人工甘味料の腸内細菌を介した耐糖能悪化メカニズムについて [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Nature誌に今月ウェブ掲載された、
人工甘味料による耐糖能悪化のメカニズムについての文献です。
これは結構最近報道などでも話題になっているものです。
ゼロカロリーのダイエット飲料の、
身体への影響については様々な意見があります。
その一部は以前何度か記事にもしましたし、
本にも書きました。
高価な砂糖の代用として開発された、
サッカリンがその始まりで、
その後アミノ酸の一種であるアスパルテームや、
スクラロースなど、
多くの「代用砂糖」が開発されました。
これはそもそもは高価な砂糖の代用品として、
商品価格を下げることが目的で、
サッカリンと言えば安かろう悪かろうという、
どちらかと言えば悪いイメージしかなかったのですが、
カロリーのないことを逆手に取って、
ダイエット目的や健康に良いというイメージで、
急速に普及することになったのです。
サッカリンには発癌性の危惧があって、
今でも使用はされていますが、
その後開発されたアスパルテームやスクラロースの方が、
今では主に使用されています。
普及しているダイエットコーラでも、
使用されているのはアスパルテームやスクラロースが主です。
砂糖の入っているコーラを飲んでいた人が、
それを人工甘味料の入ったダイエットコーラに変えれば、
摂取カロリーは減り、
特に肥満の方や糖尿病の傾向のあるような方では、
より健康にメリットがあるように、
普通に考えればそう思えます。
しかし、人工甘味料の使用により、
体重が減少して血糖コントロールにも良い影響が見られた、
という臨床データがある一方で、
むしろ体重が増加して糖尿病の発症リスクも増加した、
というような相反するデータも得られています。
以前ご紹介したように、
人工甘味料が舌の甘味受容体に結合することにより、
身体が反応してインスリンを分泌し、
それが空腹感を増強するため、
結果として過食が誘発されるのでは、
という仮説があります。
今回の文献では、それとは別個のメカニズムにより、
人工甘味料による耐糖能への悪影響が生じている可能性を、
主にネズミの研究と、
それに少しだけ人間のデータを付加する形で検証しています。
ともかく論理的に詰めるために、
矢鱈と沢山の実験が行われているので、
それが評価されているのだろうな、とは推察されます。
ただ、ネズミの餌を変えて血糖値や腸内細菌叢を見るような実験が主なので、
1つの条件当たりのネズミの数は限られています。
人間のデータは敢くまで「おまけ」なので、
単独ではそれほどのものではありません。
従って、人間でこの論文の結論を正しいとするためには、
例数を増やした人間のデータが不可欠だと思います。
正直これでNatureに載るレベルなのかしら、
という印象を持ちましたが、
勿論緻密な研究であることは間違いがありません。
まず、ネズミをただの水を与えた場合と、
ブドウ糖を加えた水、
サッカリンを加えた水、
アスパルテームを加えた水、
スクラロースを加えた水のそれぞれで、
11週間飼育して、
その後でブドウ糖負荷試験を施行したところ、
3種類の人工甘味料を使用したネズミでは、
それ以外のネズミより血糖値が上昇していて、
その上昇度はサッカリンがより著明でした。
そこで以降の実験は、
主にサッカリンとブドウ糖の比較で行われています。
次に抗生物質の投与による前処置を行なうと、
このサッカリンとブドウ糖による反応の違いは消失します。
人工甘味料は身体からは殆ど吸収されず、
腸管を経由して排泄されます。
従って、抗生物質の使用により何らかの変化が生じたとすれば、
それは腸管の細菌叢にその原因がありそうだ、
ということになります。
つまり、
サッカリンによる血糖値の上昇に、
腸内細菌が関与していることを示唆しています。
抗生物質の使用により、
腸内細菌は一時的に死んでしまうので、
そのためにサッカリンとブドウ糖の差はなくなった、
という可能性がある訳です。
これを更に裏付けるために、
今度は便の移植を行ないます。
無菌的に飼育されたネズミに、
ブドウ糖とサッカリンの双方で飼育された、
通常のネズミの便を移植します。
すると、
サッカリンとブドウ糖との血糖値に与える影響の差は、
それ以外の条件は変えずに再現されました。
これで、
サッカリンの餌で飼育されたネズミの血糖が上昇したのは、
サッカリンによる腸内細菌叢への、
何らかの変化が原因であることがほぼ証明されたのです。
次に、サッカリンにより、
実際に腸内細菌叢に変化が起こったのかどうかを検証します。
便のサッカリン使用前後の遺伝子検査を施行することにより、
腸内細菌を分析したところ、
食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を生成する反応を、
より増やす方向への細菌叢の変化が起こっていることが確認されました。
腸内細菌をサッカリン添加により培養することによっても、
こうした変化は再現されました。
ここにおいて、
少なくともネズミでは、
サッカリンにより腸内細菌叢が変化し、
それによって血糖の上昇が起こることが、
