高野和明「ジェノサイド」 [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
いつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2011年の3月、震災と同時期に発刊された、
ベストセラー小説「ジェノサイド」を、
文庫にもなったので遅ればせながら読みました。
これは確かに面白くて、
大作ハリウッド映画のような、
スケール感とスピード感が圧巻です。
ホワイトハウスで謎の計画が始動するところから始まり、
日本では薬学部の大学院生が、
父の死から用意された謎の研究室に招かれ、
アフリカでは集められた傭兵が、
謎の作戦に駆り出されます。
これだけ大風呂敷を広げると、
途中で失速するような作品が殆どなのですが、
全体が緩みなく、極めて緻密に構成されていて、
絶妙なタイミングで謎が明かされる、
ミステリー的な趣向も良く出来ていますし、
アクションも映画的でありながら、
映画化を想定して媚びたような安っぽさはありません。
特にこれだけ間口を広げた話を、
これだけの分量にまとめ上げた構成力に感心します。
映画監督を志していただけあって、
映画的趣向を、
実に良く換骨奪胎して取り込んでいますし、
それが単なる引用や物真似に終わっていないのはさすがです。
薬学と医学の解説的な部分は、
おやおや、という感じもあるのですが、
それでも取材はしっかりされていて、
そう極端におかしなところはありません。
ただし…
著名人の感想に、
「この本を読んで人生観が変わった」
というようなものが複数あるのですが、
それなりの社会経験のある人が、
この本を読んで人生観が変わったりするのは、
ちょっとまずいのではないか、
とは感じました。
この作品の世界観は、
シンプルに言えば70年代くらいのSFのもので、
それ以上でも以下でもないと思います。
そして、裏テーマは「アメリカをやっつける話」ということです。
この作品では、
アメリカは徹頭徹尾「悪の権化」として描かれ、
人間の暴力性の象徴のような「白人の」大統領に支配されている、
一種の独裁国家です。
それが完膚なきまでにやっつけられるので、
フィクションとしては痛快です。
ただ、実際にはアメリカだけが「悪の権化」ではありませんし、
白人ではない大統領になったので、
世界がそれだけ良くなったようにも思えません。
「人間性の本質は残虐性で、それを体現しているのが権力者だ」
という人間の定義も、
正直かなり薄っぺらなもののように思います。
70年代くらいには、
日本のアジアにおける位置も、
アメリカの世界に占める位置も、
今とは全く違っていましたから、
こうした物語の構造がある種の普遍性を持ち得たと思うのですが、
21世紀のドラマとしてこの枠組みは、
あまりに現実と乖離しているように、
僕には思えます。
「人間が何故お互いに殺し合うのだろう?」
という懐疑と、
国家と国家、人種と人種との憎み合いや殺し合いとを、
同列に論じるのは誤りのように思うからです。
この作品の欠点は、
あまりにキャラクターを善悪で二分して、
それが人種や国籍などのバックボーンにまで達している、
というところにあります。
そこがハリウッド映画的で痛快さの要因でもあるのですが、
この複雑な世界を切り取る視点としては、
あまりに単純であり過ぎるようにも感じました。
たとえば1970年くらいを舞台にして、
この作品が書かれていたら、
もっと切実で面白い作品になったように思います。
そこは正義も悪もアメリカに代表させて、
決して誤りではない世界だからです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
いつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2011年の3月、震災と同時期に発刊された、
ベストセラー小説「ジェノサイド」を、
文庫にもなったので遅ればせながら読みました。
これは確かに面白くて、
大作ハリウッド映画のような、
スケール感とスピード感が圧巻です。
ホワイトハウスで謎の計画が始動するところから始まり、
日本では薬学部の大学院生が、
父の死から用意された謎の研究室に招かれ、
アフリカでは集められた傭兵が、
謎の作戦に駆り出されます。
これだけ大風呂敷を広げると、
途中で失速するような作品が殆どなのですが、
全体が緩みなく、極めて緻密に構成されていて、
絶妙なタイミングで謎が明かされる、
ミステリー的な趣向も良く出来ていますし、
アクションも映画的でありながら、
映画化を想定して媚びたような安っぽさはありません。
特にこれだけ間口を広げた話を、
これだけの分量にまとめ上げた構成力に感心します。
映画監督を志していただけあって、
映画的趣向を、
実に良く換骨奪胎して取り込んでいますし、
それが単なる引用や物真似に終わっていないのはさすがです。
薬学と医学の解説的な部分は、
おやおや、という感じもあるのですが、
それでも取材はしっかりされていて、
そう極端におかしなところはありません。
ただし…
著名人の感想に、
「この本を読んで人生観が変わった」
というようなものが複数あるのですが、
それなりの社会経験のある人が、
この本を読んで人生観が変わったりするのは、
ちょっとまずいのではないか、
とは感じました。
この作品の世界観は、
シンプルに言えば70年代くらいのSFのもので、
それ以上でも以下でもないと思います。
そして、裏テーマは「アメリカをやっつける話」ということです。
この作品では、
アメリカは徹頭徹尾「悪の権化」として描かれ、
人間の暴力性の象徴のような「白人の」大統領に支配されている、
一種の独裁国家です。
それが完膚なきまでにやっつけられるので、
フィクションとしては痛快です。
ただ、実際にはアメリカだけが「悪の権化」ではありませんし、
白人ではない大統領になったので、
世界がそれだけ良くなったようにも思えません。
「人間性の本質は残虐性で、それを体現しているのが権力者だ」
という人間の定義も、
正直かなり薄っぺらなもののように思います。
70年代くらいには、
日本のアジアにおける位置も、
アメリカの世界に占める位置も、
今とは全く違っていましたから、
こうした物語の構造がある種の普遍性を持ち得たと思うのですが、
21世紀のドラマとしてこの枠組みは、
あまりに現実と乖離しているように、
僕には思えます。
「人間が何故お互いに殺し合うのだろう?」
という懐疑と、
国家と国家、人種と人種との憎み合いや殺し合いとを、
同列に論じるのは誤りのように思うからです。
この作品の欠点は、
あまりにキャラクターを善悪で二分して、
それが人種や国籍などのバックボーンにまで達している、
というところにあります。
そこがハリウッド映画的で痛快さの要因でもあるのですが、
この複雑な世界を切り取る視点としては、
あまりに単純であり過ぎるようにも感じました。
たとえば1970年くらいを舞台にして、
この作品が書かれていたら、
もっと切実で面白い作品になったように思います。
そこは正義も悪もアメリカに代表させて、
決して誤りではない世界だからです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/05/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2014-07-06 09:43
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