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高齢者糖尿病の過剰治療の問題点について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者の糖尿病過剰治療について.jpg
今年のJAMA Intern Med誌に掲載された、
高齢者の糖尿病過剰治療の、
問題点についてのアメリカからの報告です。

高齢者の糖尿病の治療をどうするべきか、
というのはなかなか難しい問題です。

2型糖尿病は生活習慣病として、
最も健康に対する影響の大きな病気です。

糖尿病があると動脈硬化が進行し、
心筋梗塞や脳卒中が増加します。
一部の癌も増えるというデータがあります。
感染症も重症化し易くなり、
肺炎の死亡リスクも増加しますから、
癌、心筋梗塞、脳卒中、肺炎と、
日本人の主な死因の全てに、
糖尿病は深く関わり、
失明や腎不全の原因としても大きな割合を占めています。

糖尿病を予防出来れば、
その人の健康にとって大きなプラスになります。
また、軽症のうちに治療を開始し、
血糖値を極力正常に近付けることを維持すれば、
そのことも、
その人のその後の健康に、
大きなプラスになります。

ここまでは明確な事実です。

ただし…

これは敢くまで高齢者を除いた場合の話です。

この場合の高齢者と言うのは、
概ね65歳以上のことを指します。

2型糖尿病を治療した場合の効果を検証したデータは、
その多くが65歳未満の年齢層を主な対象としていて、
高齢者のデータはあるもののその人数は少なく、
更には腎機能や肝機能など、
内臓機能が低下していたり、
合併症があって身体機能が低下しているような高齢者は、
除外される傾向にありました。

しかし、
実際には65歳以上の糖尿病の患者さんは多く、
特に日本は高齢化社会になるのですから、
今後間違いなくその比率は高くなる訳です。

その一方で、
現行の2型糖尿病の治療ガイドラインは、
多くが高齢者を除外したデータを元に、
作成されているのです。

本当にこのガイドラインを、
そのまま高齢者にも適応して良いのでしょうか?

2型糖尿病の治療の目的は、
目や腎臓などの合併症と、
動脈硬化の進行を、
共に予防することにあります。

合併症も動脈硬化も、
1日で起こる訳ではなく、
少なくとも数年以上の期間を掛けて進行します。

また、
ある程度進行してしまった合併症や動脈硬化に対する効果は、
まだ起こっていないか、
軽症の段階にある場合と比べれば、
より限定的と考えられます。

この2つの推測から分かることは、
糖尿病の治療の効果は、
その患者さんの年齢と、
その時の患者さんの身体の状態に、
大きく左右される事項だ、
ということです。

血糖を薬剤などで低下させる治療は、
より若い年齢で、
合併症や動脈硬化が軽い状態であるほど、
より高い効果が望めるのですが、
その一方で血糖を薬などで強制的に下げることは、
よれによる低血糖などのリスクを伴います。

従って、高齢者で、
特に複数の病気を持っていたり、
生命予後に影響するような病状である場合には、
その時点で血糖を低下させても、
そのことが予後に影響する可能性は低く、
むしろ治療による低血糖の発症が、
悪影響を与える可能性が高まります。

つまり、
高齢者の2型糖尿病においては、
血糖低下の目標を、
より高く設定する必要がある、
ということになります。

2012年にアメリカ糖尿病学会は、
高齢者の糖尿病治療についての勧告を出していますが、
それによると、
健康な高齢者では血糖コントロールの目標値として、
HbA1cが7.5%未満で血糖値では150mg/dL未満を、
中等度の病的状態では、8.0%未満で180mg/dL未満を、
高度の病的状態では、8.5%未満で200mg/dL未満を、
それぞれ目標として設定しています。

この場合の中等度の病的状態とは、
関節炎、心不全、肺疾患、慢性腎臓病、脳卒中、心筋梗塞、排尿障害、
うつ病、骨折、癌などのうち、
3種類以上の持病があるか、
2種類以上の身体の不自由さを持つもので、
高度の病的状態とは、
高度の認知症、重度の心不全、透析を要する腎不全、
酸素療法が必要な肺疾患、などがあるか、
2種類以上の身体の機能が廃絶しているものです。