ほぼ証明されたのです。
最後に人間のデータです。
糖尿病のない381名の成人で、
摂取している人工甘味料と血糖関連のデータとの関連を見たところ、
体重や血糖値は人口甘味料の摂取量が多いほど、
増加する傾向が認められました。
そして、摂取量の最も多い群と摂取しない群との比較においては、
体重の影響を補正しても、
摂取量の多い群でHbA1cが有意に増加していました。
最後に7名の成人に、
摂取の認められている上限量のサッカリンを、
7日間摂取して連日の糖負荷試験を行なったところ、
そのうちの4名ではネズミと同じように、
血糖値の上昇がサッカリン使用後数日から生じました。
そして、残りの3名では変化はありませんでした。
変化のあった4名の便を前後で検証すると、
ネズミと同じように菌叢の変化があり、
その便を無菌状態のネズミに移植することにより、
ネズミにおいても同様の血糖上昇が確認されました。
つまり、
サッカリンの使用により、
メカニズムは不明ですが、
比較的短期間で腸内細菌叢の変化が起こると、
それにより血糖値が上昇することが想定されます。
ただ、この細菌叢の変化は、
人間においては必ずしも常に起こる訳ではなく、
起こる人と起こらない人があるようです。
細菌叢が変化することにより、
何故糖負荷試験における血糖上昇が起こるのかは、
あまり明確ではありません。
短鎖脂肪酸の産生が増えて、
同じ食事でも体重増加の起こり易くなることは、
想定が可能なのですが、
それは短期間で耐糖能自体が変化することの、
説明にはならないと思うからです。
また、今回のデータでは主にサッカリンが実験に使用されていて、
日本では人工甘味料の主体はアスパルテームなどですから、
この結果がサッカリン以外の人工甘味料にも、
同じように適応されるものなのかは、
明らかではありません。
今回の文献の著者は、
以前から人工甘味料の害を示唆するような研究を、
専ら続けているグループなので、
初めから結論ありきの感じが、
この研究にもあるように思います。
その最たる点は、最初はアスパルテームも使用していながら、
多くの研究では違いの出易いサッカリンのみを使用していることで、
今回の結果は事実であるにしても、
特定の人工甘味料で、
特定の条件下でのみ成り立つものであることには、
注意する必要があるように思います。
更にはネズミのデータはそれなりに説得力のあるものですが、
人間のデータは例数も少なく、
今後の追試を待たなければ、
結論を出せるような性質のものではありません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Nature誌に今月ウェブ掲載された、
人工甘味料による耐糖能悪化のメカニズムについての文献です。
これは結構最近報道などでも話題になっているものです。
ゼロカロリーのダイエット飲料の、
身体への影響については様々な意見があります。
その一部は以前何度か記事にもしましたし、
本にも書きました。
高価な砂糖の代用として開発された、
サッカリンがその始まりで、
その後アミノ酸の一種であるアスパルテームや、
スクラロースなど、
多くの「代用砂糖」が開発されました。
これはそもそもは高価な砂糖の代用品として、
商品価格を下げることが目的で、
サッカリンと言えば安かろう悪かろうという、
どちらかと言えば悪いイメージしかなかったのですが、
カロリーのないことを逆手に取って、
ダイエット目的や健康に良いというイメージで、
急速に普及することになったのです。
サッカリンには発癌性の危惧があって、
今でも使用はされていますが、
その後開発されたアスパルテームやスクラロースの方が、
今では主に使用されています。
普及しているダイエットコーラでも、
使用されているのはアスパルテームやスクラロースが主です。
砂糖の入っているコーラを飲んでいた人が、
それを人工甘味料の入ったダイエットコーラに変えれば、
摂取カロリーは減り、
特に肥満の方や糖尿病の傾向のあるような方では、
より健康にメリットがあるように、
普通に考えればそう思えます。
しかし、人工甘味料の使用により、
体重が減少して血糖コントロールにも良い影響が見られた、
という臨床データがある一方で、
むしろ体重が増加して糖尿病の発症リスクも増加した、
というような相反するデータも得られています。
以前ご紹介したように、
人工甘味料が舌の甘味受容体に結合することにより、
身体が反応してインスリンを分泌し、
それが空腹感を増強するため、
結果として過食が誘発されるのでは、
という仮説があります。
今回の文献では、それとは別個のメカニズムにより、
人工甘味料による耐糖能への悪影響が生じている可能性を、
主にネズミの研究と、
それに少しだけ人間のデータを付加する形で検証しています。
ともかく論理的に詰めるために、
矢鱈と沢山の実験が行われているので、
それが評価されているのだろうな、とは推察されます。
ただ、ネズミの餌を変えて血糖値や腸内細菌叢を見るような実験が主なので、
1つの条件当たりのネズミの数は限られています。
人間のデータは敢くまで「おまけ」なので、
単独ではそれほどのものではありません。
従って、人間でこの論文の結論を正しいとするためには、
