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脊柱管狭窄症に対するステロイド注射の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
脊柱管狭窄症へのステロイド神経ブロックの効果について.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
脊柱管狭窄症という高齢者に多い背骨の病気に対して、
神経ブロックという治療を行なう際に、
ステロイド剤を使用することの是非を検証した論文です。

こうした一般的に行なわれている治療の有効性を、
改めて検証するという試みは、
医療の臨床において非常に重要なものですが、
特に日本においては、
あまり施行されることのないものではないかと思います。

開業医レベルや1人の勤務医が施行出来るような、
小さな研究はあるのですが、
「この治療はいいよ」というような情報が、
そのレベルで止まってしまうことが、
日本の臨床の通常ではないかと思います。

特に古くから行なわれているような治療は、
臨床試験も厳密性に欠けるもので、
偽薬や偽治療との比較などは行なわれていないのに、
再検証することなく、
経験的に続けられているようなことが多いのではないでしょうか?

腰部脊柱管狭窄症というのは、
主に加齢による変化のために、
背骨の中を走っている神経が圧迫されて、
足のしびれや痛みなどの症状を呈する病気で、
高齢者の足の痛みの原因としては、
非常に頻度の多いものです。

歩いたり長く立っていると痛みが強くなり、
座ったり横向きで寝る姿勢を取ると、
比較的速やかに症状の改善するのが特徴で、
こうした症状だけでほぼ診断は確定し、
レントゲンの検査やMRIの検査で病変が確認されます。

ただ、足の血管の動脈硬化によっても、
似通った症状の出ることがあり、
このため今は整形外科のクリニックでも、
手足の血管の血圧を測って動脈硬化を簡易診断する検査が、
同時に行なわれることが多いようです。

さて、腰部脊柱管狭窄症の治療は、
リハビリや体操などの保存的治療と、
痛み止めや血流改善剤などの薬物治療、
それから神経ブロックなどの注射による治療、
そして、手術療法があります。

このうちで神経ブロックというのは、
腰に針を刺して、その先を神経の周辺に進め、
直接薬液を注射して、
一時的に神経の症状を緩和しよう、
というものです。
通常リドカインという局所麻酔薬と共に、
炎症を抑える目的でステロイドが使用されます。

上記文献の解説記事によると、
アメリカでは毎年1000万回以上の硬膜外注射が施行され、
その少なからぬ目的が、
ステロイドを含む神経ブロックであると記載されています。

要するにこの治療は、
日本より欧米で、
より一般的な脊柱管狭窄症の治療のようです。

神経障害の部位には、
何となく炎症はありそうですから、
ステロイドを同時に注入した方が、
効果は高そうに思います。
しかし、その一方でステロイドには、
感染を惹起したり、骨を脆くしたりする作用もありますから、
それが却って病状に悪く働く可能性も否定は出来ません。

こうした治療の目的は、
敢くまで患者さんの症状の改善にあります。
しかし、実際にはその点についての、
あまり精度の高い臨床データは存在していませんでした。

そこで今回の文献ではアメリカにおいて、
中心性の腰部脊柱管狭窄症で、
下肢の痛みや神経障害のある患者さん400名を、
くじ引きで200名ずつの2つのグループに分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方はリドカインのみの硬膜外注射を行ない、
もう一方はリドカインとステロイド
(内容はデキサメサゾン、メチルプレドニゾロンなど様々です)
を使用して、
その後3週間と6週間の時点での、
有効性や副作用などの違いを検証しています。

その結果…

3週間の時点ではステロイド使用群で、
身体障害の程度のスコアがより改善していましたが、
その効果は6週間後では有意ではなくなりました。
痛みの程度についても矢張り同様の傾向を示し、
3週間の時点ではステロイドの方が有効性を示しましたが、
6週間時点ではその差は有意ではなくなりました。

ただ、治療の満足度についての質問では、
ステロイドを含む治療の満足度は67%であったのに対して、
含まない治療の満足度は54%に留まりました。

副作用では頭痛や発熱、感染症などの頻度が、
ステロイド使用群で多い傾向が認められ、
全身的な身体のステロイドの抑制も、
当然ですがステロイド使用群で多く認められました。

これは硬膜外に注入したステロイドが、
一定量は血液に移行し、
それが身体から分泌されるステロイドに、
影響を与えることを示しています。
ただ、はっきりとした抑制は患者さんの1割に満たないので、
それほどの大きな影響はない、
というように考えて良さそうです。
ただ、1割弱では強い抑制が掛かることは事実で、
臨床医としては、
ステロイドを含む神経ブロックを施行した患者さんにおいては、
副腎不全様の症状や、
クッシング症候群様の症状が、
起こる可能性があることは、
念頭に置く必要があると思います。

文献の結論としては、
脊柱管狭窄症の患者さんの硬膜外神経ブロックに、
ステロイドを使用することの意義は乏しく、
その使用は再考する必要がある、
というものになっています。

ただ、データを見る限り全く無効とも言い切れず、
どのような患者さんにおいてステロイドの併用にメリットがあるのか、
そうした検討が今後は必要なように思われますし、
痛みなどの症状には明確な差がなかったのに、
治療の満足度ではステロイドの使用が勝った、という事実は、
その原因を含めて、
より詳細な検証が必要のように思われます。

また今回の試験では全ての事例にリドカインが使用されているので、
硬膜外ブロックという手技自体の有効性は、
確認されていない、と言う点には注意が必要です。
偽薬と比較して硬膜外ブロックの有効性を比較したような試験は、
これまで行なわれたことはないのです。

日本においては、
アメリカほど硬膜外ブロックが乱用されている、
ということはないように思いますが、
そこにおいてステロイドの使用が、
リドカイン単独の注入と比較して、
明確な有用性が確認されているものではない、
ということは良く理解しておく必要があると思いますし、
その適応もより厳密であるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 2

さすらいの、、、

脊柱管狭窄症も罹患しました。友人曰く「丸紅か三菱商事か。痛いところ不具合のところがあったほうが機嫌がいいんだな。その友人の勧めで整形外科の旅歩き。治らずAクリニックの硬膜外ブロック注射を5回打てば治る、で受診。何故か血圧を頻繁に測る。そうです3回でギブアップしました。帰宅するやいなや血圧上昇、気分悪くなり断念。それから7年、整体・レーザー効かず最近は足の痺れ、いわゆる坐骨神経痛に昇進。
かの友人、すい臓がんで3か月後に。
by さすらいの、、、 (2014-07-07 08:31) 

fujiki

さすらいの、、、さんへ
コメントありがとうございます。
硬膜外ブロックの効果も、
かなり個人差はあるようです。
by fujiki (2014-07-08 08:14) 

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