高度の認知症があって寝たきりの患者さんにおいて、
血糖コントロールを良くする事の意義は、
ケトアシドーシスなどの重篤な血糖異常でなければ、
あまりないであろうことは、
容易に推測が付くところです。

しかし、実際には、
それでも強力な血糖効果剤が、
複数使用されているようなケースは、
しばしば実際の臨床では見られることでもあります。

今回のデータは、
NHANESと呼ばれる、
アメリカの全国健康・栄養調査のデータを活用して、
実際に病気のある高齢者において、
どのレベルの糖尿病治療が行われているのかを、
検証したものです。

その結果…

1288名の高齢2型糖尿病患者において、
トータルで61.5%の患者さんが、
HbA1cが7.0%未満という、
若年者と同じような血糖コントロールを施行されていて、
その比率は高齢者の病気のあるなしで大きな差はなく、
高度の病的状態にある高齢者においても、
56.4%の患者さんが、
若年者と同様の血糖コントロールを施行されていました。
その治療の主体はSU剤とインスリン注射です。

これは本来は不要なだけではなく、
低血糖のリスクを増加させ、
それが患者さんの予後に、
悪影響を与える可能性があります。

その意味で、上記文献の著者らは、
これを過剰治療(Overtreatment)と呼んでいるのです。

アメリカの指針においては、
高齢者の治療薬として想定されているのは、
主にメトホルミンなのですが、
この薬は一方でFDAのガイドラインでも、
80歳以上はほぼ禁忌の扱いですから、
ちょっと自己矛盾を抱えているようなところもあります。

この辺りは、
あまり臨床を多く見ていない、
「口から番長」のような先生が、
またぞろ無責任に、
「日本の糖尿病治療はこんなに酷い」
と言われているところでもあるのですが、
人間は急に老人になるのではなく、
連続した時間的存在として老人になるので、
単純に割り切れる問題ではなく、
シンプルな正解のある、
というものでもないと思います。

個人的な見解としては、
75歳以上の高齢者で、
新たに糖尿病の治療を開始する場合には、
患者さんの合併症をチェックした上で、
本当に治療のメリットがあるかどうかを慎重に見極め、
治療するケースでも、
HbA1cは8.0から8.5くらいでOKとします。
使用薬剤は、
現行の日本の状況では、
DPP-4阻害剤を第一選択に考えますが、
これは薬価等を重視する立場からは、
異論もあるところかと思います。
それまでSU剤で治療を継続していた患者さんが、
高齢になったようなケースでは、
極力SU剤を減量して、
DPP4阻害剤への変更、
もしくは短期作用型のSU剤少量への変更なども、
検討します。
重要なことは低血糖のリスクを極小にし、
マイルドなコントロールを目指す、
というところにあるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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Silvermac

10年ほど継続治療をしていますが、健康な高齢者の数値該当です。
by Silvermac (2015-01-19 10:24) 

目指せ腹7分目

石原先生、いつもブログを楽しみにしています。
私の周りでも75歳過ぎの高齢者達が何人か、糖尿の治療を受けてます。でも、薬の飲み方がわからなくなって過量を飲み続けて低血糖で倒れたり、また厳しすぎる医師のもと、お饅頭など好物を一切断ち、糖尿の血糖値のことで日々ストレスを抱え、最期は糖尿と関係無さそうな大腸癌で亡くなったり、人生最期の時期のあの苦行は何だったのか、と気の毒に思います。
また、糖尿の高い値段の新薬は年金暮らしには
なかなか大変そうですが、昔から使われている糖尿薬で薬代の安いものでもいいんじゃないかな、と思います。
私も高齢者の人達の糖尿などの治療について不思議に思っていました。
by 目指せ腹7分目 (2015-01-19 23:52) 

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