例数を増やした人間のデータが不可欠だと思います。
正直これでNatureに載るレベルなのかしら、
という印象を持ちましたが、
勿論緻密な研究であることは間違いがありません。
まず、ネズミをただの水を与えた場合と、
ブドウ糖を加えた水、
サッカリンを加えた水、
アスパルテームを加えた水、
スクラロースを加えた水のそれぞれで、
11週間飼育して、
その後でブドウ糖負荷試験を施行したところ、
3種類の人工甘味料を使用したネズミでは、
それ以外のネズミより血糖値が上昇していて、
その上昇度はサッカリンがより著明でした。
そこで以降の実験は、
主にサッカリンとブドウ糖の比較で行われています。
次に抗生物質の投与による前処置を行なうと、
このサッカリンとブドウ糖による反応の違いは消失します。
人工甘味料は身体からは殆ど吸収されず、
腸管を経由して排泄されます。
従って、抗生物質の使用により何らかの変化が生じたとすれば、
それは腸管の細菌叢にその原因がありそうだ、
ということになります。
つまり、
サッカリンによる血糖値の上昇に、
腸内細菌が関与していることを示唆しています。
抗生物質の使用により、
腸内細菌は一時的に死んでしまうので、
そのためにサッカリンとブドウ糖の差はなくなった、
という可能性がある訳です。
これを更に裏付けるために、
今度は便の移植を行ないます。
無菌的に飼育されたネズミに、
ブドウ糖とサッカリンの双方で飼育された、
通常のネズミの便を移植します。
すると、
サッカリンとブドウ糖との血糖値に与える影響の差は、
それ以外の条件は変えずに再現されました。
これで、
サッカリンの餌で飼育されたネズミの血糖が上昇したのは、
サッカリンによる腸内細菌叢への、
何らかの変化が原因であることがほぼ証明されたのです。
次に、サッカリンにより、
実際に腸内細菌叢に変化が起こったのかどうかを検証します。
便のサッカリン使用前後の遺伝子検査を施行することにより、
腸内細菌を分析したところ、
食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を生成する反応を、
より増やす方向への細菌叢の変化が起こっていることが確認されました。
腸内細菌をサッカリン添加により培養することによっても、
こうした変化は再現されました。
ここにおいて、
少なくともネズミでは、
サッカリンにより腸内細菌叢が変化し、
それによって血糖の上昇が起こることが、
ほぼ証明されたのです。
最後に人間のデータです。
糖尿病のない381名の成人で、
摂取している人工甘味料と血糖関連のデータとの関連を見たところ、
体重や血糖値は人口甘味料の摂取量が多いほど、
増加する傾向が認められました。
そして、摂取量の最も多い群と摂取しない群との比較においては、
体重の影響を補正しても、
摂取量の多い群でHbA1cが有意に増加していました。
最後に7名の成人に、
摂取の認められている上限量のサッカリンを、
7日間摂取して連日の糖負荷試験を行なったところ、
そのうちの4名ではネズミと同じように、
血糖値の上昇がサッカリン使用後数日から生じました。
そして、残りの3名では変化はありませんでした。
変化のあった4名の便を前後で検証すると、
ネズミと同じように菌叢の変化があり、
その便を無菌状態のネズミに移植することにより、
ネズミにおいても同様の血糖上昇が確認されました。
つまり、
サッカリンの使用により、
メカニズムは不明ですが、
比較的短期間で腸内細菌叢の変化が起こると、
それにより血糖値が上昇することが想定されます。
ただ、この細菌叢の変化は、
人間においては必ずしも常に起こる訳ではなく、
起こる人と起こらない人があるようです。
細菌叢が変化することにより、
何故糖負荷試験における血糖上昇が起こるのかは、
あまり明確ではありません。
短鎖脂肪酸の産生が増えて、
同じ食事でも体重増加の起こり易くなることは、
想定が可能なのですが、
それは短期間で耐糖能自体が変化することの、
説明にはならないと思うからです。
また、今回のデータでは主にサッカリンが実験に使用されていて、
日本では人工甘味料の主体はアスパルテームなどですから、
この結果がサッカリン以外の人工甘味料にも、
同じように適応されるものなのかは、
明らかではありません。
今回の文献の著者は、
以前から人工甘味料の害を示唆するような研究を、
専ら続けているグループなので、
初めから結論ありきの感じが、
この研究にもあるように思います。
その最たる点は、最初はアスパルテームも使用していながら、
多くの研究では違いの出易いサッカリンのみを使用していることで、
今回の結果は事実であるにしても、
特定の人工甘味料で、
特定の条件下でのみ成り立つものであることには、
注意する必要があるように思います。
更にはネズミのデータはそれなりに説得力のあるものですが、
人間のデータは例数も少なく、
今後の追試を待たなければ、
結論を出せるような性質のものではありません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
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