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スタチンの催奇形リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンの奇形リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤の、
妊娠中の胎児へのリスクについての論文です。

スタチンはその抗動脈硬化作用などから、
心血管疾患の予防のために、
広く使用されているコレステロール降下剤です。

その有用性は多くの臨床試験において確認されていますが、
妊娠中のお母さんの使用は、
禁忌の扱いになっています。

これは開発当時の動物実験において、
高用量の使用により催奇形性が指摘され、
胎児のコレステロールの生合成を阻害するためと、
考えられています。

しかし、
実際に人間で使用されるような用量で、
胎児への催奇形リスクがどの程度存在するのか、
という点については明らかではありません。

近年、妊娠中の合併症である、
妊娠高血圧腎症に対して、
スタチンが予防的に働くのではないか、
ということを示唆するデータがあります。

それが事実であるとすれば、
妊娠中にスタチンを使用することが、
母体にとってはメリットがある、
ということも考えられます。

しかし、現行ではアメリカのFDAでも日本でも、
妊娠中のスタチンは禁忌の扱いですから、
使用することは出来ません。

果たして、実際の妊娠中のスタチンの胎児へのリスクは、
どの程度のものなのでしょうか?

スタチンは発売当初から妊娠中は禁忌であったため、
妊娠中の事例自体が少なく、
あまりまとまったデータはこれまで存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの公的医療保険である、
メディケードのデータを活用し、
2000年から2007年に掛けての886996件の妊娠を対象として、
スタチンの妊娠初期(概ね16週まで)の使用と、
胎児の主な奇形の有無との関係を検証しています。

全体の0.13%に当たる1152件の妊娠において、
妊娠初期にスタチンの使用が行われていました。

スタチンを未使用の場合の先天奇形のリスクは、
3.55%であったのに対して、
スタチン使用群では6.34%となり、
スタチン使用によりそのリスクは1.79倍有意に増加していました。

しかし、
奇形のリスクの1つである、
糖尿病などの影響を補正して計算すると、
そのリスクは1.07倍(0.85から1.37)で、
有意ではなくなりました。

つまり、結論的には、
スタチンの妊娠初期の使用により、
はっきり胎児奇形が増えるとは言えない、
ということになります。

ただ、ちょっと判断は微妙です。

心臓奇形は補正前には3.04倍(1.27から7.30)の増加で、
補正後には1.25倍(0.93から1.70)で有意ではなくなっています。

しかし、これは増加している傾向はある、
というように解釈することも可能です。

心臓奇形と中枢神経系の奇形に関しては、
有意ではないものの増加している傾向はあり、
これはまた別箇の同じくらいの規模の集団で、
再検証しないと白黒は付かないように思います。

ただ、禁忌薬ではありますが、
スタチンの妊娠初期の使用による胎児奇形のリスクは、
それほど高いものではない、
ということは間違いがなく、
母体に利益があれば限定的にスタチンの使用を認める、
という見解にも、
今後議論の余地は残っているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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