マンモグラフィー乳癌検診の効果について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳癌検診として世界的に最も行なわれている、
レントゲンを使用したマンモグラフィーという検査の、
検診としての有効性を検証したノルウェーの論文です。
この問題は紆余曲折があり、
近年議論が戦わされていますが、
まだ明確な結論が付いていません。
世界的に有効とされる癌検診は、
その検診をすることによって、
明確にその癌の死亡リスクが減少しなければ、
意義のあるものとは見做されません。
更には検診によって救える命が、
その検診によって受ける有害事象よりも、
明確に多いことが1つの条件となります。
ある癌検診を受けることにより、
1000人に1人の命が救えるとして、
同時にその1000人のうちから、
放っておいても何ら生命や社会生活に影響しない、
10例の癌もどきのようなものを見つけてしまうとすれば
(所謂過剰診断です)、
その検診は無意味とは言えないものの、
その施行には疑問符が付く、
ということになります。
その意味で有効性が明確な癌検診は多くはなく、
大腸癌の便潜血検査など数えるほどで、
その極めて稀な成功例の中に、
少し前までマンモグラフィーによる乳癌検診は入っていました。
ところが…
最近になって、
この優秀な検診であった筈のマンモグラフィー検診においても、
その有用性に疑問符が付くようになりました。
マンモグラフィーの有効性を示した、
最も精度の高い臨床試験の1つである、
ランダム化比較試験の多くは、
1970年代から80年代に掛けて実施されていて、
それを取りまとめた結果として、
WHOの2001年の報告書では、
マンモグラフィー検診は乳癌の死亡リスクを、
25%減少させる効果がある、
と記載されています。
しかし、この元になった臨床試験の多くは、
その精度において問題があるとする結果を、
意地悪なコクラン・レビューは2013年に指摘しています。
そもそもマンモグラフィー検診の導入された初期の時点と、
最近とでは、
乳癌を取り巻く環境も大きく変わっています。
治療の進歩により、
皮肉なことに癌の早期発見が、
患者さんの生命予後に与える影響は、
以前より小さくなっているのです。
今年の2月の同じBritihs Medical Journal誌に、
この問題についての衝撃的な論文が掲載されました。
こちらです。
対象者はカナダで1980年から1985年に登録された、
その時点で40歳から59歳までの89835名の女性で、
くじ引きでマンモグラフィー群と経過観察群に振り分け、
マンモグラフィー群は登録後毎年マンモグラフィーを、
4年間継続した後に経過観察に移行します。
そして、25年の経過観察を行なったのですが、
結果としてマンモグラフィー群と経過観察群との間で、
40代50代いずれの年齢層においても、
有意な差は見られませんでした。
40歳代のマンモグラフィー検診が、
検査のデメリットが多く問題があるという知見はありましたが、
50歳代でも明確な乳癌死亡リスクの減少には結び付かない、
と言う結論はかなりの衝撃を持って受け止められたのです。
今回の研究は今度はノルウェーのもので、
1986年から2009年に掛けて、
50から69歳の女性を登録して、
そのうちで推奨されたマンモグラフィーによる乳癌検診を施行した群と、
検診を受けなかった群とを、
可能な限りの長期間観察して比較しています。
検診は2年に一度のマンモグラフィー検査を、
継続するという方法で行なわれます。
その結果、
マンモグラフィー検診により、
その後の乳癌の死亡リスクは有意に28%低下し、
これは368人の乳癌スクリーニングにより、
1人の乳癌による死亡が予防された、
という結果になりました。
カナダの結果とは相反するように、
今回はこれまでの知見と同様の、
乳癌死亡リスクの低下が示されたのです。
2012年のLancet誌に掲載された、
イギリスにおける乳癌検診に対する検証では、
それまでのランダム化比較試験の結果として、
50歳の女性1万人に対してマンモグラフィーによる乳癌検診を行なうと、
その後20年間に43人の乳癌死亡が予防され、
その一方で予後に関連のない病変が、
129人に見付かるという結果が得られています。
癌死亡の低下の有無と共に、
実際に癌検診を行なうにおいては、
こうした過剰診断の存在も考慮しなければなりませんが、
そのデータは限られています。
このように、
マンモグラフィー検診の効果は臨床データによっても異なり、
現状一定の結論が出ていません。
マンモグラフィー検診を行なうことにより、
より早期の乳癌が多く見付かることは確かですが、
検査の精度が上がれば、
より過剰診断も多くなり、
死亡リスクの低下という基準を用いると、
治癒率が高くなったために、
以前の臨床試験よりも有効率が低くなる、
というジレンマがあります。
ただ、患者さんにとっては、
より早く癌が見付かることにより、
その後の負担や治癒後の生活などに違いがあるという側面もあり、
今後の乳癌検診の有用性については、
これまでとは別個の尺度で、
判断をする必要があるのかも知れません。
乳癌の治療の進歩により、
触診などで見付かっても、
マンモグラフィーで早期診断されても、
生命予後には差が付き難くなってしまったので、
今後癌検診を継続するかどうかは、
トータルに見て検診がその後の受診者の、
生活の質の改善に繋がっているのかという、
別の視点で考える必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳癌検診として世界的に最も行なわれている、
レントゲンを使用したマンモグラフィーという検査の、
検診としての有効性を検証したノルウェーの論文です。
この問題は紆余曲折があり、
近年議論が戦わされていますが、
まだ明確な結論が付いていません。
世界的に有効とされる癌検診は、
その検診をすることによって、
明確にその癌の死亡リスクが減少しなければ、
意義のあるものとは見做されません。
更には検診によって救える命が、
その検診によって受ける有害事象よりも、
明確に多いことが1つの条件となります。
ある癌検診を受けることにより、
1000人に1人の命が救えるとして、
同時にその1000人のうちから、
放っておいても何ら生命や社会生活に影響しない、
