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マクロライド系抗生物質による肥厚性幽門狭窄症の発症について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マクロライドと肥厚性幽門狭窄症.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
小さなお子さんの肥厚性幽門狭窄症という病気と、
抗生物質の使用との関連性についての文献です。

肥厚性幽門狭窄症というのは、
生後3週から3ヵ月くらいの月齢のお子さんに多く発症する、
胃の出口の部分(幽門と言います)の筋肉が厚くなり、
食事が胃の出口を通過しなくなる病気です。

一旦飲み込んだ母乳やミルクを、
噴水のように勢いよく吐き出し、
栄養失調から体重が減少します。

治療は基本的に狭くなった胃の出口を広げる、
手術が必要になります。

これは生後1か月以内のお子さんで、
最も多い手術の原因疾患とされています。

この病気の頻度は、
新生児1000人当たり1から2人くらいと言われています。
1990年以降その頻度は低下しています。
(この辺りは全て海外のデータです)
この病気の原因は明確ではありません。
男児に多く家族性に発症し易い、という傾向はあるので、
一定の遺伝素因はありそうですが、
生まれつきの狭窄ではなく、
母乳よりミルクで生じ易いなど、
環境要因の影響を示唆するデータもあります。

そして、外的要因として指摘されているのが、
新生児期のマクロライド系抗生物質の使用との関連性です。

マクロライド系の抗生物質には、
エリスロマイシン、クラリスロマイシン(商品名クラリスなど)、
アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)などがあり、
百日咳やマイコプラズマなどの気道感染症や、
性行為感染症などの治療に主に使用されています。

1999年にアメリカの病院で、
新生児の百日咳が発症し、
感染の拡大を阻止する目的で、
その病院の新生児に、
マクロライド系の抗生物質である、
エリスロマイシンの予防投与が行われました。

すると、その後2週間で予防内服を受けた新生児のうち、
7例に肥厚性幽門狭窄症が発見され、
その後も事例は増え続けました。
その後の検討により、
自然発生の7倍から10倍という頻度で、
生後2週間以内のマクロライドの使用により、
肥厚性幽門狭窄症が過剰に発症することが確認されました。

マクロライドが消化管ホルモンに似た作用を示し、
それが新生児の敏感な腸管に影響したのではないか、
というような仮説はありますが、
原因は未だ明確ではありません。

さて、生後2週間以内のマクロライドの使用が、
肥厚性幽門狭窄症のリスクを増加させることは、
ほぼ間違いがありません。

それでは、それは生後2週間に限定した現象でしょうか?

それとも、生後2週間以降においても、
一定のリスクは存在するのでしょうか?
更にはお母さんの妊娠中もしくは授乳中の、
マクロライドの使用には、
同様のリスクはないのでしょうか?

こうした点については、
これまでに明確なデータが存在していませんでした。

今回の文献は、
全ての国民の医療データが解析可能なデンマークにおいて、
この問題を検証しています。

対象は999378例の出生児で、
このうち妊娠中にお母さんがマクロライドを使用した事例が、
30091例、
授乳時にお母さんが使用した事例が21557例、
そして新生児が使用した事例が6591例となっています。

その結果…

全対象者の中で880例のお子さんが、
肥厚性幽門狭窄症の診断を受けました。
トータルな発症率は1000例当たり0.9件です。

しかし、これが生後2週間以内(0日から13日)までに、
マクロライドを使用した新生児に限ると、
1000例当たり29.8例という高率になります。
通常の発症率のおよそ30倍という高率で、
1000の出生当たり24.4事例が、
抗生物質の使用により過剰に発症した、
と推測されます。
以前に報告されたデータは、
自然の発症率がもう少し高いので、
その点で違いがあるのですが、
1000例当たりの過剰発症数は、
15から30事例になりますから、
ほぼ同等の結果と考えられます。

これが生後14日から120日までの間では、
未使用と比較した発症リスクは3.24倍と高くはなりますが、
実際には1000例出生当たりの過剰発症事例は、
0.65例と計算され、
格段にその影響は減少していることが分かります。

お母さんの授乳中のマクロライドの使用に関しては、
生後0から13日までの使用では、
発症リスクは3.49倍に増加し、
これは1000例当たり2.15例の過剰発症と計算されます。
同じく生後14日から120日までの間の使用では、
発症リスクは0.7倍で増加は認められませんでした。

妊娠中のお母さんのマクロライドが与える影響については、
妊娠週数が0から27週という前期から中期においては、
発症リスクの増加は1.02倍と有意ではなく、
妊娠後半の28週以降では、
1.77倍とやや高い傾向は示しましたが、
統計的には有意ではありませんでした。

マクロライドの種類毎の検討も行なっていて、
マクロライドの種別による違いは、
明確な傾向としては認められませんでした。
ただし、使用薬剤はエリスロマイシンが主体で、
日本では頻用されているクラリスロマイシンは、
頻度的には少ないので、
このデータからはクラリスロマイシンのリスクについては、
何とも言えません。

総じてマクロライド系抗生物質が、
生後2週間以内の新生児の体内に入ることは、
肥厚性幽門狭窄症の発症リスクを著明に高めます。
直接お子さんが使用するのが最も高リスクですが、
授乳による移行にも、
生後2週間以内では一定のリスクが存在します。
妊娠初期から中期の使用には影響はなく、
妊娠後期の使用は若干の影響のある可能性は否定出来ませんが、
はっきりあると言えるほどではありません。
生後14日から120日までのお子さんの使用についても、
若干のリスクの上昇はありますが、
僅かなものに留まります。

従って、
通常の臨床においては、
百日咳などの発症を除けば、
生後2週間以内にマクロライドを使用する機会は、
極めて稀だと思いますが、
授乳中の使用に関しても、
原則生後2週間は控えることが望ましいと考えられます。
また、生後4か月齢までのお子さんに対する、
マクロライドの使用も、
リスクを若干上昇させる可能性があり、
その使用は必要性の高い場合に限るのが望ましいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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