SSブログ

中性脂肪の低値と心血管疾患との関連性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は関連する2編の論文をご紹介します。
まずこちら。
低中性脂肪血症の遺伝子アメリカ.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
血液中の中性脂肪を調節する蛋白質の遺伝子の変異と、
心臓病や脳卒中のリスクとの関連についての文献です。

血液の中性脂肪の高値が、
心筋梗塞や脳卒中のリスクになることは、
疫学データではほぼ確立した事実ですが、
この数値が非常に変動の大きなものであることと、
心筋梗塞などのリスクとしては、
関連するLDLコレステロールやとの関連が大きく、
その影響を排除した場合に、
どの程度独立したリスクが存在するのかについては、
議論がまだ残る部分がありました。

スタチンによるコレステロール降下療法は、
間違いなく心筋梗塞のリスクを低下させましたが、
LDLコレステロールの数値が充分に低下しても、
まだそのリスクはゼロにはなりません。

後に残るリスクとして、
中性脂肪とHDLコレステロールの低値があり、
この2つは互いに相関があるので、
更に話は厄介です。
ただ、2012年と2013年に遺伝的に中性脂肪が高いことが、
HDLコレステロール値とは無関係に心血管疾患のリスクになる、
という内容の論文が発表され、
おそらくは中性脂肪を高める遺伝的素因自体が、
心血管疾患のリスクとなることがほぼ確認されました。

一方で中性脂肪値が食後でも90mg/dLを越えない、
という極度に中性脂肪の低い体質のあることが知られていて、
それが脂質とくっついて脂質を運ぶ蛋白質である、
APOC3というアポ蛋白質の遺伝子と関連のあることが、
近年明らかとなりました。

このAPOC3が血液の中性脂肪を上昇させることに、
大きな役割を果たしていて、
このアポ蛋白質の働きが弱かったり、
存在しないような遺伝子異常があると、
中性脂肪が極度に低い体質が生じるのです。

それでは、
APOC3が働かないことは、
身体にとって良いことなのでしょうか?
APOC3が欠損していると、
心臓病や脳卒中が起こり難くなるのでしょうか?

その点はこれまであまり明確にはなっていませんでした。

上記の論文はアメリカの研究者の主導によるもので、
遺伝子の構造決定の研究に参加した、
ヨーロッパ系、アフリカ系の参加者3734例において、
低中性脂肪血症と、
APOC3遺伝子に関わる変異との関連性を検証しています。

その結果、APOC3に関わる遺伝子の、
その機能喪失や機能低下に繋がる4種の変異が同定されました。
この集団においては、
150名に1例でそうした変異が検出され、
そうした人では血液中の中性脂肪が、
平均で39%低下していました。
そして、この変異のいずれかを持っていると、
持っていない人と比べて、
心筋梗塞や狭心症のリスクは46%低下していました。

同じ紙面にもう1篇、
同様の内容を別個に検証した論文が掲載されています。
こちらです。
低中性脂肪血症の遺伝子デンマーク.jpg
こちらはデンマークにおいて、
トータル75725例の疫学データを利用し、
まず血液の食後中性脂肪値と、
心血管疾患のリスクとの関連性を見ています。

食後中性脂肪値が90mg/dL未満の群は、
350以上の群と比較して、
その後の心血管疾患のリスクが、
57%有意に低下していました。

次に3種類のAPOC3の遺伝子変異と、
心血管疾患のリスクとの関連を検討したところ、
遺伝子変異があってAPOC3の活性が欠損もしくは低下していると、
虚血性心疾患の発症リスクが41%、
心筋梗塞や狭心症のみのリスクが36%低下していました。
これは理論上中性脂肪の低下がそのリスク低下に影響していると考えて、
計算した結果と大きな違いは認められません。

この文献において検証されているAPOC3の変異は、
最初の文献とほぼ同じですが、
4種類の変異のうち、1種類は検討されていません。
このデータでの頻度は290例に1例となっています。

データの解析の仕方にも違いがあるので、
2つの論文を単純に比較は出来ませんが、
食後の中性脂肪の数値を低下させることにより、
心血管疾患のリスクの低下に結び付くことはほぼ明らかで、
現行食後の中性脂肪を充分に減らす薬剤は存在しませんが
(フィブラートという薬はありますが、その効果は充分ではありません)、
今後APOC3に関わる薬剤の創薬が、
ブレイクスルーになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2014/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





nice!(25)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 25

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0