのみが、
このように2種類存在しているのでしょうか?

まずその点を整理しておきたいと思います。

肺炎球菌は人間の鼻の粘膜などに、
常時存在する細菌ですが、
小さなお子さんの髄膜炎や、
お子さんの中耳炎、
高齢者の肺炎などの原因菌として、
人間の健康を脅かす大きな要因になります。

肺炎球菌は細菌ですから、
基本的には抗生物質が有効です。
ただ、ご他聞に洩れず多剤耐性菌が増えていて、
もしこの感染をワクチンで予防出来るなら、
その方が患者さんへの負担も少なく、
医療経済的にも、
よりメリットのある方法であることは、
皆さんもご納得の行くところではないかと思います。

歴史的に言うと、
最初に世界的に広く使用された肺炎球菌のワクチンは、
ニューモバックスで、
アメリカで1983年に承認され、
日本では1988年に販売が開始されました。
ただ、その原型は既に1911年には開発されていた、
非常に古いワクチンです。
1940年代には既に商品化されましたが、
それほど広くは普及しませんでした。
抗生物質の進歩があったためです。

このニューモバックスは、
23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン
と呼ばれています。
略してPPSV23 です。

肺炎球菌は莢のような構造に包まれており、
その莢の成分により、
90種類以上の莢膜型に分類されています。

その型によってどのような病気になり易いかが概ね決まります。
また、大人に病気を起こし易い型もあり、
逆に大人には病気を起こし難く、
子供に病気を起こし易い型もあります。
更には日本で流行している型と、
海外で流行している型では、
若干の違いがあることも知られています。

ニューモバックスは、
そのうち肺炎や髄膜炎などの原因になり易い、
23の型を選んで、
その莢膜の成分をワクチンとしたものです。

その型を順番に並べると、
1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33F
ということになります。
基本的にはこの23種の型に対して、
ニューモバックスを一本打てば、
ある程度の予防が可能だ、
ということになります。

このワクチンの適応は、
原則2歳以上とされています。

現状の対象者は主に高齢者です。

それは何故でしょうか?

このワクチンは蛋白質を抗原としていません。
そのために、
T細胞というリンパ球による免疫は誘導せず、
IgM抗体という種類の抗体を、
上昇させる効果しか持ちません。

これはどういう意味かと言うと、
まずこのワクチンはブースター効果を持ちません。
つまり、ワクチンの効果が薄れた時点で、
肺炎球菌による感染が起こっても、
過去の感染を記憶していて、
より強い免疫反応が起こる、
というようなことはないのです。

従って、抗体が減少した時点で、
その効果は全くなくなりますし、
たとえば1ヶ月毎に接種を2回しても、
副反応が強くなることはあっても、
免疫の持続がそれにより長くなることはありません。

つまり、インフルエンザのワクチンのようなものとは、
基本的に性質が違うのです。

ワクチンというよりも、
免疫グロブリンを打つような治療に、
どちらかと言えばその効果は似ているかも知れません。

ただ、その代わり、打った場所の腫れ以外には、
重症の副反応は殆どありません。
ワクチン接種後に亡くなった、というような報告も、
このワクチンに関しては、
現時点で一切ありません。

免疫グロブリンの注射の効果は数ヶ月で消失しますが、
このワクチンにより誘導される抗体は、
4~5年はその有効性が確認されています。

このワクチンは更には粘膜の免疫は誘導しません。

肺炎球菌が定着するのは、
人間では主に鼻や口の粘膜です。

しかし、それを排除する力はこのワクチンにはなく、
従って、中耳炎や咽頭炎、副鼻腔炎などの予防効果はないのです。
このワクチンが効果を現わすのは、
あくまで肺炎球菌が大量に身体で増殖し、
貪食細胞が出動するような場合のみです。

2歳未満の子供では、
免疫系が未成熟のため、
このワクチンの誘導するような抗体を、
充分に産生出来ないことが分かっています。

従って、このワクチンは2歳未満の予防効果はないのです。

最近このワクチンの高齢者への使用が、
メディアなどでも非常に推奨され、
タレントを使ったコマーシャルなども流されています。
それを見ると、
あたかも全ての肺炎が、
このワクチンにより予防されるかのようですが、
勿論そんなことはありません。

有効性があるのは23種類のタイプの、
肺炎球菌の感染による肺炎のみですし、
更には「菌血症性肺炎」と言って、
血液中に細菌が増殖し検出されるような、
特殊な重症のタイプの肺炎にしか、
その有効性は認められていません。

手元の日本の資料によると、
肺炎球菌による肺炎のうち、
菌血症を伴うのは、
せいぜい2~3割程度で、
後は「非菌血症製の肺炎」です。
これをNPPと呼んでいます。