10例の癌もどきのようなものを見つけてしまうとすれば
(所謂過剰診断です)、
その検診は無意味とは言えないものの、
その施行には疑問符が付く、
ということになります。
その意味で有効性が明確な癌検診は多くはなく、
大腸癌の便潜血検査など数えるほどで、
その極めて稀な成功例の中に、
少し前までマンモグラフィーによる乳癌検診は入っていました。
ところが…
最近になって、
この優秀な検診であった筈のマンモグラフィー検診においても、
その有用性に疑問符が付くようになりました。
マンモグラフィーの有効性を示した、
最も精度の高い臨床試験の1つである、
ランダム化比較試験の多くは、
1970年代から80年代に掛けて実施されていて、
それを取りまとめた結果として、
WHOの2001年の報告書では、
マンモグラフィー検診は乳癌の死亡リスクを、
25%減少させる効果がある、
と記載されています。
しかし、この元になった臨床試験の多くは、
その精度において問題があるとする結果を、
意地悪なコクラン・レビューは2013年に指摘しています。
そもそもマンモグラフィー検診の導入された初期の時点と、
最近とでは、
乳癌を取り巻く環境も大きく変わっています。
治療の進歩により、
皮肉なことに癌の早期発見が、
患者さんの生命予後に与える影響は、
以前より小さくなっているのです。
今年の2月の同じBritihs Medical Journal誌に、
この問題についての衝撃的な論文が掲載されました。
こちらです。
対象者はカナダで1980年から1985年に登録された、
その時点で40歳から59歳までの89835名の女性で、
くじ引きでマンモグラフィー群と経過観察群に振り分け、
マンモグラフィー群は登録後毎年マンモグラフィーを、
4年間継続した後に経過観察に移行します。
そして、25年の経過観察を行なったのですが、
結果としてマンモグラフィー群と経過観察群との間で、
40代50代いずれの年齢層においても、
有意な差は見られませんでした。
40歳代のマンモグラフィー検診が、
検査のデメリットが多く問題があるという知見はありましたが、
50歳代でも明確な乳癌死亡リスクの減少には結び付かない、
と言う結論はかなりの衝撃を持って受け止められたのです。
今回の研究は今度はノルウェーのもので、
1986年から2009年に掛けて、
50から69歳の女性を登録して、
そのうちで推奨されたマンモグラフィーによる乳癌検診を施行した群と、
検診を受けなかった群とを、
可能な限りの長期間観察して比較しています。
検診は2年に一度のマンモグラフィー検査を、
継続するという方法で行なわれます。
その結果、
マンモグラフィー検診により、
その後の乳癌の死亡リスクは有意に28%低下し、
これは368人の乳癌スクリーニングにより、
1人の乳癌による死亡が予防された、
という結果になりました。
カナダの結果とは相反するように、
今回はこれまでの知見と同様の、
乳癌死亡リスクの低下が示されたのです。
2012年のLancet誌に掲載された、
イギリスにおける乳癌検診に対する検証では、
それまでのランダム化比較試験の結果として、
50歳の女性1万人に対してマンモグラフィーによる乳癌検診を行なうと、
その後20年間に43人の乳癌死亡が予防され、
その一方で予後に関連のない病変が、
129人に見付かるという結果が得られています。
癌死亡の低下の有無と共に、
実際に癌検診を行なうにおいては、
こうした過剰診断の存在も考慮しなければなりませんが、
そのデータは限られています。
このように、
マンモグラフィー検診の効果は臨床データによっても異なり、
現状一定の結論が出ていません。
マンモグラフィー検診を行なうことにより、
より早期の乳癌が多く見付かることは確かですが、
検査の精度が上がれば、
より過剰診断も多くなり、
死亡リスクの低下という基準を用いると、
治癒率が高くなったために、
以前の臨床試験よりも有効率が低くなる、
というジレンマがあります。
ただ、患者さんにとっては、
より早く癌が見付かることにより、
その後の負担や治癒後の生活などに違いがあるという側面もあり、
今後の乳癌検診の有用性については、
これまでとは別個の尺度で、
判断をする必要があるのかも知れません。
乳癌の治療の進歩により、
触診などで見付かっても、
マンモグラフィーで早期診断されても、
生命予後には差が付き難くなってしまったので、
今後癌検診を継続するかどうかは、
トータルに見て検診がその後の受診者の、
生活の質の改善に繋がっているのかという、
別の視点で考える必要がありそうです。
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今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
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- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
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2014-07-08 08:10
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コメント(2)
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乳がんサバイバーの私にとって、とても興味深い記事です。
画像診断の精度もそうですが、私のように一旦要精検と言われて、精密検査を受けても何も見つからず、安心してしまって発見の機を逃がしてしまう場合もあります。
今思えば、定期的な検査を受けずに、乳頭からの分泌物があった時にすぐ受診した方が良かったかなとも思えます。
いずれにしてもいくら検査技術が向上しても、どう云う風に治療に繋げていくか、その後の対応が大切だと思います。
by ジャジャ馬 (2014-07-08 09:54)
ジャジャ馬さんへ
コメントありがとうございます。
ご指摘のように、
一次検査の後の二次検査とフォローを、
どのようにつなげるかが、
非常に重要なポイントのように思います。
by fujiki (2014-07-09 08:05)