ニューモバックスは肺炎球菌性肺炎の多数を占める、
NPPには効かないのです。
効果の確認されているのは、
重症度の高い菌血症を伴う肺炎に対してのみです。

「肺炎の重症化を防ぐ」という言い回しは、
要するにそういう意味なのですが、
このことはあまり一般には、
説明されることがありません。

それに対して、
2000年にアメリカで認可され使用が始まったのが、
プレベナーというワクチンです。

これは7価肺炎球菌多糖体蛋白結合型ワクチン
と呼ばれています。
略してPCV7 です。
商品名がプレベナーです。
2010年からアメリカでは、
より多い13価の抗原を含むPCV13(プレベナー13)が使用されて、
PCV7に切り替わり、
日本でも2013年の6月からは、
プレベナー13が使用されるようになっています。
これは小児への適応ですが、
2014年の6月からは、
日本でも65歳以上の高齢者への、
プレベナー13の使用が認可されています。

このワクチンは莢膜のポリサッカライドに、
人工的に無毒性変異ジフテリア毒素を、
くっつけて製造されています。
つまり、人工的に蛋白質をくっ付けているのです。
このため、このワクチンは、
T細胞にも認識され、
通常のワクチンと同じように、
ブースター効果も持つことが推定されます。
更には粘膜の免疫を、
誘導する作用も確認されています。

このワクチンを打つと、
その有効な型の肺炎球菌は、
鼻や咽喉の粘膜に、
定着することが出来ません。
つまり、ニューモバックスとは異なり、
感染自体を予防する効果があるのです。
当然NPPにもその効果が期待出来ます。

PCV7の7価というのは7種類の型のことで、
4、6B、9V、14、18C、19F、23Fの7種類です。
基本的にはニューモバックスに含まれている型のうち、
7つをセレクトした、
という格好になっています。
PCV13(プレベナー13)は、
PCV7の7つの型に加えて、
1、3、5、6A、7F、19Aの6つの型の抗原を、
追加したタイプのワクチンです。
これは6Aのみがニューもバックスとは異なる抗原です。

このプレベナー13の、
小児の肺炎球菌による髄膜脳炎の予防効果は、
明確に実証されています。

ただ、高齢者の肺炎の予防に対しての、
プレベナー13の効果はまだ明確ではありません。

今回の研究は65歳以上の84496例を、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方はプレベナー13を接種し、
もう一方は偽ワクチンを接種して、
平均で3.97年間の経過観察を行なっています。

その間に初回に起こった肺炎を、
ワクチンの接種で予防出来たかどうかを検証しているのです。

かなり大規模なワクチンの効果判定の臨床研究です。

その結果…

ワクチンに含まれている抗原型の肺炎球菌による肺炎には、
偽ワクチン群で90例、
ワクチン接種群で49例が感染しました。
ワクチン接種により同じ抗原型による肺炎は、
45.6%有意に予防されました。(per-protocol解析)

このうち非菌血症性の軽症の肺炎は、
ワクチンにより45.0%予防され、
菌血症を来すような重症肺炎は、
75.0%予防されました。

これを原因には関わらない、
全ての肺炎で検討すると、
偽ワクチン群で787例、
ワクチン接種群で747例が罹患し、
トータルな肺炎の予防効果は、
確認されませんでした。

このワクチンによる肺炎予防効果は、
接種後3.97年という観察期間においては、
ほぼ変わりなく認められました。

安全性に関しては、
局所の反応以外は、重篤なものは認められていません。

つまり、
高齢者に1回プレベナー13を接種すると、
同じ型の肺炎球菌による肺炎に対しては、
45%程度の予防効果が、
ほぼ4年間持続します。
しかし、全ての肺炎に条件を拡大すれば、
このワクチンでの予防効果は有意には確認されません。

ちなみに、
先月のClin Infect Dis.誌に掲載された、
ニューモバックスの疫学データでは、
65歳以上の高齢者において、
ニューモバックスの使用により、
含有抗原の型による菌血症などの重症肺炎は、
42%有意に低下させていますが、
全ての肺炎のみならず、
含有抗原型による肺炎自体の予防効果も確認はされていません。

効果は正直微妙です。

ニューモバックスと比較すれば、
プレベナー13の方が高齢者の肺炎予防に、
その抗原型の肺炎について言えば、
有効性の高いワクチンです。
ただ、小児の髄膜炎への使用のように、
その生命予後を明瞭に改善する、
とまでは言えません。

実際に同じ抗原型による生命予後に関わるような重症肺炎は、
偽ワクチン群では、
全肺炎787例中28例ですから、
それほど頻度的に多いものではなく、
その予防目的でワクチンをその年齢層の全員に接種することは、
その意義をもう一度検証する必要がありそうです。

日本においては、
現状は主にニューモバックスによる高齢者への接種が、
肺炎予防として進められていますが、
その効果はプレベナー13より更に限定的なもので、
今後は日本においても、
プレベナー13の接種に徐々にシフトするのだと思われますが、
その有効性と意義については、
慎重に議論が進められる必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 3

ひでほ

摘脾の手術の後に注射を受けました。
情報ありがとうございました。
by ひでほ (2015-03-24 09:50) 

fujiki

ひでほさんへ
コメントありがとうございます。
ニューモバックスは効果は今ひとつですが、
副反応の非常に少ない点は利点だと思います。
by fujiki (2015-03-24 19:54) 

furaibou

ワクチンは効果がないばかりか有害です。
http://blog.livedoor.jp/lisalisapeace/archives/26940515.html
by furaibou (2015-06-05 23:35) 

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